- 2014.01.16
Photographer小林伸幸
写真家・小林伸幸さんが、写真集「自然の肖像〜八百万の神々〜」を発売した。
全点8×10カメラでフィルム撮影し、和紙にプラチナ・パラジウム・プリント(以下、プラチナプリント)したものを原板にしている。
なぜ「プラチナプリント」なのか、なぜ「和紙」なのか。またこだわり抜いた「写真集」への思いなどを聞いた。
銀塩プリントという選択肢もある中、今なぜプラチナプリントなのでしょうか。
やはり「写真を後世まで残したかったから」につきます。保存性という意味では、プラチナが一番王道だと思っていますので。
プラチナプリントは経年変化の点で、「数百年はもつ」と言われていますし、和紙も千年以上の耐久性があります。
作家としてエディションを付けてプリントを買って頂いているわけですが、安いものではありません。一大決心をして買われる方もいる中で、「子や孫の代まで引き継がれていく」ということにもロマンを感じるんです。そこまで「クオリティに責任を持ちたい」という思いがあります。
PORTRAIT OF NATURE/共存
撮影する場所は決まっているのですか。
まったく決めていません。家を出る時に、東西南北だけ決めます(笑)。
ただベストなプリントを作るためには、まずは「きっちり撮りたい」という思いがあって8×10のカメラを選択しています。
今回、なぜ写真集も制作されたのでしょうか。
もともとオリジナルプリントを売っているので、当初は写真集を出す気はなかったんです。ただ、取っ掛かりとしては有益ではないかと思い始めました。
まず気に入ったポストカードを買って頂く。次に写真集を買って頂く。そしていつかは「オリジナルプリント」を所有して頂ければ、作家冥利につきるわけです。
実際にお金を出して買って頂き、「写真を部屋に飾って頂く」という実体験の積み重ねが大事だと思っています。
タイトルを「自然の肖像〜八百万の神々〜」にされた理由を教えて下さい。
ずっと旅をしながら写真を撮り続けてきた中で、特に海外での旅先で直面するのは一神教と多神教の違い、またそれによって生ずる諍いを見てきました。
日本人は古来より「自然を愛し、敬い、共存する事」で独自の価値観と文化を築いてきたはずです。そのために八百万の神、多神教文化を国内外にアピールしたいという思いが僕の中にはありまして、ズバリのタイトルを付けています。
そういう意味では、外国の方にも受け入れてもらえるものになっていると思います。
PORTRAIT OF NATURE/然
写真集にはどのようなこだわりがあるのでしょうか。
苦労して制作したプラチナプリントを、写真集(印刷)にした時に「あれっ?」って、なるのはどうしても避けたかったので、がんばりました(笑)。
まずこの写真集は特色で2色刷りしています。通常は4色印刷が主流ですが、一昔前はいざ知らず、現状では1色や2色でキレイに階調を出せる印刷所が少ない気がするんです。そういう意味でも、モノトーンの印刷がきっちりできる職人がいるこの時代に作っておきたい、という気持ちもありました。
なので、製版と紙のチョイス、相性にはめちゃめちゃこだわりました。刷り出し立ち会いにも5回行きました(笑)。
印刷会社はどこですか。
弘和印刷という所です。
町工場のような小さな会社です。「モノクロ印刷にこだわりたい」というのがスローガンのような会社なので、すぐに伺いました。
この写真集の印刷を担当して頂いた方が、もともと大手印刷会社で「カリスマ技師」と呼ばれていた方なんです。
その大手印刷会社が1色刷り、2色刷りの機械を手放す際に、職人の方が一緒に弘和印刷に移られた、というのが経緯だそうです。
PORTRAIT OF NATURE/霙川
バリバリのプリンティングディレクターですね。
そうなんです。印刷会社もデジタル化が進み、職人を育てる環境が減ってきています。逆に中小でも、高い技術とこだわりがあれば生き残れる時代かもしれません。
弘和印刷のプリンティングディレクターとマシンオペレーターの方がとても素晴らしく、安心してまかせられました。
原稿はどういう形で入稿されているのですか?
プラチナプリントをそのまま反射原稿として入れてスキャンしてもらいました。
ただ、プラチナの良さ、和紙の質感を出すために、敢えてデータをいじって欲しくはなかったので、スキャンした後はほとんど手を加えていません。
そして、印刷スキルは勿論重要ですが、今回の一連の流れの中で、製版の重要性を改めて知る事となりました。これは印刷会社の方も言っていた事ですが、良い版が無ければ、やはりどんなに頑張っても良い印刷にはならないそうです。
そんな訳で、製版所の方々とも密に打合せをし、進めさせていただきました。
製版オペレーターの方も、「直に写真家の方とお話しする機会を得られた事は非常に刺激になり、モチベーションも上がった」と、喜んで取り組んでいただけた事が結果として功を奏しているのかもしれません。
原板にほぼ近い色ですか。
近いです。
ただ使っている和紙が、そのロットによって色味が違うため、特色で和紙の風合いを出すようにはしています。
とは言え、ここまでよく出たなと思います。
印刷紙もアンバー系の風合いですね。
紙も複数取り寄せて、テスト印刷を重ねました。その中で最終的に竹尾の「ミルトGAスピリット」という紙に決めました。
「なぜスピリットなのか?」と聞いたら、竹尾の社長が、「消費されるだけの紙ではなく、後世に残る紙があってもいいじゃないか」という事で名付けられたと聞いています。
マット系の紙は、インクを吸ってつぶれやすいというイメージがあります。
そうなんです。でもこの紙は、モノトーンに強く、印刷再現性は高いです。なんだか紙の宣伝のようですが(笑)。
ドットゲインは起きますが、いやらしくないというか、ディティールがつぶれないんです。あと、最後にマットニスを引く事で黒の再現性もよくなっています。
それを含めて、印刷ではありますが、和紙+プラチナプリントの質感を感じてもらえたらなあと、思っています。
PORTRAIT OF NATURE/小宇宙2
話が前後しますが、もとのプラチナプリントは8×10の密着焼きですか。
実は2003年頃から、ピクトリコのデジタルネガフィルムをP.G.I.から仕入れていました。
作業としては、8×10フィルムをスキャンして、デジタルネガを出力して、11×14サイズにプリントしています。
なぜそうするかと言うと、僕が撮っている世界観と、11×14サイズの和紙の繊維とのマッチングがいいんです。
写っている写真の"草木の繊維"と"リアルな和紙の繊維"との整合性がとれると言うか...。不思議な感じですが。
過去にプラチナプリントを写真集にした印刷物の中では、相当レベルの高いところまで持ってこられたと思っていますので、ぜひ現物を手に取ってみて頂ければ嬉しいです。
Dir+Cam+Edit : Yasuhito Tsuge
Composer : Ayako Taniguchi
Producer : Hidetaka Ino
Production : augment5 Inc
- PORTRAIT OF NATURE
- 版型:大型(307×307ミリ)ハードカバー モノクロ(ダブルトーン)
- 収録点数:62点
- 価格:5,800円(税別)
- 出版社:窓社
- 出版記念パーティ
期間:2014年1月17日(金)18:00〜Last/18日(土)10:00〜20:00
ギャラリートーク:17日 19:00〜
会場:ギャラリーキッチン 東京都渋谷区神宮前2-19-2
小林伸幸 Photographer
1970年生まれ、埼玉県横瀬町出身。
1991年に東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)卒業後、出版/編集関連プロダクションでの専属カメラマンを経て1993年独立。広告/雑誌等で主に人物全般を対象とした撮影に携わる。
2001年、N.Y.にてファインアーツの基礎とオルタナティブ・プリント技法を学んだ後に帰国。2005年からはヨーロッパ各地、また台湾等でも作品を発表。
2008年、写真事務所zenne,Inc.設立。
http://zenne-inc.com/
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