角田みどりさん

6月にFukagawa bansho galleryで開催した「Messages」展から立て続けに個展を開催されています。シリーズと言っていいかわかりませんが、角田さんが、この作品を撮り始めたきっかけを教えてください。

そもそも写真を始める前、ほんとに小さな頃から「人は死んだらどこへいくんだろう?」とか、そういうことを考えている子供でした。

それを解決するために写真を撮り始めたわけではないのですが、目に見えない「魂」とかってよく聞くけれど、それが何なのかよくわからず、でも「きっとあるんだろうな」と思っていました。学校で教えてくれるわけでもありませんし、ずっと疑問に感じていました。

縁があって「写真」というツールに出会えて、自分にとって一番表現しやすい「写真」と、今まで感じていた解決し得ない「心の問い」を合致させるいい機会だと捉え、自分の思っていたことを写真というメディアを通して、出してみようと考えはじめました。

独立してからは特に、「自分はどういう写真を撮りたいのか」と自問する中で、「目に見えないもの」を、逆説的ではありますが、撮ってみたいと考えました。


2014 THE NEW ORDER vol.11
BURTON THIRTEEN  stylist Tetsuya Nagata model Jay

仕事ではメンズ誌を中心に活躍されているファッション・フォトグラファーでもありますが、仕事と作品で切り替えられているのでしょうか。

当初は、作品と仕事は別の観点で撮っていました。ただ作品制作を始めるに連れ、ファッションでも、ポートレートでも、服や表面的な部分だけでなく、その人の精神や内面的な部分まで写せれば、という思いが途中から強くなってきました。
もちろんそれが上手くいっているのかどうかは、わからないのですが...。

作品に関しては、日常の中で撮られるのか、意識して出かけられるのでしょうか。

両方ですね。ふと通りがかった際に"何か"を感じたり、今回展示していますカイラス山というチベットの山は、そこに撮りに行きたいと思って、そのためだけに向かいました。そういう意味では、両方ですね。

「見えないものを表現する」というのは、ふと何かを感じた瞬間なのか、どういう意識、感情で撮られるのでしょうか。

言葉にするのは難しいですね。自分が生きている、動いている中で、「ここだっ!」と思う瞬間があるんです。そういう時にシャッターを切ります。「超感覚的」なものなのですが...。

カイラス山を訪ねた時も、「自分が写した感」がなく、何かに後押しされて「シャッターを押させてもらった」という感じなんです。

「こういうシチュエーションで、こういうものを撮ろう」と、決めていくとだいたいダメで(笑)。ずっと待っていて、「ここだ!」って思って押す瞬間が「無意識の意識」としてあります。うまく言葉にできなくてもどかしいのですが...。

キヤノンギャラリーSでは、風景や遠景を主に展示されています。

風景に限ってはいないのですが、仕事で人を撮ることが多いので、「一人で向き合えるもの」というと、静物や風景に気持ちが傾くことが多いです。

人が入ってくると、そこに別の意味が生じてしまいがちなので、一人で集中できる状態でこういうものを撮ることで、自分が目指している「目に見えないものを撮る」という表現がしやすいです。

6月にFukagawa bansho galleryで開催された「Messages」展は、人物写真も発表されていました。

はい。人物写真は、DMに使用していたものを含め2点のみで、あとはやはり風景や、道路に映る反射した光とか、スナップ的なものを集めて展示しました。それは、今回の展示の序章的な意味で発表しました。
キヤノンギャラリーSでは、「王道的なもの」をストレートに出しました。

日本は昔から、「八百万の神」的な、様々なものに神が宿っていて、それを崇拝する思想があります。角田さんもそのような感覚は持たれているのでしょうか。

そうですね。寺社とか特別な場所ではなく、木や山を神として崇めるのは素晴らしいと思っていて...。でも究極的ですが、すべてのものに魂があるのではないかと思っています。

キヤノンギャラリーSは何度も来ていますが、床から天井まで、「過去最大では?」というほどの大判出力で、照明を落としていることもあり、角田さんが見ている風景の中に佇んでいるような感覚を覚えました。

ありがとうございます。10年以上撮り溜めてあるものの中で、私を知らない方が見られても、それぞれ皆さんの中で自由に解釈できるような、押し付けないような、わかりやすいものを吟味して選びました。

過去の作品はフィルムで撮ったものも多く、それはスキャンして、キヤノンのimagePROGRAFで大判出力していただきました。

「キヤノンギャラリーS」展覧会場の様子。壁面一杯の特大プリントで、角田さんの視覚を共有できる。

角田さんの感覚でシャッターを切られているわけですが、それが写真という媒体になることで、共感できたり、何かを感じたりできるのは、写真の良さですね。

見た人によって、感じ方が全然違う方向にいってもいいと思います。その人が見た違う風景、経験、過去、未来を重ねる方もいるでしょうし、人それぞれの物語の中で解釈されるのが、面白いなあと思います。そういう意味では、ぜひ会場に足を運んで、その空間でご覧いただければ嬉しいです。


図録写真集「Messages . I」。中ページは、1点ずつバラでプリントされたものが収められている。
そのため、壁に貼ったり、額装して1点ずつ部屋に飾れるようになっている。

写真集「UNSPOKEN」共に、代官山TSUTAYA、Nadiffにて販売中。
https://midori-tsunoda.stores.jp/ でも購入可能。