- 2013.08.09
Photographer伊藤 之一
主にスティルライフ(物撮り)の分野を中心に、広告写真の世界で活躍を続ける伊藤之一さん。
フェーズワンP40+を購入してから現在まで、
仕事のほぼすべてをこのカメラでこなすという伊藤さんに、
中判デジタルでのワークフローについてその詳細を訊いてみた。
取材撮影・文:河野鉄平
2011年の秋に中判デジタルを購入されたそうですが、それまで利用されていた35mmのデジタル一眼レフとの違いをどんなところで実感されていますか?
- 伊藤 之一氏
当然ながら、描写性や抜けの良さなどで歴然とした違いがあると思います。デジタル一眼レフの画素数がどれだけ上がろうと、中判デジタルのCCDの大きさには敵いません。それから、中判デジタルの描写性は印刷したときにその差がはっきりと出ます。つまり、商業印刷に落とし込みやすい。中判デジタルはまさしく出力で楽しむカメラだと思いますね。
そもそも私が中判デジタルを購入しようと思ったきっかけには、海外のビルボードなどで写真を大きく扱わなければいけない仕事が増えたという、撮影環境上の問題が関係しています。しかし一方で、私が専門にしている物撮りの世界では、フェーズワンに代表される中判デジタルを使うフォトグラファーが増えてきて、自分だけがデジタル一眼レフというわけにはいかなくなってきた実情も、購入の直接的な動機のひとつになっています。印刷の際の中判デジタルによる優れた描写性は、クライアントの方々にも浸透しているんです。私も最初のうちは、必要な場合にのみレンタルで使っていましたが、購入して使い込むうちに、"描写の差"のようなものを改めて実感させられました。購入するのがちょっと遅かったかなと後悔するほどです(笑)。
利用されているのはフェーズワンP40+ですね。
商品撮影の場合、圧倒的に描写をきちんと行わなくてはいけません。デジタルバックに関しては、その辺りの信頼性が高いフェーズワンを選んでいます。当初レンタルではP40+よりもセンサーの大きなP45+を使っていましたが、私の場合は商品撮影だけでなく、切り抜きで使うような物撮りもけっこう多いんです。パーツの問題で少し引き気味に撮ったりするんですが、だったらCCDが小さなP40+でもパツパツで撮ればP45+と大きな違いはないかなと。それから、レンズを120mm主体で使っていて、このレンズは焦点距離が少し短い。CCDが小さければ少し寄り気味になるので、私としてはP40+は好都合なんです。あと、P40+はIQ140とセンサーサイズが同じです。今回はレンズとカメラも合わせて購入したので、いきなりIQにする予算はなかったんですが、ゆくゆくはIQ140に買い替えようと思っています。そういった意味でもいいかなと。中判デジタルのようなハイクオリティーが約束されているカメラというのは、買い替えて、進化させながら使っていくものだと思うんです。車と同じです。1年2年経ったら下取りで新しいものに変えていく。私にとって中判デジタルをはじめるということは、つまりはそういうことなんです。
カメラボディはフェーズワン645DF、レンズはシュナイダーレンズを利用されています。
もともと一眼レフから入っているので、中判デジタルのボディもなるべく一体型に近いもののほうがいいかなと思ったんです。デジタルバックをフェーズワンにしたので、トータルにカメラボディもフェーズワンにしました。このクラスになると、かっこいいからというような理由だけでは、カメラボディは決められません。互換性やその後のメンテナンスなども考慮しなくてはいけない。現像もキャプチャーワンを使っているので、そういった意味でも機材の能力を最大限に引き出せて互換性のある645DFがいいと思いました。実際使っていて何の遜色もありません。もう少し下のグリップ部分の接点が良くなればと思いますが、操作性はいいです。シュナイダーレンズは昔、大判カメラで撮影していたときに利用していて印象がよかったので購入しました。シャープな描写が魅力です。色の差がはっきりわかるのもいいです。化粧品の撮影では、リップの色板などのかなり細かい部分までもが、きちんと色再現されます。
中判デジタルを使うようになって描写性以外に何か大きな変化はありますか?
使い始めた当初、ライティングにはけっこう手こずりました。中判デジタルは階調がすごく豊かなので、結果的にライティングの幅が広がるんですよね。ですから、35mmのデジタル一眼レフのときよりも、もっと思いきりのいいライティングが求められるようになったというか...。フィルムで35mmを使っていたのが大判カメラにした途端、なかなか絵にならなくなったというような感覚に近いかもしれません。
決定的にセンサーサイズが違いますから、ボケ味や立体感だけでなく、ライティングを行った際の露出や色の広がり方にも差が出ますね。
感覚的な言い方になりますが、より多くの情報が入ってくるので、それを整理しないといけないんです。ライティングをより丁寧に行わなくてはいけない。情報量は多くなっているけれど、情報量のある写真が常にいい写真になるとは限らないと思うんです。逆に削ぎ落とす場合もあります。ちなみに、この削ぎ落として残ったところの情報がすごく密度が濃かったりする。こういった部分の描写性が優れているのも中判デジタルならではの特徴だと思います。総じて、デジタル一眼レフで撮っていたときよりも、写真は難しくなったかもしれません。「"世界"は広がった。どう撮るかはお前次第だ」と言われているような感覚です。
仕事でデジタル一眼レフを使う機会はありますか?
仕事はほぼ100パーセント中判デジタルです。興味深いことに、P40+を購入してからは、物撮りの仕事が以前よりも増えたように思います。これはカメラのせいもありますが、自分の気持ちが"これを撮ろう"としっかり定まったからだと個人的には思っています。そういった部分がクライアントの方々にも伝わっているのかもしれない。私自身がそういう気持ちを持てたという意味で、このカメラに切り替えたことは、非常に大きな価値がありました。
伊藤さんは自主制作の作品づくりも精力的に行っていますが、この中には中判デジタルを使い、室内でライティングをして撮影されたものもあります。
今までは屋外で撮りおろした作品がほとんどでしたが、スタジオでの仕事がここまで増えたのに、スタジオで撮った自主制作の作品がないというのは自分なりに片手落ちなのではないかと...(笑)。最近はリコーのGXRで外の光をいっぱいに吸収するような作品もつくっているんですが、それをスタジオの中で再現するというか、再構築するような作品を撮っています。この作品は大きくプリントしたいという意図もあって中判デジタルを使っています。
以前に比べて中判デジタルを利用するフォトグラファーは増えましたが、今後、このカメラがより世の中に浸透していくためには、何が必要でしょうか?
まず、デジタルバックの価格は種類が増えて、だいぶ購入しやすくなりました。絶対に購入できない価格ではなくなりつつあります。しかし、一方でレンズはまだまだ高価です。もし仮にアマチュア層にまでこのカメラを浸透させていくならば、もう少し安価なレンズをつくっていかないと厳しい。レンズはプロから見ても高いですから。1本70万円もするものを、そんなにボンボン買えません。それからペンタックス645Dのような一体型の優れた中判デジタルがもっとあってもいいと思います。これらが増えることで、より広い層の方々にも中判デジタルが受け入れられるようになるのではないでしょうか。
伊藤 之一 Photographer
1966年名古屋生まれ。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、博報堂フォトクリエイティブ(現、博報堂プロダクツ)にフォトグラファーとして入社。2000年伊藤写真事務所設立。広告写真制作を主軸に自主制作の作品も発表を続けている。主な写真集に「入り口」「テツオ」「電車カメラ」「雨が、アスファルト」「ハレ」「凸」(共にWALL)高岡一弥氏、高橋睦朗氏との共著「百人一首」(PIE BOOKS)などがある。写真展も数多く行っている。
http://www.itoyukikazu.com
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