- 2017.03.16
Photographer奥 彩花
「SHOOTING」編集長の坂田がキュレーターの一人として活動している東京・馬喰町の「KanZan Gallery」。
その「KanZan Gallery」にて、2017年2月と3月に坂田編集長がキュレーションする写真家にインタビューを実施。
二人目は、3月4日から「Don't be afraid.」展を開催中の奥彩花さん。
「天国又はそのような空間があると信じている」という奥さんに「生」の裏側を意識した作品が生まれる背景を訊いた。
Interview:坂田大作(「SHOOTING」編集長)
奥さんの作品は、子供の頃の記憶を思い起こさせるような作風ですが、自身はどのような幼少期を過ごされたのですか。
私には妹がいるのですが、子供の頃から一人でいるのが好きな子でした。今でこそ、人と話をする機会が増えましたし、写真を通じて様々な人と繋がれるのがいいなあと思えるようになったのですが、とにかく「一人でいたい」子供でした。言葉を話すのが遅めだったことも影響しているかもしれません。
周囲の大人からすると、すごく大人しい子供だったのでしょうか。
そうですね。無口で地味な子供だったと思います。
奥 彩花さん
株式会社CMSが主催する「御苗場」にブースを出されていたわけですが、自分で参加申し込みをするのは能動的な行動ですよね。
初めて御苗場に申し込んだのが写真学校(日本写真映像専門学校)に通いだした1年の時でした。その時は関西会場での展示でした。
学校の先生から「出してみれば」と勧めてもらったこともあり、出展しました。参加したところ、色々な人に話しかけられて、とにかくしゃべらないといけなかったんです(笑)。同じように出展している周りのクラスメイトも、積極的に初対面の人にプレゼンしているのを見て、いい意味で想定外な体験をしました(笑)。
ブースに本人がいれば、「これはどういう意図なの?」とか、質問されますよね。
はい。その経験をするまでは「写真は見るもの」でしかなかったのが、「写真で会話をするもの」に大きく変わりました。
ただ初めて出展した時は、知らない人とコミュニケーションをとるという行為に、展示が終わったあと、ものすごく疲れました(笑)。
「かつて見た世界(The Past World)」より。
もともと写真に興味を持ったきっかけはなんですか。
小学校低学年の時に、親が使っていたコンパクトデジタルカメラのお下がりをもらったのがきっかけです。
小さいカメラだし、いつも手元において何となく周りのものを撮っていました。元々私はバイオリンを習っていまして、中学生の頃はバイオリンに関係する仕事をしたいなと思っていました。
母がピアノの講師をしていることもあり、音楽そのものが身近な存在でした。ただ仕事と趣味は向き合い方が違ってきますので、自分の判断として仕事にするのはやめました。
話が飛びますが、海が好きなんです。魚とクジラが大好きで、全国の水族館を周っていました。ある時、水中で撮影した写真集を見た時にすごく衝撃を受けたんです。「水中写真家という職業もあるんだ」ということを知り、音楽ではなく、当初は水中カメラマンを目指しました。
「魚やクジラが好き」というのと、「写真」が結びついたのですね。
水中ダイビングのライセンスも取って、何度か水中写真にトライしましたし、写真学校の1年の頃は水系の写真をよく撮っていました。
出身が滋賀県ということですが、琵琶湖も近いとか。
はい。琵琶湖も撮りますし、水中写真を撮りに、沖縄方面へも何度か出かけました。
バイオリンから水中写真に移り、そこから今の作風になるきっかけは何だったのですか。
今のような写真を撮るのに、実は特に大きなきっかけがあったわけではないんです。
「生」の裏側に常にある「死後の世界」や、幼少期を思い出させるノスタルジックな写真は、何かバックボーンがあるような気がしていました。
一つあるとすれば、私は絵を観るのもすごく好きなんです。特にルネ・マグリットとダリが大好きで、その影響はあると思います。
あと学生の時に、写真家の津田直さんが来られて、学校に講師として来られて時に写真を見て頂いた時に、「こういう作家がいるよ」ということで、山本昌男さんを紹介して下さいました。その方の作品を見て、初めて「作る写真」を意識しました。
植田正治さんや欧州のファッションフォト等、セットアップの写真も見てはいたのですが、自分が創作する上で意識したのは山本さんの作品がきっかけです。
「かつて見た世界(The Past World)」より。
「かつて見た世界」のコンセプトを教えて下さい。
「かつて見た世界」は、「空間に記憶は刻まれる」というコンセプトで、「空を泳げたらいいな」とか、子供の頃にしか見えなかった世界、空想の世界を具象化したものです。
イメージは頭の中に浮かんでいたのですが、最近まで形にしてきませんでした。写真学校の卒業制作があり、その時は琵琶湖の写真を出そうと思っていて、その直前にグループ展のお誘いを受けました。「ここで琵琶湖の写真が被ってもなあ」と考えていて、以前から構想していた「かつて見た世界」を具体的に制作し始めました。
そのシリーズを発表したところ、反応が良くて正直驚きました。どちらかといえば「これは写真じゃないよね」って言われると思っていたので、びっくりしました。
「21g」より。
「21g」の方はそのあとに作られたシリーズですね。
そうです。「人間は死んだら21gだけ軽くなる。それが魂の重さである」と、ある実験結果が発表されて話題になりました。
真意はともかく、地球上で一日約15万人以上がなくなっているので、死は身近な存在です。私は天国のようなものがあると信じているので、その移り変わった向こう側の風景をみたくて作り始めました。
一人でいるのが好きだったというお話をしましたが、そういう時に悶々と、こういうことを考えていたというか...。
あと私の父は「生死」や「向こう側の世界」とか、そういう話を躊躇なくする人で、その影響もあります。普通に考えて、家族の食卓でそんな会話にはなりませんよね(笑)。それを何の気なしに喋り出すような親だったので。
「死んだらどうなるか」とか普通は食卓で話さないテーマですね。
「身近にいる人が亡くなったら、不思議なことが起こる」という話はありますよね。父が「僕も死んだら家に電話をかけるよ」とか、よく言ってます(笑)。
「21g」より。
「御苗場」は3回参加されています。
はい。1年目でも反響はあったのですが、「1度だけ出して終わり」ではいけないなと思い、無理やりにでも出展して、色んな人と関わってみようと鼓舞しました。
始めは自分が作りたくて制作していたものが、こうして何度か展示の経験を重ねることで、「写真は第三者がみて成り立つものなんだ」ということを、感じるようになりました。そのための会話やコミュニケーションをとることにも、少しずつ慣れてきましたし、自己満足ではダメなんだと思うようになりました。
私自身「意図がわかりやすい写真」と「全然わかない」という表現の中間あたりの写真に自分が惹かれるので、無意識のうちに自分の作品もそうなっているのかもしれません。
今回の展示では、未発表作品、映像作品もあります。是非KanZan Galleryに足を運んで、奥さんのオリジナルプリントを見て頂きたいですね。ありがとうございました。
奥 彩花写真展「Don't be afraid.」
会場:KanZan Gallery
会期:2017年3月4日〜3月31日
住所:東京都千代田区東神田1-3-4 KTビル2F
URL: http://www.kanzan-g.jp/
奥 彩花 Photographer
京都府生まれ。日本写真映像専門学校卒業。
六甲山国際写真祭でEMERGING PHOTOGRAPHERS' SHOWCASE 2016に選出される。個展「Water World」、SHIBUYA STYLE vol.10、TAIWAN PHOTO2016など出展多数。子どもの頃、目にした景色や自分が想像していた世界に基づいて作品を制作している。
www.ayakaoku.com
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