- 2016.03.14
Photographer伊藤彰紀
「デジタルカメラバックシステム」のトップクラスであるフェーズワン。
そのフェーズワンやIQシリーズのユーザーであり、第一線で活躍中のフォトグラファー5名に焦点を当てた「フェーズワン5」企画。
第5回目は、ファッションをベースに雑誌や広告で活躍中の伊藤彰紀さん。「新しいテクノロジーに投資をして自分のモチベーションをあげ、さらに良い仕事をしていきたい」と語る伊藤さんに、話を訊いた。
伊藤さんは、普段からフェーズワンを使っているとお聞きしていますが、ユーザーとしては長いのでしょうか。
おもむろに最新機種のXFを バックから取り出した伊藤彰紀さん。
おおっ、発売されて間もないXFシステムですね。もう導入されているのですね。
持ってきました(笑)。
少し遡りますが、デジタルカメラ歴は長いのですか。
昔、NYに住んでいた頃、自分がアシスタントをしていた当時は、4×5や8×10カメラを使っているフォトグラファーに付くことが多かったんです。
大判カメラ(フィルム)での撮り方や考え方などを学ぶうちに、「日本に帰国したら、ラージフォーマットのクオリティで勝負しよう」と、考えていました。
僕は12年前に戻ってきたのですが、その頃はちょうどフィルムとデジタルカメラが過渡期な状況でした。まだ中判のデジタルバックを個人で所有している人がほとんどいなくて、多くのフォトグラファーが(機材レンタルの)高額な請求書を編集部に投げていた時期でしたね(笑)。
でも、「この状況はチャンスだな」って思ったんです。デジタルバックはもちろん安い買い物ではないですが、人よりも先に投資をすることによって、かなりの武器を手にいれることができます。
マーケティング的にも、ラージフォーマットのフィルムで撮るように、中判デジタルでクオリティの高い写真を提供することはメリットがあると考えて、いきなりフェーズワンを購入しました。それと平行して、Photoshopの技術も身につけていきました。
いきなりフェーズワンを導入されたんですね。
フェーズワンP30でした。だから帰国後は35デジタルは逆にほとんど触ったことがなかったんです。
ちょうど新製品(P30)が出た直後で、震えながら買いにいきました(笑)。
大判フィルムカメラがベースになっていたから、デジタルになってもクオリティにはこだわられていたんですね。
そうですね。当時は、バキッと全ピンみたいな写真がすごく好きだったので、レンズも含めて、少し絞った時のフェーズのシャープさが合っている気がしました。
そこから6年間くらいで、撮影スタイルが随分変わりました。手持ちで動きながら撮ることも増えてきて、スタジオはもちろん海外ロケまで、ほとんどの撮影を「フェーズワンの手持ち」で撮っていました。
使い方が半端なかったので、シャッターを何度交換したことか...(苦笑)。月に1回位はシャッターが壊れていました。
機動力は僕の撮影スタイルでは重要で、でもクオリティには妥協したくなかったので、35のようにバシバシシャッターを切っていました。部品交換の時間が必要なので、P40+を追加で購入し、2台で回していました。
修理へ出しにいくと、「シャッター数は日本一だね」って、ショップの方に言われました(笑)。
シャッターとか、駆動部分はどうしても消耗してしまいますね。
仕方ないですね。ただ尋常じゃないシャッター数を切っても、デジタルバックの方は、今まで一度も壊れたことはないですね。なので、P30は今でも使っています。
レンズも80mmと55mmを3本ずつ持っています。レンズシャッターも壊れちゃうので。それで、控える様になりました(笑)。
えっ、やめたんですか。
はい。3年間スパッと(笑)。
以前アシスタントに付いてもらっていた子が一本立ちして35デジタルを使っていたので、少し触らせてもらったら、まあフォーカスが速い!
それとデータサイズも小さい分、転送スピードも速いので、これはいいと...。
3年間くらい35デジタルがメイン機種でした。その頃はそんなに広告の仕事も多くなかったので、広告の仕事があるときだけ、フェーズワンをレンタルで使っている感じです。
そこからまたフェーズワンに戻るきっかけはなんだったのですか。
「新しい機種(XFシステム)が出て、フォーカスが素晴らしい」という噂を聞いたんです(笑)。それで、一度デモ機を貸して頂きました。
使ってみたところ、今までとはまったく違うフィーリングで、「かなり速い!」と感じました。35デジタルのフォーカススピードには及ばないですが、中判レンズの重みを感じさせない、かなり35に近い感覚で撮影ができました。
ちょうどその頃、ある広告で、「モデルが歩いてきているシーンを中判で撮ってほしい」というオファーがあったんです。「フォーカスどうしようか」と悩んでいるときに、この機種をテストできて、ラッキーなタイミングでした。
最近は広告の仕事も増えてきて、クオリティとデータサイズが求められるケースも多くなってきたので、これはまた「10年前と同じようなタイミングがきた!」と思って、XFシステムを導入しました。
完全復活です(笑)。
新しいXFはいかがですか。
某通信会社の広告もXFで撮りましたけど、フォーカスのスピードと精度はまったく問題なく、撮影もスムーズに進みました。
雑誌でも、逆に今まで手持ち撮影がほとんどでしたが、ちょっと感覚を変えて三脚を使って、XFで撮っています。
雑誌サイズであれば、35デジタルでもデータ量的には問題ないのですが、実際にモニターにパッと画像が出たときの印象が違うんですよね。すごくシャープなのにナチュラル。フェーズならではの色彩とCapture Oneに表示されるスピード感がいい。
クライアントに対してのプレゼンテーションとしては、ストレスがなく最高にいいシステムだと思います。
撮影後のレタッチはどのようにされていますか。
1年半ほど前から専属のレタッチャーを雇っているので、自社内でレタッチするパターンと、外のレタッチャーでは須戸さん(WHITE STOUT)にお願いすることが多いですね。
撮影現場でも仮のレタッチをされるとか。
現場でもある程度のものは作りますね。50%くらいのデータサイズでJPEG現像をしてトーンを合わせたり、簡易ですが肌のレタッチをしてあげて、できる限り良い状態で見せられるように心がけています。
それは撮られる側には嬉しいですね。
はい。そう思われるようにがんばっています。
現在、35デジタルでも高画素タイプが出てきています。同じ3000〜5000万画素ではありますが、中判デジタルのメリットは何でしょうか。
自分にとってはフィルムを使っていた時の感覚と同じで、8×10〜35mmの時代と、現在の35デジタルと中判デジタルカメラの感覚は似ています。
フェーズで撮った画像の方が、レタッチをする際もグラデーションの豊かさと奥行きを感じるんです
RAWデータを比べてみると、センサーサイズの違いや大判レンズから生成されるフェーズのデータの方が写真に深みがあります。35デジタルの方が、いい意味でも、悪い意味でも浅い感じがします。
空の青さのニュアンスとか。ロケーションシューティングの場合、その浅さが「今っぽい感じ」でもあるんですけどね。
ロケでも、しっかりと奥行きがあって、空のグラデーションを出したい場合、被写界深度が深いビジュアルを求める場合は、フェーズで撮りますね。
あと作品撮りもよくやっているのですが、今まではずっとP40+を使っていました。 三脚を立ててポートレートをしっかり撮りたい時はフェーズですね。最終的には、大きなプリントで見せたいので、その時に、「リアルな人間の肌にどこまで近づけられるか」、ということを重視して制作しています。
仕事では極端なことはしませんが、画像を開いて、Photoshopのトーンカーブを落とした時によくわかります。人に露出を合わせてから空をあとで焼き込むと、フェーズワンで撮ったデータを焼き込んだ時の方が圧倒的にキレイなんです。
レタッチャーも「フェーズのデータの方がやりやすい」と言っていますが、寄りのビューティだと、解像感が高すぎてレタッチャー泣かせな部分もありますね(笑)。
XFの方がHシステムよりもボディが少し大きくなっていますが、三脚撮影が増えましたか。
少し重たくなりましたが、そんなに大きさの違和感はないですね。新型でも9割は手持ちで撮っています。フォーカスが優れているので、持ちながら狙いたくなるんです。作品でしか出せませんが、素の肌感はフェーズワンがいいですよ。
スタジオとロケ撮影は、どのくらいの比率ですか。
ちょうど半々くらいです。雑誌は圧倒的にロケですね。カジュアルな撮り方の時は、35デジタルも使いますが、皆がそうなっている状況なので、もう少ししたら「カッチリ撮る」流れがくる気がします。
今年の展望や今後やってみたいことはありますか。
継続して作品を撮っているので、今年か来年にはその作品をまとめて発表したいなと思っています。それこそ全部フェーズワンで撮ってますよ(笑)。6年間くらい撮っているので。それが第一の目標です。あとは、スチルカメラではないですが、ムービーキャメラを買ったんです。
動画機材ですか。
はい。6Kが撮れる機材を買いました。
それはそれで、フェーズワンでも35デジタルでもない(僕の中では)新しい展開の一つです。ストーリー性を感じるような写真を意識して撮っている中で、その部分をもう少し打ち出したいなと。
ムービーを撮って、そこからコマ抜きをして雑誌にも使用しています。最近はそれも面白いですね。ムービーで撮ると、映像自体も電子媒体やWebで使ってくれたりします。スチルの延長線上なのですが、ムービーのディレクションを始めています。
現場でムービーキャメラを出したら、編集部やスタッフは驚かれるのでは。
そうなんです。それが昔、P30に投資した時と似たような感覚がありますね。
ちょっとサプライズな感じですね。
そのリアクションが面白いですね。あと、ファッションムービーの撮影はよくありますが、CMはまだ1度も撮ったことがないので、口コミでそういう仕事が来ないかなあと思って、待っています(笑)。
新しい機材やテクノロジーを積極的に導入されるタイプですね。
自分への刺激にもなります。XFを買った時もそうですが、モチベーションがグッと上がるんです。そこで新たな表現を試みたり、新鮮な気持ちになりますね。
それといいものは大事にしますね。僕はボロボロになっているカメラを見るのが嫌なタイプなんですが、アシスタントも35デジタルだと(何台もあって)けっこう粗末に扱うんですよ(笑)。
でもフェーズワンだと、さすがにアシスタントも、すごく丁寧に扱う(笑)。機材ですが、佇まいに緊張感があるんでしょう。アシスタントが写真を学ぶ上でも、このカメラを買ってよかったと思います。
今後はこのXFで、今まで以上にクオリティに高いビジュアルを作っていきたですね。
伊藤彰紀 Photographer
1977年 生まれ。
1996年 渡米。
2001年 ニューヨーク州立大学バッファロー校卒業。
2003年 フリーフォトグラファーとして独立後、帰国。
2012年 aosoraに所属。
雑誌、広告を中心に活動中。
http://aosora.info/akinori_ito/
- 2018.06.29 「SHOOTING PHOTOGRAPHER + RETOUCHER FILE」連動企画 レタッチ、CG表現の現在とこれから
- 2018.06.25 「脳よだれ展2018」制作メンバー座談会
- 2018.04.18Photographer / Image Director shuntaro
- 2018.03.17Photographer 宇佐美雅浩 「Manda-la in Cyprus」
- 2018.03.16 Art Potluck(アートポトラック)緊急座談会
- 2018.03.11Photographer 「The Professional Voice」vol.9 井上浩輝
- 2018.02.18Timelapse / Hyperlapse Photographer 「The Professional Voice」vol.8 清水大輔
- 2018.01.24Photographer 皆川 聡
- 2017.12.26Photographer 「The Professional Voice」vol.7 小川晃代
- 2017.11.27Photographer 「The Professional Voice」vol.6 土屋勝義
- 2017.11.10Photographer 星野耕作
- 2017.11.07Photographer 「The Professional Voice」vol.5 島田敏次
- 2017.10.13Photographer 瀧本幹也
- 2017.09.22Photographer 「The Professional Voice」vol.4 桃井一至
- 2017.09.15Photographer 「The Professional Voice」vol.3 勅使河原城一
- 2017.09.11Photographer 「The Professional Voice」vol.2 安澤剛直
- 2017.08.28Photographer 「The Professional Voice」vol.1 池之平昌信
- 2017.08.10Photographer 酒井貢
- 2017.07.27Photographer 中野敬久
- 2017.06.25Photographer 橋本英之
- 2017.03.16Photographer 奥 彩花
- 2017.02.17 EXCERIA Ambassador Member's Talk
- 2017.01.25写真家/ビジュアルアーティスト Nozomi Teranishi
- 2017.01.17Photographer 富取正明 _
- 2016.12.26Photographer 富取正明
- 2016.10.31メイキング 堀内誠 × 佐藤豪
- 2016.10.15特集 堀内誠 × 佐藤豪
- 2016.07.04映像作家 柘植泰人
- 2016.04.15Photographer 舞山秀一
- 2016.03.14Photographer 伊藤彰紀
- 2016.02.19Photographer 青木倫紀
- 2016.01.29Photographer 笹口悦民
- 2016.01.05Photographer 正田真弘
- 2015.12.16Photographer 大浦タケシ
- 2015.11.19Photographer 山本彩乃
- 2015.11.06Photographer ND CHOW
- 2015.10.14Photographer Fumito Shibasaki
- 2015.09.30Photographer 谷口 京
- 2015.09.13Photographer 角田みどり
- 2015.08.03Photographer shuntaro
- 2015.07.22Photographer Hasselblad × 西村一光
- 2015.05.14Photographer 上田義彦 / A Life with Camera
- 2015.03.20 LUX STYLING SERIES
- 2015.03.01Photographer 広川泰士
- 2015.02.26Photographer 宇佐美雅浩
- 2015.01.14Photographer HAYATO
- 2014.09.18Photographer 三戸建秀
- 2014.07.24 iino mediapro「Shooting in English」BOOK
- 2014.06.09Photographer 佐藤倫子
- 2014.05.27 映像作品「Natto Beauty × cutters」座談会
- 2014.03.25Photographer 魚住誠一
- 2014.03.12Photographer 近藤泰夫
- 2014.03.10Photographer 安澤剛直
- 2014.02.26Photographer 薄井一議
- 2014.02.05Event 『INFINITY VS. ~僕らとたった一人のモナ~』展
- 2014.01.30Photographer 太田好治
- 2014.01.16Photographer 小林伸幸
- 2014.01.09Photographer 蓮井幹生
- 2013.12.03photographer 栗林成城
- 2013.11.15Photographer 八木 規仁
- 2013.10.21photographer 秦 義之
- 2013.09.18Photographer 青木健二
- 2013.09.01Photographer 伊藤 之一
- 2013.08.30Photographer 伊藤 之一
- 2013.08.27Photographer 薄井一議
- 2013.08.09Photographer 伊藤 之一
- 2013.08.07 DZ-TOP
- 2013.06.28代表取締役/マネージャー・プロデューサー インタースタジオ 園江 淳
- 2013.06.20Photographer 渡邉 肇
- 2013.05.28 10TH ANNIVERSARY SPECIAL EXHIBITION「VISION」
- 2013.05.21Photographer 太田好治
- 2013.05.08Photographer 舞山 秀一
- 2013.05.07Photographer 舞山秀一
- 2013.05.01株式会社ピクトリコ 清藤禎樹
- 2013.03.27Photographer 大和田良
- 2013.02.08Photographer TAKAKI_KUMADA
- 2012.12.13photographer 鶴田直樹
- 2012.10.23 株式会社テール 千々松 政昭
- 2012.10.16photographer Alejandro Chaskielberg
- 2012.10.09photographer ND CHOW(アンディ・チャオ)
- 2012.07.08株式会社ライトアップ 横川哲哉
- 2012.06.22アートディレクター 梅沢篤
- 2012.06.06アートディレクター 千原徹也
- 2012.05.10特集 JAPANESE HAIR BEAUTY SHOOTING
- 2012.03.19Photographer 勅使河原城一
- 2012.01.10photographer 伊藤之一
- 2011.12.22DNPフォトルシオ 川口和之
- 2011.12.14特集 3D Hair Beauty Shooting
- 2011.12.05Photographer MICHAEL THOMPSON
- 2011.10.21特集 Love4 Skin Beauty
- 2011.10.03Photographer 宮地岩根
- 2011.09.20株式会社館岡事務所 佐藤佐江子
- 2011.09.07Creator Weiden+Kennedy Tokyo & DYSK
- 2011.08.26デジタルカメラマガジン編集長 川上義哉
- 2011.08.09イイノ・メディアプロ 増田昌大
- 2011.07.13photographer 上田義彦
- 2011.07.11株式会社スタジオD21 中田輝昭
- 2011.06.21Photographer 佐分利尚規
- 2011.06.21Photographer 富田眞光
-
「SHOOTING PHOTOGRAPHER + RETOUCHER FILE」連動企画 レタッチ、CG表現の現在とこれからビジュアル・コミュニケーションがどうのようになっていくのか、レタッチ、CG表現の「現状と未来」を語ってもらった。
-
テーマ作りから具体的なビジュアル制作の苦労と面白さ、見る人の脳内にその欲求を掻き立てる「脳よだれ展2018」の見どころを訊いた。
-
Photographer / Image Director
shuntaro「ドローン・ライティング」は 選択肢の一つとして当たり前になっていくと思う