中判デジタルはいつから使用されていますか?

大和田良氏

5〜6年ほど前からです。その前は完全にフィルム派でした。フォトグラファーとして独立した頃は雑誌の仕事が多く、納品まで少し余裕があったのでフィルム撮影でも問題なかったのですが、次第に納期に余裕のない仕事が多くなりました。

「デジタルカメラを使ってスピーディに写真を納品してほしい」と撮影機材にデジタルカメラを指定されることが多くなったことで、中判デジタルをレンタルで借りてみたことをきっかけに、使うようになりました。

デジタルバックタイプの中判カメラは、いままでの撮影スタイル(フィルムシステム)を活かしながらデジタルに移行できる点がよかったですね。 購入するきっかけとなったのはコストの問題です。中判デジタルは購入するのも高価ですが、レンタルで借りても1日5〜6万円くらいかかってしまいコスト高に感じて...。中判デジタルで撮る機会が増えてきた時期に、思い切って購入することにしました。

どんな撮影で使われていますか?

解像や階調、ボケなどを総合的に考えると、作品制作ではだいたい中判デジタルを使うことが多いです。また、仕事でもよく使用しています。たとえば、構図がある程度決まっている(フレーミングをあまり動かす必要がない)ファッションシューティングなら、三脚を使って中判デジタルで撮ることが多いです。

また、大光量ストロボが使えるスタジオ撮影では、中判デジタルが苦手とする高感度にしなくても手持ちで撮れるので使います。特に階調表現が重要な仕事では、積極的に使っていますね。

現在使われている中判デジタルと、それを選んだ理由を教えてください。

リーフの「Aptus 22」を使っています。現像した写真の感じや、使い勝手が一番フィルムライクと感じたからです。あくまでも個人的な使用感なのですが、フェーズワンとリーフを比べると、フェーズワンの画質はデジタルならではのシャープな画質。そのままでも絵になるので、ダイレクトな絵づくりをすることができるカメラだと思います。

一方、リーフの画質の階調はやわらかく、悪くいうとちょっとねむい階調です。でも、階調を広く使える分、細かい焼き込みやコントラスト調整などを安心して行なうことができる。この点がリーフを選んだ大きな理由のひとつです。

それと、中判デジタルを使い始める前はフィルムの中判カメラか大判カメラで撮影し、FLEXTIGHTというスキャナでフィルムが持っている階調を調整しながらデジタル化する、というワークフローを取り入れていました。リーフだと、そのフローに近いフィーリングで作業することができた点も大きかったですね。

最近はメインにデジタル一眼レフを使うプロのフォトグラファーが多いですが、中判デジタルとデジタル一眼レフの大きな違いは何でしょうか?

中判デジタルとデジタル一眼レフの大きな違いは、イメージセンサー(撮像素子)のサイズの違いとレンズの焦点距離の組み合わせによるボケ描写と、絵づくりの差にあります。

たとえば、標準レンズが80mmとなる中判デジタルバックでは、一眼レフで標準といわれている50mmレンズをつけると、だいぶ広角になります。ということは、80mmレンズをつけた中判デジタルとデジタル一眼レフで、同じ被写体を同じフレーミングでそれぞれ撮影すると、80mmレンズをつけた中判デジタルで撮った写真のほうが、当然ボケが大きくなります。言い換えると、絵のコントロールの幅が大きいということになります。

ただし、どちらのカメラがよくて、どちらのカメラが悪い、ということを言いたいわけではありません。中判デジタルではできてデジタル一眼レフではできないことがありますし、デジタル一眼レフではできて中判デジタルではできないことがあります。2つのカメラをまったく別ものの道具として捉えて、適材適所で使い分けるべきだと考えています。

中判デジタルの魅力やメリットを教えてください。

デジタル一眼レフは撮像素子に対して後工程の画像処理エンジンが発達しているので一概にはいえないですが、中判デジタルは画素数が同程度の場合、デジタル一眼レフよりも画素ピッチが広くなるため、1画素が受ける光の量が多くなります。それにより階調の再現性(より豊かな階調で表現できる可能性)が高くなるという利点があります。

またレンズとの相性の面でも、デジタル一眼レフのフルサイズセンサーやAPSセンサーなどに比べてシビアではありません。画素ピッチが狭くなると、回折で出てくる小絞りボケなどを気にしながら撮影しなければならないので、特にAPSセンサーの場合は絞り込んだときにシャープな絵を求めづらいところがあります。

画素数とイメージセンサーの関係で比べてみても、条件的にシビアではない(有利な条件で撮れる)というのが、中判デジタルの魅力のひとつです。 ただしデメリットもあります。デジタル一眼レフに比べると、いろいろなところで不都合な状況が生まれることが多いように感じます。たとえば、僕のカメラの組み合わせだと、2,000カットに1回くらいの割合で画像が壊れていたり、レンズのシンクロの接点が合わなくて同調してくれなかったりすることも...。カメラボディと一体型のほうが、動作的には安定感があるようです。

中判デジタルの撮影や購入に興味のある人たちにアドバイスをお願いします。

中判デジタルを取り上げた記事を読むと、「中判デジタルだから解像のよい写真が撮れる」と誤解しているように感じることがあります。決して「中判デジタル=解像度が高い」というわけではありません。中には、画素数の高いデジタル一眼レフとシャープなレンズの組み合わせのほうが、解像度が高い場合もあります。

中判デジタルを選ぶ基準は解像力の高さではなく、撮像素子の大きさにあります。サイズは中判デジタルの中でもいくつかあって、645判のサイズに近いものもあれば、PENTAX 645Dのように645判よりも44×33mmと小さいサイズのものもある。ちなみに、僕が使用しているAptus 22は48×36mmです。 同じ中判デジタルでも、撮像素子のサイズによってつくられる絵は違いますし、カメラの特性だって違います。この点にも注視して使用カメラを選んでほしいですね。

今後、アップグレードされることは考えていますか?

新製品が出るごとに試してはいますが、現状の画質で満足しているので、いまのところ考えていません。処理速度が速くなっていたり、バッファが使いやすくなってはいますが、僕が望む部分はさらなる画質の進化。もっと画質がよくならなければ替える必要はないかなと...。あと、高感度での撮影がもう少し強くなってほしいですね。


personal work「千代の松」


personal work「月のある風景」


personal work「樹海」


personal work「池の風景」

フィルムから愛用しているハッセルブラッドに、デジタルバックのリーフAptus 22を装着して使用。レンズはDistagon 60mmを標準で使っている。この60mmはサイズが小さいので、スナップ撮影などでも使えて便利。中判6×6で標準の80mmレンズだとセンサーサイズに照らし合わせると望遠気味になってしまうため、35mm換算で準広角程度の60mmレンズのほうが、表現の面でもサイズの面でも僕の撮影にはちょうどいい。