- 2011.10.03
Photographer宮地岩根
大凧にデジタル一眼レフカメラを吊り下げて
50mの上空から空撮するフォトグラファーの宮地岩根さん。
凧をコントロールしながらシャッターを切るという
特殊でリスキーな「カイトフォト」の魅力を聞いた。
「カイトフォト」を撮るようになったきっかけを教えてください。
- ▲凧糸(ライン)。左が500ポンドで右が300ポンド。
ミクロネシア連邦にある「jeep島」のカレンダーの仕事をしているのですが、その中で、ある時「表紙は空撮がいいよね」という話が出たんです。それでセスナを予約して、空撮しようということで出かけたら、セスナ会社がクローズしていて...。どうも潰れてしまっていたようなんです。空撮する手段がなくなってしまったので、「じゃあ、凧でやってみるか」と(笑)。
たまたまネットで「カイトフォト」の情報を見つけたんです。そこからどんな凧がいいのか、色々調べました。買った凧にカメラを付けて、公園でよく練習しました(笑)。僕は状況に合わせて、小凧と大凧の2種類を使い分けています。小凧で幅2mくらい。風が弱い時はよりパワーのある大凧を使います。凧糸は500ポンドのものを使います。以前、300ポンドのものを使って切れて凧が落ちたこともあるので、怖いので太いものを使っています。
具体的にはどのように進めるのですか。
- ▲カメラを固定したリグを両サイドから吊るすことで、自然にバランスがとれるようになっている。
最初に凧を上げます。そのあとに自作のリグ(写真参照)にカメラを固定した物を引き上げていきます。カイトフォトと言うと、割とコンパクトなカメラを使っている人が多いのですが、僕の場合は、画質にこだわりたいので、フルサイズセンサーのニコンD700を使っています。それにレンズを付けると1セットで約2kgになります。この重量だと、それなりに風が吹いていないとうまくいかないですね。カメラをセットしたリグは、凧の両サイドから吊るすことによって、うまく水平を保つようになっています。
レンズは魚眼レンズかワイドズームを使います。距離は無限遠に固定。50mまで届くワイヤレスシャッターシステムを使って、高度と角度を見ながら、シャッターを切っていきます。凧糸自体は200mくらいあるのですが、最後まで伸ばしてしまうと電波が届かなくてシャッターが切れなくなります。そのためどうしても高さが欲しい場合、凧を希望の高さまであげてから、インターバルを3秒に設定し、カメラを引き上げている間中、自動シャッターを
オートでシャッターを切っていくのですか。
そうです。最近はSDやCFカードが大容量化しているので、それでも充分な枚数が切れます。フィルムだと36枚でチェンジしないといけませんから「デジタル撮影ならでは」と言えます。実はそのやり方の方が、凧を操ることに集中できるので、いいアングルで撮れることも多いんです(笑)。
でも海の上だと、凧が落ちたら終わりですよね。
- ▲先に凧を上げ、上空で安定したらカメラを吊り上げていく。
海に落ちたら一発でアウト。カメラはもちろん、画像も取り出せません。そういう意味ではリスキーな撮影です。総額30〜40万円のシステムが、海の上にプカプカ浮いている光景は悲しくなります(笑)。
カイト撮影は、風があって糸がピンと張るくらいじゃないとダメなんです。ただ引きが半端じゃなく強いので、革の手袋をしていないと危険です。一方で、風が強すぎると凧を下ろせなくなってしまう。下ろす時にものすごく力がいるので、上腕二頭筋が鍛えられますよ(笑)。
天気が良くても風がないと撮影できない、ということですね。
そうです。凧が上げられませんから。 でも最近は、パラグライダーのようにボートを走らせて凧を上げるやり方もしています。それも向かい風じゃないとダメ。追い風だと浮力が相殺されて落ちます。ボートマンとうまくコミュニケーションを取りながら、「あっちに向かって走ってくれ!」と叫びながら、撮影しています(笑)。
写真を見ていると、飛行機で空撮しているような高度に見えます。
魚眼レンズで撮ることが多いため、景色も相当広く入りますからね。ワイド系レンズの方が楽なんですよ。でも水平にかまえておけば、中央はそんなに歪まないので、割と使えますよ。風が弱いと、一回り小さい(重量の軽い)ニコンD5000を使います。 あともう一つの方法として「バルーン撮影」もします。
バルーンですか?
- ▲バルーンの直径は約1.8m。正確な高度が要求される場合は、バルーンで撮ることも多い。
直径1.8mのバルーンを使います。このサイズじゃないと2kgのカメラセットは上がらないので。陸上の撮影で、人が周囲にいる場合は、リスクを考えてバルーンで撮ることもあります。
凧って、実は上空ですごく微振動しているんですね。だから1/000秒くらいのシャッターを切らないと、ブレるんです。でもバルーンはそうでもないので、1/125秒くらいで切ります。夜景など光量が少ない場合は、低速シャッターが切れるので助かります。
空撮を始めた頃は、「水平線がまっすぐ見えるように」という意識はなかったので、魚眼レンズでカメラを真下に向けて撮っていたんです。スカイダイビングをしているような、落ちて行くようなアングルですね。でもだんだん経験値が増えてきて、今では20mmくらいのワイドレンズでも、モデルの方向にカメラを向けて「決め撮り」もできるようになってきました。
カイトフォトのメリットは何ですか。
飛行機を使った空撮と違うのは「時間とお金を気にせず存分に撮影できる」ことですね。飛行機だと、日程を予約して「1時間いくら〜」という単位でしか飛んでくれないじゃないですか。南の島に行って、「朝日が撮りたい」とか、「今日は夕陽がキレイそうだから」という急なオーダーであっても、カメラと凧さえ持っていれば対応できます。
「今、光がキレイだから凧をあげてみよう」って、すぐに撮影できてしまう。燃料代もかからないし、ゴミも出ないので、コスト的にも環境にもやさしい。
凧は畳めば非常にコンパクトになるので、普段の撮影でも、ロケの荷物に混ぜておけば、何かあればいつでも空から撮れます。
パラセーリングも考えたのですが、機材だけで50〜60万円かかるのと、ボートをチャーターしないといけません。仕事として経費に余裕のある撮影ならいいのですが、「ちょっと作品を撮りにいこう」という感じにはならないですね。
撮影はRAWとJPEGですか?
ほぼRAWでしか撮りません。カメラはニコンが多いですね。先日サブカメラのD5000の画像があまり良くなくて、D7000に変えたんです。そしたら200gほど重たくなってしまった。この差は大きいんです(笑)。でも撮れる画質のクオリティが全然違うので、買い替えて正解でした。
海上で飛ばす時は、緊張されるものですか。
まあ、落ちたら陸でもこわれますからね(笑)。陸の場合、人がいるところで事故が起こってしまった時の事を考えると、怖くて上げられないですね。海上でのリスクはカメラが壊れることだけですから。
無線でシャッターが切れるのは最長50mという話でしたが、撮る高度はどのように決められるのですか。
基本的には風まかせです。風が強いと高く上がります。ボートで凧を上げて撮る場合は、進むスピードで多少は高度を調整できます。 これは荒技なんですが、凧を上げている最中に糸を一気に出すんです。そうすると、凧がひらひらと落ちて行くんです。もちろんカメラも一緒に落ちるじゃないですか。そこでシャッターを切ると、高度の低い、海面に近い絵が撮れます。水没の可能性もあるのでオススメはしないですが、自分の中では低空のカットも面白いなと思っています。
カイトフォトの撮影許可ってどうなっているのでしょうか。
凧に関しては、国内ルールはほとんどないですね。航空法に抵触する空港近くとか、あと私有地から上げる時は許可が必要です。許可取りする時も「凧です」って言うと、割と気軽にOKして頂けます(笑)。
カイトフォトグラファーって、沢山いらっしゃるのですか。
僕の知っている範囲では1〜2人です。カメラを落とすリスクもあるし、ノウハウも要りますしね。見た目ほど、簡単にはできないんです。 僕の場合は、不動産の仕事もしているので、鳥瞰撮影もあるんです。「完成時にベランダから見える景色」を使ったパンフレットって、よくありますよね。そういう仕事はバルーンを使うことも多いです。因に1.8mのバルーンにはヘリウムが4000リッター必要。ガスは回収できないので、毎回使い切りです。
バルーンの方が楽に撮れますね。
実は凧よりもバルーンの方が難しいんです。バルーンは、なかなか垂直に上がらないんです。そよ風でも流されていきますから。ただ良い点は、高さが精密に出せること。ラジコンヘリにも高度計は付いているのですが、1m単位です。でもクライアントの要求は「ベランダに立ってみた時の景色」なんです。そうすると「8m50cmで撮って下さい」となる。 バルーンの場合は、カメラのレンズ位置からメジャーの付いた糸を垂らして計るので、かなり正確な高さで撮影することができます。
よく知られている「ゲイラカイト」ではダメなんですか。
- ▲宮地さんに広げて頂いたのが「ラージパワースレッドカイト」。サイズは約196cm×113cm。風の力で黒い部分が膨らみ骨の代わりをするので壊れない。
できない事はないと思いますよ(笑)。私が使っているのは、「ラージパワースレッドカイト」と「ジャンボパワースレッドカイト」の2つです。パワースレッドカイトの良い所は、骨が一切ない事です。両サイドや中心部分が筒のようになっていて、風がそこを吹き抜ける事で骨の代わりをするので壊れないし、骨のように折れる心配がない。骨がないので、クルクルっと丸めて持ち運べるので非常に便利です。
今、カイトフォトで狙っている場所はありますか。
先日トラック諸島へ出かけました。ここは戦争で使われた船がたくさん沈んでいるところなんですね。ベタ凪の時にはそれが海面から透けて見えるので、それを上空から撮りに行ったのですが、波が荒れてうまくいきませんでした。そのため、11月に再度チャレンジしようと思っています。
宮地岩根 Photographer
1965年生まれ。
1987年高井哲朗氏に師事。
1990年フリーカメラマンとして活動開始。
インド、ネパール等アジア放浪。帰国後、雑誌、広告を中心に活動。
1995年宮地写真事務所設立。
2005年有限会社宮地スタジオ設立。
個展「水の惑星JEEP島」(銀座コダックサロン)、写真集「SOUTHING JEEP ISLAND」 (晋遊社)等。
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