- 2012.06.22
アートディレクター梅沢篤
グループの撮影は、事前準備、撮影現場、レタッチ、デザインワークと
簡単そうに見えて、実は大変な作業の連続だ。
グループ、大人数の集合写真をどのように構築していくのか、
EXILEやミスユニバースファイナリスト等、大人数の仕事を手掛けている
アートディレクターの梅沢篤さんに「大人数ディレクション」について話を聞いた。
集合写真をディレクションするようになったのはいつ頃からですか。
最初はSPEEDの広告がきっかけでした。これを作る際にマストな条件として、「縦位置で全身」という決まり事がありました。ただ、4人が普通に立っているという選択肢は自分の中になくて、そこから脱却しようと思ったのが、最初のきっかけですね。
その時にもう一つ気にしたのが「顔の大きさ」。SPEEDというグループの中で優劣があってはいけないので、顔の大きさを変えないで、前後の奥行をあまりつけたくないと考えると、自然に「上下の立体感による見せ方」というアイデアが浮かびました。
全員が突っ立っているのは何がいけないかというと言うと、足もとに行けばいくほど、つまらなくなってしまうんです。ただ足切れするだけですから。そういった時に、「どこにでも顔がある並び」というのはどうなんだろうと思い、まず立っている人と、しゃがんでいる人を配置したわけです。あとはその中間に台を置いちゃおうと。
座りの写真って、「中サイズなものに座るよりも、小サイズなものに座っている時の方がかわいい」っていう法則が何となく自分の中にあるんです(笑)。"ちょっとコンパクトになる感じ"がかわいいんです。
すごく広い台を与えてゆったり感を出すよりも、「ここしか座る場所がないから、ちょっとずつ詰めて!」ってなった時の方が、女の子のかわいさ、まとまり感、グループ感が出るんです。
AEON / HEATFACT広告 (AEON)
PH. 奥口睦 (Tsuji management)
なるほど~。
詰め詰めで、なおかつ立体感が出るというやり方です。でも実は横から見ると、かなり平面的なんですよ。奥行きをとらないから、顔の大きさもあまり変わらない。
全員が立っていると上しか目線がいきませんが、この配置だと上下左右、全員の顔に目がいきますね。
「数えにくい感じ」の配置がいいですね。バラバラッと振りまいたような。それが集合写真の醍醐味ですね。「整列」とは違うんです。
軸もセンターではなく、少しそこからずらしています。真ん中に人の顔がくることはほとんどしないかな。上下の顔の位置もずらしています。
配置は撮影現場で指示されるのですか。
- 梅沢篤氏
そうですね。フォトグラファーとスタジオに入って、ある程度セットを組んだら、自分があちこち座ります。今はデジカメなので、座る位置を変えて撮ったものをPhotoshopで合わせてみます。場所、顔の向き、ポーズが決まったら、「あなたはここ」って、指示していきます。デジカメになってから、現場でかなり正確なシミュレーションできるようになったのは助かりますね。
立ち位置のラフはどこまで事前に作っているんですか。
いえ、立ち位置のラフは作っていないです。いくつか自分の中ではまりそうな元写真とかは用意しています。ただそれは4人ではなくて、2人の組合せがほとんど。2人組みの予想外のポージングを組み合わせて、「これとこれでいい感じになるかも!」という想定をしながら現場に入ります。
衣装や並ぶ順番とかはどうするんですか。
前後関係はあまりないですね。基本的には上下ですが、SPEEDに関しては、元からの並び順がなんとなくあったりするので、自然に決まっていきますが、全員がモデルの場合は、さらに自由なので配置しやすいです。あとは、何となく顔のバックが白場にいくように逃げているんです。暗い背景に顔がのると溶け込んだり目立ちませんから。
何気によく考えられていますね。
そうなんです(笑)。あまり考えられていないように見えるのが、ゴールなんです。「考えてます感」が出てしまうとアウトです。でも顔がどっちを向いているのがいいのかとか、その辺りは経験値も大事になってきます。
ミスユニバースのファイナリスト達ですが、こちらは人数が多いですね。
これはまさかの「一発撮り」です。
まず集合している意味が欲しかったんですね。これだけ人数が揃うというのはショーの前か後しかあり得ません。そういう意味では「バックステージっぽい感じ」を目指しています。それ以外にこれだけ集まって集合写真を撮る事はないですから。バックステージから「ちょっと来てっ」て、声をかけて集まった瞬間、という設定です。
最後に拍手をしながらランウェイに出るじゃないですか。そのシーンのように全員にドレッシーな黒の服を着せ、髪も全員ひっつめにしています。後は要素としてゴールドしか入れていません。「黒」「ひっつめ」「ゴールド」。これで縛りを入れました。
ION Kesho / MISS UNIVERSE広告 (イオン化粧品)
PH. 半沢健
全員が似たような条件になると、それはそれで難しいのでは。
- Photo:koho kotake
そうですね。これだけ人数がいるのに、椅子は4脚しか置いていません。椅子取りゲームの原理ですね(笑)。まず全員を立たせました。SPEEDの時と一緒で、前に人を座らせたかったんですね。そのため最初に2人くらい座ってもらいました。15人いるので、まあ5分の1は座らせたいかなと。「フォワード少なめ、ディフェンス多め」の方が落ち着きます。手前にたくさん座って奥が少ないと安定しませんから。
手前が3、中が4、奥が8。3:4:8で15人です。今回の場合は、3:5:7でもよかったのですが、椅子に半掛けしたくなかったので、一脚につき一人ずつ座ってもらっています。
椅子の位置は、ちょっとトリッキーなんですけど、3脚は左を向いていて、1脚だけ、右側に向けています。この辺が大人数の考え方で、「セオリーをどこで崩していくか」が重要になってきます。椅子がハの字になっていくと、どんどんつまらなくなっていきます。椅子が左向きなのに、体の位置は左、右、左、右でセオリー通りなんですが、1脚だけバランスを変えることで立体感が出るんです。ここでは椅子と逆向きに座っている人がキーになります。
逆に座る事で、手前左側の女性の肘が演出でき、立体感を作るギミックになっていきます。全てを正統にやっていくと、「家族の集合写真」になってしまいます。そこにファッション性とか、写真的な面白さを入れるには、イレギュラー感を演出する必要があります。椅子を置いたり、体をひねることで「写真にゆがみ」ができます。それが重要です。
ポージングはどうするんですか。
ポージングは一人ずつ指示します。顔を見ながら「目が合っている人は指示されていると思って」と。それで「ちょっとこっち」とか、「腕はこんな感じ」とか、細かく決めていきます。一人ずつ決めていく間、他の人はその体制をキープして待っているわけです。 フィッティングも並んで持ってもらっています。その時から立ち位置を考えながらうろうろしてもらい(笑)、黒の衣装もたくさんあるんですけど、肩のボリュームがあるものとか、ないものとか、バランスを見ながら決めていきました。
EXILEの写真について教えてください。
EXILEについては、この「Rising Sun」というアルバムが最初の仕事でした。表紙とアー写の2種類あって、このケースは一人一人別に撮ったものを配置しています。
過去のジャケットは、空間の中に自由に人物が配置されているものや、顔にぐっと寄ったものなど、「集合写真」という概念とは少し違う感じだったので、自分は集合というのを立体的にやりたかった。配置的には2:5:7ですね。「Rising Sun」という唄だったので、上へ登っていくイメージも欲しかった。
バラで撮る場合は、配置の自由度があるので、撮影現場で誰がどっちを向いて、というのはそれほど厳密ではないです。各々のベストな写真をセレクトしていく中で、バランスを見ながら配置していきます。
EXILE / Rising Sun - CD (avex)
PH. KAZUNALI TAJIMA (MILD)
話が前後しますが、EXILEの前にそのファミリーの「三代目 J Soul Brothers」のジャケット写真を撮りました。フィルムでの一発撮りです。それがきっかけでEXILEの仕事のお話をいただいたんですけど(笑)。
このメンバーが座っているカットですが、場所は倉庫みたいなところで、バーを模した建て込みを作っています。ジャケットの場合はタイトルが入るので、手前に空間を作るためにテーブルを置いています。あとは丸椅子が2つ、一人はちょっとだけ腰掛けています。一人が立っていて、ソファーが一人掛け、一人掛け、二人掛け、という構成なんです。ここに三人掛けをドンと置いてしまうと、落ち着いてしまってダメなんです。わざと一緒に座れないように分ける。そして平均的な顔の大きさをキープしつつ、上下の立体感でうまく見せています。
三代目J Soul Brothers / FIGHTERS - CD+DVD (avex)
PH. WATARU (eight peace)
「一発撮り」は大変ですね。
そうですね。でも一発撮りの方が面白いなって感じます(笑)。緊張感も全然違いますよ。
それで、バラ撮りだったEXILEも、「あなたへ」のジャケットでは技を使いました。
これに関しては、一発撮りよりもある種難しいです。全員の配置も座る場所も決まっている上で、30分撮ったらいなくなってしまうという状況の中(笑)、保険をかける意味も含めて、一人3カ所ずつ、14人分、それを2カメで抑えています。
左)EXILE / あなたへ - CD (avex)、右)EXILE / あなたへ - CD+DVD (avex)
PH. TOSHIO ONDA (MILD)
「一発撮り」は大変ですね。
2カメにしたのは、CDとDVDがあって、ジャケットのイメージを変えないといけないという理由があったからです。金色ロゴの分は正面から撮っていて、もう一つの銀色ロゴの分は斜めから撮っています。フォトグラファーは一人なので、一カ所ごとに移動して撮っています。
画角も最初に全て決めます。メンバーどうしの重なりもあるので、後で別の角度のカットとは差し替えができません。その上で14人を完璧に配置していきます。これは、一発撮りにもない、単純な切り抜き合成にもない、最高な緊張感の中での仕事でした。
このような「集合写真」になると、意味が生じます。
「なせこれだけの人数の男達が集まっているのか」を考えた時に、この場所をラウンジにしたかったんです。そのためにソファーを置いて、白い腰掛ける部分があって...と、その要素だけを抽出しています。
箱の高さや大きさを変えたものを作り、ソファーは二人、二人、三人掛けのものを準備しています。
一番低い部分に人が座ることで、膝が上がってカッコ良く見えたりとか...。後ろに立てる場所、ソファーに座る人、白場に座る人、前に立つ人、それをバランスよく配置することで、立体感を出しています。過去の経験を全て役立てている感じです(笑)。
影も効いていますね。
左サイドから大きめHMIを打っています。後で少し付け足してはいますが。空舞台を先に撮っておいて、一人一人をまた別の人物用のライトで追いかけています。
「一発撮りと構築していく作業の合わせ技」とでもいうか、一発撮りの脳をレタッチの作業を含めてずっと使い続ける感じというか...。おかげさまで評判は良かったです。
その後の仕事が三代目 J Soul Brothersの「リフレイン」のジャケット。一発撮りです。雨の街角にいるイメージで、床だけを敷いて、背景は合成しています。
これは全員たったまま、ちょっとした前後関係だけで成立させています。いつもはあまりやらないパターンですね。奥行きは10mくらいあります。水で濡れている床に対して、雨の素材も後で入れています。これは合成に相当力を入れました
左)三代目J Soul Brothers / リフレイン - CD (avex)、右)三代目J Soul Brothers / リフレイン - CD+DVD (avex)
PH. 内田将二
合成がメインの場合、「背景に合う遠近感をどう演出するか」がテーマでした。この2つのジャケットは、並び方はほぼ同じで、顔や体の向きが違います。
構造としては2列になっていて、ずれた7人が向こうに向かって行進しているんです。それを、カメラアングルを変えて撮っています。撮る角度が変える事で遠近感が違ってくる。「行列を作っておいて回転」見たいな。ホリに対して斜めに配置して、みなさんはやはりポジショニングの勘が良いので、列を崩さず回転できるため、顔の向きだけ伝えるとうまく決まっていきます。
この時は内田将二さんが、8灯くらい使って、全員の顔に光があたるようにライティングしています。なおかつ逆光も入れ、さらに足もとは暗めに落としました。
avexのDJチームについてお願いします。
基本は「椅子取りゲーム」です(笑)。最初は「女性が座って男性は立ち」、と思っていましたが、それはやめて、椅子取りゲームの原理を応用しました。2脚用意して、それを奪い合う感じ。
一般的には女性が座ると思うのですが、敢えて男女が座る方がバランスが崩れて面白いというか、決めすぎないようにしています。
この背もたれは裏ワザがあります。男の方は背もたれに寄っかかっています。女性の方は背もたれには寄っかからずに、相手の椅子に手をつくんです。相手の椅子に手をつく事で、自分のおしりが浮くので、それに手間の女性の肘をのせる。
この椅子を所有している権利を相手に少し譲ることによって、関係性が連続していくんです。これが1脚につき一人ずつ所有すると、関係性が断裂してしまうんです。少しずつ相手の持っているエリアに入れ込んでいくことが大事なんです。さっきのミスユニバースもそうですが、少しずつ相手のエリアを侵していくことがポイントです。
5人だと、目がいき届くと言う意味では、顔や手の角度とか肘とか、かなり集中してミリ単位で指示していますね。
Platinum Life selected by HOUSENATION / アーティスト写真 (avex)
PH. 奥口睦 (Tsuji management)
では「大人数ディレクション」で、全体的に気をつけている点、フォトグラファーへのディレクションのポイントを教えてください。
- 撮影現場でディレクション中の梅沢さん。
- 全体のバランスから細かいしぐさまでモニタでもチェックする。
集合写真の時は、フォトグラファーへもキーワードを与えて同じベクトルに向かえるように話をします。「敢えてずらしている意味」とか、「まとめない方向にしたい」とか。そうしないとフォトグラファーが撮りたいと思っている構図と、こちら側が思っているイメージに違いが出て困りますから。
指示に関してはこちらでするので、それが出来た時点で、フォトグラファーにはタイミングよく撮ってもらっています。現場で「はい、いまっ!」と言っている時は「撮って」とイコールですね(笑)。
アドバイスとしては、今はデジカメなので、モニタですぐ見られるじゃないですか。だから「みんな1回見て!」って言うんです。それをあまり恐れたくないというか。
「せっかく整えて撮ったのに、崩れるじゃないか」という感覚はあると思います。それよりは空気を優先したいんです。
例えば、ミスユニバースの撮影でも、撮影中一人の女の子が貧血で倒れたんです。もしそこを追求するなら「もうちょっと、がんばろうよ」って言ってしまいがちですが、普遍的なものをもう一度作れる自信があれば、大丈夫なんです。逆に場を考えれば、他の女の子の事も考えて、全員に水分を摂らせる。そこで一度、バラすんですけど、バラして戻った時の方が逆に良かったりするんです。
バラす前に、位置やポージングは憶えてもらうんですけど、モニタを見て、全体のバランス、自分の役割がわかって入ると、いいものになっていくんです。「恐れずに壊す」ことを、自分の中で大事にしています。被写体が魅力的に見えてこその集合写真なので、被写体に自由度を持たせることは重要ですね。
梅沢篤 アートディレクター
1976年横須賀生まれ。
早稲田大学理工学部建築学科卒。1999年よりフリーランス・グラフィックデザイナーとして活動。2004年よりロンドンに拠点を移し約3年間活動し、帰国後デザイン会社(株)グラムビーストを設立。
- 2018.06.29 「SHOOTING PHOTOGRAPHER + RETOUCHER FILE」連動企画 レタッチ、CG表現の現在とこれから
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- 2018.04.18Photographer / Image Director shuntaro
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- 2018.03.16 Art Potluck(アートポトラック)緊急座談会
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