作品詳細
ラナンキュラス・バラ
勅使河原城一
作家プロフィール
勅使河原城一
1973年東京生まれ。
1996年学習院大学法学部政治学科卒業。
2000年写真を独学で始める。
2009年D-CORD所属。
華道の家系で生まれ育つ。
現在、コマーシャル・エディトリアルの分野にて独自のテイストで
幅広く活動中。
Joichi Teshigahara
In 1973, born in Tokyo.
Graduated from the faculty of law course iat Gakushuin University
in 1996.
Started study about photography by himsel from 2000.
Joined D-CORD in 2009.
He was born and grow up in the lineage of the flower arrangement.
フォトグラファーとして活動する傍ら、
「勅使河原会」を主宰し、いけばなの指導をされている勅使河原城一さん。
自ら「お花を生けて撮る」ことで、
澱みのない思いがストレートに反映される。
- 花の写真で、撮影の際に意識されていることを教えて下さい。
- お花の写真は"ピントが合っている部分の境目"が重要なんです。人間の目で現物のお花を見た場合、どこでもピントが合って見えますが、写真にする場合、「何となくピントが合っていて、なんとなく外れている」くらいの方が、空気感が良いんです。少し柔らかい描写をするレンズの方が、緩やかなフォーカスになっていて、それがいい味を出すこともあります。
- カメラは何で撮影されるのですか?
- 普段は中判のデジタルバッグで撮影することが多いです。でも最近、キヤノンEOS KISSをISO400に設定し、標準レンズで撮影したら、やわらかいニュアンスが出ました。それをさらにレタッチで粒状感を出した作品も制作しています。
- ハイスペックなカメラと高解像度なレンズを使ってシャープに撮ることだけが、
イコールいい写真ではない、ということですね。 - そうです。今どきの純正レンズは優秀なので、葉の葉脈や花びらの質感など、出したいポイントは出ます。ただ今回、ここで紹介している(販売している)作品はすべて、中判デジタルバックで撮影したものです。
001はエアープランツです。水を吸わなくてこのままほっておいてもいいお花。チェランジアという種類です。撮影時期が夏だったので、ひまわりとチェランジアを合わせ、逆光で手前に影を落としています。
011から014は自然光で撮影しています。僕はお花の教室も開いているのですが、その教えている教室に入るやわらかな光をそのまま活かして撮影しています。それ以外の作品はライティングをして撮っています。自然光で撮るのも好きですが、どにらにしても最終的にはPhotoshop上で焼き込みや覆い焼きの作業をしています。
作品は季節ごとに「一華一葉」というテーマで制作しています。1つの作品の中で、「お花系を1種類、葉ものを1種類」に限定する中でどんな表現ができるんだろう、ということでトライしています。
002と003は手前と後ろでお花を生けていて、間に和紙を入れて撮影しています。後ろで生けてあるお花の線(影)と、手前に見えるお花の線を一緒に見せたらどうなんだろう? という試みから生まれました。後ろで生けたお花の透けた感じが、不思議な奥行感を出しています。
005は水仙です。ナルシストの語源のナルキッソスが、「川の水藻に浮かぶ自分の顔に恋をしてしまい、あまりに恋が深すぎて衰弱して亡くなり、水仙の花になった」というストーリーの元でこの作品を作りました。 - 勅使河原さんは華道家でもありますが、フォトグラファーになるきっかけは何だったのですか?
- 大学卒業後、武蔵美への編入試験のために初めてポートフォリオを作ったんです。僕の生けたお花の写真を、父の知り合いのフォトグラファーに撮ってもらったのが、カメラとの出合いです。
その時、撮影現場で知人のフォトグラファーさんがファインダーを覗かせてくれたんです。「フレームを決めていいよ」と。知り合いということで、気を遣ってくれたのかもしれません。4日間くらいお花を生けながら、その撮影もしていたら「自分で撮った方がいいのではないか」と、思ってしまった。いけばなは数日で枯れてしまうので、「生けたすぐ後に、できるだけいい状態で記録に残すため」というのが、写真を撮るきっかけでした。
記録撮影から始まったものの、その後、写真にのめり込んでいき(笑)、いつの間にかフォトグラファーとしての仕事がメインになっていました。今のように"写真の手法"と"お花の手法"をミックスして作るようになったのは、2007年頃からです。 - いけばなを写真で見せる場合、ライティングを知っていることが強みになります。
- ライティングができれば、写真として残す際にも表現の幅が広がりますからね。ファッションフォトグラファーとして活動がメインになってからは、あまりお花の作品制作はしていなかったのですが、そこでの照明機材やライティング技術が、お花の作品制作にもフィードバックされています。
もともとスタジオでライトを組んで撮影するのが好きなのですが、最近は自然光でお花を撮ることも増えました。ホテルの部屋で撮影した半身ヌードの作品(007)は、キノフロ(蛍光灯ライト)にフィルターをかけて、部屋の地明かりとミックスさせています。 - 一般の方は、花を生けられないので、出来上がったもの、市販されているものを撮りますよね。
お花を生けて、なおかつそれを自分のイメージ通りに撮れるというのは、ある種特殊な能力だと思います。 - ありがとうございます。生けたものをただ撮っていると思われがちですが、現物のお花を見るためにいけるのと、写真に収める、作品として二次元に落とし込む時の生け方には違いがあります。
目で見ている時はうるさく感じなくても、二次元というか単眼で見た時は、重なってうるさく見えたりするんです。1枚の写真として壁に飾って長く見る場合は、シンプルな方がいいので、必要のないところは落としたり、足らないところは足したり...という風に、自然と生け方を分けるようになりましたね。 - 最近は「花とヌード」を組み合わせた作品も制作されています。
体に花をいけるという作風はあまり見たことがありません。 - 実は草月流の創始者、故・勅使河原蒼風が、1950年代に日生劇場で裸の女性を20人程並べて、花を生けた「ヌードいけばな」というものを行なっています。いけばなとしては、決して新しくないアプローチなのですが、その後やっている人がいなかった、ということですね。
僕も色々な撮影をしてきましたが、2年程前に「女性が持っている肉体の曲線美と花を合わせたらどうなんだろう」と思ったのがきっかけです。普段のファッションフォトと違って、グッとのめり込む感じで撮っています。作品を撮る際は、花を選び、モデルが必要な場合はモデルを選び、撮影場所を決めます。最終イメージに合わせたトーンを出すために、どんなレンズや照明機材が必要なのか、そこまで全て自分で決められるのは魅力ですね。 - 花の種類もたくさんありますし、人と合わせるとなるとバリエーションは無限に広がります。
最終的な絵が頭に浮かんでいないと、限りなく悩んでしまいそうです。 - 僕の場合、最初にコンセプトを決めて、絵のイメージを植え付けます。そこから先、お花を決める時、まず太田市場の花き部に行く事が多いです(笑)。そこでたくさんのお花をスキャンするように見ていくと、イメージに近いお花がポンポン浮き出てくる。お花が僕を呼ぶんですよ(笑)。そこからチョイスしていくうちに、構想が固まってきます。自分が教える教室では、お弟子さんにも「お花を選び終わった段階で8割は生け終わっているんだよ」と、よく話をします。
今度request/QJ(雑誌)で、「Rose Beauty」というテーマで「お花とビューティ」を対で見せる作品を発表します。
僕がお花で象徴となる女性像を一つ生けて、そのお花からヘアメイクさんにインスパイアを受けてもらいます。そこからモデルのヘアメイクを仕上げてもらい、ビューティカットを撮る。そういう流れで撮影します。ジャズの即興じゃないですが、先にイメージを固めないで、その場のセッションで制作していきます。その作品もぜひこのWebサイトに上げて見て頂きたいですね。