- 2017.07.27
Photographer中野敬久
俳優やミュージシャンからの信頼も厚く、雑誌や広告で活動中の中野敬久さん。
従来のモノブロックバッテリーストロボから大幅に進化を遂げた「Profoto B1X」を屋外に持ち出して、撮り下ろしを敢行。
「どのような場所でも自分の表現を大事にしたい」という中野さんに、人となりから最新ストロボのインプレッションまで話を訊いた。
ダンサー:細川麻実子(http://mamikohosokawa.com/)
衣装協力:suzukitakayuki(http://suzukitakayuki.com)
インタビュー:坂田大作(SHOOTING編集長)
写真に興味を持ち始めたのはいつ頃ですか。
留学先のイギリスでした。カメラはイギリスの学校で初めて触りました。
写真の勉強をするために留学したわけではないんですね。
そうなんです。目的は語学留学でした。ただ父親が広告会社勤務だったので、メディアの仕事には興味がありました。営業系なので、クリエイティブではなかったですけどね。
イギリスの学校で「メディア科」に入学しました。1〜2年生でまだ英語がおぼつかない中、実技系で「Photography」という授業があったので、そちらを受けることにしました。カメラを初めてさわったのもその頃です。
古いニコンのマニュアルカメラで、露出計もファインダー内で針が動くタイプでした(笑)。最初からモノクロフィルムを渡されて、「まず撮ってきなさい」的な、いきなり実地練習でした。
それで最初に撮ってきた1本目は、真っ黒で何も写ってなかった(笑)。よく覚えています。
works(中野さんの仕事より)
NTTドコモ 「DAZN」
A&P=電通+たき工房 GCD=窪本心介 CW=上田浩和 AD=渡邊裕文、本田新 D=石井文努 PR=志村悠介、大槻香織 ST(堤)=中川原寛 H/M(堤)=奥山信次 ST(高畑)=申谷弘美 H/M(高畑)=市岡愛 T=堤真一、高畑充希 Ret=畑島康人
針の中央付近が適正露出とか、教えてもらわないとわからないですね。
そう。古いカメラだったので、赤くなったりもしないんです。そこでやめなくてよかった(苦笑)。失敗の後に、先生に絞りと露出の関係性を教えてもらって、徐々に撮れるようになりました。
当時は何を撮っていたのですか。
模様が好きだったので、階段とか壁とか草とか。未だにインスタのアカウントでは、街中でも「変だな」と思う模様を撮ってアップしています。こういう感覚が、CDジャケットの裏面とか、盤面とかに活かされていますね。
日常の中で気になったものを撮り溜めている中野さん(Instagramから)。
https://www.instagram.com/hirohisanakano/
向こうの図書館でデビッド・ベイリーとか、アヴェドンとか写真集をよく見ていました。そしたら段々とスタジオで撮りたくなってきた。最初に留学した所は片田舎の学校だからストロボがなくて、放送用の定常光(タングステンのテレビ仕様)だけでした。でも人物が撮りたいから、そこに友達を呼んで撮っていました。
その放送用スタジオを管理している方が、併設の美容学校も管理されていて「美容学校の生徒たちがヘアメイクをした作品(人物)を撮ってくれる人を探しているからやらないか?」って僕に聞いてくれたんです。
もちろん快諾しました。僕に写真を撮ってもらうために、美容学校の生徒さん達が列をなして待っていてくれるわけです。「こんな素敵な仕事はない!」って、思いましたね(笑)。
地元で行うファッションショーも撮りました。そこから暗室ワークも楽しくなって、プリントもたくさん焼きました。
NTTドコモ 「新料金キャンペーン」
A&P=電通+たき工房 GCD=窪本心介 CW=上田浩和 AD=渡邊裕文 D=土細工雅也、内海徹也 PR=志村悠介、伊藤圭太 HM=大森裕行 ST=浜木沙友里 T=ブルゾンちえみ Ret=畑島康人
イギリスでは誰かフォトグラファーにつかれていたのですか。
いえ。在学中から「スタジオで学びたいな」と思って、当時「i-d」とかに載っていたスタジオに電話したらすぐに雇ってくれたんです。
しばらくしてそこを辞めてからは、世界的にも大規模な「Spring Studios LONDON」に入りました。Spring Studiosでは1年半くらいアシスタントをしていました。あとは日本から撮影に来るチームのサポートとか。学校を卒業してからそうやって2年ほど、アシスタントを続けていました。
その後、帰国されたのですね。
はい。日本でどうしようかと1年くらい悩んでいたのですが、向こうのフォトグラファーから、日本ロケでの撮影アシスタントを依頼されたのをきっかけにして、色々な所へ営業し始めました。
その中で「コンポジット」で撮影させてもらったり、当時コマフォトの編集長だった河村さんに1999年かな、特集してもらって徐々に仕事が広がっていきました。
バブルもはじけて(笑)、日本も元気がなくなってきつつある状況の中、僕はインディーズ雑誌からスタートしていたので、いかにライト1灯あてて「かっこよく撮るか」を研究していましたね。
ぴあ株式会社「LiSAぴあ」
ST=久芳俊夫 H/M=田端千夏 MODEL=LiSA Ret=畑島康人
イギリスで経験したことの影響は大きいですか。
そうですね。むしろ日本の写真界のことは何もしらなかったです。「STUDIO VOICE」は読んでいたので、HIROMIXさんや、田島さん、冥砂さん、渋谷系ジャケットのフォトグラファーとかは知ってはいました。でも木村伊兵衛や土門拳は知らなくて、アヴェドン、ロバート・フランク、マリー・エレンマークとか、海外のファインアートの方の写真を勉強していました。
向こうの先生が教えてくれるフォトグラファーも、アーバスとか、サルガド、メープルソープとか。今では王道かもしれませんが、自分はそっちから入って、撮影、現像、プリントでいかにそういうトーンを出すのかを勉強していました。
ギター・マガジン 2016年12月号
ST=藤本大輔 H/M=須田理恵 MODEL=RADWIMPS(桑原彰、野田洋次郎)Ret=畑島康人
中野さんといえば、音楽系のイメージも強いです。
音楽は実はそんなに早くからたくさん撮っていたわけではなくて、カルチャー誌のポートレート、ファッションを撮り始めてから、派生する仕事が増えていきました。でも俳優やモデル、文化人等、色々撮影していく中で、やっぱり音楽誌の仕事をしたかったし、「ROCKIN'ON JAPAN」はやりたかったです。そこからCDジャケット撮影の依頼も増えていきました。
カメラや照明機材は何を使われていましたか。
基本は中判カメラでした。Mamiya RZがメインで、PENTAX 67あたりがサブかな。デジタルカメラはNikon D5とPhase One XF、最近はFujiのX-T2あたりも使っています。
ストロボは最初からプロフォトです。ロンドンにいた当時は、スタジオもエリンクロームだったんです。そこからプロに変わるタイミングでした。
Milk Studioがプロフォトに変わり出したら、NYのファッション・フォトグラファーがプロフォトを使い出して、世界的に変わっていったんだと思います。カルチャー誌で予算的にスタジオを使えないと、それこそプロフォトのオパ(ビューティディッシュ)1灯しか持っていけませんから(笑)。
当時のこだわりとして、どんな狭い空間や小バジェットの仕事でも、あくまで「スタジオで撮ったようなクオリティ」を出すつもりで撮影していました。取材カメラマンではなく、あくまでもポートレート・フォトグラファーとして。そこはこだわっていました。
PICT-UP 2016年10月号
ST=坂元真澄、H/M=須賀元子、EDIT=浅川達也 MODEL=松田龍平 Ret=畑島康人
話はかわりますが、新しい機材は積極的に導入するタイプですか。
ここ10年位の話でいうと、自分のスタジオを持っていることで、事前にテストできる環境にあります。気になる機材はすぐにテストして、それを「どう応用できるか」を考えますね。
仕事は様々なシチュエーションで撮りますよね。そこに新しい機材が加わることで表現の選択肢が1つでも増えるなら、積極的に取り入れていきたいタイプです。
プロフォトもD2が出た時にテストをして「連写ができる」ということを知っていると、被写体に対しても静的なポートレート以外でも、「これ面白い機材なので、1回ジャンプしてみる?」という方向性もトライできる。「バババッ」って連写をしたのをその場で見せると、「おおっ」となって、一つ新しいビジュアルが共有できますよね。雑誌ならページ構成の幅も広がります。
撮影中の中野さん。
機材で予期せぬことが起こるのは避けたいし、現場は撮影(表現)に集中したいよね。
写真には答えはないし、正解は一つじゃないわけです。その中で自分が思っていることを事前に何方向か試してみて、現場に挑むのは楽しいですね。クオリティが担保できていれば、被写体とのコミュ二ケーションに集中できますから。
オファーを受けた時に「どんな理由で自分が指名されたのか」を考えるじゃないですか。そこに対して、あらゆる事をシミュレーションするのは、フィルムの時と変わっていないかもしれません。
今回、B1Xでダンサーを撮り下ろしました。
昔からダンサーの方が身近にいて、常に何かのタイミングでダンサーを撮ってはいました。でも最近はなくて、今回このお話を頂いた時に、ダンサーを絡めたビジュアルを思いつきました。
ちょうど撮影の前に、僕が好きなダンサーの公演を観に行ったばかりだったんです。ローザス(ベルギーのダンスカンパニー)が好きで、ミニマムなダンスを反復するのですが、すごくかっこいい。
それが頭にあって、今回の撮影のイメージがすぐ浮かびました。ダンサーの細川麻実子さんにもその話をしたら、彼女も「ローザスが好き」と賛同して頂きました。
「波打ち際」という舞台で、写真として美しく見える動きを確認し、それをある程度反復してもらいつつ撮っているので、闇雲に彼女が踊るのを切り取っているわけではないです。振り付けは彼女のフリースタイルなんですが、撮影するにあたり、かっこよく見える部分を共有して、一緒に作っています。
B1Xを高めの位置から照射しながら撮影。
中野さんはもともとB1ユーザーなんですよね。
そうです。操作性はB1Xも同じなので違和感はなかったです。D2が発売されて以降、今回のB1Xも、低出力レンジでは、最大20フラッシュ/秒というスペックですが、そこまでいかなくても連続発光で撮れるので、今回に限らず「スピードを撮影に取り入れる」という選択肢が増えたことが、僕の中では大きな意味があります。
それがさらに屋外に持ち出せるとなると、仕事でも「動きを止める」ということを最近はよくやっているかもしれません。
ダンサーの細川さんと動き、位置、光の当たり方を共有しながら進める。
今までの普通のストロボでは、「イチ、ニー、サン、ハイ」という「呼吸」のタイミングでやっていたものが、B1Xでは「テンポ」に置き換えられるんです。「タン、タタ、タン」と、ある一定のテンポで動いてもらいながら、チャージを気にせず撮れる。
左は自然光のみで撮影したカット。被写体が背景に溶け込んで地味な印象。 右カットは波やしぶきにもハイライトがあたり、ダンサーの動きもしっかりと捉えられている。こちらは1/400秒でハイスピードシンクロ撮影している。
デジタルカメラの高感度も使える時代になり、自然光だけで撮るスタイルは一般的です。
「光を作る」面白さは何ですか。
被写体がいて、僕がいて、その間に「光」を入れることで、写真に奥行きが生まれ、そこにストーリーが感じられる写真になるんです。
それは「外でダンサーが踊っているのをただ撮っている」ということにはならないんです。奥行きとか、音を感じたりとか、そこから派生する物語を「光で感じさせたい」と思っています。
ニコンD5に24-70mmレンズを使用。
レンズ前に薄いブルー系フィルターを装着し、撮影段階でトーンを作っている。
光を作るのは、光が読めないとできないですね。
「光を読む」のは好きですね。この作品の光の入れ具合は、自分のスタイルならではと思います。
例えばもっと出力を上げて、昼間でも背景を暗く落とした「ザ・日中シンクロ」という写真もできるわけです。でも背景も被写体も絶妙に「全体のトーンが1枚絵になる」イメージをシミュレーションしたんです。それに合わせて自分の中で衣装も生成りのトーンでいくことを決めていました。
レンズにはブルーフィルターをかけ、Capture Oneのセッテイングも想定されるカーブを事前に作っておいて、それを現場で当て込んでいます。そうすることで、撮影現場であらかじめ想定したイメージに近づけることができる。
暗くなってきた時間帯にライトの位置を下げ、B1Xにグリッドを付け体の中心へあてている。
プロフォトグラファーを目指している若い人へのアドバイスをお願いします。
海外で修行をして帰国している人たちを見ると、世界中で流行っている同じようなフォーマットを踏襲している気がします。スタジオでもHMIで光を回して自然光のように撮るブームと、日本のアナログブームは割とリンクしているとも感じます。
僕の場合は、仕事をしていく過程で自分が変わっていったし、いまだに全部が好きで雑誌も音楽も広告もやっています。どれをやっても面白いですし、まだまだやっていない分野があって、それに出合ったらまた面白くなると思うし、無限大だなと思う。
その過程で、被写体ともクライアントともコミュニケーションをとっていくという作業が、より面白くなってきているなと思っています。B1Xのような新しい機材も積極的に導入して、モニターで絵を共有しながら皆で同じストーリーを語れたら最高です。
ライティングにしても、皆好きな光はあると思うんですけど、他の機材との組み合わせで新しい発見があったり、露出バランスだって何通りもあるわけだから、写真を撮るのが好きなんだったら、スタイルを限定しないでどんどんトライしていってほしいですね。
自分も20代の頃、オパ1灯で撮っている時に、ふと「これだけでは狭い...」って思った時があって、急に電球で写真撮りはじめたり(笑)。スタイルは技術のべースの上にあるものだし、結局「自分が出る」と思っています。
Profoto B1X
主な仕様
出力:2-500Ws(9f-stop)
リサイクルタイム:0.1-1.9(最高秒間20回のクイックバースト可能)
モデリングライト:24W LED(ハロゲンランプ130W相当)
ノーマルモードの閃光時間(t0.5):1/11,000s(2Ws)- 1/1,000s(500Ws)
フリーズモード時の閃光時間(t0.5):1/19,000s(2Ws)- 1/1,000s(500Ws)
ハイスピードシンクロ:最高1/8,000秒、9f-stopの出力レンジ
サイズ:14×21×31cm
重量:3.0kg(バッテリー含む)
http://profoto.com/ja/home/
中野敬久 Photographer
1993年渡英。「ロンドン・カレッジ・オブ・プリンティング」にて、写真、映像を学び、スタジオにて数々のアシスタントを経験した後、帰国。1999年Glen Luchfordのアシスタントをきっかけに独立し、東京にてフォトグラファーとしてのキャリアをスタート。雑誌のファッションストーリーからCDジャケット、広告など幅広く活動中。トム・クルーズやジョニー・デップ、ベネディクト・カンバーバッチなど国内外のセレブリティも多数撮影している。
http://www.hirohisanakano.com/home/
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