- 2015.09.30
Photographer谷口 京
プロフォトグラファーにとって最高の瞬間を切り取る行為は、失敗が許されないビジネスの世界であり、また作品撮りは一期一会、二度と巡り会えないかけがえのない記録でもある。
デジタルカメラが全盛の現在、写真データを記録する「メモリカード」は、非常に重要な役割を担っている。東芝のメモリカード「EXCERIA PRO」シリーズは、容量、転送速度、スピードクラス等で、プロの厳しいニーズに応える製品をラインアップしている。
今回から数回にわたり、様々なジャンルで活躍するプロフォトグラファー達に、写真に対するこだわりから、機材選び、東芝製メモリカードの使用インプレッションまでをインタビューしていく。
第一回は、谷口京さん。雑誌「TRANSIT」をはじめ、様々なメディアで活躍する谷口さんは、1年中世界を飛び回り撮影している。「世界の美しさ」を撮り、伝えたいという谷口さんに、話を訊いた。
interview・txt:編集部 Photo:Masashi Kuroha
まず谷口さんの普段の仕事から教えてください。
はい。雑誌、広告、カタログ、人物、風景撮影が多いです。
谷口さんといえば「旅の写真」というイメージがあります。
旅というかロケが多いですね(笑)。仕事の8割がロケです。年間10本位は、海外で撮影しています。
最近はカレンダーの仕事も増えてきました。あと、キヤノン提供「世界の街道をゆく」というテレビ番組で撮影を担当させて頂いたり、大学の非常勤講師として写真の授業も受け持っています。
谷口京さん
もともと写真に興味を持たれたきっかけは何だったのですか。
子供の頃からテレビゲームが嫌いで(笑)、森や川で遊ぶのが大好きな少年でした。常々「海外(世界)をみたいなあ」と思っていました。
高校2年生の時に「卒業アルバム委員」になりました。クラス内のじゃんけんで負けて仕方なく...。それで止むを得ず「ミノルタXD」という父のカメラにフィルムを詰めて友人を撮り始めたら、それが面白かった。それまでは映像関係、特にドキュメンタリーや報道系に進みたいと考えていましたが、写真に興味を持ちました。
ある時、横浜美術館に行った際に、沢田教一さん(報道写真家)がベトナム戦争を撮影してピューリッツァー賞を受賞された「安全への逃避」という写真を目にしました。人間の尊厳、戦争の悲惨さ...「1枚の写真でここまで伝わるんだ!」と心を打たれ、写真の道を志しました。それで日大の写真学科へ進みました。
報道写真に興味があったし、写真の本質は「ドキュメンタリー」と今でも思っていますが、当時「職業としての写真」を考えた時に、世界の第一線を見たいと思い、大学3年と4年の時にアメリカへ渡りました。
まずニューヨーク(以下NY)へ行きました。写真ギャラリーを巡ったり、たまたま現地で知り合った学生の部屋に泊めてもらったりもしました。ヘンリーというエクアドル系アメリカ人でした。
NYで感じたことは、「社会における写真の地位が高い」ということ。例えば、チェルシーのイタリアンレストランに入るとアヴェドンの写真が飾られていたり。ケルトンラボという、モノクロ専門のプロフェッシナル・プリンターが在籍している紹介制のラボがあったり...。もう「アメリカで写真の仕事がしたい!」って、思いましたね。
ヘンリーとの出会いも、初日にタイムズスクウェアでカメラを構えていたら、「君のそのレンズフードは何を使っているだい?」って、声をかけられたんです。そういうコミュニケーションがすぐに取れてしまう街なんです。
撮影地:アマゾン
大学生だから、その後一旦帰国されたんですね。
そうです。帰国後、フォトグラファーの宮本敬文さんが、銀座のギャラリーで「アメリカ西部の風景」を撮影した展覧会をされていたんです。そこで会ってお話をしていたら、宮本さんのNYのスタジオで、来年に空きがでるということで、卒業後に渡米し、2年間お世話になりました。すごくラッキーなタイミングだったと思います。
宮本さんの所から独立後は、様々なフォトグラファーのロケアシについたり、モデルとテストシュートを重ねました。1本立ちできるようになったのは1年半後くらいです。ファッションフォトや、企業のアニュアルレポートって言いまして、エグゼクティブや従業員のポートレート撮影をしたり...。
米国のジャーナリスト査証を維持する為にNYコレクションのランウェイも撮っていました。その撮影には鍛えられました(笑)。あと「SWITCH」「流行通信」など、日本の雑誌の仕事もしていました。
ファッションやポートレートがメインだったのですね。
はい。転機になったのは「9.11」です。仕事が回りだしたので、貯めたお金で世界一周をしていたんです。その後、ニューヨークに戻って3日後に、9.11が起こりました。
その日は、「NYコレクション」の撮影で、望遠レンズやフィルムを100本持っていましたが、何も写真が撮れなかった。
今でも強烈に覚えていますが、真っ青な初秋の空に、朝日を受けて、アルミニウムのツインタワーが金色に光っている、そこに火がついて煙がたなびいているわけです。もう現実を超越しているんです。美しさすら感じる空恐ろしさというか。
とにかく仕事の会場へ行きましたが、その時に2機目が突っ込んでショーは中止。会場のフォトグラファーは、現場に向かいましたが、僕は一切何も撮れなかったんです。そのまま半年間、「なぜ自分はその時写真を撮らなかったのか」を自問し続けました。NYでの撮影仕事も激減し、アメリカ自体のマインドも、「自国民を護る」という内向き志向に変わっていったので、そろそろ潮時かと思い、帰国を決意しました。
撮影地:カンボジア
帰国することで変化はあったのですか。
しばらく悶々とする日々の中で、ある時タイやラオスなど、アジアをまわる旅に出ました。田舎の田んぼで農作業をする老夫婦、ピュアな笑顔で駆け寄ってくる子供達を見た時に、気づいたら「写真」を撮っていたんです。
その時は、純粋に「美しい」と思ってシャッターを切っていた。戦争や飢餓など、悲しみが収まらないこの世界でも、自分は「写真で美しさを伝えたかったんだ」と、気付いたんです。それはただ美しいということではなく、「美しさの奥にある歴史や空気感、エネルギーを伝えられるフォトグラファーになりたい」と、思いました。
その後、コレクション撮影の契約もあり、一旦NYに戻りました。2003年にNYで二十代最後の歳を迎え、「自分はどこで骨を埋めようかと」考えた時、やはり日本に帰ろうと。それまでは「アジア系ニューヨーカー」として受け入れられていたものが、9.11.以降、自国民と他者とを分けるような意識が強くなり、少し息苦しさを感じたこともあるかもしれません。
撮影地:屋久島
デジタルカメラを導入したのはいつ頃からですか。
2003年、自分が撮影した最後のNYコレクションは、デジカメで撮りました。ただテスト導入というか、当時のデジタルの画質には、まったく満足していませんでした。デジタル機材はアップデートしていたものの、中判・大判のフィルムカメラで撮影し、プリントで納品していました。
本格的に稼働させ始めたのは、2012年です。キヤノンの「世界の街道をゆく」という番組で、2週間インドへ行くことになったんです。ここではスチルもムービーもキヤノンの一眼レフを使用します。
2週間で10000〜15000枚の写真を撮るので、フィルムではできませんし、僕自身デジタルのワークフローを学ぶよいきっかけになりました。
すごくメリットを感じたのは、インドから別件で、直接ハワイロケだった時。
フィルムならばどこかの国で現像をして、その後、プリントを焼かなければなりません。でも、ハワイのホテルで波音を聞きながら、レタッチした写真データをサーバーアップで納品した時に、「このフロー最高!」って思ったんです(笑)。
MacのRetinaディスプレイが出たのも大きかったですね。220ppiは印刷の網点に近いですし、今後これがスタンダードになるなら、紙媒体は残りつつも、ネットやデジタルサイネージにチューニングしていった方が、自分の写真をアピールできると考えました。
撮影地:インド
風景だけでなく人物も撮影されますが、シャッターはまめに切るタイプですか。
ベースがフィルム派なので一発入魂だったのですが、デジタル撮影時は、枚数を気にせずガンガン切るようになりました。
人の表情などは、ほんの少しの目のシワの動きで、印象がすごく変わります。あと光の変化や刻一刻と変わる雲の形も、じっくりチャンスを待つタイプですね。
ファイルの設定は何で撮られますか。
RAWのみです。カメラの設定も、シャープネスやコントラストなども、最弱設定にしています。一番やらわかく取り込んでおいて、現像時にコントロールします。
情報量を多くして、そこから仕上げるのは、ネガフィルム的な発想ですね。
そうですね。あと日芸の授業の影響もあるかもしれません。いかに、「フィルムのラチチュードを最大限に活かす」か、という勉強を徹底的にしましたから(笑)。
メモリカードで何か気をつけている点はありますか。
容量も大きいものでなく、万が一のことを考えて、何枚かに小分けして記録するとか。プロとしては、なるべくリスクを減らす方向で考えていました。フィルム的な考えかもしれませんね(笑)。
東芝「EXCERIA PRO」のCFカード(左)とSDメモリカード。
デジタルカメラの高画素化や連写性能の向上、HD以上のムービーの記録等、メモリカードにも性能が求められる時代になりました。
いま、自分は16GBのカードをベースに使っています。大体のロケだと、35デジタルのフルサイズで500枚は撮れます。
5000万画素クラスを導入したら、カードも32GBか64GBにアップデートするでしょう。
メモリカードで、過去にトラブル等の経験はありますか。
ありません(笑)。ただ新聞社に勤めるの友人からは、色々失敗談も聞いているので、気をつけています。
撮影地:カナダ
東芝のハイスペックモデル「EXCERIA PRO」を使用して頂いた印象はどうですか。
64GBのSDメモリカードを使いました。書込み最大240MB/秒、読出し260MB/秒って、正直感動しました。キヤノンの5D Mark3で40〜50枚ずっと連写できるんですよ。スポーツカメラマンではない自分にとっては、充分満足できる性能です。
裏面の「MADE IN JAPAN」の刻印も嬉しいですし、信頼性も高いです。SDメモリカードって、指の腹で押した時にしなるような感覚の商品があるのですが、EXCERIA PROは丈夫でしっかりしている。基盤面も凹凸が少なくて安心してスロットへの抜き差しができます。
各メーカー共、一般ユーザーと上位機種のプロ用モデル的な位置づけの製品がありますが、スペックだけでなく、堅牢性や万が一トラブルが発生した際の復旧サービス、プロ用のカスタマーケア体制とか、多少価格帯が違っても、そういうことでのプロ対応の製品があると、さらにいいですね。
撮影現場では読み込めなくなっても、そこに持ち込めば「なんとかやってみます!」的な安心感があれば、プロにはありがたいです。
撮影地:ヒマラヤ
海外ロケが多い谷口さんにとっては、再撮がきかない仕事がほとんどですね。
撮影後に「認識しません」とかの状態になったら、たぶん泣きます(笑)。そういう意味では、価格以上に「いかに信頼に足りうるか」が選択の最重要項目です。
例えば、ヒマラヤ登山の場合、64GBのカードであれば、アタックしてベースキャンプに戻るまで、1枚のカードで済みます。ヒマラヤはフィルムでずっと撮っていたのですが、マイナス20度で、グローブをつけたままフィルムを交換するのは、非常に大変なんです。
カードは軽くて小さいので、落としたら2000m下まで飛んでいってしまいますが、交換しないで済む容量があれば、機材の軽量化、機動力面で逆にメリットになりますね。
「SDメモリカードの規格」を提唱したうちの1社は東芝だったと、最近知りました。
そうなんですよね。僕の場合は、氷山から砂漠まで、あらゆる場所にカメラを持っていきます。そういう意味では、機材も信頼できるものを選んでいます。東芝の「EXCERIA PRO」は、これからの機材パートナーの一つとして、様々な場所で使ってみたいと思っています。
東芝「EXCERIA PRO」シリーズ
高速連写・4K動画撮影対応のプロ仕様メモリカード。
SDカード:製品情報
http://www.toshiba-personalstorage.net/product/sd/e2pxc/index_j.htm
CFカード:製品情報
http://www.toshiba-personalstorage.net/product/cf/ex/index_j.htm
谷口 京 Photographer
1974年京都生れ。
日本大学芸術学部写真学科卒。
宮本敬文氏に師事後、NYにて独立。
'04年東京に拠点を移す。
写真家としての活動の傍ら、
アフガン復興支援やヒマラヤ登山など様々なフィールドで活動中。
十文字学園女子大学非常勤講師。
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