- 2018.01.24
Photographer皆川 聡
「世界最小のスタジオライト」を謳うプロフォトの小型ストロボ「A1」。
丸い発光部や専用バッテリーなど、他社製クリップオンタイプとは一線を画す性能となっている。
今回、ライティングで独自の世界観をつくる皆川聡さんにA1を使ったテストシュートを依頼。
プロフォトユーザーでもある皆川さんにフォトグラファーになる経緯から、A1を使ったファーストインプレッションまで話を訊いた。
ST:Masako Ogura (Y's C) Hair:Yuko Aoi Make-Up:Cha Cha (Beauty Direction) Model:Saki Nakashima (Bravo)
Interview:坂田大作(SHOOTING編集長)
写真に興味を持ち始めたのはいつ頃ですか。
アメリカの大学で、人類学を専攻していました。人類学を勉強している人って、雑誌のナショジオ(ナショナルジオグラフィック)をよく購読しているんです。そこから掲載されている写真に興味を持ち始めました。人類学って、勉強していても卒業後はなんの仕事にもつけないんですよ(苦笑)。
今だと、マーケティング系やリサーチ関係とか幅が広がっていると思うのですが...。でも「世界中をまわりたいとか、色々な所に住みたい」という思いは漠然とあって、写真を撮る仕事に就けば、その願いが叶えられるんじゃないかって思っていました。それは写真表現云々よりも、世界の様々な文化や人への興味からでした。
写真の技術や知識を身につけることによって、それこそナショジオのフォトグラファーのように「世界中を飛び回れるのかな」とか。すごく安易でしたね(笑)。
皆川聡さん。
初めてカメラを買ったのはいつですか。
アメリカで4年生大学に通っていたのですが、23歳の時に写真の勉強をしたくなって、Colorado Institute of Artに転校しました。そのアートスクールに入学する前に一時帰国していて、日本でニコンF3を買ったのが最初です。
写真を学ぶために再度、渡米されたのですね。
そうです。カメラだけ持っていきました。コロラドの学校は、絞り、シャッター速度の役割から教えてくれるところで、写真についてゼロから学びました。
最初は「好きなものを撮ってきていい」から始まり、ポジフィルム(カラー)を使っていましたが、すぐにモノクロや暗室でのプリント授業が始まります。僕の通っていた学校は何でも経験させてくれるところで、学内にスタジオもあったので、ブツ撮りから人物までとにかく撮影をよくさせてくれる実技重視のカリキュラムでした。
写真を撮ることを職業にしようと思ったのはいつ頃ですか。
写真を学び始めて、すぐにのめり込んでしまい「プロになりたい!」って思いましたね。朝から晩まで学校にいて、撮っては暗室でモノクロプリントを焼いていました。半年ほどするとカラーネガのプリント実習も始まり、卒業までカラープリントの面白さにハマりました。
学生時代からカルチャー・ファッション誌が好きで、イタリアンヴォーグやFACEなどをよく見ていました。当時の写真がかっこよくて、パオロ・ロベルシ(Paolo Roversi)とか。ファッションというよりは、アート的な目線でファッション誌を見ていましたね。
ライティングや撮影テクニックなどを色々試すのが好きで、人物といってもドキュメンタリー系は一切興味がなくなって、ナショジオへの興味はどこかへいっちゃいましたね(笑)。
日中シンクロやストロボを使った作品。
卒業後はどうされたのですか。
すぐに帰国しました。カメラを学び始めたのがアメリカだったので、最初は日本の状況がまったくわかりませんでした。レンタルスタジオがあるとか、スタジオアシスタントという仕事があることも知らなくて...。
人づてで、サロンの美容師さんと作品撮りを始めたり、少しずつ知り合いが増えてきました。その頃に出会った方が元々イギリスに住んでいる人で、海外の知り合いが多く、外国人が日本で撮影をする際のコーディネーターをされていました。それが専門ではなかったのですが、予算がない仕事の時に手伝ってあげているようでした。
英語を話せたこともあって僕も声をかけて頂き、当時プラダのキャンペーンを撮影していたノーバート・ショーナーや、アメリカ人のポートレートフォトグラファー、ステファン・ルィーズの日本での撮影で、お手伝いをしていました。その二人だけで1年半の間に4回ずつくらい来日していて、来るたびに手伝っていました。それこそ運転手兼、モデルの手配、撮影場所の交渉、現場のアシスタント等、なんでもやっていました。今思うと、その経験が大きかったですね。
日中シンクロやストロボを使った作品。
トップフォトグラファーから直接学べるのは貴重な経験ですね。
現場も手伝いますが、ホテルの送迎からずっと一緒にいるので、彼らの写真に対する考え方を学べました。例えば「様々な人の意見を聞くのも大事だけれど、自分がいいと思った写真を撮っていくべきだ」とか。技術というよりも写真哲学というか、それが勉強になりました。
写真を学んでいく過程でどんな人と出会うかは、かなり重要ですね。
僕にとってその二人の存在は大きかったですね。自分の仕事も徐々に増えていく中で、当時、管付雅信さんが編集されていた雑誌「コンポジット」に載ることが一つの目標でした。あと「ロッキンオン」とか。雑誌が中心で、広告写真についてはほとんど考えていなかったですね。
雑誌でクレジットが載ると、そこから音楽系の雑誌、ジャケ写、広告ではないけれど商業写真的な仕事も撮りはじめました。GROUNDのアートディレクター野尻さんからお声をかけて頂き、ヘアサロンのブックレットを撮影し、そのあたりから野尻さんとの仕事が増えていきました。
その後「ザ・広告」的な仕事を初めて頂いたのがナイキベースボールのグラフィック広告です。ADが野尻さん、CDは当時ワイデン&ケネディにいらした米村浩さんでした。そこから広告業界の人に僕の名前が広がっていき、広告写真の仕事が増えていきました。
ナイキベースボールのグラフィック広告。
仕事も増えて波に乗っているような時期に、なぜロンドンへ行かれたのでしょうか。
周りの友人からも言われました(笑)。でももともと行ってみたかったんです。アメリカにいる頃からイギリスの雑誌を読んでいましたし、人類学を学んでいたこともあり、同じ英語圏でもイギリスは全然カルチャーが違うじゃないですか。「行ってみたい」というよりは「住んでみたい」と思っていました。
「行くぞ!」と決めていたものの、年々仕事が増えてきている中で、とにかく忙しくしていました。オファーを頂くのはありがたいことですが、自分のやりたい方向性とどんどん乖離していくことにジレンマもありました。僕が独立したのは1999年でしたが、今年こそ行かないと二度といけなくなると思い、2005年に一旦仕事を整理し、渡英しました。
ロンドンでどのように営業をされたのですか。
当初は学生ビザで行きましたが、作品を持ってレップを回っている中で事務所と契約ができ、その後はワーク ビザで仕事も徐々に増えました。日本にいる頃から、イギリスのウォールペーパー等の仕事はしていましたし、日本から続いている仕事もあったので、渡英後の2年間は年3〜4回くらい日本に帰ってきて国内の仕事もしていました。
リーマンショックが2008年にあって以降、当時欧州でギャラの高い大御所フォトグラファーでは予算がはまらなくなって僕のところに降りてきたんです。まだ鮮度があって、技術もあるけどギャラは安いからオファーしやすいみたいな(笑)。日本の仕事が徐々に減ってきた時に、リーマンショックでイギリスの仕事が増えたことはラッキーでしたね。
イギリスには何年住まれていたのですか。
約6年半です。2011年末に帰国しましたが、2012〜13年あたりは向こうでの仕事があったので、ちょくちょく渡英していました。
雑誌「ANGLOMANIA」。ライティングを組み、強化ガラスの下から撮影している。
海外での皆川さんの個性やスタイルはどのように評価されていたのですか。
「ライティングが凝っている」というのがウリの一つではありましたね。日本では色々撮っていましたが、ロンドンへ移る際「自分のポイントをどこに置くか」は考えました。日本で撮影したタレント広告などは、ロンドンの事務所のマネージャーに全部はじかれ(笑)、ファッションは好きでしたが向こうのファッションコミュニティには入り込めないと感じ、一番自分に合い、興味のあるカテゴリーとしてスポーツものなどの、動き、アクション系をプッシュしました。
その頃、ファッションとスポーツを掛け合わせたようなロンドンベースの「ANGLOMANIA」というインディーズ雑誌があって「これだ!」と思ったんです。ANGLOMANIAの編集長にえらく気に入られて、表紙や巻頭ページでよく掲載してもらえるようになりました。「ファッション+アクション+ライティング」というスタイルです。
雑誌「ANGLOMANIA」。
その写真の影響力は大きかったですね。ただしお金は一切出なかったです。作品撮りのために美術を頼んだり、制作費は全部自腹でしたけどね(笑)。
スポーツフォトなんだけどファッション的要素を取り入れています。このような動きスポーツ方面の作品を発表し続けているうちに、広告業界のアートバイヤーの人たちの目にとまり、大きな広告の依頼がくるようになりました。
タイミング的にちょうどロンドンオリンピックの前だったので、オリンピック関係の仕事が多かったです。この頃は光り物だったり、 シズルとアスリートを合わせた合成ものを求められました。2008年頃からは"スポーツ""動き"のイメージである程度、認知されてきたかなと思います。
光跡を活かしたBTの広告。
照明機材は何を使われていたのですか。
ロンドンにいた頃は、スタジオではブロンカラー、ロケはPro-7b(バッテリータイプ)をよく使っていました。アメリカから日本に帰国した頃から、特に日中シンクロの撮影が好きだったこともあり、Pro-7bを使う頻度が高かったですね。
ナイキの広告を撮りはじめた頃はPro-7bを2台所有していました。小型ですがサンパックも使っていました。今は、プロフォトのD1を3台、ロンドン時代に買ったアキュートを2台3灯、Pro-7sも2台2灯あります。
今回A1で撮り下ろして頂きました。ビジュアルのテーマから教えてください。
坂田さんの「A1をたくさん使って」というリクエストに少し悩みましたが(笑)、ただ屋外で多灯するだけなら絵にならないし、たくさん使うのであればドラマチックな方がいいなとか、色も使いたいなとか、映画の1シーンのような雰囲気にしたいなとか、徐々に膨らんでいきました。
ここ数ヶ月、ウォン・カーウァイ監督の映画を立て続けに何本か見ていて、香港映画の世界観もいいなと。
本番撮影中の皆川さん。
カメラ横と右サイドにB1Xを使用。奥の窓越しや床からグリーン系フィルターをつけたA1を5灯照射している。
グリーン系フィルターをつけるだけでアジアンな雰囲気になりますね。
1カット目は、B1Xを2灯とA1 5灯を合わせて使っています。色の組み合わせは当日に現場で考えました。窓や植物の間からはグリーンフィルターをA1につけて発光、手前の花にはイエローフィルターをB1Xにつけ、右サイドの壁には赤系のフィルターをつけたB1Xを壁にバウンスさせています。
緑、赤、黄色って、色合い的にこってりな雰囲気がしますよね(笑)。バランスを欠くと気持ち悪い方向に行ってしまいますが、全てバッテリーストロボで組むことで、ライトの位置や角度、光量を絶妙なバランスに、しかも比較的に時間をかけずに詰めることができました。
A1をテープ(パーマセル)で窓ガラスや枝に固定したり、地面に置いたりと自由自在ですね(笑)。
そうですね。床に置いておくだけでいけちゃう(笑)。
A1はいわゆるフラッシュとして、ちょっとした撮影や天井バウンスは普通に使えるじゃないですか。今回、最初の2カットは、B1Xにオンする形のエフェクトとして使って、3カット目はA1をスヌートにして使ってみました。
オレンジフィルターを付けたA1をガラス越しから4灯、背景全体を照らすためにB1Xを1灯使用。
メインライトは左サイドからソフトボックスを付けたB1Xと、カメラ右横からグリーンフィルターを付けたB1Xを照射。 計7灯使っている。
小型フラッシュは、一般的には光をやわらかく拡散させるという発想ですが、アルミ箔を使いスポット的な使い方をされたのはかなり意外でした。
サイズが小さいので、アイデア次第で色々な使い方ができると思いますよ。普通サイズのストロボヘッドで、しかもケーブルがあると、斜俯瞰で光を当てたいと思っても「メガブームが必要だ」とか「微妙な角度調整ができない」とか、なかなか思うようにセッティングしづらいと思うんです。
でもワイヤレスで小型なので、好きな位置、角度に置けるし、ヘッドが倒れるような心配もないので自由度が格段に増しますね。モデルも光を当てられている圧迫感が少なかったようです。
プロフォトのストロボとして見た場合に光質や使い勝手はいかがですか。
サイズが小さいので(判断の)軸をどこに置くかですが、プロフォトレベルだと思います。B1XやD2はアタッチメントも全て使えますから、それと比べるといけないのかもしれませんが...。その分、機動性が抜群なのとAirリモートが使えるので、追加する機材として2〜3台持っていれば、表現の幅がかなり違ってきますね。
通常のクリップオンはアルカリ電池が主流ですが、A1は電源がバッテリータイプなので、チャージがフル発光で1秒前後と速い。普通のストロボと同じ感覚でシャッターを切っていけるのでストレスを感じないです。出力はフル発光で76wsだそうですが、光量も思ったよりもきます。35mmのデジタルカメラで感度を上げて使えるので、「今の時代だからより使い勝手がいい」と言えますね。
この撮影では使わなかったですが、光質をやわらげたり、バウンスするアタッチメントがマグネットでつくのは便利です。雑誌のインタビュー撮影とかポートレートに使うだけで、写真の質が一段上げられるから、まずA1を1〜2台導入するのは、ありだと思います。
A1ヘッドにアルミ箔を巻き、集光してスポットライト的に使用(さらにフィルターを付けている)。
ワイヤレスで軽量のため、狭い空間でもイメージ通りのセッティングがしやすい。
改めて、皆川さんにとって「ライティング」とはなんでしょうか。
ライティングすることで物語性が出しやすいし、自分のイメージ、世界観に持っていきやすい。個人的にはリアルよりもファンタジーものが好きだったりするので、僕にとって必要な道具であり表現ツールですね。
今回使ったカメラはニコンD810ですが、実はオールドレンズを使っていて、少しヌメッとした表現を狙っています。さらにスモークをたくことで、少し湿度のある妖しい写真にしました。トーンの調整程度でレタッチもほぼ入れていません。最新のカメラ、最新のストロボを使う=シャープでカリカリにするということではないんですね。
ライトの位置をチェック。スモークでさらに幻想的なシチュエーションをつくる。
今後やってみたいことなどありましたら教えてください。
海外のサブミッションできる雑誌などを中心に、改めて色々な表現にチャレンジしたいなと思っています。
日本の仕事では表現方法の自由度が少し狭くなってきていると感じています。タイトな時間的流れや、事前に撮影イメージが確定されるなど、現場でのチャレンジがあまりできないなと。ロンドンにいた頃は、広告でも「君は何ができるのか」が常に求められました。そのために日々新しい表現の実験やテストシュートをしたり、新しい機材を使ってどんな表現ができるのかも試していました。そういったチャレンジが新鮮な表現を生み、それが仕事に繋がっていったと思います。
海外雑誌へのサブミッションは、自由でいい実験の場になればいいと考えています。自分を進化させるために新しいことをトライアルしていく年にしていきたいし、そういう意味では、今回の撮影は現場で思いついた事を色々と試しながらより良いイメージに持っていけてすごく楽しかったです。
最後にプロフォトグラファーを目指す若い人へアドバイスをお願いします。
まずは「自分の好きなものは何か」を、ひたすら追求していくべきじゃないかと思います。カメラやソフトの性能がよくなって器用な人も増えていますが、仕上がりにパンチがないというか(笑)。
「自分はこれが好き!」でやってきていない人の写真は強さに欠けちゃう。つまらないというか癖がないというか...。誰かの真似とか、流行っているからではなく「自分のスタイル」を求めていってほしいですね。
Profoto A1
主な仕様
最大出力:76Ws
出力レンジ:9f-stops(2.0-10)
HSS使用時の出力レンジ:9f-stops(2.0-10)
モデリングライト:LED
バッテリー容量:フルパワーで最大350回発光
バッテリー充電時間:最大80分
大きさ:108×75×165mm
重さ:560g (バッテリー含む)
価格:オープン/店頭予想価格10万円前後(税別)
https://profoto.com/jp/a1
皆川 聡 Photographer
1990年 渡米。
1996年 Colorado Institute of Art 卒業。
1999年 フリーランスフォトグラファーとして活動。
2005〜2011年渡英。
2015年 MILD Inc.に参加。
http://satoshiminakawa.com/
http://www.mildinc.com/minakawa/
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