「SHOOTING」初登場ということで、酒井さんが写真に興味を持ったきっかけから教えて下さい。

写真業界に入ったのは25歳頃なので、遅い方ですね。大学を卒業後調理師免許をとって、在学時アルバイトをしていた飲食店にそのまま就職したんです。約3年間、調理師として働いていました。

写真とはまったく違うジャンルですね。ちなみに何系の料理ですか。

洋食ですね。イタリアン、フレンチと2店で仕事をして、3店目が比叡山の山奥にあるレストランでした。


酒井貢さん。

比叡山と言われると唐突感がありますが、酒井さんは滋賀県出身なんですね。

そうなんです。3年間食の仕事を続ける中で、自分の中に少し違和感も感じていて「もっと自分の感覚がストレートに出せる仕事はないか」と、悶々としていました。
ある日京都に行った際、全国を回っているストリート・ミュージシャンと出会い、その人にすごく刺激を受けました。それがきっかけでお遍路さんに行き(笑)、周りきった後インスピレーションで「写真をやろう!」と思いました。


Personal Work

それで大阪ビジュアルアーツに入ったんですね。

はい。大阪ビジュアルアーツに入るまで、カメラも触ったことはありませんでした。
当時はフィルムとデジタルの過渡期で、撮影も暗室ワークも楽しかったですね。でも2年後(卒業前)にはデジタル化が進んでいて、デジタルの勉強をしないと仕事にならないと感じ、少しもどかしさもありました。
東京への憧れもあり、またスタジオ撮影やライティングの知識も身に付けたいと思い、六本木スタジオへ就職しました。

六本木スタジオに入ってどうでしたか。

最初にスタジオに入った時のインパクトが凄くて「こんな世界があるんだ!」って、驚きました。仕事が終わると、自分でライトを組んで、日々テスト撮影をしていました。様々なフォトグラファーの仕事の仕方も見られましたし、すごく良い経験が積めました。
その頃は、まだデジタルには興味がなくて、とにかくストロボを使ったライティングの勉強に没頭していました。


Personal Work

その後、池田直人さんに付かれたんですね。

そうです。池田さんは、そんなにスタジオを訪れる頻度は高くなかったのですが、なぜか僕の中ではインパクトがありました。
当時はファーストのアシスタントがいらしたのですが、池田さんの人柄的にも写真も好きだったので、スタジオにいる頃から直アシの希望を出していました。
池田さんのアシスタントになって一番大変だったのは、レタッチですね。撮影まわりは知識も経験もありましたが、レタッチは池田さんの事務所に入ってから必死に学びました。最初は師匠のやっている作業を横で見ながら、覚えていきました。

池田さんのところで学んだことはなんですか。

デジタルの技術は全て池田さんのところで身に付けました。でも一番学ばせて頂いたのは「撮影当日までの考え方」です。
事前の準備段階で完璧に調べ尽くしてシミュレーションをし、不安要素を徹底的に潰していくプロの心構え、その姿勢を学びました。


Personal Work

独立後、照明機材は何を使われていたのですか。

独立当初は、何人かの知り合いで機材を貸し借りしていました。自分が使うレンタルスタジオにはプロフォトがほとんど入っていましたので、不便はなかったです。
スタジオ時代から様々なメーカーの照明機材を使ってきて思うことは、プロフォトが一番"フォトグラファー寄り"な気がしています。かゆい所に手が届くというか、欲しい機能が次の新製品で取り入れられていたりします。
閃光速度が速いのもありがたいですが、D2を使ってよかったのは、シャッタースピードですね。どんな環境下でも光をコントロールできるのでとてもありたいです。
自分はスタジオ撮影が多いですが、ロケで人物の場合、特に夏場の日差しが強い時期は速いシャッターを切りたいですから。すごく助かると思います。

今回、Profoto D2を使って「夏のシズル」を撮って頂きました。
ビジュアルのコンセプトとD2の印象を教えてください

「夏」を表現したかったのと、アートや抽象的なビジュアルではなく商業ベースのビジュアルにしたいと思いました。それにシズルの要素と遊び心を加えた「ゴージャス金魚すくい」です(笑)。金魚を使った撮影は初めてだったのでとても楽しかったです。
この撮影では深めのピントがほしくて絞っています(f16/ISO400で撮影)。絞りは固定で、感度とストロボの出力を変えていってどの時点でシズルが止まるのかも試してみました。
結果的にISO400設定、200W強で止まってくれたので、ありがたかったです。最初はかなり出力を絞って多灯しないとだめかなと思っていましたが、特に「フリーズモード」にすれば、閃光速度が優先されるので、今後のシズル撮影に活かせそうです。
今のデジタルカメラだとISO感度を多少あげても支障はないので、それを考えるとかなり使い勝手のよいストロボという印象です。
僕の場合、シズル以外に時計や宝飾品の撮影も多いのですが、そういう小さな被写体には大型のストロボよりも小型で扱いやすいのが、普段使いにはいいですね。


撮影中の酒井さん。

このシズル撮影は1灯でしたね。

補助で1灯当てたカットもありますが、ほぼ1灯での撮影でした。今回のメインライトにはアタッチメントを使わずストレートにあてているので、その分光量を稼げました。それを差しい引いてもよく止まってくれたなと思います。
小さな商品で液体を使う場合は、クリップオンを5~6灯使うことがあります。そこに近い感覚で使えますね。

クリップオンは、閃光速度1/10000秒とか、早いですね。

そうなんです。ただ個々の出力設定も面倒だったり、乾電池なので知らない間にバッテリーが減って、光っていなかったりとか...。ACコードが要らないのは楽ですけどね。

ブツ撮りの方には、D2は使いやすそうですね。

最近のデジタルカメラとの組み合わせを考えると、D2があれば閃光速度やシャッタースピード等で、今までの不安要素だった点がかなり減ると思います。


Personal Work

先にテストとして「ボトルのシズル」をノーマルモードで撮影しました。その時は、止まっているものとブレているものもありましたが、金魚の方は「フリーズモード」(閃光時間優先モード)で撮ったところ、ほぼ全カット止まっていましたね。
色味は後でも調整できますが、ブレているものはどうしようもないんですね。なので、止められるという事が、フォトグラファーにとっては何よりも嬉しいです。

若手フォトグラファーは、いきなりジェネタイプを購入するのは価格的にもハードルが高いかもしれなですが、D2だと導入しやすいですね。

D2は実勢価格20万円前後なので、スタートにはちょうどいいですね。かけだしの頃はロケが多かったりするのですが、2灯セットがあれば十分対応できると思います。必要ならレンタルもできますしね。

酒井さんが普段の撮影で気をつけている点はなんですか。

まず「アイデア」ですね。それと「キレイにではなく、美しく仕上げる」ということです。美しいと思える写真には奥行きを感じるというか、表面的なキレイさばかりだと写真としてはまとまり過ぎて面白味に欠けるものになってしまうので、撮影~レタッチ作業の中で自分が表現したいポイントを見い出し盛り込む事で、写真に奥行きを出すようにしています。

これからやってみたいことを教えてください。

スチルライフをどんどん撮っていきたいですね。現在は時計やジュエリーなど小さな被写体が多いですが、今後は車や精密機械など大きな被写体の撮影もやってみたいです。特に光ものとか難易度の高いものが好きなので、映り込み等、面倒なものの方がむしろ燃えます(笑)。
 
 



メイキング


金魚すくい用の水色のコンテナ(水槽)を用意して水を入れる。
金魚をすくためのポイもたくさん準備しておく。


先にカメラアングルを決めていく。
カメラ:Canon EOS 5D Mark IV、レンズ:EF 50mm f/2.5 Compact Macro。


おおよそのアングルが決まってから金魚を水槽にいれる。
ストロボはProfoto D2 を使用。


まずポイで水をすくっている部分の本番を撮影。
シズルの感じ、ポイのしなり具合を確認しながらカット数を多めに撮っていく。


メインライトはモデル正面(写真では右サイド)からの1 灯のみ。
グリッドを付けたり、ディフューズするなど色々試しながら、
最終的にはノンアタッチメントで発光している。


手の動きを撮影後、水槽内の金魚だけを別撮り。
合成する際に金魚の形を選べるように、多めに撮影している。
 
 



Profoto D2 500 AirTTL


主な仕様
最大出力:500Ws
出力レンジ:10 f-stops (1-500Ws)
出力制御刻み:1/10またはフルf-stops
リサイクルタイム:0.03-0.6秒 (最速秒間20回のクイックバースト可能)
最短閃光時間 (フリーズモード):1/63,000秒
最長閃光時間:1/2600秒
大きさ:31x13x18cm
重さ:3kg
https://profoto.com/jp/d2