スタジオをベースに、人が集まる会社に

まずイイノの会社概要を簡単に教えて下さい。

矢澤:一言で言えば、「制作における縁の下の力持ち」ですね。クリエイターの方々が考えていることを、より的確に、スピードを含めて具現化していく。その為に日々研鑽しています。

人がたくさん集まってくる会社、組織を目指しています。たくさん集まって頂くほど、ビジネスチャンス、将来のビジョンも生まれてきます。逆に人が集まらないような環境を作ってしまうと、将来に繋がっていきません。

業は、大きく分けると2つ。仕事で出会った方々との繋がり。もう一つは将来、我々の顧客になりうる人間、今でいうスタジオスタッフの育成です。
スタジオ業務に限って言えばフォトグラファーなのですが、例えばレタッチ部門、プロダクション部門、デザイン部門を持つことによって、可能性のある人間をたくさん集めていく。そして「何ができるのかを考えていく」というのが、ベースとしてあります。

沿革としては、イイノ海運が所有していた土地があって、そこにスタジオを建てたのが始まりです。スタジオというのは、言わば「作業場」ですよね。「色々な人間が作業する場所を持ちましょう」ということで、イイノ広尾スタジオを立ち上げました。

当初、銀塩からデジタルに移行する時期で、その流れの中でデジタル化に力を入れ始めました。それが「デジタルカメラでの撮影サポート」であり、主要なビジネスの一つになっている「レタッチ部門」です。 ただ僕たちもレタッチをまだよく理解できなくて、海外から学んで自分達がやりやすい環境を作っていきました。

当時、自分達も周りのフォトグラファーも若手が多く、撮影だけでは表現できないことをレタッチで上げていくという流れが、自然に出来ていたように思います。その流れの中でレタッチから、制作的なことまでを受注するようになり、部署が増えていきました。
集まった人達から「こういうこと出来ない?」とかご相談を受け、それを返すのが自分達の成長に繋がっている気がします。

永井:僕もメディア・プロのオープニングから参加していました。最初の頃は、「イイノ・メディアプロ=イイノスタジオ」、だったわけです。
矢澤が言った通り、徐々にビジネスが広がっていきました。でも広がるにつれて、「自分達が何をすべきなのか」を、自分達に問いかけている部分はありました。

僕は「イイノ・メディアプロ」という社名が重要だと思っていて、なぜ創業の時に、「株式会社イイノ広尾スタジオ」にしなかったのか、こう名付けた所にポイントがあると考えています。そして、メディアの中で、自分達がプロフェッショナルとして、何をプロデュースしていくのかを、より考えるようになりました。

そういう中で、「自分達から発信するプロジェクトも作っていきたい」という思いが沸き起こってきました。もちろんお客様の「縁の下の力持ち」という根本は変わらないのですが、イイノとして何ができるのか、新しい動きが起きてきています。


ディレクターの矢澤清さん(左)とプロデューサーの永井昌史さん。



意外と低い?海外との壁

矢澤:海外は何年目だっけ?

永井:ロンドンオフィスを開設して8年目です。

矢澤:海外進出のきっかけも、デジタル化によって盛り上がっていて、いけいけドンドン的な面もありました(笑)。写真はボーダレスですし、共通のコミュニケーションとしての窓口を作りたい、という発想から進めました。
ロンドンオフィスを置いているビッグスカイスタジオの関係者も、たまたま日本のイイノスタジオに見学に来られた。きっかけはたったそれだけなんです。マーケティングどうのではなく、一つの「出会い」から始まっています。

永井:ロンドンで仕事をしていて思うのは、「日本と海外の壁」です。でも実は、一歩踏み込んでみると、ハードルが高いように見えて高くない、ということに気づきます。 でも実際に撮影したいと思っていても、「英語が」「コミュニケーションが」「文化が」、という話が出ますよね。
でも僕らがやっているクリエイティブは、そういうことを「超えられる力」があるんです。違う感性を持っているから、日本人同士なら「A」というものが出来る所が、海外の人と作ったら、「B」というものが出来るかも知れない。もしかしたら、「B」の方がよりクリエイティブかもしれないんです。

大変そうに思うかもしれませんが、実は海外に行かなくても、海外のクリエイターと仕事をすることもできるし、コミュニケーションの方法はいくらでもあります。一歩踏み出すだけで、世界は広がっていきます。
ビジネスとしての可能性もありますが、個人のクリエイティブを伸ばすという意味でも、非常に意味があると思います。そういうチャレンジをしたい人がいれば、自分もイイノとしても応援していきたいと思っています。

矢澤:弊社のスタジオのスタッフである程度スキルがついてくると、海外に行く人間が特に多いんですね。自分達が一緒に仕事をしているフォトグラファーに、海外経験のある方が多いという事情もあります。
海外に行けばいい写真が撮れるわけではないですが(笑)、今(若手)しかできないこともあり、よく行っています。
自分達の職場を見ていて、個人が行けるのに、なぜ組織になるとハードルが上がるのか、という疑問があり、冒険心、会社としてのモチベーションを高めるための道として間違っていなかったと思います。

「英語本」の制作もそういう流れからですね。

矢澤:なぜ英語本なのかと言うと、永井は海外に住んでいた経験もあり、英語に対するコンプレックスよりも、英語に対するLOVEだったりするわけです(笑)。 僕ら昭和30年代は、英語教育からダメだったわけです。でも音楽は洋楽を聞いていましたよ(笑)。
海外に行こうとしているうちのスタッフが英会話教室に通っていたり、海外から日本へ撮影しに来られる方も、やはり英語がメインです。そのため当初はホームページ上に専門用語の単語や会話集を並べようとしていました。
撮影の専門用語、和製英語のような機材名は、実は海外では通用しなかったり。本当の英語と、作られた英語風の違いを提示しようとしていました。

でも内部の仕事は後回しなので、一向に進まない(笑)。じゃあ「本を作ろう」と。本は紙や印刷費等の実費がかかるので、会社にも通しますし、それでOKなら必ず動きますからね。 ただ外注するのではなく、自分達が普段感じている部分を形にするのであれば、中で出来ることは全部やろうと思いました。

永井:そうですね。外注したのは、イラストだけですね。基本的なコンセプトを伝えて描いてもらいましたが、後はコンテンツやデザインも全て社内で制作しました。

矢澤:ここに書いてある内容は、専門用語としては初歩、基本中の基本です。極端に言うと、スタジオ撮影の経験がない方や、海外に行って自分を売り込みたい方、そこでまったく言葉や用語がわからないよりは、「ここだけでも押さえておけば、何とかなる」という内容です。なので、学生でも一般の方でも、お役に立てるのではと思っています。

おそらくですが、こういう英語での撮影コミュニケーションについては、写真学校でも教えてくれないのではないかと思います。

矢澤:海外で撮影をしたくなければ、まったく意味をなさない本ですし、逆に海外で写真を撮ったり、専門用語を知りたい人にとっては、非常に貴重な本になると思います。

永井:ロンドン支社で8年間仕事をする中で、僕自身、英語を学びながら成長できた部分もあります。その環境を活かして「英語で何かできないか」と常々考えていました。
それで矢澤やスタッフと話をしながら、「イイノとしての切り口はやはり写真だよね」。「撮影業界の中で英語を膨らませていけば、役立つものができるのではないか」と。
逆に言えば、「自分達しか作れないのではないか」。そこから構想を練り始めました。
一般的にはニッチな本なのですが、イイノを取り巻く環境の中では「おおっ」って、喜んで頂けるものにしたいと思って作りました。

実は英語の上級者の方でもわからない表現は沢山入っているのですが、写真をやっている人には、理解できることがたくさん書かれています。

一般の英語本は「空港にて」「レストランで注文」のようなトラベル英会話が多いですね。

永井:そうですね。もちろん撮影の実用書的な部分は押さえないといけないのですが、ただ役に立つというだけでなく、「読んで楽しい本」を心がけようと思いました。 それで「Masa」という新人アシスタントと、「Edward」というイギリス出身の猫のベテランフォトグラファーという設定で、トークを入れながら構成しています。
矢澤 本のタイトルを何にするかとう所で、最初はカッコつけて「カメラマンになるために必要な本」とか「イングリッシュ○○」とか。でも今一つピンと来なかった。
元々この本は、自分達が必要だと思って作るわけだから、その感情を「ストレートに表現した方がいいだろう」と言うことで「プロのフォトグラファーと将来のフォトグラファーを目指す人のために情熱を込めてつくった海外で撮影があっても困らない役立つ表現がぎっしりつまった特別な英語本」にしたわけです(笑)。
永井:内容を言うと、64個の単語を切り口として、それをベースに例えば「カメラ・レンズ」「定常光ライト・電源」「グリップ機材」等、10章で解説しています。

あとポイントとしては例文が必ず載っているのですが、それだけでは頭に入りづらいので、必ずトリビア的な文章を入れて、例文や単語が記憶しやすいようにしています。 例えば、日本では4×5(しのご)と言いますが、イギリスでは5×4(ファイブフォー)、アメリカではまた4×5(フォーファイブ)だったり。

矢澤:「ダボ」を「スピゴット」と言うんですよね。最初わからなかったんですけど。ダボでは通じないんだなあと(笑)。

近いニュアンスならまだましですが、まったく違う呼び方だと通じないですね。

永井:簡単なところでは、日本は「ピント」と言いますが、海外では使いません。必ず「フォーカス」なんですよね。「ピンが甘い」=「"Pinto" is sweet」ではなく、「The focus is soft」みたいな(笑)。
そういう意味ではとっつきやすいかな。。
縦位置、横位置はわかりますか?。
縦位置が「ポートレート」、横位置は「ランドスケープ」です。

日本では人物を撮るのがポートレート、縦でも横でも風景は風景写真、ですね。

永井:もちろん「バーティカル(Vertical)」とか、「ホライゾンタル(Horizontal)」とか、そういう言葉もありますが、「横位置で撮って」という時に、「ランドスケープで撮って」という言い方をします。
写真が好きな人なら、「なるほどね〜」と楽しんで読んでもらえると思えます。

この本は「カメラ・機材編」となっています。

矢澤:そうですね。「カメラ・機材編」となっているので、機材を借りれば、その後、どのように流れるのか、そこまで作れたらいいなと考えています。

産みの苦しみもあると思いますが、その後の成長の喜びまでいければなと思います。今まで「受け身だった縁の下の力持ち」から自分達が前に出て、自分達が持っている知識だったり、サポートの仕方を広げていきたい。そのための企画やプロジェクトは今後も続けていきたいと思っています。

永井:第2弾として「コミュニケーション編」を作る可能性は高いです。実際に「撮影現場でどういう風に話をするのか」、第1弾は発注ベースですが、今度はモデルに指示を出したり、現場でどうスタッフとコミュニケーションをとるのか等、事例を考えています。

例えば現場で「レンズを見て」って言う場合、「Look」か「See」か「Watch」なのか、悩むんですよ(笑)。自信を持って言えないといいものが出来ないので、「撮影のコミュニケーション編」は、必要だなって思います。

矢澤:日本に来られる海外のモデルも、英語圏出身でない場合が多々あります。例えば英語で「いいね!」と言うのはもちろんですが、世界中のありとあらゆる言語の「いいね!」「ブラボー!」みたいなものを網羅すれば、少し距離が縮まるかもしれませんしね。

永井:そうですね。コミュニケーション編では、「誉める方法」→「もっと誉める方法」→「すっごく誉める方法」みたいな(笑)、色々な使える言葉を入れたいなと思っています。楽しみにして下さい。

矢澤:イイノのWebサイトもリニューアルしましたし、本(紙)だけでなくWebでも発信できるものを作っていきたいですね。 クリエイターの方々が「イイノと一緒にこういうことしたいんだけど...」というお話を頂いて、目に見える形で一緒に作っていければと思っています。


<目次>
1. カメラ・レンズ
2. カメラアクセサリー・三脚
3. 写真用語
4. ストロボライト機材
5. 定常光機材・電源
6. スタンド機材
7. グリップ機材
8. バックグラウンズ
9. 消耗品
10. デジタル機材・用語

「Masa」という新人アシスタントと、
「Edward」というイギリス出身の猫のベテランフォトグラファーとの会話も掲載されていてわかりやすい。


「プロのフォトグラファーと将来のフォトグラファーを目指す人のために情熱を込めてつくった海外で撮影があっても困らない役立つ表現がぎっしりつまった特別な英語本」
編集:イイノ・メディアプロ 
判型:縦175×横115mm
ページ数:120P
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