- 2012.10.09
photographerND CHOW(アンディ・チャオ)
水中でモデルを撮ることはほとんどない。
それは陸上以上に、周到な準備やノウハウが必要だからだ。
ただ水中での光の反射や美しさは、陸上では得られないのも事実。
今回、水中ビューティ撮影を何度も経験しているアンディ・チャオさんに
そのきっかけと水中で撮影することの魅力を聞いた。
水中写真を撮る事になったきっかけから教えて下さい。
きっかけは、ある媒体でスタイリストさんと「次はどんな撮影をしようか」と相談していたことから。打ち合わせをしている途中で、「そういえば『Sea of Love』って、いい歌だよね〜」って言ったら、「僕も知ってます!」という話になり、「じゃあ、海辺じゃなくて、水中写真撮ってみる?」という風に、話が進んでいきました。
「家族を撮ろうか」という話もしていたのだけど、僕もモデルも慣れていない水中で、いきなり複数を撮るのは大変なんじゃないか、ということでやめて(笑)、モデルは女性一人にして「ラファエロの絵のイメージでやってみたい」と思いました。
水の中のフェアリー(妖精)みたいな絵を作りたいなと。
初めての水中写真は、「West East Magazine」という海外雑誌の撮影を兼ねて撮りました。この撮影ではメイクもしっかり入れています。普通、水系は「すっぴん=健康的」なグラビアイメージが強いじゃないですか。でも長く水中にいると、肌が青っぽくなったり、唇も紫になってくる。でも「水中ビューティ」にチャレンジしたかったので「水中でも落ちないメイク」がポイントだった。メイクさんとも打ち合わせを重ねて、水中での発色も考えました。
West East Magazine(Love issue)/ ST:Hidero Nakagane(S14) / Make:UDA(S14)/ Model:ERIKA (stage model)
絵画に出てきそうなモデルですね。
このモデルは赤毛なんです。絵画のイメージもあって、最初にコンポジを見た時からこの人に決めていました。 でもカナダ人なんだけどね(笑)。
衣装も、水中で漂うような感じですね。
水に浸けるとうまく素材の良さが出ない洋服も多い中で、スタイリストさんもがんばってくれました。古着を使って、水に漂うような素材を何着もレイヤーにして着せています。最終的には水面にあがった時に、破れちゃったけど...。でも撮影の間は持ってくれたので助かりました(笑)。髪の部分も単調にならないように、ヘッドピースにもポイントになる光り物を入れています。
本当は洋服も複数用意していったけれど、1着しか使いませんでした。モデルも水中での服の動きに慣れるまで時間がかかるので、服のバリエーションを増やすよりも、撮影に集中しました。
モデルにはどのように指示するのですか。
まず撮影する前に30分くらい、水着でプールに入って慣れてもらいます。その後上がって、衣装を着た後にディレクションします。水中では、自分で裾を広げたり、動いてもらわないと衣装が体にベタッと張り付いて、あまりキレイに見えないからね。
寄りのカットに関しては、水中でも目をしっかり見開いて表情を作ってもらうとか。けっこう指示は出していました。
僕は先に潜っていて、陸上にいるプロデューサーから、「アンディ、どう?いける?」とマイクで聞かれます。こちらはそれにOKサインを出せば、モデルが入ってくる。潜ってきたら、追いかけながら撮影します。
本格的な水中ビューティは3回撮影しました。そのうち2回は、水中撮影用のハウジングを製作し、自分でも水中写真を撮る千々松政昭さんにサポートしてもらっています。僕と千々松さんはズームレンズとワイドレンズを付けたカメラを持って、先にプールの底まで潜って待っています。1台を千々松さんに持っていてもらって、途中でカメラを変えながら撮影しています。
照明はどうしているのですか。
水上から4KwのHMIをあてています。1灯です。
通常はダイビング練習用のプールなので、外から自然光も入ってきます。日中はプール内が全て明るくなってしまうため、夕方、陽が落ちてから撮影を始めます。その方が周囲は暗く落ち、HMIの光が透過している部分だけが被写体が浮かび上がって、ドラマチックになるから。
ダイビングの時にフォームをチェックするためか、奥の壁は一部が鏡になっていて、若干光が反射するんです。そのため、背景がブラックアウトしないで光のニュアンスが出るのもよかった。モデルは水中で泳いだり動くので、陸上からアシスタントがそれを追いながら、HMIを動かしています。
水族館のような窓があって、水中を横から(外から)も撮れるようになっているんですよ。スタッフはそこから水中の様子を見ながら指示を出します。潜らなくても撮れちゃうけれど、窓越しに撮るから、もやっとして解像度は落ちますね。
水中ビューティは、自分も水に潜って近付かないと撮れない写真ですね。
そうなんです。千々松さんも水中で撮っているんですけど、彼の写真はランドスケープなんです。普段水中写真を撮る方は、サンゴや熱帯魚など周囲の状況を広く映すためにワイドレンズを使います。いい悪いじゃなくて、水中ではそういう撮り方がスタンダード。広角〜標準ズームを使いながら、かなり近くまで寄って人を撮るのは、水中では珍しいと思います(笑)。
あと、通常機材レンタルショップでは、超広角系のレンズポートしか置いていない場合が多いんですよ。ハワイでレンタルした時も、サーファーが使うためのワイドレンズ用しか置いてない。千々松さんのショップでは、様々なレンズに対応するポートあるので、それはとってもありがたかったです。(註:千々松さんのインタビューも後日紹介します)
モデル選びは難しい?
水中撮影の場合、モデルを選ぶのはとっても難しい。普通は「できません」って、断られる(笑)。だからコーディネーターさんも大変。
撮影時間も、MAXで2時間です。どれだけ健康な人でも地上とは疲労度が違うし、水泳が上手なことと、潜れる事とはイコールではないんです。水泳が出来ても、潜れなくて浮いてしまう場合もあるし、テンぱっちゃう人もいます。
週刊文春 / ST:Naoko Shiina / Make:UDA(S14)/ Hair:Inaki Keiko / Model:綾瀬はるか
綾瀬はるかさんの撮影はどうでしたか。
彼女は、潜るのがすっごく上手いです。水中でも全然、余裕あったね。むしろ上手すぎて、僕の方が余裕なかった(笑)。
モデルが慣れていない方が、こちらに余裕が生まれるのだけど、一発でOKが出るくらい上手だった。潜るのが上手いだけでなく、水中で表情が作れるのがスゴい。息が長く持つし、空気(泡)も出さないんです。ここで紹介している写真も泡とか消してないですよ。
運動神経がいいんですね。
綾瀬さんはもともと水泳をやっていて潜水も得意だったらしく、撮影をお願いした時も快諾してくれました。
本番でも撮影が効率よく進むから、衣装も3回変えることができたんですよ。たぶん2時間以上、撮っていたと思います。コーディネーターさんもスタッフもビックリです(笑)。
月刊「EXILE」/ ST:Kosei Matsuda(AVGVST)/ Make:Yoshi.t(AVGVST)/ Model:KAEDE(Happiness)
3人目のこのカットは、浅いところで撮っていますね。
月刊「EXILE」でHappinessのKAEDEさんを撮りました。たくさんカットは撮っていますが、ベースのテーマとして「水中ビューティ」というのがあるので、彼女の場合は。浅い場所でのカットを選んでいます。
水面→落ちていく→水中→水から上がってくる、という流れです。
80年代の日焼けしたモデルの化粧品広告をイメージしていて、ブルーのアイシャドウを入れています。本当は、彼女は色白なんだけど、1時間くらいエアブラシを使って日焼けした肌色を作っていきました。最初の赤毛モデルの撮影とは違うメイクさんですが、彼も水中でメイクが落ちないような研究をして作ってくれました。
何度も水中撮影をしていると慣れてきますか。
そうですね。3回目は僕も余裕がありました。水中での段取りも一人で出来ちゃった(笑)。月刊「EXILE」の撮影は完全に夏のイメージだったので、光も強めにしています。最初は深いところで撮影していて、徐々に浮いてきたところを押さえています。
もともとダイビングは好きだった?
ライセンスは前から持っています。趣味で潜っていました。 昔、セブ島へ行った時、日本人の観光客と潜ったことがありました。みんな水中カメラやビデオを持ってきていて、海の中を撮っているんです。出来上がった写真を見せてもらったら、みんなすごく上手い! 僕もコンパクトカメラで撮っていたんだけど、全然上手じゃないから、「仕事は何してるの?」って聞かれた時、さすがにカメラマンとは言えなかった(笑)。 水中撮影は、ノウハウがないとなかなか上手くいかないんです。スタッフも、過去にたくさん苦労している(笑)。特にモデルが入ると大変だけど、僕はだいぶ慣れてきました。また水中コーディネーターさんもいて、普段から水中の仕事をしている方達のサポートもあって撮影出来ているので、ありがたいです。 千々松さんには「今度、海で撮ろうよ」って言われています。潮の流れがあって、プールより大変かもしれませんが、海でも挑戦してみたいね。
ND CHOW(アンディ・チャオ) photographer
シンガポール生まれ。
世界を旅しながら2年間ドキュメンタリーを撮影後、2003年に独立。
日本をベースにエディトリアル、音楽、写真集、広告の分野で活動中。
http://www.ndchow.com/
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