「SHOOTING」のインタビューページもご紹介していただいているのですが、この度、私が働いているイイノ・メディアプロより、記念すべき初の出版物となる「英語本」が出版されました! この本は、ロンドンが中心となり、東京とのコラボレーションによって作られました。今回は、この英語本のメーキングストーリー(苦労話?)をお伝えしたいと思います。

本のタイトルは、「プロのフォトグラファーと将来フォトグラファーを目指す人のために情熱を込めてつくった海外で撮影があっても困らない役立つ表現がたくさんつまった特別な英語本(カメラ・機材編)」です。とても長いです。私も覚えられません。(笑)という訳で、通称「英語本」と呼んでいます。

この英語本の制作プロジェクトは、1年半ほど前の2013年の秋にはじまりました。その頃、会社として、自分たちから発信するコンテンツを世の中に出していきたいという想いがあり、また、私個人としても、ロンドンに在住しているというその経験や知識を活かして、かねてより英語もしくはロンドンに関する本やコンテンツを作りたいと考えていました。このような気持ちが合致し、初めての自社プロジェクトとなるこの英語本プロジェクトがはじまりました。

この英語本は、10章立ての中で64個の単語を紹介するという形で構成されています。もちろん、この「カメラ・機材編」で紹介されている単語は、すべてカメラ・機材や写真に関する専門用語です。例えばですが、「被写界深度(Depth of Field)」とか「センチュリー・スタンド(C-Stand)」とか「箱馬(Apple Box)」のような単語が出てきます。一般の方にとっては、頭に「?」が浮かんでしまうものばかりではないかと思いますが、写真業界の方にとっては、よく使われる聞き慣れた単語が多いと思います。

実は、この単語を64個に選別し、10章立ての構成を作ることにとても多くの時間を費やしました。企画がはじまった当初は、「カメラ」、「機材」、「デジタル」の3章立てからのスタートだったのですが、作業を進めていくうちにうまくあてはまらないものが次々と出てきてしまい、どんどん章が増えていき、結局、キリのよい10章立てに落ち着きました。
64個という単語数は、もちろん、絞り値の64(f64)からです。なので、63でも65でもなく、64という数字にこだわりました。ちなみにですが、絞り64の次は絞り90になるそうです。もし90個にしていたら、まだ出版に漕ぎ着けていなかったかもです。。。

64個の単語の選別をしながら、各単語につき2つの例文を作りました。その単語の実際の使い方を紹介するためです。日本語でもそうですが、カメラ・機材や写真に関する用語は専門的なものが多く、そこに通称や固有名詞、独特の言い回しなども加わって、とても特殊なものと言えるでしょう。日本語でも英語でも、辞書にのっていない単語や表現がたくさんあります。そのため、例文の作成にあたっては、フォトグラファーや機材会社で働く方と実際に会って、現場の生の声をヒヤリングしながら作業を進めました。

難しかったことは、みんな言うことがちょっとずつ違うということです。どれも正解なのでしょうが、だからと言って、本で紹介する内容として最適かどうかは別の話です。たくさんの表現や言い回しの中から、誰もが理解しやすい共通なものを抽出する作業が必要で、これがなかなか一筋縄ではいきませんでした。
例えばですが、「望遠レンズ」ひとつをとっても、いろいろな言い方があります。「Long-focus Lens」と言ったり、「Telephoto Lens」と言ったり、もしくは省略して、「Long Lens」や「Tele Lens」と言ったりもします。人によっては、「焦点距離を具体的に指定して、300mm Lensのように言うから、わざわざLong-focus LensとかTelephoto Lensとかいう言い方はあまりしないんだ」とも言います。このように、ひとつの単語をとっても、様々なバリエーションがあり、人によってその言い方や使い方も異なるので、この辺のことをうまくまとめるのに苦労をしました。

このような様々なニュアンスを伝えるために、各単語に「Note」という項目を作り、その単語についてもう少し掘り下げて説明しています。このNoteを読むことによって、その単語についての理解と印象をより深めてもらうというのが狙いです。時には、トリビア的な情報も紹介して、読んだ方が「なるほどねえ」と思ってもらえるような内容をなるべく盛り込みました。その中の一例ですが、日本語で言う「ボケ(味)」って、英語でも「Bokeh」って言うって知っていましたか?

Noteについては、スラスラと筆が進む単語があるのに対して、全く筆が動かない単語もあり、そこが苦労したポイントです。例えばですが、「焦点距離(Focus Length)」は、当初、64個の単語のひとつとして候補に上がっていたのですが、いくら考えてもこのNoteが書けず、結局、ボツ!になってしまいました。このような単語は数えきれないほどあります。

苦労話が少し多くなってしまったので、楽しかったこともいくつかご紹介したいと思います。何よりも楽しかったのは、各章のはじめにあるショートストーリーの制作です。日本人アシスタントのマサとベテランフォトグラファーのエドワードの二人の会話のやり取りをイラストと共に一コマ漫画のような形で表現しました。もちろん、各ストーリーのテーマは各章のキーワードであるカメラ・機材や写真に関する用語についてです。

実は、このエドワードを「猫」という設定にしました。これは、私と同僚のジェレミーが二人とも猫好きであったためです。(笑)しかしながら、このことを東京のチームとスカイプミーティングで話し合ったときは、一部から少し冷ややかな意見がありました。「何で猫なの?」とか、「猫じゃなくて、人間の方がよいのでは」とか。でも、私としては、ここばかりは少し意地になって、エドワードが猫であることに強くこだわりました。「エドワードが猫でなかったら、もうこの企画は下りる!」くらいの気持ちだったのです(笑)。

私がこれにこだわった理由は、あまりお勉強っぽい堅い本にしたくなかったからです。ページをめくっていて、少しでも楽しい本にしたいと思っていましたし、また、男女を問わずあらゆる年齢層の方たちが楽しめる本にしたいとも考えていました。そういう意味で、感覚的なことかもしれませんが、猫のエドワードは、シンボリックな存在なのです。

この一コマ漫画の制作のためのイラストレーターとのやり取りも楽しいものでした。ジェレミーと一緒にストーリーを考えながら、そのイラストをいろいろと想像しました。それをイラストレーターに実際に絵にしてもらうのですが、その作業はとても創造的に感じました。イラストレーターは、イギリス人のディリアさんという方です。彼女の辛抱強さにはとても感謝しています。

本の装丁及びデザインは、イイノ・メディアプロの東京のデザインチームが担当しました。そのため、デザインの話を含めた編集会議は、ロンドンと東京との間をスカイプでつないで行いました。時差の関係上、会議の時間が、ロンドンは朝、東京は夜というような感じになってしまい、いつもちょっと申し訳なかったです。

今は、もう過去の話として言えるのですが、やはり制作の過程は、まさにいばらの道でした。とちょっと大げさに言ってみましたが、やはり、当初想像していたよりもずっと大変でした。例えるなら、マラソンという感じでしょうか。(とは言っても、私はマラソンを走ったことはないですが・苦笑)長期に渡るプロジェクトであったため、途中で何度も息切れをおこしてしまい、投げ出しそうになりながらも、何とか完走できたという感じです。何とか出版に漕ぎ着けることができたのも、一緒に制作に携わったチームの皆さんのおかげだと思います。

1冊の本を作り上げるのは、なかなか大変なことなのだなあと改めて実感しました。世の中に、たくさんの書籍が溢れていますが、その数だけの労力や努力がそこに費やされていると思うと、書籍に対する私の見方も変わった気がします。

早くも、2冊目の「コミュニケーション編」の制作の話が上がっていて、構想を練りはじめています。こちらの方は、撮影現場で使えるより実用的な内容になる予定です。頑張らなくちゃ!


Edward's Lounge(英語本スペシャルサイト)
http://edwards-lounge.net/


同僚のジェレミー。英文については、彼と何度も何度も議論を交わしながら作成しました。また、彼の前職はなんと俳優。このことが、各章のショートストーリー作りにもとても役立ってくれたと思います。


ビッグスカイスタジオの機材担当のジョノとロブ。撮影機材のエキスパート。彼らの機材庫と事務所は、我々の事務所のすぐ下にあるので、分からないことがあった時は、彼らにすぐに聞きに行くことができました。


さて、問題です。これは、日本語では「オパライト」と呼ばれることが多いですが、英語では何と言うでしょう?(オパライトとは言いません)
正解は、、、本の中でご確認ください。なんて、嘘です(笑)。
英語では、通称「Beauty Dish(ビューティー・ディッシュ)」と呼ぶことが多いです。もしくは「Soft Light Reflector(ソフト・ライト・リフレクター)」とも言います。


イラストを担当したディリア。彼女は、ロンドンでアーティストとして活動しています。今回は、ジェレミーの知り合いということで、特別にプロジェクトに参加してくれました。


エドワードとマサ。エドワードは、ロンドンで活躍するベテランのフォトグラファー。マサは、そのエドワードのアシスタントをするために、日本からはるばるロンドンへやってきたという設定です。