「ダイビングショップ」としてスタートされたとか。

そうです。もともとダイビングショップでしたが、ダイビングが日本では下火になり、ビジネスとしては難しくなってきたんです。私自身はショップの仕事を続けながら、水中写真もライフワークとして撮っていました。
水中写真も20年以上撮っていると、色々なところから「水中撮影」の依頼がきて(笑)、フォトグラファーとしても仕事をしていました。そのため、先日のアンディの水中撮影も、依頼を受けてサポートしました。(アンディ・チャオ インタビュー "http://old.shooting-mag.jp/interview/creator/ndchow.html" ) 徐々に水中撮影の依頼が多くなってきて(笑)、ダイビングショップというよりは、撮影業、カメラハウジングの製造販売・レンタルがメインになっていました。

  • 左)テール代表の千々松さん。向かって左側はスマートフォン用のハウジング。
    右)ショップの中にはハウジングや照明機材、ダイビング用品が並ぶ。

千々松さんの所でオリジナルで製造されているものと、市販品の違いは何ですか。

メーカーが企画をたてて作る製品は、どなたでも使いやすいようになっています。うちの場合は、「お客様のご要望に応じて、目的別に作っていく」というやり方なので、既製の服とオーダーメイドの違い、とでも言うのでしょうか。
例えば広告写真を撮られる方で、「USBのケーブルをカメラから外に出して、陸のパソコンとダイレクトに繋げられるようにしてほしい」とか、そういうご要望で製作したこともあります。
最近はデジタル一眼レフカメラでムービーを撮られる方が増えましたよね。この前ご注文頂いたお客様は、一眼レフカメラの背面モニタだと小さいので、画面が見やすいように、「ムービー専用モニタの防水ケースを作って欲しい」という依頼がありました。それを見ながら、一眼レフでムービーを撮りたいというご要望にお答えしました。

ということは、カメラの形ではなくても、何でも防水仕様にして頂けるのですか。

そうですね。どんな形でもできます。
先日、名古屋大学からご注文頂きました。そこは動物の研究をされている機関で、ペンギンや水生動物の生態を観測するために、"親指の先位のピンホールカメラ"があるんですが、それを防水仕様にしてほしいと。その小さなカメラをペンギンの背中に固定し、自由に泳がせて記録。ペンギンが戻ってきたところでカメラを回収し、どこを泳いで、何を食べているのか等、USBでデータを取り出して分析するそうです。それを12個製作しました。

大きさも色々対応できるのですね。

そうです。もっと面白いところでは、美ら海水族館さんから、エコーというイルカのお腹を診断するか"超音波診断機の防水ケース"の依頼とか。何でもできます。

水中カメラでパッと思いつくのが「ニコノスV」とか、いわゆる市販の防水仕様カメラか、水遊び用の防水コンパクトカメラ、後は業務用の大型ムービーキャメラです。
形状に合わせてオーダーメイドできたり、水中で色々操作ができるものがあるとは知りませんでした。

非常にニッチな市場なので、大々的に広告を打つようなことはないですよね。でもプロだけでなく、ハイアマチュアの方も、デジタル一眼レフカメラを防水ケースに入れて写真を撮られている方は多いですよ。

そういった方々はハマっていくと、「もっとキレイに撮りたい」とか、「このレンズを使いたい」とか、欲が出てきそうですね。

アマチュアの方が、むしろ投資する金額は大きいので、すごい装備で水中写真を楽しまれていますね(笑)。プロの方が経費の問題がありますから、シビアですよね。
プロの方にも、何台もハウジングをオーダー頂いていますが、やはりプロが要望するものと、アマチュアが要望するものでは、全然違います。
プロは費用を抑えないといけないわけですが、その一方、「こういう事ができないか」という、より使いやすい方向の要望が寄せられます。それに対応していくための技術をアマチュア向けにフィードバックしていくわけです。また私自身も水中写真を撮るので、自分の経験値、ノウハウも製作の方に活かしています。

  •  製作途中のハウジング。パーツを接着後、削って右のように滑らかに仕上げていく。

ちなみに今、何機種くらいお借り出来るものなんでしょうか。

レンタルですと、すぐにうちで用意できるのは10機種くらいです。店頭に出しているのは販売価格ですが、レンタルの場合は、1セットで3~4万円/1日という感じです。

逆にオーダーすると、いくら位で作って頂けるのですか。

ハウジング(ボディ部分)自体は、例えばニコンD800ですとベース価格が159,000円です。後は好みによって、「こういう仕様にして欲しい」というご要望があれば、若干金額が変わってきます。ただそれだけでは使えません。ポートと呼ばれるレンズを囲む部分は別売なんです。というのは、レンズによって長さや径が変わるので、ポートはセットでは売れません。

お客様が使うレンズによりますし、よく使われるワイドレンズは前玉がドーム状になっていますよね。その曲面特性はレンズの画角によって全部変えないといけないので、1本1本オーダーメイドになります。そのためボディとポートの販売は別々になります。

あと静止画を撮られる方でしたら、外付けのストロボを使われる方もいらっしゃいます。ストロボは市販品がたくさん出ていますから、そういったものをお使いになる方が多いです。
陸上のストロボと水中のストロボは若干違います。水中ストロボは、少し色温度を下げたものにしないと、もともと水中は青っぽいので、陸上のストロボをそのまま使うと、色が出にくい、ということもあります。

ハウジングすると、どのくらいの水深まで耐えられるのですか。

うちが作っているものでいうと、水深50mまで大丈夫です。

ダイバーが潜る範囲は大丈夫なんですね。

そうですね。
一般の方は、「深く潜る方が、防水処理が難しいだろう」と思われがちですが、実は違います。逆なんです。水面で使う方が、防水は難しいんです。

でも水深が深い方が、圧力が高まるので丈夫に作らないといけませんよね。

そうじゃないんです(笑)。中に水が入らないように、0リングとかパッキンで防水するのですが、軽く押さえた状態で、スプリングの力でパチンパチンと蓋をするんですね。でもスプリングの力って、すごく弱いんです。その状態で水の中に沈めると、水面近くでもかなり水圧があるので、スプリングが負けて水が入りやすくなるんです。
でも水深が深くなるにつれ、すごい水圧がかかるじゃないですか。そうすると、ゴムがもの凄い力で押されるわけです。それで密閉度が高まって、絶対に水は入らなくなります。

なるほど〜。でも水際でも深くても完全防水だから安心ですよね。

そうなんですが、プールの撮影や、水際の撮影がメインの方では仕様が異なります。水圧を受けなくても水が入りにくいような作りにします。
例えば、サーフィンを撮影されるフォトグラファーの場合ですと、普通のパチンと止めるワンタッチ錠では波の力で水が入ってしまいます。そのため、サーフィン用にネジで強く締め付ける仕様にします。ネジ止めで、水圧を受けた時のように、ゴム部分を圧着させるわけです。

テールさんのハウジングは、水中でも各種のカメラ設定を操作できると聞きました。

水中でマニュアル撮影ができるように、ギアを噛まして歯車を動かせるようにしたり、最近のデジタルカメラはプッシュボタンが多いので、その真上からボタンが押せるような仕組みを作ります。カメラによってボタンの位置が違いますから、機種ごとに専用のハウジングを製作します。

ハウジングだけを持っても、大きくて重たいですね。

水中撮影をしない人にとっては、ハウジングも「なるべくコンパクトな方が扱いやすいんじゃないか」、と思いますよね。実はそうじゃないんです。小さくすると、体積が小さくなって、浮力がなくなるんです。カメラ自体もけっこう重いのに、さらにこの重量が水中でかかると、相当な重さになります。
そのためうちの考え方としては、コンパクトさよりも、水中でのバランスを重視しています。理想は水中に入れた時に200g前後に感じること。ちょっと大きくなってもいいから、体積をとってやると、浮力がついて操作がしやすくなります。

これはお客様からオーダー頂いて、今度納品するものです。今、坂田さんが操作されたように、「グリップを握ったまま、メインダイヤルに指が届いてまわせるものにして欲しい」と言われて製作したものです。そのため、適切な大きさのギアをかまして、ちょうどいい位置でダイヤルを回せるようにしています。

ハウジングの素材は何ですか。

アクリルです。もともとは透明なんですが、それに色を塗っています。工場と呼べるほどではないですが、完全に1つずつハンドメイドで作っています。

  •  左)カメラごとに形が異なるため、型紙のように製作したものは保存して再利用する。 右)工作機械が並ぶ作業場。

製作を始めた当初は大変でしたか?

毎回毎回、勉強です。自社で製作して8年目になりますが、最初の頃の製品は、今考えるとヒドかったですね(笑)。改良を重ねて、この2年くらいでしょうか「うちの商品は完璧です」と安心して言えるようになったのは。それまでは試行錯誤の連続でした。

デジタルカメラで高感度撮影が可能になったり、メディアの容量が増えて、一度にたくさん撮影ができるようになったのも、水中撮影にはメリットですよね。

そうです。ニコンD800や、キヤノンの5D Mark IIIはいいカメラですよ。水中に持ち込むのも、このあたりのボディの方がフラッグシップ機よりも向いています。

フィルムがメインの時代、水中写真はまさしく"職人技"の世界でした。36枚でばっちり決めてこないといけなかったですから。今は、水中で画像が確認できることが、何よりも大きい。例えばストロボを使った時の影の出具合や、自然光を活かした時の光の筋の出具合とか。それがプレビューできて調整できるので、水中写真のグレードがすごく上がりましたよね。

「防音」というハウジングの意外な効果
顧客で、面白い使い方をする方がいらっしゃいます。デジタル一眼レフカメラもシャッター音はしますよね。ハウジングをする事で完全に密閉するじゃないですか。そうすると音が漏れなくなるんです。その方は何を撮られているかと言うと、"映画のスチル写真"なんです。
映画のスチルを撮る場合、本番中はシャッター音が入るので、今までは後で撮影するか、もしくは望遠レンズで、遠くから狙うしかありませんでした。そこで「音が漏れないケースを作れないか」というご相談を受けたんです。

それで通常よりも少し大きめのハウジングを製作し、中に消音材を詰め込みました。そうすることでほぼ無音になり、本番中でもスチル撮影ができるようになって、大変喜んで頂きました。
静かめのコンサートの撮影や舞台も、今までは最後尾から撮っていたものが、最前列から狙えるようになったわけです。その方はすでに2台作られています(笑)。

ハンドメイドだと例えば小さなカメラでも作れるのでしょうか。

どんな形でも作れます。ここにあるのはスマホ用の防水ケースです。これですと、撮ってすぐフェイスブックにアップできますから、便利ですよね。ロック解除もすべて外から操作できますよ。

ハウジングやポートを借りてみたい、作ってみたい人はどうすればよいですか。

先に電話でご連絡いただくか、お近くの方でしたら、ショップに来て頂いても大丈夫です。レンタルもしていますから、お気軽にご相談下さい。