2001年に独立し、しゃにむに日々の仕事をこなしていたさなか、
知り合いのコピーライターから連絡がきた「マリナーズの51番なんだけど...」。
クライアント名や内容など聞く前に間髪いれず「やります!」と答え、
以来6年間に渡って、イチロー選手をパートナーとした仕事に携わってきた。

毎年数回撮影の機会があり、その都度イチロー選手は大きくなっていった。
胸板もオーラも、そして米国人撮影スタッフのリスペクトな眼差しも。

ようやくADとして、本人から顔を認知されはじめた2004年、
大リーグの年間最多安打記録を破る可能性があり、
記録達成の翌日に、お祝いの新聞広告を掲出したいとの要請があった。


「僕らの夢」〜日興コーディアル証券〜


広告には、記録達成した瞬間の写真を使いたいとの無茶振りオーダー。
いつヒットを打つかわからないし、撮れたとしても使い物になるかどうかわからない。
顔が写っていないとダメだし、どんな球でも打ち返してしまうので、
スイングの姿がカッコイイとも限らないからだ。

無駄になるかもしれないが、準備だけはしておこう。
それまでヒットした打席の膨大な写真・映像を収集し、
スイングの癖、顔の向き、ヒッティングのタイミングなどを分析し、
撮影スタッフと情報共有した。

記録達成の可能性がある数試合にあたりにつけ、
複数の現地カメラマンを、想定したアングルから撮影できるように配置。
打った瞬間写真をすぐさま転送してもらい写真をセレクト、
レイアウトに落とし込んで、即入稿、翌日掲載の手はずを整え、
自宅で生中継を観ながらその瞬間を待った。

10月1日本拠地セーフコフィールド、レンジャース戦第2打席にその時が訪れた。
イチロー選手はジョージ・シスラーが作ったシーズン記録を上回る258本目のヒットを放ち、
84年ぶりに新記録を達成した。それはとても美しいセンター前のヒットだった。

もはや写真のことなど忘れてしまっていた。
球場のスタンディングオベーションはいつまでも続いている。
電話がなった。
長らく仕事を共にしている担当営業からだった。
何をしゃべっているのかわからない。
彼は電話口で泣いていた。
僕も一緒に泣いた。


今年、イチロー選手は再びフィールドに立ち大偉業に挑む。
メジャー通算3000安打まで65本、日米通算安打であのピート・ローズの
4256安打を抜く世界一まであと43本。

イチロー選手は僕らの夢だ。

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