- 2016.10.15
特集堀内誠 × 佐藤豪
先月発表されたハイエンドなジェネレーター「Pro-10」。最短1/80,000秒の閃光時間、最高秒間50回の高速連続発光が可能な話題の製品だ。
今回、この最高峰のストロボを使って、フォトグラファーの堀内誠さんに撮影を依頼。特殊美術の佐藤豪さんと共に、最大限に性能を引き出すため、「スーパーシズル」の世界にトライした。
写真表現の世界を拡張する「Pro-10」の可能性と魅力を、インタビューとメイキングで紹介する。
Interview:編集部
まずお二人が現在の仕事をされるまでの流れを教えてください。
堀内 僕はプロフィールに「大阪生まれ」と書いているのですが、実は生後3年間しかいなくて、その後は埼玉で育ちました。
写真は子供の頃から興味があったわけではなく、大学生の時にたまたま「街の写真屋」でアルバイトをしていました。まだフィルムの時代なので、「写ルンです」やネガフィルムを、店内のミニラボのマシンで「現像・プリント」する仕事でした。
就職について考えた時に、正直そんなにやりたいこともなく、ただ理系だったので、モノづくりしている所がいいかなと考えていました。4年間「街の写真屋」でバイトをする中、そのミニラボのマシンに名刺が貼ってあって、それが、和歌山に本社がある「ノーリツ鋼機」という会社でした。とにかく家(実家)を出たいという気持ちもあり、「ノーリツ鋼機」に就職しました。
和歌山に!
そうなんです。ミニラボのマシン自体は、富士フイルムやコダック、コニカも作っていましたが、その辺りのメーカーはカメラ関係以外も製造していました。僕はラボに携わりたかったので、ノーリツ鋼機を希望しました。
フォトグラファーの堀内誠さん(左)と特殊美術の佐藤豪さん。
就職されていかがでしたか。
製造メーカーなので、「写真好き」という以上に「機械好き」だったり、どちらかというと「設計が好き」だったりとか。大きな機械の一部を設計するのにすごく時間をかけて開発するわけです。そこで働くうちに、「機械を作るよりも、(既に)あるものを使って何かを表現したい」という気持ちが強くなってきて、2年ほど働いてこちらに戻ってきました。
でも当時は「表現」という言葉も考えていなくて、ミュージシャンとか、映画監督、小説家とか、そういうクリエイターを目指すためのガイド本を読み漁っていましたね(笑)。それでも4年間写真関係のバイトをしていたこともあり、写真学校に入りました。
写真といってもジャンルは幅広いです。
アート写真、報道、ファッション、広告プロダクト、その他ある中で、スタジオが好きだったので、学校のスタジオに篭ってブツ撮りに熱中していきました。卒業後は、商品撮影の仕事が多かった株式会社スプーン(現 株式会社パレード)に入社しました。
佐藤さんには今回、特殊撮影として技術的な部分でご協力頂きました。こういう撮影の世界に入ったきっかけから教えてください。
佐藤 この仕事に就いたのは、かなり不純な動機なんです(笑)。僕はデザインの専門学校に通っていました。うちの父親がサンクアールにいたんです。というかまだいるんですけど(笑)。
それでうちの父親の繋がりで、仕掛けの特殊効果を手がける「サプライズ」という会社があって、そこの社長と父が仲がよくて、「夏休みにバイトしに来なさい」と言われ、たまにそこで仕事をしていました。
学校を卒業する時に、まだ何をやりたいかが決まっていなくて、「だったらもう少しバイトをさせてもらいながら、自分のやりたい事を探そう」と思い、そのままサプライズで働き始めたら、社長から「とりあえず社員にしておいたから」って言われて...、完全にコネ入社でした(笑)。
堀内 いやいや、それはすでに戦力になっていたんですよ。
父親の特殊美術の仕事から影響を受けていたのですか。
佐藤 そんなに見ていたわけではないのですが、なんとなく広告の世界で、こういうことをやっているというのはうっすらとは知っていました。父に何かを言われたわけではないですが、そのままずっとこの仕事を続けていますね。そこから独立して、「ループ工房」を立ち上げ、12年になります。
撮影現場で画像を見ながらの打ち合わせ。
やはり特殊撮影の仕事が合っていた、ということですか。
佐藤 そうですね。小さい頃からものを作るのは好きでした。「仕掛け」は、細かい部品一つ一つを全て自分で作っていくので、そういう仕事が自分に合っていたのかなと思います。
堀内 僕は佐藤さんのような特殊撮影や美術の仕事があることを、撮影の世界に入って、だいぶ経ってから知りましたね。
お二人で最初にした仕事、出会いのきっかけを教えてください。
堀内 たぶん化粧品のムービーの撮影だったかな。
佐藤 その前に「時計」の撮影だったと思います。
堀内 そうだ。「時計を回転させながらムービーを撮る」という仕事でしたね。
佐藤 二軸的に動かしていく撮影ですね。
今回のようなシズルの仕事をされたのはいつ頃ですか。
堀内 1度だけ、タオルの撮影で、花びらみたいなものを作ってもらいましたね。
佐藤 そうでした。
堀内 「花びらを水で作る」という企画だったのですが、どこまでをこちらでやって、どこまでを豪さんにお願いすればよいのか、まだ手探りな感じでした。
シズル撮影は、僕と豪さんと組んでやり始めて、まだそんなに経ってはいないんです。
堀内さんが以前制作したシズル作品。
このあたりの(上2点)シズル撮影は、僕一人で作っています。花びらも1枚1枚撮っているので、やりながら「花びらっぽいな」と思って、そのように合成しています。豪さんにお願いする時は、「何を狙うのか」がはっきりした段階でお願いすることが多いです。
自分でやることで、「シズル表現の難しさ」を感じてはいたので、今回、豪さんと組んで「Pro-10」という最高速のストロボを使って表現できたことで、僕の中では結構「スカッ」としました(笑)。
今回の仕掛けには驚きました。
堀内 豪さんは自分で開発されているので使われていると思うのですが、僕は今回の仕掛けで撮るのは始めてでした。
佐藤 そうですね。空気銃みたいなものです。
堀内 ストロボの閃光速度が最速1/80000秒ということで、貫通系か爆発系かなと思っていました。ただ爆発系は似てくることもあるし、貫通系の方が横の動きがある中で、そのタイミングをずらしていけば、液体の弾け方とか、面白い表現になるのではと考えました。
豪さんには、そのあたりのイメージで相談したら「鉄の玉でできるよ」って言ってくれたので、この方向で詰めました。
あとは閃光速度を感じる写真にするには何を使ったらいいのか。砂とか、水風船とか色々あると思いますが、ガラスが一番良かったし、プラスチックもテストしたんですけど、貫通して終わっちゃいましたね。威力がありすぎて(笑)。
佐藤 プラスチックは、ヒビが広がっていかないんです。やっぱりガラスが面白かったですね。
堀内 このあたりなら仕事にでも応用が利きそうですね。
佐藤 一番イメージに近いのがこの写真でしたね。この時は、グラスを5つ貫通させましたが、玉先が丸くなってきて、なかなか難しいかったですね。3つまでは割れるんだけど。
まだ仕掛けに改良の余地があるなと(笑)。
堀内 モアパワーですか。
佐藤 今考えているのは、玉の先端に超硬な金属をつけた方が貫通力を増すのではないかと考えています。
撮影に使用した特殊機材。
仕掛けの秘密を教えてください。
佐藤 あの機械は、工場で使われているもので、基本的にはモーターを制御するコンピュータなんです。その中で、100Vの出力を極短時間で制御する機能も入っているんです。
グラフィックの撮影では、そこだけを使い、いわゆる電気的に開閉する「電磁弁」というものをつけて、それでカメラのシャッターが切れるように設定しています。
実際には玉の速度が速いので、シャッターを切ってから玉を発射し、その間にストロボが発光している状態です。
堀内 ミラーが上がる時間があるので、先にシャッターを開けておく感覚ですね。
佐藤 ただ制御できるカメラとそうでないカメラがあって、古いカメラだと難しい場合もあります。
今まで他社製ストロボも使われていたと思います。今回「Pro-10」を使われていかがでしたか。
堀内 「Pro-10」は、まず使いやすいですね。僕が最初この会社に入った頃は、ストロボがフォトナだったんです。まだダイヤル式だったのですが、そちらに印象が似ています。ストロボも機能が増えてきていますが、僕の使い方で欲しい機能というと、出力の調整と閃光速度がわかれば十分なんです。パワーが増減しやすくて、「今どういう状態になっているか」ということが、視角的に早くわかることが重要なんです。
光量、モデリングが付いているのか、スレーブが付いているか、そういう事がパッと見てわかるので、初めて触っても使うのがすごく楽でしたね。
タッチパネルで全てできる時代に、ダイヤル式を採用しています。
堀内 実は、「ピッピッ」とボタンを押していくよりも、ダイヤルを回す方が速いんです。自分がアシスタントの頃はいかに早く露出を合わせるかを競っていましたからね(笑)。懐かしさもあったし、魅力的でした。レンタルスタジオに需要が多いと聞きましたが、操作が簡単なのでわかる気がします。
まだ日本で灯数が揃わない状況の中、今回は2台3灯1/50000秒での撮影がメインでした。それでも他社製ストロボと比べて、違いはわかるものでしょうか。
堀内 今まで使っているストロボと比べて、「違うな」っていうのはわかりますね。最初から1/50000秒で撮っていたんですが、そもそもあのセッティング自体、僕が普段やっているものよりも、かなりスピードの速い仕掛けなんです。
いつもはまだ目で見て、自分でシャッターが切れるレベルのシズル感で撮っているので、それこそ1/7000秒でも止まっている(止められる)状況で撮っていました。
佐藤 今回は、約10気圧程度の圧力をかけて玉を発射しています。
高圧力が出せるコンプレッサーを使用。
堀内 そうすると速すぎて、さすがに流れる(ブレる)だろうなあと思いつつ、撮り始めたらほぼ止まっていたので驚きましたね。
絵の中で「流れている部分」は、玉が貫通して、玉に持っていかれている粘性のある液体部分だけで、飛んでいるものはだいたい止まっている。「これは噓じゃないな」って思いました。
確かにほぼ止まっています。
堀内 今までは、飛び散っている部分も流れてしまう。流れてしまうけれど、それは機材の限界で良しとしていたんですけど、同じような出力で光を当てても止まるのは革新的でした。
もっと引いて撮るとか、条件を整えると止まりやすくなるんですけど、このサイズで、この寄りで撮るとブレやすいんです。1灯で撮っているカットでも、1/50000秒で止まっていたので、僕の中では今まであったモヤモヤがすっきりしましたね。
撮影時のストレスが減るわけですね。
堀内 そうです。でもそれは液体の撮影の話だけではなく、スポーツの撮影でも常にあるんです。ブレちゃだめなところがブレていたり...。僕の撮影では常にブレと閃光速度は日常的についてくる問題なので、Pro-10のような機材が出ると嬉しいですよ。
ビールやコーヒー、清涼飲料水等で、商品とシズル撮影を合わせる仕事には影響あるんでしょうか。
堀内 シズルがなく、商品だけなら光量を増やせるんです。シズルが入ることが予めわかっている撮影では、シズルが入る前の状態でボトルだけを撮っていても、光量を下げなければいけない時があります。そこだけ光を多く当ててしまうと、後でシズルを一緒に撮る時に違和感が出てしまうんですね。
でも、それは泣く泣くそのようにしている感じに近いですけどね。シズルだけ光量を落として閃光速度を稼いでも、製品と馴染まないと意味がない。
なので、カメラの感度が上がったとは言え、光量と閃光速度はなるべく速くて光量も大いに越したことはない。広告写真には相変わらずそれは求められているんじゃないでしょうか。
僕が作品として制作しているものは、仕掛けでできるかできないかという問題よりも、「こういう風になっていたらいいな」という最終形をイメージしてシズルを撮っています。
シズルが止まっていなくてもいから、最後の絵面としてこのようにしたいないと思って撮っているので、かなりツギハギで、小さなパーツを合成しています。
ただ今回撮影してみて、久しぶりに「ストロボの力」を感じたというか、ストロボの能力と仕掛けがミックスした「一発撮りの強いビジュアル」ができたかなと思います。
こういったスーパーシズルの場合は、合成やレタッチの前に「写真としての強さが重要」ということですね。
堀内 そうですね。ここまで出来ることがわかったので、今後は仕事でも「Pro-10」を使っていこうと思います。
意外とヘッドがコンパクトだったり、使ってみて他にもいい点がありましたよ。ダイヤル操作も、高級なトルク感がある。ダイヤルもね、回すとスカスカのものもありますから(苦笑)。
佐藤 映像のハイスピード撮影の場合は、ファントムを使うことが多いんですが、光量が欲しいので大型のHMIを使うんですね。でもそうすると仕掛けが持たない場合が出てくるんです。
堀内 熱くて。
佐藤 そう。それでもまだHMIはましで、フィルム時代はタングステンライトでしたから、下手をすると商品が溶けるくらい、ものすごく熱かったです。
「Pro-10」で今後のビジュアルは変わりますか。
堀内 カメラやソフトの進化が割と頭打ちの時期に入ってきている気がするんです。でもその中でも「Pro-10」はまだ進化の可能性を示してくれたわけです。
ADにもこういうビジュアルを見てもらって新しい発想をしてもらえれば、まだまだ刺激的なこと、面白いことができると思います。
今後の予定やこれからやってみたことはありますか。
佐藤 物理的に無理なものは除いて(笑)、可能な範囲であれば、企画やアイデアに添えるような開発の努力は続けていきたいです。「こんな事を考えているんだけど」といった企画の段階から相談して頂ければと思います。
堀内 今回撮っていて思ったのは、「想像が及ばない世界の写真を撮りたいなあ」と。
閃光速度もそうですし、Pro-10の連続発光機能とか、チャージの速さと豪さんの仕掛けと相まって、「新しい何か」を提案できるような表現にトライしたい。僕は基本的にストロボでライティングするのが好きなので、そういう世界を狙いたいですね。
Profoto Pro-10
主な仕様
出力範囲:2.4~2400Ws(11f-stop)
ランプコネクター:2コネクター
出力配分:完全非対称(独立調光)
出力表示:デジタル液晶ディスプレイ
モード制御:あり(ノーマルモードとフリーズモード)
出力制御刻み:1/10またはフルf-stop
リサイクルタイム:0.02-0.7秒 (最高秒間50回のクイックバースト)
最短閃光時間 (フリーズモードでt0.5):1/80,000秒
最長閃光時間 (t0.5):1/800秒
サイズ:29×21×30cm
重量:13.2kg
本体価格:158万円(税別)
http://profoto.com/ja/home/
堀内誠 × 佐藤豪 特集
堀内 誠
1979年 大阪府に生まれる。
2005年 日本写真芸術専門学校卒業。
2005年 株式会社スプーン(現 株式会社パレード)入社。
http://amana-photographers.jp/detail/makoto_horiuchi
佐藤 豪
1969年 東京都生まれ。
1990年 有限会社サプライズ入社。
2003年 有限会社サプライズ退社。
2004年 ループ工房 設立。
現在に至る。
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- 2018.03.17Photographer 宇佐美雅浩 「Manda-la in Cyprus」
- 2018.03.16 Art Potluck(アートポトラック)緊急座談会
- 2018.03.11Photographer 「The Professional Voice」vol.9 井上浩輝
- 2018.02.18Timelapse / Hyperlapse Photographer 「The Professional Voice」vol.8 清水大輔
- 2018.01.24Photographer 皆川 聡
- 2017.12.26Photographer 「The Professional Voice」vol.7 小川晃代
- 2017.11.27Photographer 「The Professional Voice」vol.6 土屋勝義
- 2017.11.10Photographer 星野耕作
- 2017.11.07Photographer 「The Professional Voice」vol.5 島田敏次
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- 2017.09.22Photographer 「The Professional Voice」vol.4 桃井一至
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- 2017.09.11Photographer 「The Professional Voice」vol.2 安澤剛直
- 2017.08.28Photographer 「The Professional Voice」vol.1 池之平昌信
- 2017.08.10Photographer 酒井貢
- 2017.07.27Photographer 中野敬久
- 2017.06.25Photographer 橋本英之
- 2017.03.16Photographer 奥 彩花
- 2017.02.17 EXCERIA Ambassador Member's Talk
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- 2016.01.05Photographer 正田真弘
- 2015.12.16Photographer 大浦タケシ
- 2015.11.19Photographer 山本彩乃
- 2015.11.06Photographer ND CHOW
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- 2015.09.13Photographer 角田みどり
- 2015.08.03Photographer shuntaro
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