- 2014.01.09
Photographer蓮井幹生
雑誌や広告、CFの世界で活躍するフォトグラファーの蓮井幹生氏。
広告写真にもいち早くデジタル撮影を取り入れ、デジタル撮影のポイントを「どういう画質に仕上げたいかに尽きる」と話す。
そんな氏が中判デジタルの表現に求めているものは何か。話を伺った。
どのような撮影に中判デジタルを使われているのでしょうか?
- 蓮井 幹生氏
作品ではあまり使いませんが、仕事の撮影で中判デジタルを使うことが多いです。他にもキヤノンやシグマのデジタル一眼レフを使う場面もあります。中判デジタルはB倍の大きさで写真を使われることが多い広告の仕事では、特に重宝しています。やはり画質面で気をつかうことが多いので、(現在使っている)6,050万画素という画素数は魅力的ですね。
しばらくリーフのAptus-II 5を愛用していたのですが、2,200万画素なので解像度が足りていないかなと感じる場面が多かったので、1年ほど前に手放しました。でもAptus-II 5はハッセルブラッドのVマウントのボディに装着できたので古いCレンズが使えたり、低感度のISO25で撮ってもレンジが広く、デジタルっぽさを感じない階調表現が得られるので、すごく気に入っていました。デジタル一眼レフのハイエンド機と同等程度の画素数しかありませんが、CCDセンサーのサイズが36.0×48.0mmとデジタル一眼レフよりも大きいので、階調表現の面ではすごくよかったですよね。ただ、シンクロの具合が悪く、急に撮れなくなるトラブルが多かったので、安定性が高いフェーズワンのP65+に買い替えてしまいました。階調表現の面ではリーフのデジタルバックは気に入っているので、いずれ8,000万画素のAptus-II 12を試してみたいと考えています。また、最近Aptus-II 7を使ってみたところ、画質がずば抜けてよく、思わず購入してしまいました(笑)。
そもそも中判デジタルを使ってみようと思ったきっかけを教えてください。
10年以上前にニコンから600万画素のデジタル一眼レフ「D1X」が発売されたのと同時に購入し、雑誌広告などで使い始めたことが仕事にデジタルカメラを取り入れたきっかけです。元々AD(アートディレクター)をしていたのですが、僕がADをしていた頃はまだ写植の時代で、紙に打った文字を切り貼りしたり、写真をトレスコープであたりをとって貼ったりしていました。そんな時代に、突如コンピュータを使ってデザインする新進気鋭のADが出てきたんですよ。話を聞いてみると「これからはコンピュータがないとデザインできない時代になる」と言われ、初めは「そうなのかなぁ」と思っていたのですが、あれよあれよという間にIllustratorが使えないと仕事を請け負えないような時代になってしまった。その間7〜8年程度だったと記憶しています。
そういった出来事を目の当たりにしていたので、ニコンからプロ機としてD1Xが出たと聞いて、「今からデジタルに取り組んでおかないと、10年後にはデジタルが扱えないフォトグラファーには仕事がこなくなってしまうのではないか」と思い、すぐに購入していろいろと試し始めました。Power Macintosh 7500を購入してPhotoshopの勉強をしたり、デジタル一眼レフのプロ機の最新機種が出る度に買い替えたりしていましたね。でも画質の面で物足りなさを感じることが度々あったので、駅張りポスターなどの広告にも使えるような高画素の中判デジタルが出たらすぐに手に入れようと常々考えていました。
画質以外で中判デジタルに求めていることはありますか?
デジタルの製品は非常に優秀になってきています。その反面、デジタルカメラの開発の着地点が「バランスがよく、信頼性があって、高精細・高コントラスト・高発色であること」という同方向に、全カメラメーカーが向いてしまっているように感じています。ということは、フィルム時代と比べて個性がなくなってきてしまっているように思います。そのことに対する善し悪しは置いておいて、各社が目指している着地点が似たようなところであるならば、プロとしてカメラ機材に求めるところは、「トラブルがない安定性のある信頼できるカメラ」なのではないでしょうか。だから、実は中判デジタルにもなるとイメージセンサー(撮像素子)の画質がよいことにはそう大差はないので、僕はレンズの選び方によって描写力や画質を変えています。皆さんも「大きな高画質のイメージセンサーと何のレンズを組み合わせるのか」という部分に注目して、表現のバリエーションを広げていってほしいですね。
デジタル撮影のポイントは、どういう画質に仕上げたいかということにあります。僕が中判デジタルの表現に求めているものは"力強さ"。何が写真に力強さを感じさせるのかというと、暗部がどこまでもつぶれずに再現されていることに尽きると思います。暗部がつぶれてしまうと情報量が少ない平べったい写真になってしまい、力強さが感じられません。P65+やAptus-II 5は暗部の階調がすごく豊かで、暗い部分をどこまで暗くしても階調はしっかり残ってくれます。たとえば、暗部の階調がつぶれていると思っても、現像の段階でCapture Oneで見てみると、暗部の階調がきちんと残っていてちゃんと立ち上がってくるんですよ。暗部の再現力が非常に高く、画像処理がしやすいんです。そういった意味で、中判デジタルは広告写真に向いているといわれているのだと思います。
オススメのレンズはありますか?
古いレンズになりますが、一番のオススメはハッセルのCFレンズとCレンズです。ただ、Cレンズに関していうと個体差があるレンズなので扱いに注意しなければなりません。もちろん、デジタル専用に開発されたレンズも積極的に使っています。画素数が高い昨今のデジタルカメラで使うのであれば、デジタル専用のレンズのほうが解像力が高くきれいです。フィルム時代にレンズの味を楽しんでいたように、撮る目的として「古いレンズの味を楽しみたい」と考えるのであれば、Cレンズくらい古いほうが楽しめますね。中途半端なレンズだと、解像力も味も楽しめないのであまり好きではありません。
フィルム時代はフィルムを換えることによって画質を変えることができました。目的によって、モノクロ、カラー、ネガ、ポジ、低感度、高感度などからフィルムを選んで表現していたので、レンズに関してはそれほどバリエーションがなくても問題ありませんでした。デジタル時代になって、画質を決めるものがカメラになりました。しかも、そのカメラもイメージセンサーの大きさの違いはあれど、絵づくりの方向性が似たり寄ったりになってきているので、最終的に画質を決めるのはレンズになっているように感じています。だからこそ、最新のレンズから古いレンズまでより多くのバリエーションが必要で、より多くのレンズを装着できるカメラが必要なんですよね。僕は常時7本程度のレンズを使っています。
今後の中判デジタルの展開に求めることはありますか?
写真やカメラを楽しむ人たちの裾野を広げていくために、低価格て買える2,000万画素程度のアマチュア向けの中判デジタルを作ってもらいたいですね。ボディはコンパクトなサイズ感で、あおりでの表現も楽しめる蛇腹式で、後ろがスライドできるものなんて面白いのではないでしょうか。マウントは、2〜3万円程度で手に入る古い4×5判のレンズがつけられるジナーマウントだと、いろいろなレンズが試せるので楽しいかな。全部で70万円くらいで揃えられたら、僕くらいの年齢で、時間もお金も少しゆとりがあって、趣味として写真を楽しんでいるような人たちでも中判デジタルでの撮影を楽しむことができるようになって、面白い展開ができるようになると思います。写真はインテリジェンスがもたらす遊びなので、中判カメラにしかできない魅力=道具としての面白さを中判デジタルでも求めたいですね。
- <愛機> メイン機は、ハッセルブラッドH2にフェーズワンのP65+を装着して使用。予備として、富士フイルムのGX645AF ProfessionalにフェーズワンのH101を装着して使っている。1年程前にリーフのAptus-II 5を手放してしまったのだけれど、ハッセルブラッドのVマウントに装着でき、CレンズやCFレンズが使えたので表現の面でかなり気に入っていた。リーフの表現が忘れられず、最近Aptus-II 7を購入してしまった。
【作品】
Personal Work Model=CoCo(フライディ)
Personal Work Model=CoCo(フライディ)
Personal work
Personal work
蓮井幹生 Photographer
1955年東京都出身。アートディレクターを経て、写真家となる。主に広告を中心に活動するが、作品制作にも力を入れている。2009年、2010年と2年連続で作品がフランス国立図書館にパーマネントコレクションされる。また2013年5月に、自身初となる海外での個展をベルリンにて開催。2013年10月、代表作「PEACE LAND」がAppleから写真集アプリとして発売される。
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