- 2012.12.13
photographer鶴田直樹
鶴田直樹さんは、ピクトリコが発売しているデジタルネガフィルムTPS100(以下、デジタルネガ)を使い、
銀塩カラープリントの作品を制作している。
モノクロのプリントを作ることが主目的とされていた製品で、敢えて難しいカラープリントにトライしている鶴田さん。
そのきっかけから「デジタルネガ→銀塩カラープリント」の魅力について聞いた。
(註:デジタルネガの説明は http://old.shooting-mag.jp/pictorico02.html を参照)
- デジタルネガ→銀塩カラープリント作業フロー
01.デジタルカメラで撮影した画像をPhotoshopで開く。 02.画像を反転させる。 - 03.Photoshop上で制作したオレンジベース。 04.トーンを調整後、オレンジベースをのせた画像。
- 05.レタッチ中の鶴田さん。 06.デジタルネガをMAXARTで出力。
- 07.暗室で、印画と密着させて露光(本来は全暗) 08.プロセッサーに通して、銀塩プリントが完成。
デジタルネガは、正式には2012年1月から国内販売がスタートしました。でも鶴田さんは、P.G.I.がアメリカから輸入販売している頃から使用されていたと伺いました。
そうなんです。僕の場合は、P.G.I.から購入していました。最初にデジタルネガを使って作品を作り始めたのは、2011年の春頃ですね。
デジタルネガを使おうと思われたきっかけは何だったのですか。
アメリカでは、プラチナプリント用に普及したようですが、僕は「インクジェットプリンタで出力するなら、カラープリントもできるに違いない」と、この情報を聞いた時から考えていました。とりあえず「どんなものか使ってみよう」と、実験的な意味もありました。
初めからカラープリントが目的だったんですね。
モノクロをやろうとは全然思いませんでしたね。何故かと言うと、モノクロは、銀塩ネガから直接焼いた方が、一番きれいだと思っていますから。
銀塩のカラープリントについては、25年くらい前からずっとやっていましたが、逆にパソコンやPhotoshopは全然使った事がなかったんです。
そうこうしている内に、画像処理でコントラストを上げたり、彩度を落としたような写真が色々出てきました。それを見ていて、銀塩プリントでマスクを作ったりして、がんばってやるんだけれども、精度的に追いつかなくて、デジタルに対する憧れはあったんですよね。
こんな便利な商品があるんだったら、「Photoshopで画像処理をしたネガを作って、ベタ焼きすればいいんじゃない!」と思ったんです。それがデジタルネガを使い始めたきっかけです。
レタッチはパソコン上でできるので、そこで絵を作っておいてデジタルネガを出力し、そこから銀塩プリントを作るんですね。
そうです。
最初、大変だったのではないですか。
そうですね。色が出なくて試行錯誤しました(笑)。ものすごく転ぶし、シャドウ部がつぶれちゃうんです。シャドウ部を相当上げたネガを作らないと、それなりのトーンは出てこないですね。
普通では眠いような、締まりがないくらいじゃないとダメなんですか。
そうです。シャドウ部をガンと持ち上げて、ハイは押さえ気味にします。それでちょうどいい感じ。これはもう経験値を上げていくしかない。一つ一つの絵柄に対してどうするかという...。
オレンジベースはどのように処理されているんですか。
元々は、未露光のまま現像したオレンジベースのフィルムを、出力したデジタルネガの上に重ねて露光していました。ただその場合、ホコリが入りやすかったり、もう一手間かかるため、今はPhotoshop上でオレンジ色を重ねています。
Photoshopでオレンジを作るということですか。
そうです。オレンジベースのネガを何タイプか、そのままスキャンします。そうするとPhotoshop上でRGBの色情報がでますよね。それで最適と思われるオレンジベースのレイヤーを作ります。デジタルネガを出力する前に、画像を反転処理した後、オレンジレイヤーを重ねて、「オレンジベースのデジタルネガ」を出力しています。
今は、自宅暗室のプロセッサーが故障していて(笑)、デジタルネガを渡して外注でプリントをしてもらっています。ただそれも難しい部分があります。色見本も渡しているのですが、依頼するところによって全然色が出ないところもあるし、ある程度、自分のイメージに近いプリントを上げてくれるところもあります。
プロセッサーを修理する必要がないくらい、仕事で銀塩プリントする機会が、極端に減っていますしね(笑)。
ネガで撮ってプリントすれば、きれいに仕上がることは分かっています。でも今はデジタルの時代なので、デジタルカメラを使って「いかにきれいな写真を撮るか」、という事に対しても熱意を燃やしています(笑)。
インクジェットでカラー出力するプリントと、フィルム撮影したネガを焼く場合、デジタルネガからプリントするのとは、違うものですか。
デジタルネガを使って、割とうまくいったプリントは、ダイトラ(ダイトランスファー)を感じさせますね。トーンが独特なんです。
むしろデジタル画像をインクジェットプリンタで出力したもに近づけようとする方が難しい。ちょっとトーンが転んだところが面白いと思って、自分はやっています。
作品制作で考えれば、自分の好きなトーンが出るのであれば、それでいいですよね。
全然OKじゃないですか。
ちなみにペーパーは何を使われていますか。
コダックのスープラです。
もう製造中止になっているので、冷蔵保存してあるものから使っています。あと大四切で3箱のみです(笑)。
デジタル撮影→銀塩プリントは率直にどうですか。
インクジェット出力も銀塩プリントも、それぞれの持ち味を活かせばいいと思うんです。ただデジタルネガを使って銀塩プリントをする場合、相当ねむいトーンのネガを作らないと、普通に出力したネガで焼くと硬いですからね。
デジカメのシャープネス設定も全部外したり、やわらかい設定で撮影しています。
「フィルムで撮影して、そのまま銀塩プリント」、というのが一番自然なんですが、時代の波を考えると、銀塩フィルムに頼るのではなく、デジタルをうまく使いながら、自分なりのトーンや出し方、フローを研究しています。
銀塩プリントでは「フラッシング」って、あるじゃないですか。あれをPhotoshop上でやろうとして、画像に薄いグレーのレイヤーを載せて1枚で出力したものと、グレーのレイヤーだけを出力して、画像のネガとプリント時に重ねたものでは、色が違うんですよ。そのような差異が難しくもあり、可能性を感じる部分でもあります。
デジタルカメラからのトーン作りもまだまだ勉強していかないといけませんし、デジタルネガから銀塩プリントするのは、フィルムから焼く時よりも予想外の色になる事もあり、「おおっ」っていう感じもある。それはそれでサプライズとして楽しめるんです。
デジタルネガを引伸機のキャリアへ入れて、大伸ばしをされているケースもあるようですし、ネガポジ反転しないでそのままデジタルネガに出力して、透過光で楽しむこともできますから、使い方としてはアイデア次第で、これから広がっていくんだろうと思います。
- 鶴田氏のデジタルネガ→銀塩カラープリント作品
鶴田直樹 photographer
1958年横浜生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、日本デザインセンター、CCレマンを経て1991年鶴田直樹写真事務所設立。現在に至る。
広告、エディトリアル、CDジャケット、CM等で活動。2009年GALLERY SPEAK FORにて個展「19ROOMS」。赤々舎より同名写真集発売。
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