- 2011.06.21
Photographer富田眞光
富田眞光さんは女優やモデル、制作関係者から
絶大な信頼を得ているトップフォトグラファーの一人。
どのようにしてキャリアを積まれたのか、
意外に知られていない過去の話から、撮影に望む姿勢までを探る。
富田さんは出されている略歴がシンプルで「過去はナゾの人」なのですが(笑)、
フォトグラファーになられた経緯を教えてください。
今はもう廃業しちゃったけど、若い頃に麻布スタジオというところで2年程スタジオスタッフをしていました。その次に写真家の久留幸子さんのアシスタントに付いたのですが、十二指腸潰瘍になってしまい(笑)、3ヵ月程で辞めました。久留さんは麻布スタジオを使われることが多くて、スタジオスタッフの時は1年半ほど久留さんを担当していました。久留さんの事務所のチーフが辞められるので、サードで入れてもらったんです。事務所に入って、あまりのプレッシャーとあまりの貧乏で病気になっちゃった(笑)。
学生の頃から写真で生計を立てるという気持ちがあったのですか。
そうですね。15〜16歳頃から思っていました。その頃から写真を撮っていて、コンテストに出すと必ず入賞していた。被写体は風景とか動物とか。家の近くに行川アイランドっていうのがあって(現在は廃園)、そこでフラミンゴを撮ったり...。
麻布スタジオの仕事は100%人物撮影。昔は六本木スタジオと赤坂スタジオ、アートセンターと青山エイワスタジオとか、そのくらいしかスタジオがなくて、老舗のスタジオの一つだった。今も残っているのは六スタだけだね。
そこで色々な方のライティングを見られていたのですね。
▲インタビュー中の富田さん。
(GO-SEES AOYAMAで撮影)
そうです。あとアマナにも在籍していました。僕が今、撮影で組んでいるライティングというのは、基本的にブツ撮りの技術の応用なんですよ。
化粧品メーカーのビューティカットの場合、光がまわっていて、右側も左側も、真っ正面でもいいライティングというのは、所詮、全然ダメなライティングなんですよ(笑)。ただ回しているだけになってしまう。実はカッコいいライティングというのは、リスクの高いライティングなんです。要するに右側はいいけど、左向きはダメ。みたいなライティングじゃないとパンチもないし、カッコよくない。それを具体的に作っていくにはブツ撮りの技術が必要なんです。
ブツって、「この角度からのこの光がイイ!」みたいな所があるじゃないですか。このボトルはここがポイントなので、そこにカッコよくフォーカスがいくようなアングルやレンズ選択、光の入れ方をするわけです。
ビューティを撮影する時に相手に聞くことは、「顔の向き」です。右側がいいのか、左側がいいのか、直接聞くんですよ。それによってヘアメイクさんにも右顔用、左顔用のヘアメイクを作ってもらいます。もちろん正面でもいいのですが。
それで右顔に決めたら、右顔しか撮らない(笑)。極端な話、それしかやらない。それで左向かれたら絶対ムリ、くらいな。右も左もは、僕の中ではあり得ない。右だったら、右の中で完璧を目指すのが僕のやり方です。
左右で目の大きさも骨格も違いますからね。
特に女優さんは、自分の好きな顔の見せ方ってあるからね。それを早めに理解して、右顔だったら右顔のライティング、ポージングをシミュレーションして本番に挑みます。「偶然いい写真が撮れた」というのではなく、確実に絞り込んだ状態で「いい絵が撮れるところまで詰めて」撮影に望んでいます。
先ほど話したように、商品撮影が自分のベースになっているのですが、ブツ撮りはアマナ時代を含めて、4年程経験しています。僕がフォトグラファーとして独立したのが30歳なので、アシスタントは8年くらいやっていました。だからダイヤモンドから車まで、何でもいけますよ(笑)。
今の若い人達は独立するのが早いじゃないですか。デジタル一眼レフカメラは簡単だし...。若い頃はノリだけでやっていけるだろうけど、自分の好きな仕事ばっかり来ないですからね。色々なことが要求される世界なので、ある程度アシスタント経験を積んだ方が、引き出しが増えて様々な状況に対応できるんじゃないかな。
女優やモデルの撮影が多いと思いますが、富田さんが撮影する際に気をつけていることは何でしょうか。
Photo:Yoshitsugu Enomoto
ずばり、「プレッシャーを与えない(笑)」。僕もプレッシャーがかかると弱いんですよ。だからなるべく相手にもプレッシャーを与えないよう接しています。撮影って、みんな緊張しているんですよ。自分も相手も。なので、淡々とこなしていく方がいいと思います。プレシャーを与えると、力が入り過ぎたり、逆に入らなかったりするので...。
僕もプレッシャーを与えられたくないし、何事もなかったかのごとく撮影が終わっているのがベストですね。
現場で一番大事なのは最初のカットなんです。その撮影で初めて撮った写真がパッとモニタに写し出された瞬間、「キレイか、キレイじゃないか」、がとっても重要。その写真がキレイだったら、モデルさんも女優さんも安心してくれるじゃないですか。
「今日のフォトグラファーは大丈夫そうだ」って思われれば(笑)、そこからは、さらにいいものを引き出していくことに集中できますから。
仕事ではどんなカメラを使われているのですか。
フィルム時代はマミヤRZ67とペンタックス67、645です。中判カメラの方がブレたり、撮影時のリスクは高いですが、35ミリとブローニーではクオリティの差が歴然とありましたから。一眼レフでも中判でも、光を作ったり、撮る工程は一緒。だったらできるだけいい機材で撮影した方がいいに決まっています。ただし外ロケは、機動性の面で一眼レフも使いますよ。
デジタルカメラを仕事で導入されたのはいつ頃ですか。
約10年前、コダックのDCSシリーズが最初です。デジタルカメラを使い出したのはたぶん一番早かったんじゃないかなぁ。あとは土井浩一郎さんと清水尚さん。でも実際に撮影とレタッチを自分でこなしていたのは僕だけだと思います。
ただ当初はデジカメの性能が悪かったので、フィルムをスキャンしていました。印刷会社にスキャンしてもらうんです。みんなimaconのFlextightでスキャンしてたでしょ。ファッションはそれでいいのだけど、ビューティの場合、ファンデーションの質感だったり、口紅のラメ感など、色がちゃんと出ないとダメなんです。印刷会社がドラムスキャンしたデータを使えば、彼らも責任を持って作業してくれます。ただしデータはCMYK。そのため分解データをレタッチする知識と専用のプリンタも必要でした。やむを得ず、CMYK出力に対応した380万円位のピクトロを買って使っていました。その分、印刷された写真のクオリティも高かったですよ。
その後、フェーズワンP25を導入しました。当時はパソコンの処理速度が追いつかなくて、5回シャッターを切ったら止まってました(笑)。でもうちに導入したのが最高スペックのコンピュータだったので、何が悪いのか、どうすればうまくいくのか、毎日試行錯誤していました。それから2年経って、やっと普通に使えるようになった。
今はフェーズのP65とP45を使っています。サブカメラがないとトラブルが起こると怖いので、2台はどうしても必要。でもやっとですね。安心して撮れるようになったのは。それまで、「さあ行くよ!」ってスタートしたら、いきなり止まってしまったり...。「あらら」みたいな。マシンのことばかり考えて、撮影に集中できなかったですね。
レタッチのスキルは独学ですか?
そうです。だから最初はお金を出して外注して、その上がってきたデータを分析して...。顔一つレタッチするのに、当時は40万円くらいしました。でも40万円も出せないから、「10万円分だけレタッチして」と交渉して。画像処理の会社がペイントボックス等を使っていた頃です。そのデータを見ながら「どうしてこうなるのか」「こうすればいいのでは」と、アシスタントと肌のレタッチを開発していきました。
今の時代、レタッチは不可欠です。フォトグラファーはライティング、演出、撮影をしますよね。最終的なフィニッシュに向けてレタッチもする。おそらく日本のフォトグラファーは世界一優秀ですよ(笑)。全部自分で出来るし、印刷の知識も豊富ですから。
最近はフォトグラファーがムービーキャメラを回すじゃないですか。スチルの時は上手かったけど、ムービーがメインになり出してから下手になっていく人がすごく多い(笑)。ムービーは演出家も照明技師もいるじゃないですか。監督も助手もフォーカスマンもいます。スチルの時は1人でやっていて目が届いていたのに、分業化されて撮影者が考える部分が少ないんですね。それが下手になる原因です。写真は縦位置、横位置、両方のアングルを考えますが、ムービーは横位置しかないので、頭の中の思考が横位置で固まっていますからね。スチルは自分でやることが多くて、その分、頭を使います。
デジタル撮影で問題になっているセレクト
話はそれますが、今一番の悩みがセレクトです。これはフォトグラファーの間でも大きな問題になっています。というのは、編集者から「撮影したカットを全て下さい」とか「多めにセレクトして下さい」と言われることが増えています。フィルムの時代は10枚選んで、その中でオススメの3枚にチェックを付けたわけじゃないですか。今は現場で、「とりあえず全部JPEGで下さい」となる。そうするとフォトグラファーの意思が伝わらないでセレクトされていることが多いんです。
編集スタッフが全カットを持っていかれるのですか。
そうです。「編集長が選びます」とか。編集著の意見は大切なんですが、考え方が違うので、選ぶ物のテイストが全然違うんです。結局、噛み合ない(笑)。昔は「これはないな」というカットは最初から省いていたけれど、今は全カット見られますから、向こうが選びたい放題なんです。芸術性が減って実用性ばっかりになってくる。こんなにカッコいいポーズなのに、洋服のここがダメだから選ばない、とか。タイアップの場合、意味はわかるのですが、フォトグラファーに相談すれば、「顔はこのカット、洋服のこの部分はレタッチで少し明るくしましょう」等、方法論を提案できるんです。でも相談なしで「このカット」と言われると、「えっ?」となっちゃう。他のフォトグラファーからもよく相談されるし、同じような悩みを抱えている人は多いようです。このやり方は改善されないとよろしくないですね。
フィルム時代はフォトグラファーが色々なフィルターワークやプリントワークで自分のトーンを作っていたものが、今はクライアントから「この服は濃紺なので、濃紺にして下さい」って言われるんです。そうするとフィルターなんか一切入れられない。
自分のテイスト(トーン)で納品するじゃないですか。そうすると、洋服の生地と一緒に戻ってきて「この色でお願いします」って書いてある。こっちはわざとカッコいい色味にしているのに(笑)。デジタルになって色が変えられるのは便利ですが、ある意味失ってしまった部分もあります。
今後の目標と若手へアドバイスをお願いします。
若い人を育てたいですね。それが一番の目標です。アシスタント達がフォトグラファーになっていくために、いい環境づくりをしたい。レンタルスタジオを卒業したあと、皆どうすればいいのかわからないんですよ。スタジオがあれば作品撮りもできるし、フォトグラファーがオーナーだと、どうやってフォトグラファーになればいいのか教えられます。
うちのスタジオ(GO-SEES)を卒業した子もまだまだですが、10年先に有名なフォトグラファーが育ってくれて、「フォトグラファーを育成する東大」みたいになれればいいですね。厳しい時代ですが、優秀な人間は必ず出てくるし、通用しない人は通用しないんです。
フォトグラファーは資格でする仕事ではないし、師匠が誰々とか、そんなことは関係なく、どうでもいい。自分のやっていること、撮っている写真が全てなんです。作品だけが自分を保証するものなので、それさえ良ければチャンスはきっと掴めます。
富田眞光 Photographer
1960年生まれ。
2000年株式会社GO-SEES設立。
WEB: http://www.tomitamasamitsu.com/
MAIL: vale@tomitamasamitsu.com
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