4月から、テート・モダン(美術館)で、ダミアン・ハースト展が開催されています。ダミアン・ハースト(以下、ハースト)は、イギリス人のコンテンポラリー・アーティストで、イギリスでは、最も有名なアーティストの一人と言えます。

様々なジャンルがあるアートの中でも、コンテンポラリー・アート(現代美術)は、私の一番のお気に入り。特にロンドンに住んでいると、このコンテンポラリー・アートの面白さに気づかされることが多々あります。コンテンポラリー・アートと言うと、抽象的で意味が分からなくてつまらないという印象をお持ちの方もいるかもしれません。しかし、ロンドンのそれは、例え意味が分かろうが分からなかろうが、あまりのぶっ飛びように、「解釈」の次元を超えて、楽しめるものが多く、私のようなアート初心者でも十分に楽しめるように思います。もちろん、「見た目」のみならず、背景に緻密なコンセプトが構築されていることが通常なので、そのコンセプトを理解しながら作品を鑑賞すれば、更に興味深さが増すでしょう。
ロンドンのコンテンポラリー・アートのシーンには、アートの概念すらも変えてしまうような斬新なものがあります。アーティストの頭の中をのぞいてみたくなるような作品に出会うと、とてもワクワクして、新しいアートの可能性を感じるのです。

ハーストは、そう言ったコンテンポラリー・アートを扱うアーティストの中でも現代においては代表的な存在のように思います。彼は様々な作品を世に送り出していますが、その多くは強烈な印象のもので、一度見たら、記憶に残るものが多いです。また、作品の中に、生と死という概念を包含しているものが多いのも特徴と言えます。特に、死んだ動物をホルムアルデヒドという透明な物質の中に固めて保存したものは有名で、その中には、鮫や羊、死んだ牛を縦に二つに分断したものなどがあります。はっきり言って、グロテスクです。賛否両論はあると思いますが、私は、これを世に送り出すこと、そのこと自体がコンテンポラリー・アートの醍醐味であるように感じます。

今回の展示には、上記の死んだ動物をホルムアルデヒドで固めたものをはじめ、様々な代表作品が展示されていました。さすが、テート・モダン、という感じで、ハーストの作品を一同に揃えていて、見応えがあります。その中でも、今回、私が一番印象に残ったのは、ガラスケースの中に牛の頭とハエをたくさん入れてある展示です。どうやら、ハエが産んだウジが牛の頭を食べてハエになり、そして、死んでいく、という展示です。ガラスケースは、たくさんの生きたハエと死んだハエで、充満していました。何とも、グロテスクな光景ですが、自然界では、このような営みが繰り返されていることを考えると、もしかすると、それ自体は特別なことではないのかもしれません。しかし、それを「アート(?)」としてしまうところが、何とも斬新に思います。

このダミアン・ハースト展は、テート・モダンで、2012年の9月9日まで開催の予定です。この夏、ロンドンにいらっしゃる機会がありましたら、是非、ご覧になって頂ければと思います。新しいインスピレーションの扉が開くこと、間違いなしです!


▲テート・モダン外観。テート・モダンは、イギリスを代表する国立の近代アート美術館。元発電所であった建物を改築して、2000年にオープンした。


▲展覧会の会期中、テート・モダンの外に展示されている。高さ、約6m。


▲作品 Sympathy in White Major - Absolution II 2006


▲作品 Lullaby, the Seasons 2002