- IINO LONDON
ながいまさし
- 2013.05.30
先日、グラフィティ(落書き)アートに関する撮影に携わることがあり、ロンドンに現存するバンクシーのグラフィティ・アートを見て回りました。それまで、グラフィティ・アートにそこまで注目したことはなかったのですが、こうして見てみると、改めてその面白さや魅力に気付き、なかなか興味深いなあと思いました。今回は、バンクシーのグラフィティ・アートについてお伝えしたいと思います。
バンクシーってご存知ですか?
ご存知でない方もいらっしゃるかもしれませんが、バンクシーは、おそらく世界で最も有名なグラフィティ・アーティストの一人です。彼は、イギリスのブリストル出身で、近年では、ロンドンを中心に活動を行なっています。
2007年のサザビーズのオークションでは、バンクシーの作品に、37万2千ポンドという高額な値が付いたことでも大きな話題を呼びました。
グラフィティは、壁などにスプレーやフェルトペンなどを使って描かれた「落書き」のことで、多くは街頭の壁や建物、乗り物などに所有者に無許可で描かれています。そのため、昨今では、世界各地で社会問題ともなっています。
バンクシーのグラフィティ・アートも、ゲリラ的に無許可で描かれたものがほとんどです。そのため、バンクシー本人の正体を知る人は少なく、彼のプロフィールなどの多くは未だに謎に包まれています。無許可でグラフィティを描くことは犯罪行為でもあるので、その正体を公にすることができないとも言えます。
バンクシーのグラフィティ・アートの特徴は、その中に反資本主義や反権力などの政治的・社会風刺的なメッセージが強く含まれている点です。一見するとただの絵・落書きなのですが、モチーフや時代背景、描かれた場所などを考慮してそれを見てみると、そこに秘められているメッセージを受け取ることができます。その多くには、イギリス人特有の皮肉っぽいユーモアが含まれていて、これがバンクシーの人気の所以なのかなとも思います。
ロンドンの街頭には、今でも、十数点のバンクシーの作品が現存していて、それらを間近で見ることができます。かつては、もっとたくさんの作品があったそうですが、市当局が清掃の際に消してしまったり、反バンクシー派の人たちがその上に他の落書きを上書きしてしまったりして、その数は段々と少なくなってしまったそうです。
現在、残っているものについては、消されたり、上書きされたりしないようにほとんどの作品の上に保護が施されています。
今回、私が見た中で、一番、印象に残っている作品は、ミシンで縫い物をしている男の子が描かれているものです。一見、そのメッセージを読み取ることはできませんでしたが、後になって、その秘められたメッセージを知ってみると、なるほどなあと思いました。
解釈の仕方はいろいろとあるようですが、概ね、以下のようなメッセージが込められていると考えられているようです。
数年前、インドで7歳の男の子が、週100時間以上の労働を強いられ、Poundland(日本で言う100円ショップ)の商品を作っているということがニュースになったそうです。この作品は、そのPoundlandの側面の壁に描かれています。また、この頃、エリザベス女王の即位60周年であるダイアモンド・ジュビリーのお祝いがありました。英国国民がそのようなお祭りに酔いしれる最中、遠く離れたインドでは過酷な労働を強いられている子供たちがいる、というようなメッセージです。作品の中の英国国旗(ユニオンジャック)は、男の子が作っているPoundlandの商品であり、また、昔のイギリスによる奴隷制度をほのめかすような意味にもとれるようです。
いかがでしょう?
実はとても計算されていて、何とも巧妙だなあと思います。
グラフィティは、ビジュアルのインパクトはもちろんですが、それに秘められたメッセージなどを読み取ることも魅力であるように感じます。
ロンドンの街頭には、バンクシーをはじめ、数多くの魅力的なグラフィティ・アートが存在します。グラフィティという観点で、ロンドンの街を見て回るのもとても興味深いのではないかと思います。
Child with Sewing Machine
Poundland(100円ショップ)の側面の壁に描かれている。
Falling Shopper
買物をしている女性が上から落ちてきている作品。ビルの壁の高いところにあり、どのようにして描いたのか不思議。消費社会に対する風刺?
No Ball Games
子供たちが投げて遊んでいるのは、「No Ball Games(球技禁止)」の看板。残念ながら、その看板の部分は、上書きされてしまっている。
Graffiti Artist
アートとはいかなるものであるべきか、という風刺? グラフィティは、アートなのか、という問いかけ?
'Very Little Helps'
残念ながら、これも上書きされてしまっている。オリジナルの絵は、旗がなびいているようになっていて、その旗の部分が、大手スーパーマーケットの袋でできていた。子供たちが、その旗に敬礼し、敬意を表しているという作品。
Life Style Out Of Stock
「ごめんなさい。あなたの注文した生活スタイルは、現在、品切れ中です」物質主義に支配されている人々への皮肉?
Man with Dog
フード姿の男性は、バンクシーの肖像という噂も?
Graffiti Slogan
これは、皮肉・冗談?
Guard Dog and His Masters Voice
HMV(His Masters Voice)主人への反抗?
'My Tap's been phoned!'
これは言葉遊びのジョーク。分かりますか? ヒント:「Tap」という単語には、「水道」という意味と「盗聴」という2つの意味がある。
※これらは、現在、ロンドンの街頭で見ることができる主なバンクシーの作品です。
ながいまさし - IINO LONDON
イイノ・プロダクション ロンドン代表。
通称、まさ。
神奈川県川崎市出身。慶応大学卒業。1998年、イイノ・メディアプロ入社。2006年より、ロンドンをベースに海外から日本、日本から英国・ヨーロッパへの撮影プロデュースを行っている。趣味は、旅行とテニス。自他ともに認める爽やかボーイ?ネコ好き。
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