- 2011.12.22
DNPフォトルシオ川口和之
フェーズワン、リーフ、マミヤという中判デジタルの中核を
一手に引き受ける日本の総代理店「DNPフォトルシオ」。
その陣頭指揮をとるプロフォトソリューショングループ・川口和之さんに
中判のメリットから今後の展開まで話を聞いた。
まず現在の会社「DNPフォトルシオ」以前の流れを先に説明して頂けますか。
最初はコニカの販社に在籍していました。2003年にコニカがミノルタと経営統合してコニカミノルタになり、その3年後にコニカミノルタが写真事業を終息することになりました。当時、私が務めていたのはコニカミノルタマーケティングという国内販社です。その会社を2006年に大日本印刷(DNP)が譲り受けたわけです。
コニカミノルタがやっていた証明写真のBOXがあるでしょ。その事業に使っていたメディアも昇華型なんです。写真プリントのビジネスをするにあたり、昇華、銀塩、インクジェットという3つのメディアがありますが、DNPは昇華型メディアの世界的な大手メーカーですから、コニカミノルタから事業を譲り受けて、国内で昇華型を中心とした写真関係の販社を立ち上げることになったわけです。
その後、このDNPフォトマーケティングという販社と、証明写真事業をやっていたDNPアイデーイメージングという会社、それに以前からDNPとして「プリントラッシュ」というプリントの店頭セルフ出力機の事業を展開していたDNPプリントラッシュという会社の3社が統合され、2008年に(株)DNPフォトルシオになっています。この会社はDNPの写真事業ブランド=「Fotolusio」を社名に冠しています。
私はコニカマーケティング時代にミニラボ事業に関わっていました。要は、ネガを見てフィルターをかけて手焼きするような職人芸から、スキャニング、デジタル変換された画像をレーザー露光するミニラボのマシンまで、デジタル化の流れの最初からミニラボに携わっていました。それがデジタルフォトのスタートです。それをずっと大阪でやっていました。
1999年にコニカマーケティングの社長が替わり、その方がコニカのアジア地域の責任者をされていた時期に、台湾のフェーズワンの代理店と関係がありました。その頃、フェーズワンの日本代理店が安定していなかった為、台湾の代理店の紹介でフェーズワン社がコニカに頼むという事になりました。その社長が2001年にフェーズワンとの代理店契約を決断したわけです。
当時、コマーシャルフォト市場はコニカにはほとんど関係なかったわけです。客観的に見れば、「コマーシャルフォトのノウハウがないコニカが、フェーズワンなんて扱えるはずがない」と思われていました。確かに当初の立ち上げはH5やLightPhaseの時代でKodakのDCSプロバック等、強敵もいて苦労しましたが、そうこうしている間に、ミニラボが一段落し、フェーズワン事業もH25で一つのマーケットポジションを得た後で、私が東京でフェーズワンとミニラボの両方を見ることになったんです。で、単身赴任1年目にして突然コニカミノルタの写真事業終息の話が降って湧いてきたわけです。
激流に揉まれていますね。
日本でもフェーズワンの事業が波に乗りかけていたので、大きくしたいという目標もあり、うちのチームだけは「会社がどうなってもフェーズワン事業をきちんとやっていこう」という意思はありましたね。コニカミノルタの事業収束後、印画紙の工場含めDNPグループの関係会社になってプロの写真家の皆さんの信頼も深まり、2006年の譲渡以降も売上げは伸びていきました。
顧客の立場から見ればDNPグループに加わり、わかりやすくなりました。
その頃にP25、P30、P45といった製品ラインアップも揃い、2007年にはPプラスシリーズも出て、いいタイミングでした。その中で少人数でもやれる限りのことをやりました。
当時はハッセルブラッドの645カメラもフェーズワンとの組み合わせで売っていました。イマコンがハッセルブラッドと合併して独自戦略を取り始め、自社製品に関してはカメラとバックの電源の共有化、インターフェース面でのデジタルバックとの親和性を高め独自のシステムとしての展開が図られていましたが、カメラボディに関してはまだオープンでした。
当時、リーフに関しては市場での相乗効果、スケールメリットを目指し、フェーズワン社が合併。結果的にはフェーズ、マミヤ、リーフが一つのところに集まってきたという流れが続いています。これらデンマーク、日本、イスラエルメーカーの商材を、日本での販売総代理店としてアポイントされ今日に至ります。
中判デジタルバッグでは圧倒的にフェーズやリーフのシェアは大きいですが、それ以外は一眼レフタイプという2択になりましたね。
人物撮影の場合、手を入れない(レタッチしない)ということはあり得ないでしょ。いくらちゃんと撮ってもレタッチによっては全然違うものになったりする。それがいいのか悪いのかは、判断が分かれるところです。ただレタッチのしやすさとか、情報量の多さという点で中判タイプにメリットがあります。まあ画素数が多いので、自然な肌のトーンを作っていくのは大変だとは思いますけどね。
一眼レフタイプに比べて「色の厚み、深さ」というニュアンスで表現するフォトグラファーも多いです。
デジタルカメラは一眼レフタイプが全盛ですよね。ただコマーシャルの分野以外でもデジタルバッグでしか表現出来得ないものってたくさんあります。うちの場合は、コマーシャルの世界とデジタルアーカイブ、それと写真館、そしてアドアマです。この4つのマトリックスで各ブランドをハンドリングしていくという形です。
プロのコマーシャル関係ではレンタル機材ショップやスタジオさんが、キャプチャーワンとの親和性ということもあり、フェーズワンに関しては多く取り扱って頂いています。特に撮影時に取り込むソフトという形で使用しているユーザーの方は多いですね。キヤノンとニコンのカメラコントロールができるようになっているのも大きいです。一眼レフとデジタルバッグの使い分けも、キャプチャーワン1つでできるので便利です。
デジタル一眼レフカメラユーザーでも、スタジオ撮影ではキャプチャーワンを使っている人が多いです。
どんどん機能が増えてきていて、使いにくくなる事を危惧する声もありますが、カスタマイズが簡単にできるので、不要な機能は取っ払って「スタジオではキャプチャーに特化したインターフェースにする」という使い方ができます。シチュエーションに合わせて変えられるのがメリットですね。
IQシリーズは出荷されているのでしょうか。
8月上旬から出荷が始まっています。現在、潤沢に入ってきています。だいたいはP25やP45からアップグレードされる方が多いです。4000万画素クラスを使われていた方が、6000万、8000万画素へ、という流れです。まったくの新規でいきなりIQ180を買うという方は、アーカイブ関係以外は少ないですね(笑)。
今は、価格的なところがはっきり分かれていて、従来のP+のシリーズ(4000万画素)クラス以下は100万円台になっています。従来から見ると100万円近く安くなっています。リーフ等100万円以下のものもありますから、まずそのあたりを買って、ステップアップしていくというパターンが多いです。バージョンアップの差額も、フェーズワンやリーフから機種をアップしていくと非常に有利な価格になります。
ハッセルブラッドのデジタルバックは自社のカメラでしか使えません。完全にクローズドな戦略にしているので、逆に我々にとってはありがたい話です。こちらは従来持っていたカメラを活かすこともできるし、最新の645DFのカメラシステムに乗り換えて頂くこともできます。そのまま4×5やビューカメラにも付けられますからね。
むしろリーフとマミヤとフェーズ、それぞれをどうしていくのかをお聞きしたいです。
これは当然ですが、3つを永続していきます。
もともと人物はリーフ、ブツはフェーズと言われていました。
「リーフはネガっぽい」「フェーズはポジっぽい」と。ソフトがキャプチャーワンに統一される中で、搭載したプロファイルでバリエーションを選べるようになっています。ただ根本的に両社の絵作りが違うので、RAWデータから作り込んでいけば、全く同じになるかと言えば、決してそうはなりません。それはフジとコダックの関係に似ています。 望ましいのは、バックアップという意味も含めて、フェーズ2台とリーフ2台を使い分けるのがベストだと思います。
それは、無理です(汗)。そもそも、デジタルバッグのメリットを理解していない人が増えている気がします。
やはりエディトリアルの仕事で、カメラのレンタル代が出なくなったのが大きいと思います。経費が出なくなって、雑誌関係は相当量が一眼レフに移りました。「この写真は35、これはバッグ」と言うのは、見ればわかるじゃないですか。でも出版不況の中で編集部も厳しいんでしょうね。機材費がでない分、デジタルバッグを借りて経験される方が減りました。
リーフの75、75Sあたりはシャッター間隔が非常に速かったのと、肌のレタッチがしやすしという事で選ばれる方が非常に多かったですね。当時はだいたい250万〜300万円弱だったものが、今は150万円を切っているので、購入するにしても、決して手の届かない値段ではないと思います。
一眼レフタイプは、ムービー機能を製品に盛り込んできていますが、中判のシステムとして、今後どのような機能強化が計られていくのでしょうか。
リーフとフェーズの2ラインで同じものを出しても仕方がないので、それぞれのDNAを守りながら進化させていくでしょね。将来的に「ムービーが撮れるようになる可能性」は否定しません。キャプチャーワンでムービーを取り込むことができるようになっていますから。現状はCCDだから出来ないだけで、CMOSが使えれば可能だと思います。
「それを必要とされるかどうか」という判断もあります。4K が当たり前になれば、モニタも変わってきます。現状、6000万画素、8000万画素でシュナイダーのレンズを使って撮っていても、モニタの限界があります。モニタが高解像度になれば、一眼レフ等との画像の違いをより鮮明に確認できるようになるでしょう。ただそれが印刷に対して、どう繁栄されるかは別問題ですが...。
マミヤに関しては、645DFのカメラとデジタルバッグをセットした形で展開していますから、戦略的な話になりますが、リーフのブランドと比べるとカメラ自体の価格がかなり抑えられていて、お買い得なプライスになっています。中判入門機としては最適だと思います。
今後は「裾野をどう広げていくか」がテーマです。そのために80万円台から400万円オーバーまでプライスゾーンを広げています。ハイエンドばっかり売れる時代ではないですし、ボリュームゾーンは100万円台前半になっています。
4000万画素が100万円台になっていて、尚かつP40+はセンサープラスが使えるので、感度も4倍になりますし、画素数が1/4になるので、ハンドリングも良くなるので、仕事によって使い分けができます。
IQシリーズの方にラインアップが変わっていきますから、今P+のシリーズは、価格的にはお買い得だと思いますよ。
一眼レフの上位機種購入ユーザーもターゲットに入ってきますね。
そうなんです。同じ2200万画素と言っても、中判と一眼レフを比べるとどう違うのか、ということなんです。それに一眼デジカメのレンズ解像度の限界もあります。中判と一眼の交換レンズの差を体感して頂いたら認識も変わってくるかと思います。そういう機会をどんどん作っていきたいですね。
あと美術、工芸、絵画等のデジタルアーカイブも、非常に期待している分野です。赤外線撮影をすると、普通に撮影した場合に肉眼ではわからない、目に見えない下絵部分が見えてきます。単純に赤外線のフィルターを使用して、ストロボを当てるだけです。
例えば、国立博物館であれば、内部に撮影するスタッフもいらっしゃいます。一般の博物館、美術館の場合は、職員の方が撮る場合もあるし、外部に撮影を委託する場合もあります。発注された側はデジタルバックを持っていないと仕事を受ける事ができませんから。
博物館関係は高画素に軸足が移っていきます。そして今後は美術館の市場が伸びます。美術作品こそ、一眼レフで撮るのとデジタルバッグで撮るのとでは、解像度、16bit入力の点で情報量として比較にならない優位性がありますから。美術館に関しては、職員の方で写真を撮られる方はいません。ほとんどの場合、外注です。そうすると、デジタルバックを所有しているところに発注がいくわけです。そういう意味で、この分野がどんどん広がりを見せる事を期待しています。
絵画の鑑賞の仕方も変わりますよ。肉眼で一定の距離から見るのが一般的ですが、例えば美術館にモニタを置いて、それを拡大して見てみる。青木繁の自画像と言われている作例写真を見て頂ければわかりますが、作者の筆のタッチ、微妙な描き方がピクセル等倍に拡大することで見えてくるんです。これは今までになかった鑑賞法です。
- ▲右がPhotoshopで100%に表示した画像。絵画全体を見るというのとは別に、高解像度のアーカイブをすることで、作家の筆のタッチや重ね塗りの立体感がよりリアルに感じられる。
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1903年 伝・青木繁 自画像
PhaseOne IQ180M 645DF AF120mmF4Macro
川口さんは作家活動も長いですよね。
写真を撮り始めたのは1970年代前半からです。高校時代から撮っていましたが、大学時代、先輩に大阪の糸川燿史さんという写真家を紹介してもらって、そこから日本の写真界にかかわった訳ですね。
東松(照明)教室のPUT、森山(大道)教室のCAMPや総合写専のプリズム、沖縄のあーまんなど、日本の自主ギャラリーの黎明期や写真国などその周辺の動きを肌で感じて関わっていた最年少の世代にあたると思います。
そんな人間が、30年後ハイエンドデジタルの宣教師みたいな仕事をしているのですから、面白いですよね(笑)。
DNPの今後の展開を教えて下さい。
コマーシャル、アーカイブ、写真館、ポートレイト、アドアマ。特にアーカイブは今述べたように、これから成長するという確信があります。写真館については中判の良さを活かしたボケ味ですとか、35ミリとは違う肖像写真としての魅力も再認識して頂けるよう動いています。マーケットとしてはアドアマが大きいので、特に風景写真を撮られている方や現代アート系作家の方々に、機材選択肢に入れて頂けるよう努力しています。過去のマミヤのレンズも使えますし、アダプターを介せばハッセルのカールツァイスレンズが使える事も大きいと思います。中判デジタルフォトの進化は止まりません。
- ▲下がPhotoshopで200%に拡大した画像。目視ではわからない部分まで解像していることがわかる。画素数だけではなく、ビット数、レンズの解像力も含めた撮影システムが中判デジタルの強み。
川口和之 DNPフォトルシオ
1958年兵庫県生まれ。
1980年関西大学卒業。
77年に写真同人「PHOTO STREET」を結成。
1979年にPUTで個展「街へ」、「OKINAWA」開催。
35年間に個展やグループ展70回以上。
現在、株式会社DNPフォトルシオ勤務。
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