- 2013.08.27
Photographer薄井一議
毎年、南仏のアルルで開かれている写真祭「アルル国際フォトフェスティバル」。
2013年で44回目を迎えるこのイベントに、写真家の薄井一議さんが初めて参加した。
パリフォトに比べ、日本での情報が少ない「アルル」。どのような人達が集まり、何を得るところなのか。薄井さんのレポートを紹介しよう。
写真・文:薄井一議
以前からアルルフォトフェスティバルの存在は知っていた。
「PARIS PHOTO」が写真のコレクターに向けたのアートフェアだとすると、「アルルフォトフェスティバル(以下アルル)」は写真家や写真愛好家に向けたフェスティバルのように感じていた。
アルルで有名なのが「ポートフォリオレビュー」である。私は前々から一度、このアルルでポートフォリオレビューを受けてみたいと思っていた。
今年は所属する「ZEN FOTO GARELLY」も写真集のブースを出し、私の写真集「Showa88/昭和88年」も出品する。この機会に「アルルにおける国際的な写真の出会いLes Rencontres d'Arles」に参加してみた。
まず、ポートフォリオレビューに参加するには、フェスティバルの公式サイト(http://www.rencontres-arles.com)の"TIKETING"からログインし、申し込みをしなくてはならない。レビューの人数も5人、10人、20人と選ぶ事ができる。10人のレビューを受けるのに、日本円で約3万円くらい。レビュアー数は約100人にのぼる。
ここにはレビュアーがリストになっており、自分の目的にあった人を選び、申し込みをしておく。ギャラリスト、写真集出版社、コレクター、美術館のキュレーター、フォトエージェンシーなど様々。
申し込みはフェルティバルの約1ヵ月半前の5月中旬から始まる。今年は申し込み開始日にアクセスが集中し、サーバーがダウンするというトラブルがあった。
注意しなくてはならないのは、「人気のレビュアーからどんどんソールドアウトになっていく」という事。サーバーの復旧に2日ぐらい掛かり、油断していると、すでに申し込みが再開しており、私が狙いを付けていたジョージイーストマンハウスのディレクターやベネトンで有名なファブリカのディレクターなどは早々にソールドアウトになってしまっていた。
私は今回、ヨーロッパのギャラリストを中心に選んだ。レビュアーの中にはフランス語しかしゃべれない人もいるので、その事も配慮しながらリストて選ぶ必要もある。しかし今回2人、フランス語のみの方にレビューを受けたが、私の英語力とレビュアーの英語力がちょうど良い案配でスムーズに事が運んだ印象もあるので(笑)、ここは恐れず気になったレビュアーにアタックしても良いかもしれない。
ここにはレビュー参加者約200人が、全世界から集まる。カンボジアやシンガポールから来ている写真家もいた。日本人の参加者は約10人ぐらいと見受けられた。作品も様々で、ポートフォリオでのプレセンテーションはもちろんのこと、iPadから1m×3mくらいの巨大な巻物の作品まで、様々な作品スタイルがあった。コロタイプなどの古典的手法の作品や展示を目的としたオブジェとしての完成度を目指している人も目立った。
1回のレビューは1対1で約20分間。
レビュアーは写真から見始める事はなく、ステートメント、テーマをじっくり聞き写真を見始める。そして自分の目的をレビュアーに伝える。私の場合は「自分の写真集をヨーロッパに広めたい」という目的がある。目的がはっきりしていないとレビュアーもアドバイスをしにくいそうだ。
人によって若干の温度差はあるが、色々とアドバイスをくれる。アニエスbギャラリーのMorsch Lauraさんは「ブックバイヤーなら、この人に持って行くべきよ。今ちょうどアルルにいるから。多分この写真の感じ好きよ。」と紹介してくれたのは、パリにある写真ギャラリーLe Balブックディレクターのセバスチャン氏(Sebastian Hau)。
ちょうど彼はアルルの公民館スペースを貸し切り新進気鋭の出版社やブックショップが集まり、写真集出版社会議と銘打って「Le Club」というブックフェアを行なっていた。
早速写真集を持ってセバスチャン氏に会いに行く。
この期間中、ヨーロッパの写真関係者はアルルに集まっているのでその事を考えてもこのフェアはすごい。
セバスチャン氏にお会いすると、その場で即、私の写真集を購入してくれた。ドイツのブックショップ「Café LEHMITZ」を紹介してもらい、またそこから数珠つなぎでベルギーのブックショップを紹介してもらい、日本から持参した全45冊をバイヤー、ブックショップに購入してもらい、完売した。
この「Le Club」にはイギリスの「MOREL Books」やドイツの「MACK」、オランダの「FOAM Magazine」など出版社の有名どころが名を連ねている。これらの出版社は少部数で毎回斬新でエッジの利いた写真集を出版している。写真に"攻め"の姿勢がある。新しい表現を模索する写真家達を選び、それらを出版し、それらの写真集をブックショップが取り扱う。
ブックショップのバイヤーは写真の質の高さ新しさと、それが本になった時の「オブジェとしての美しさ」を見極めセレクトしていく。時には"インクの香り"も大切な要素だという人さえいる。
今回、面白い写真家を発見した。AsgerCarlsenという写真家。
この写真家のMOREL Booksから出版されている「wrong」という写真集を購入した。
彼のブラックユーモア、スケートボードカルチャーにも繋がるノリ、フィクションとノンフィクションのギリギリの線を攻めるバランス感覚の良さ。そこに新しさを感じた。もし彼の写真をレビュアーが見たら何と答えるのだろうと興味が沸く。多分賛否が大きく分かれるだろう写真だ。
アルルフェスの会期中一冊の本の出版パーティーとサイン会が行なわれた。
その本は「Revelations」。日本の写真家についての研究書である。
著者はSophie Cavaliero。
近代、荒木経惟以降の写真家に焦点をあて研究紹介している。
これまで60年代の日本の写真の研究書は多く海外で出版されていたが、現代の40代、30代、20代の日本の写真家に焦点を当てているものは初めてだと思う。ソフィーと編集者のテリーは一年前から来日し、多くの日本人写真家にインタビューし制作を進めてきた。それが完成しアルルにて初お披露目になった。
10月のパリフォトでもブースを出展するそうだ。
海外からの日本の写真の注目度は年々高くなっている。
- ポートフォリオレビュー。1対1で約20分間話し合う。
- 新進気鋭の出版社やブックショップが集まる「Le Club」。
- Revelationsのサイン会。
- 左/展示風景 右/展覧会場にいたティルマンズ。
- 左/アルルのイベント風景 右/アルルの書店に置いてあったRevelationsとshowa88。
http://www.hifrance.org/auberge-de-jeunesse/arles.html
・MOREL Books 良質の写真集を出版するスモールプレス
http://www.morelbooks.com
・Le BAL
http://www.le-bal.fr/
・Café LEHMITZ Photobook ドイツのフォトブックショップ
http://www.cafelehmitz-photobooks.com/
・AsgerCarlsen 今回私が写真集を購入した、かなり"やばい"写真家
http://www.asgercarlsen.com/
・日本の写真家の研究本「Revelations」の著者ソフィーカバレロ氏のサイト
http://www.sophiecavaliero.com/
薄井一議 Photographer
1975年東京生まれの写真家。東京を中心に活動。
1998年東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。
虚と真を写真の中に織り交ぜ、映画的アプローチで作品を作り続けている。写真集に2006年「マカロニキリシタン」(美術出版社)・2011年「Showa88/昭和88年」(Zen foto gallery)がある。「Showa88/昭和88年」は2012年ドイツ カッセルフォトブックアワードにノミネート。
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