- 2016.12.26
Photographer富取正明
プロフォトから発売されたハイエンドなジェネレーター「Pro-10」。最短1/80000秒の閃光時間、最高秒間50回の高速発光が可能な話題の製品だ。
この最高峰のストロボを使って、フォトグラファーの富取正明さんに撮影を依頼。日本人として「和」を意識したファッションフォトを撮り下ろし。写真表現の世界を広げる「Pro-10」の可能性と魅力をインタビュー、メイキングと共に紹介する。
Photo:富取正明(OUTNUMBER)HM:古久保英人(Otie) ST:萩原真太郎 Model:竹内友梨(Energy)Pr:坂田大作(TSUNAGARI) 協力:横浜スーパーファクトリー
Interview・text:編集部
富取さんがフォトグラファーとして撮影の仕事をされるまでの経緯を教えてください。
うちのおやじが写真をやっていたんです。自分は子供の頃からおやじのことがむちゃくちゃ好きで、まあファザコンですね(笑)。おやじほどカッコイイ男は見たことがないと言うくらい。
僕はずっとサッカーをやっていて、写真にはまったく興味がなかった。特に体育会系と文科系の写真部とは対極に近いというか、世界がまったく違います。その中で、写真をやりたいというよりは、おやじのようになりたかったんですね。
おやじが写真をやっていたから写真の道に進んだだけで、もしおやじが大工だったら、大工を目指していたと思います。八百屋だったら八百屋をやっていたと思います。
富取正明さん。
父親への憧れがすごく強かったのですね。
高校を卒業する時に、「写真をやりたい」って話したらおやじがブチ切れちゃって(笑)。「冗談じゃない。サッカーのプロになれないからといって、写真のプロになるのは簡単だと思った大間違いだ」と。
それで写真学校ではなく一般の大学に入りました。ただ「写真をやる」という決意はあったので、学生時代にヨドバシカメラへカメラを買いに行きました。「とにかくカメラがあれば、撮影の仕事はできる」と思っていたので、まさにおやじが言っていた浅い考えですね。
一眼レフカメラを買って、そのヨドバシの紙袋を持ったまま雑誌社に行ったんです。当時はセキュリティも何もないので、編集部に直接押しかけて「カメラもあるし、写真も撮れるので仕事をください!」と営業しました。
無謀というか、怖いもの知らずというか(笑)。
まあ、バカなんです(笑)。ほんとにサッカーしかやっていなかったから。
当時は色々なことがゆるかったんでしょうね。それが面白がられて、「街頭スナップ」の仕事がもらえたんです。
カメラの使い方は説明書に書いてあるわけで、実際撮れちゃう。表現がどうとか、どう見せるかなんて一切考えていなかった。それでもアルバイトみたいな感じで、スナップや店舗の撮影の仕事をしはじめました。
そのうちスタジオ撮影の仕事をやらせてもらえるようになって、でもストロボの使い方がまったくわからなかった。スタジオスタッフに「こちらから当ててください」という指示だけ。
当時はストロボが調光できることも知らなくて、メーターで測ってf32と出たら、35のレンズはf22までしか絞れないのも多いので、ストロボを遠ざけて光量を落としていましたから(笑)。脳が「定常光」の意識なんです。同じ光量でただ光るものだと思ってましたから。
そうやって続けていくうちに、徐々に「表現したい」って思い始めました。色々写真関係の本を読んだり知識を得る中で、写真が楽しくなってきたんですね。
経験を重ねながら写欲が出てきたんですね。
そうですね。「押せば写る」ものから自分の意思で、同じものを撮ったとしてもすごく様々な表現が「1枚の写真の中に反映できる」、ということを知ってしまったんです。
そうすると街中の写真やポスターがどんどん気になりだして「この写真かっこいいな」「素敵だな」とか思うわけです。それまで全然興味がなかったのに(笑)。
「こういう仕事はどこに行けばできるのか」と調べたら、広告を作っているのは、電通や博報堂という会社だとわかった。そこから電通スタジオへ入社し、5 年間お世話になりました。撮影の会社に入っても、18歳から29歳頃までおやじと写真の話は一切しなかったですね。たいてい自分と同じ仕事をし始めた息子がいたら、父親の立場として何か言いたくなると思うんです。でもうちは何のアドバイスも批判も一切なかった。
「B&W」富取さんの作品から。
電通スタジオでのアシスタント時代に何を学びましたか。
一つ一つの企画をどう上手くいかせるかを5年間すっとやっていた気がします。空いている時間は、色々な光を作ってひたすらテストをしていました。直射、傘、ソフトBOX、紗幕を通したらどうなるか...、毎日のように練習していました。
僕が今、自負できるとしたらその技術の部分ですね。「光質」は全て知り尽くしているので、後はそれの組み合わせしかない。だから現場で迷うことはないです。一番勉強になったのは現場でのマナーというか、現場の進め方というか...。「広告ってこうやって進めるのか」と。雑誌の撮影とはまた違うんですね。
写真って感覚と理屈のバランスなんです。その組み合わせが面白い。理屈(技術)を知っていくと、「自分の感覚」を「形」にすることができるんです。
富取さんの仕事はスタジオ撮影が多いですね。
そうですね。現場で迷うことがないので、セッティングはかなり早い方だと思います。頭の中に絵があれば、それを具現化していくだけなので。
ずっと技術を追い求めてくる中で、40歳を過ぎて写真に対する見方とか、考え方、好みが変わってきています。作り込む形から、なるべくそれをしない方向になっています。
「東京乱舞」富取さんの作品から。
仕事はどうですか。ほとんどの場合、ラフがあると思いますが。
ラフは、あまり気にしたことがないです(笑)。中には「ラフ通りに」というクライアントの意向に沿って進める人も多いと思いますが、僕に言わせれば、ラフは楽勝で越えていかなければならないもの。違うことをやるという意味ではなく、本質は理解しながらも越えていかなければ次の仕事はないと思っています。「期待通り」ではなく「期待を越えていく」というのをいつも心がけています。
当たり前のことなんですけどね(笑)。ある程度技術があればラフ通りに撮れるので、なぜ僕がここに呼ばれたのか、その意味をすごく考えます。
ここ2〜3年に意識の変化があったというのは具体的にどういうことですか。
若い頃は「どう撮るか」に執着していましたが、今は「何を撮るか」のほうが大事になってきました。仕事では別ですが、最近の作品ではあまりライティングをしません。余計な要素を足さないことを意識しています。
スポーツ選手からタレント、モデル、女優、色々な人を撮ってきた中で、「自分が思う光」にはめた時にあまりよくならない事もあるんです。「型にはめる事」に執着してやってきたのですが、全部はまるわけではないんです。それぞれ要素が違いますからね。
外国人のファッションフォトが多いフォトグラファーが、それでタレントを撮ったとしても、良くならない場合が多いのと同じです。今考えているのは、「技術の向こう側」にいきたい、ということです。
書道家が普通に字を書いたら、すごく美しい字を書かれるような。
まさにそう。技術は感覚の中に染み込んでいるので、ほっておいても出てしまうものなんです。ただ見ている所が以前とは違う感じになってきています。
仕事は技術を求められるし、短時間で撮らないといけない時もあるので、技術はフルに発揮しようと思っていますが、作品は違ってきていますね。
独立すると機材も必要です。
基本はコメットで揃えていました。プロフォトはかっこいいので、スタジオに行ったらプロフォトを指定していましたね。昔はバルカーも多かった。プロフォトやブロンカラーは高かったので、個人で揃えるのは大変でした。
Pro-10
プロフォトを導入するきっかけは何ですか。
完全にデザインです。プロダクトとしての「デザインの完成度」ですね。
スタジオでストロボメーカーを指定する人もいますが、光はそんなに変わらないと思っているんです。仕事ごとにスタジオや撮影場所が変わる時点で、光の回り方が違いますから。全灯を直射するなら話は別ですが、バウンスしたりディフューズするわけだから、光質の差はなくなります。
僕は「動きもの」を撮る仕事が多いので、ジャンプさせたり、もう年間で何回トランポリンを使うんだって言うくらい(笑)。スポーツ選手を撮ることも多いです。そうするとやっぱり閃光速度が気になります。
写真の表現は僕の中では、「ブレとボケ」なんです。最初にまず考えることは、どこまでフォーカスを合わせて、どこまでぼかすか。ボケの美しさとフォーカスが合っている所バランスが写真の美しさだと思っています。
次に時間。何分の1秒で止めるのかブラすのか。体は止まっているけど手先だけブラすとか。
絞りという奥行きとどれだけの時間を入れ込むのか、僕はそれが写真を作っている全ての要素だと思っています。平面ではなくて、BOX(立体)で見たものを切り抜いている感覚ですね。
そのため閃光速度には興味があります。例えばスロー閃光のストロボを部分的に当てたりもする。定常光+ストロボで、顔はビシッと止めて足だけブラす、衣装だけブラすとか。それが得意とする表現です。
止められるということはブラせるということですね。
そうです。「Pro-10」が出るまではブロンの方が閃光速度は速かったわけです。同じライティングで「Pro-8」と数社を何度もテストしましたからね。「Pro-10」がその全てを凌駕しちゃった。頭一つ抜けましたね。
初めて「Pro-10」を使われた印象はどうですか。
最高に好きですね。閃光スピードが速い。僕にとっては特にそこが大事なので。光質はなんとでも調整できますからね。雨がこれだけ止まるのはすごいと思う。「安心感」これが一番大きいです。
どんな撮影でも、止めたい時にブレちゃったらもうそれ以上何もできなくなっちゃうんですよ。それが止められる、コントロールできるという安心感は、特に仕事上においては、むちゃくちゃ大きいですね。
ブレのコントロールが唯一で最大のポイントなんですね。
フィルムの頃って、銀塩粒子のおかげでブレがそんなに気にならなかったんです。デジタル(ピクセル)になって、ブレが少し汚いんですよね。昔はブレが美しい表現だったのに、ブレがあらになってきてる。ランダムな銀塩粒子か四角のピクセルの違いとしか思えないのだけど...。
A4サイズのプリントではわからないですが、僕らがやっている仕事は大きなポスターサイズなので、「ブレの美しさ」にはすごくこだわっています。
最近のデジカメは画素数も大きく、レンズの解像度も高くなっているので、絵のシャープさで言うとデジカメの方がキレイなんです。ただブレの表現に関してはフィルムだなあと思う時があります。
一般の方はそんな所は気にしていないと思うので、あくまでも僕の中のこだわりです(笑)。でもそのこだわりの積み重ねが「絵」を作っているんです。
今回の写真のテーマ、コンセプトを教えてください。
「Pro-10」のテストでもあったので、閃光スピードの速さを見せることが大前提です。ただ速さを見せるだけでは面白くないので、欧州のストロボメーカーであるがゆえに「和」をテーマに置きたかった。
「日本人が撮る『和』をテーマにした、ストロボの性能を活かしたファッション」がコンセプトです。
撮影のミーティングで「今回はファッションっぽくしたいんです」というフレーズが出ます。
「何がファッションなの」と(笑)。言わんとしている事はわかるんだけどね。
僕がファッションでヨーロッパに対峙するのであるならば、「和」でなければならない。「Pro-10」で撮影された海外の写真もたくさん出ていますが、自分がそこで勝負するための作品を作りました。
日本人モデルを使い、見た人がはっとする美しい絵を撮りたい。そこに「雨」というのは、ストロボのテストという意味も含め、いい設定だったと思います。
部分拡大
普通に撮れば雨もブレますし、現場で見ている中で雨は点ではなく線で流れているように見えました。
そうですね。ここまで一粒ずつ止められるということは、逆に「線」にすることもできるということなんです。
どちらのイメージが雨らしいかというと、みんなのイメージは「線」だと思う。雨の表現をするなら、そちらを選ぶのだけど、今回は「どこまで止まるのか」を見たかったので、これは一つの表現としていいものが出来たと思っています。
本番撮影中の富取さん。
閃光速度やシャッター速度が遅いと雨はブレる。
初めて「Pro-10」を扱うスタジオアシスタント達も、ケースから出してすぐ使いこなしているように見えました。
プロフォトの一番素晴らしい所はそこで、操作がシンプル。他社はちょっと複雑なのもあるけれど、それに比べるとプロフォトはすごく簡単です。
野球選手のグローブ、サッカー選手で言えばスパイクみたいなものですからね。僕らにとってはなくてはならないもの。機能的でかっこいいスパイクを履きたいように、同じストロボ製品の中でも「Pro-10」を選ぶ意味はすごくあると感じますね。
ただ、素晴らしいスパイクを履いたから必ずシュートが入るわけじゃなくて、結局は使う人の能力次第なんだけど(笑)。
デジタルカメラの高感度特性が良くなり、照明機材をあまり使わない人が増えています。またカメラ操作が簡単な分、プロもアマチュアと差が少なくなり、写真がフラット化してきています。
僕は詐欺だと思ってます(笑)。プロは圧倒的な技術と圧倒的なセンスを見せつけないと。
デジタルの時代になって写真は誰でも撮れて楽しめます。加工も簡単にできて、今は最高にいい時代だと思います。ただ僕はプロなので、そことは違う「圧倒的なプロの力」を見せたいと常に思っています。
スポーツに近づいてきたんです。サッカー人口ってすごいじゃないですか。ボールさえあれば誰でもサッカーが楽しめる。でもJリーガーになれる人、世界のチームに入れる人はその中のほんの僅かな人たちなわけです。プロはお金をとってプレーを見せなければならない、それが「レベルが違う」ということ。
2017年度の予定、今後やってみたことを教えてください。
最近写真の見方とか好みとか、自分の中の感覚に変化が生じる中で、僕が今までこだわってきた技術だとか、自分が一番好きな光、一番かっこいいと思える空気感で撮った写真を、世の中に発信していきたい。それが今進めている「女優顔」シリーズです。
自分が作ってきた中で一番好きな写真で展覧会をします。自分自身が変化していく中、こだわっていた部分を出したいという思いがあって、「どう撮るか」よりも「何を撮るか」を重要視するならば、自分が生きてきた中で被写体として最もハードルが高いもの、それが「女優」なんです。余計な要素を一切省いて、そこを作品にしようと思いました。
すでに海外で開催されていますね。
今年の2月に香港で開いて、その後タイで開催する予定でしたが、国王が亡くなったことで企画が流れてしまいました。1年間喪に服すということです。
2017年は台湾とパリでやろうと思っています。撮影もまだ続いていて現在進行形の企画なので、最後に日本で開催したいと考えています。
香港での展示風景。
最後に若手へのアドバイスがあればお願いします。
先ほど話したように、自分の感覚って、年齢と共に変わっていくんです。20代だったら20代にしか撮れない写真ってある。30代には30代にしか撮れない感覚というものがあるわけ。20代って、下手でも幼稚な発想であったとしても、その時にしかない感覚を持っているはずなのに、なぜかかっこつけて「良い写真」「上手いと言われる写真」を撮ろうとしている気がします。なので、みんなフラットな写真に見えちゃうのかなと。
「バカにされたくない」「批判されたくない」、だからみんな似たような事しかやらなくなる。でも本当はそれぞれの感覚があるはず。自分を振り返っても、20代の写真は下手くそだけど、今見ても面白いわけ。でもそれは今の自分では撮れない写真なんです。
写真は被写体の記録であると同時に、自分の記録でもある。その頃何に興味を持ち、何を面白いと思ったか。それを10年20年経って見た時にすげえ面白い。それも写真の良さなんです。
「プロっぽく見せたい」とか、「頭が良さそうに見える」とか、若い人がそんな上手い写真を撮れるわけはないんで、表面上にことよりも、今自分の考えていることを、写真を使って表現してほしい。若くても感覚的に優れたものを持っている人もまれにいるけれど、若いうちは自分の感覚・感情に素直な写真を撮ってほしいと思います。
「オリジナリティ」「作風の統一感」ってよく使う人がいますが、僕は正直そんなものはなくていいと思っています。人間やりたいことは日によって違うし、朝と夜で気が変わっているかもしれない。自分が思うことを撮った時点で、それがオリジナルなんです。誰かの表現を真似ようとするとつまらなくなる。毎日バラバラな写真でいいです。明日には感覚が変わっているかもしれない。それが若者ですから。
Profoto Pro-10
主な仕様
出力範囲:2.4~2400Ws(11f-stop)
ランプコネクター:2コネクター
出力配分:完全非対称(独立調光)
出力表示:デジタル液晶ディスプレイ
モード制御:あり(ノーマルモードとフリーズモード)
出力制御刻み:1/10またはフルf-stop
リサイクルタイム:0.02-0.7秒 (最高秒間50回のクイックバースト)
最短閃光時間 (フリーズモードでt0.5):1/80,000秒
最長閃光時間 (t0.5):1/800秒
サイズ:29×21×30cm
重量:13.2kg
本体価格:158万円(税別)
http://profoto.com/ja/home/
富取正明 Photographer
1976年東京生まれ 横浜育ち。
日本大学法学部卒業後、スタジオ勤務、広告代理店契約フォトグラファーを経て2003年よりフリーランス。
2012年OUTNUMBER.inc 設立。主に広告のフィールドで活動中。
http://tomitorimasaaki.com/
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