最近ライフスタイルの変化と移動の多さで目が回る毎日ですが、なんと約13年ぶりに満開の桜を日本で見る事が出来ました。アメリカに移る前にはな〜んも特別に思った事のないこの桜が、この国の人間の心には特別でとても大事な物なんだ、と思える年齢になったんだと感じた。本当に綺麗。

人は劇的な変化には簡単に気づく事が出来るが、日々少しずつ変わって行く変化には鈍感なものである。長い冬が過ぎ、久しぶりに新鮮な気持ちでマンハッタンの街をサブウェイにも乗らずに数日間ひたすら歩いて気づいた事がある。いや、実は以前から気づいていたが決定的な事をこの日は感じた。

いつも当たり前に立ち寄り、物色し、立ち読みし、気に入った雑誌を購入していたニューススタンドがまた一つなくなっていた。

マンハッタンの町中には多くのニューススタンドがある。日本で言うとタバコ屋さんに近い存在と感じる。飲料、タバコ類、スナック菓子、新聞、そして雑誌等が売られており、何かとNYに住む人達が立ち寄るお店だ。しかしNYに置かれている雑誌は、アメリカで出版された物のみではなく世界各国で出版された多くの雑誌が全く同じ棚に並べられ、当たり前の様に売られている。

NYで活動する若いフォトグラファー達が、何故アメリカだけでなく多くの国の雑誌の仕事をするチャンスがあるのか? それはこういった当たり前で全く特別でもない店で、他国で出版されている雑誌を手にとり触れる事が出来たからではないか? と私は思う。

私自身も、「あ!こんな国からこんな雑誌出てるんだ」「この国ではこんな雑誌広告があるんだ」と、毎日の様に色々な発見があり、それが自分の栄養になったと感じる。

しかし、とうとうその数日間、いつも自分が通る道にあったニューススタンドは一つもなくなった。ニューススタンドが存在してても、雑誌の棚がなくなっていた。

NYに居て雑誌に会えない日が来るなんて数年前には思った事もなかったが、結局久しぶりに雑誌を見たのは、JFK空港の日本行きの飛行機に乗る手前にあるニューススタンドだった。

私たち制作者であっても、Webでどこからか流れてくる雑誌の画像で無意識にも満足し雑誌を見た気になっている時代。雑誌画像をスキャンし、Webに無許可で流す人間に文句を言えるはずもなく、時代の流れを感じずにはいられない。そりゃ雑誌も売れなくなりまんがな。と誰でも分かる。

ただ、このな〜んとも消化出来ない気持ちはなんだろう。Webで拡散される雑誌の一部。それを見て満足し、その次の月もその次の次の月もその雑誌からスキャンされた一部の画像をみて満足する。その先にあるのはなんだろう?

それはその大元の雑誌の消滅である。そして拡散する画像も消滅する事を意味する。そうすればその時その画像を見て満足していた人間達は、何を見て満足するのだろうか? その日が来るのをとても恐怖に感じます。一雑誌好きとしても制作側の人間としても...。

勿論、雑誌側の問題もある。昔は雑誌が沢山の事を"教えてくれた"。だからその雑誌に夢中になり、発売日に必ず買った。しかし、今はほとんどの事はWebが先に教えてくれる。その"教えてくれる"物事の独自性、特別性、その雑誌でないと成立しない写真、そういった物の充実。当たり前の事だけど拡散されようが、それしか雑誌への求心力を引き止める方法はないんじゃないか、と感じる。もう雑誌は"最新の情報"を発信するのではなく"特別な知識"、"特別な知恵"、"特別な写真"を発信する時代なんだと思う。

伝統ある雑誌の廃刊、休刊のニュース、雑誌自体のフォーマットやページ数の縮小を日々当たり前の様に見る。そんなリリースがないままに消えて行く若くチャレンジしている雑誌も星の数ほどある。とても寂しい事である。

写真はなくならる事はないだろう。それは思う。しかし、写真を掲載してくれる雑誌媒体の消滅は同時に写真を志す若い芽を摘む事にもなる。日本だけでなく、全世界で似た様な感じだ。ただ、売れてるかどうかは分からないが、私の知る範囲では中国では新雑誌、海外紙の中国エディションの新出版がもの凄く多い。

なんだか暗〜い話になっちゃいましたが、写真を生業にする人間にとって雑誌は桜です。その満開の桜がちろちろ散る様をみて、雑誌と桜を重ね合わせてしまう。ただ、やっぱり礼儀的にやっては行けないのはみんなが見る桜の枝を無許可で折って持って帰ってはいけない。雑誌の一部も同じ。私はそう思います。

最近、大阪城公園で、桜を見ながら気持ちよくいい具合に酔っぱらっている元々は青かったであろうが、黒ずんだダウンジャケット着たおっちゃんと話した時に驚いた事がある。小洒落たクリエイティブな人間よりよっぽどコピーライトについて理解があった。世の中は面白い。


アメリカのどこかの壁。


先週友達になった奴。強面ですが日本びいきのとっても良い人。日本人彼女募集中。


アメリカのどこかにある湿地帯。目の前全てがこの風景。アメリカのでかさを感じる。因にワニがわんさか。