- Artdirector
日高英輝
- 2014.01.21
代官山に立寄るたびに気になる場所があった。
旧山手通り、蔦屋書店近くの一等地にある広大な住宅展示場。
なんでこんな場所に住宅展示場が?という立地もさることながら、
あまり見ないタイプのモデルハウスや、独特な雰囲気が気になってしかたなかった。
入り口の掲示板にこう書かれてある。
『〜もし、お客様が都市型住宅に求める価値を第一にお考えであれば、
残念ながらその意に添いかねます。』
自然派個性住宅の名のもとに家づくりをしており、機能、性能を重視する一般的な
都市住宅とは一線を価す、ということらしい。都会のど真ん中にあるのに、だ。
本来、住宅展示場は冷やかしも含め、来る者拒まずが基本だろう。
集客数が売り上げに直結するビジネスだからだ。
そんな業態の中、"分かる人だけに来て欲しい"という意思表示は、なかなかできるものでない。
なんか他と違う、だけどとても気になる住宅メーカー、それが『BESS』だった。
「丸くはなれない」〜BESSの家〜
『BESS』っていう住宅メーカーの仕事なんだけど・・
旧知のコピーライターから打診があった。断るわけがない。あの展示場に堂々と入れる。
『BESS』は1986年「ビッグフット」というブランド名で"ログハウス市場"に参入。
短期間でシェアNO.1となり、その後ログハウス以外にもラインナップを拡充。
2008年ブランド名を『BESS』に変更し、現在に至るまで累計13,000棟以上を販売している、
知る人ぞ知る住宅ブランドだった。
最大の特徴はその商品ラインナップ。
バックミンスター・フラー博士の『ジオデシック理論』に基づいた"ドームハウス"を筆頭に、
程々の家・ワンダーデバイス・カントリーログハウスなど、類を見ない個性的な木造住宅の数々。
その住宅展示場は、居るだけで楽しめるワンダーランド的空間だった。
他と違うのは商品だけではなかった。
「マイナーで異端であること」を自ら標榜するブランドフィロソフィー。
「完成した家を手に入れる満足より、実際の暮らしを通じて得られる満足を追求する」
「家は道具」「自然機能重視」「面白生活」「経年美化」という考え方。
「出かけたくなる家」にいたってはフツー「帰りたくなる家だろ!」とつっこみを入れたいぐらい、
独自の思想とスタイルを貫いているメーカーだった。
創業以来、基本的な考え方は変わらずに来たが、時代が変化した。
昨今、大きな潮流となりつつある、自然回帰、ECO発想、スローライフ等のライフスタイルは
『BESS』が当初から唱え続けてきたコンセプトそのものだった。
時代がBESSに追いついてきた、ともいえる。
「"住宅"という分野において、いつの間にか時代の先端にいた」
「累計棟数も増え、もはや"マイナーで異端"という差別化はそぐわなくなってきた」
「これからは"異端"の自覚をもって門戸を開いていきたい」
「ついては、新しいブランド広告を展開することにした」
これが、我々が呼ばれた理由だった。
現在、『BESS』の立ち位置を明快に表した"『住む』より『楽しむ』"というタグラインの元、
"言葉"を表現のど真ん中に置く、というフレームで広告を展開している。
それは『BESS』が"考え方"と"言葉"を、とても大切にしているからにほかならない。
新コミュニケーション開始以来、販売数は順調に推移し、
次のフェーズの準備に取りかかっていた矢先だった。
今月13日、言葉の担い手が突然いなくなってしまった。
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急逝された鵜久森徹さんは、コピーライターとして真摯に"言葉"と対峙していました。
彼の最後のキャッチコピーはBESSのための言葉ですが、彼の生き方そのものだったのかもしれません。
そして、残された作り手の僕らにも深く突き刺さるメッセージです。
『丸くはなれない。』
言葉は生きているよ、鵜久森。
※「BESS」ブランドで自然派個性住宅を展開する(株)アールシーコアのご厚意で、
今春からの掲載予定だった広告の転載許可をいただきました。
CD,C/鵜久森徹 P/蓮井幹生 AD/日高英輝
日高英輝 - Artdirector
宮崎県生まれ。グリッツデザイン主宰、アートディレクター。
グラフィックデザインをベースに多領域で活動中。
主な受賞歴、JAGDA新人賞、NYADC銀賞、日経広告賞グランプリなど多数。
WEB: http://gritz.co.jp/
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