shuntaroさんがドローンを撮影に使い始めたのはいつ頃からですか。

2015年1月頃からです。ドローンメーカーであるDJIの代理店をしているスカイリンク社と、たまたまつながりを持ったことをきっかけに、ドローンを使った空撮のテストをするようになりました。


当時出来立てのドローン販売店だったスカイリンクのWebサイト用映像や新製品PR映像の制作も依頼され、その中で試行錯誤を重ねながらドローンを使いはじめました。


当時は「動画でドローンを活用する」という基本的な活用の仕方でしたが、2015年の9月頃、外国人のユーザーの撮影した「ドローンに照明をつけて撮影した映像」がyoutubeに上がっているのを、偶然発見ました。その時は、定常光ライトを装着して飛ばしていたと思います。それで建物や森を照らし、長時間露光をしている写真撮影のメイキング映像でした。それを見て「面白いな!」と思ったのと、自分の中で新しいことができそうな可能性を感じました。


shuntaroさん

ドローンは、小型カメラを積んで空撮するというのが一般的ですからね。

当時ドローンに照明機材を載せようとは思わなかったですよね。でもありだなと(笑)。


ただ、自分が持っている機体では、積載重量の問題もあり照明機材の搭載は難しい。実現させるのはまだ現実的ではなくて、ドローンの進化も含めて、しばらく様子をみていました。

ドローンに載せるのは、GO-PROや小型カメラ、大きくても一眼レフカメラまで、というイメージを持っていました。

そうですね。載せるにあたっては定常光も考えましたが、光量的にスチルでは厳しいものがあり、バッテリータイプで、ライトとしても優秀なProfoto B1がいいのではと考えていました。B1の大きさと重量を搭載できるかどいうかというのをチェックしたのが2015年末頃です。


スタッフと検討した結果、「いけそう!」という話になりました。それで、先にSHOOTINGにドローン・ライティングで記事が出ているフォトグラファーの星野耕作さんと、それぞれ別コンセプトでやろうと企画を立てました。

ドローン自体の操作、操縦はされていたのですか。

基本的には、ドローンで空撮をする時は、僕が搭載されているカメラの操作と撮影をして、ドローン本体の操縦は別のスタッフが行っています。ドローン自体の知識は結構あったし、空撮では自分で操縦することも一応できます。


基本的には撮影を担当する人間がディレクションすることが多いので、自分は絵の見せ方に集中し、ドローンの高度やアングル、動きなどはオペレーターに指示することが多いです。

雑草や木が生い茂っている場所ですが、こういう所で高所からの照明機材は立て込みにくいですね。

これは九十九里の海岸沿いにある防砂林で撮影しています。後ろが海なので高い建物もなくヌケがいい場所です。
ロケハン時に偶然壊れた柵を発見してこの場所にしました(笑)。何かが空から降りてくるようなSF的な世界観が作りやすかったです。

ドローンを飛ばすには許可が必要な場所も多いですが、海岸沿いなら大丈夫なのでしょうか。

人口密度で飛行可能かどうか定められており、基準以下であればいくつかの条件を満たせば許可無しで飛行可能です。今回は基準を満たしているので基本的には大丈夫ですが、 念のためこの防砂林を管轄している管理事務所に許可をとって撮影しています。

時間は何時ころに撮影されているのでしょうか。

17:00頃から撮影を始めました。日が沈んでからの撮影ですが、昼間に到着してロケハン、セッティングをしています。



撮影をスタートした頃はもう少し明るかったですが、日が落ちると真っ暗になるので、セッティングするのは少し焦りました(笑)。

今回の撮影のテーマ、コンセプトを教えてください。

昔「トワイライトゾーン」というアメリカ制作のSFドラマがあったのですが、僕が子供の頃よく見ていました。ミステリーとかSFのそういう世界観が昔から好きで、今回も「トワイライトタイムに何かが起きる」という撮影をしたいと考えていました。


その延長で、グレゴリー・クリュードソンが「Twilight」という写真集を出しているのですが、その写真も学生時代から好きだったんです。ただその写真は「映画みたいなセッティングを組んで、大判フィルムで撮る」という、かなり大掛かりな仕掛けと費用をかけた作品なので、その世界観を自分がやろうとしても到底不可能でした。


でも今回、ドローン・ライティングを行うことで、狙った雰囲気の撮影が実現可能なところまできたので、「Twilight」ではアメリカの田舎で起こった不思議な出来事でしたが、今度は日本の地方都市などを舞台にストーリーを考え「Twilight」へのオマージュを込めてコンセプトを作りました。これが一番の主旨です。


設定としては、「地方都市に住んでいる女の子が『今の自分』と『憧れている自分』の間にあるギャップを感じて悶々と過ごしている。そんなある日、不思議なことが起こって『憧れている自分』を追いかけて異世界に誘われてしまう」というイメージです。この撮影は僕の今の実家があるあたりで撮影を行なっているのですが、地方都市独特の閉塞感を感じることがあって、それがストーリーの起点になっています。今回は、スチルを僕が撮影し、別のスタッフが映像制作しています。

具体的にはどのようにライティングしているのでしょうか。

映像も撮るのが前提なので、地上の照明は定常光を使っています。照明さんもチームに加わってもらい、LEDの照明機材を4灯準備しました。定常光に関しては発電機を回しています。ストロボは、地上からもB1を1灯、ドローンから1灯照射しています。


ドローンからの照明も、映像を撮る時はバッテリー式のLEDライトに積み替えて撮影しています。ただB1ほどの光量はなかったので、ここまでの絵を動画では撮るのは難しかったです。


ドローンへのストロボとLEDライトの積み替え作業は10分ほどで出来てしまうので、すごく早かったですね。あとスモークマシンを2台使っています。ただ当日は風が強くて、煙が横に流されてしまうので苦労しました(笑)。

海岸に近い分、風が強いと大変ですね。

そうなんです。強風で雨も少し降っていたので、まずドローンが飛ばせるかどうか心配でした。ただ今回使用したドローンはスペック上では風速8m/sまで耐えられるので、よほどの強風にさえ注意すれば大丈夫な感じでした。


カメラは、自分の持っているフェーズワンIQ3に、1億画素のデジタルバックを付けて撮影しています。レンズは色々使っています。メインの引きはシュナイダーの55mmで撮っていて、見上げる横顔のカットが80mm、あと35mm、150mmも使っています。上の写真の場合は、スモークをたくさんたいて、奥から煙に光をあてています。

ドローンに照明機材をつける時に、空から光をあてる位置や照射角度はすぐに詰めていけるものなのですか。

まず、ライトはドローンに固く固定させるので、飛ばしたら角度は変えられません。そのためテストで飛ばしてみて確認します。


角度調整がフィックスしたら、本番は僕の横にオペレーターに指示を出す人が一人いて、ドローンを見やすい位置にいて操縦しているオペレーターに無線で指示を飛ばしながら撮影しています。チームで連携すれば、それほど時間がかからずセッティングできますね。








カメラはフェーズワンXFとIQ3デジタルバック(1億画素)、ストロボはProfoto B1(500Ws)を使用。

上空からライティングしたものは、スポット的に使いたかったので、スヌートをつけて500Wsでフル発光しています。距離がある分、光が拡散してしまうのでさらに黒ケント紙でものすごく細く絞ってあてています。(下写真)


基本的にドローンにストロボを付けて撮影していますが、最後のカット(写真下)だけは、ドローンに空撮用のフェーズワンを付けて俯瞰から撮影しています。舞台照明用のスポットライトを使っているので、光の方向性はかなりはっきりしています。


カメラや照明機材も専用のフレームに取り付けるだけなので、素早く交換できて便利です。空撮に関しては、フェーズワンのドローン専用ソフトがあるので、アングル確認はもちろん、PCのモニターに拡大表示させてピント確認することもできるので、便利です。


カメラを固定できるシステムがあるので、フェーズワンでも簡単に搭載することができる。


空撮をコントロールできるフェーズワンのソフト「iX Capture Mobile」。これを使ってPhaseOneの設定操作がワイヤレスで変えられる。地上からコントロールでき、モニターも拡大表示できるので便利。 http://industrial.phaseone.com/Drones_Solution.aspx

ドローンのセッティングは、15分くらいでできてしまうので、やり始めると早いですね。むしろ地上のライトの方が、セッティングが大変でした(苦笑)。

今回、ドローン・ライティングは初めてのトライということでしたが、やってみて感じたメリットはなんでしょうか。

他の照明機材をあの高さまで上げるのは準備が大変じゃないですか。そう考えると、相当手軽にできると感じました。


ドローンの場合は飛ばしてしまえば自由自在に調整できるので、詰めていくスピードが早いし、位置もすぐ動かせます。あと場所を選ばないので、どこからでも撮れるし光を当てられます。多灯ライティングには有効です。定常光との組み合わせや、ストロボ同士でもプロフォトのAir リモートのようなシステムであれば、地上もドローンからの露出も自由に変えられます。これは便利です。


ドローンはレンタルできますし、借りた場合、機体とオペレーターがセットになっているので、こちらがディレクションすることで空撮も撮れます。表現の幅が広げやすいですね。


デメリットとしては、今回一番心配したのは風です。ただ大型の機体であればかなりそこもクリアできますし、いずれにしても外でライティングをしようと思ったら、色々な準備は必要ですね。

ドローンの空撮は大流行していますが、気をつけないといけないポイントはありますか。

オペレーターがちゃんとしているかどうかが最重要です。業者へ問い合わせた時に状況も聞かないで「飛ばせますよ」「大丈夫ですよ」って簡単には言うのはむしろ危ない(笑)。高いカメラも積みますしね。逆に慎重すぎるくらいでちょうどいいと思います。

バッテリーの持ちはどうなんでしょうか。

僕自身がドローンでは撮り慣れているので、撮影しながら「だいたいこの位の時間が経ったら下ろさないといけない」というのがわかっているので、特に心配はなかったです。


B1はバッテリーストロボとして優秀なのでいいのですが、ドローンに積める明るい定常光ライトが色々出てくれるといいですね。アジアのメーカーで発売されている製品もあるらしく、MV等の撮影でも導入され始めているようです。

具体的にドローンとオペレーターの方をお願いすると、どのくらいの金額感になりますか。

今回協力してもらったスカイリンクなら(参考として)1Day 15〜25万円の間くらいが一つの目安になると思います。

ドローン・・ライティングはこれからの手法の一つとしてぜひ広がってほしいです。

色々可能性はあると思います。次にやってみたいのが、「ドローンからのトップ光を活かしながら、もう1台のドローンで撮る」ことです。光もカメラもダブルで飛ばせれば、面白い絵になるのではと考えています。あと車や人を走らせながら、上からライティングするとか。スポーツとかアクティブフォトでも面白い表現ができると思います。



触ったことのない人でも操縦やオペレーションを任せられるなら、ドローン・ライティングのハードルはかなり下がりますね。

そうなんです。普通にライトを組む手段の一つとして捉えればよいと思います。しかも移動が楽ですし、すごく便利な機材です。ドローンということさえ、忘れちゃってもいいかもしれないです(笑)。写真、映像表現を広げていくための方法として広がっていくといいですね。

ドローンに関しては航空法や許可取りも重要ですね。

そうですね。小型のドローンを自分で飛ばすには、知っておくべきことがたくさんあります。ただ仕事で借りる場合は、ちゃんとしたオペレーターに相談すれば、基本的にドローンまわりは全てやってくれると思います。


飛ばせる地域や高さ、どこに許可を取るのか等、色々慎重に進めないといけません。また無線が届く範囲や操縦の技術もあります。
機材トラブルだけでなく、電波や風が読めなくてカメラを積んだまま墜落したり...。過去にトラブルをたくさん見てきたので(苦笑)、慣れていない人はまるごと任せて、撮影のアイデアに集中する方がいいですね。


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