- 2013.10.21
photographer秦 義之
サンスターストロボから、新型のジェネレーター「Complete One(コンプリート ワン)」が発売された。
コンパクトな筐体の中に、1200Ws・3回路独立調光、閃光速度優先、色温度優先モードを備え、これ1台でおおよその事は出来てしまうと言う正にコンプリートな製品。
この新製品の発売前に、フォトグラファーの秦義之さんが「Complete One」を使い、K−1の佐藤嘉洋選手を撮影。
プロフォトグラファーの視点から、新型ジェネレーターの印象・使用感を聞いた。
秦さんは、東京と名古屋で仕事をされているのですね。
はい。少し自己紹介をさせて頂くと、広告、雑誌、CDジャケット等の撮影で、半分東京、半分名古屋をベースに、97年からフリーで活動しています。
僕の場合、当時好きな雑誌が、「東京人」「Number」「SWITCH」「ROCKIN'ON JAPAN」の4誌だったのですが、営業に行ってラッキーな事に全ての雑誌から仕事をもらえたんです。
その中で、Numberを見て頂いてナイキの広告のオファーがきたり、ROCKIIN'ONでCDジャケットの依頼がきたり...。そういう意味では、恵まれていたと思います。
今までどのような照明機材を使われていたのですか。
15年間フリーでやってきましたが、雑誌の経費が出なくなるまでは、そもそもストロボを自分で所有していませんでした。
レンタルスタジオでは、そのスタジオにあるストロボを使っていたし、ロケ用にレンタルする場合も、特定のメーカーやブランドというよりは、できるだけ新しい機材を借りていました。ヘッドが小さいもの、モノブロック、バッテリータイプ等々、適材適所で選択できるのが、メリットでもありました。
出版業界を中心に、撮影経費が出にくいシステムになってきた時、「機材は自分で持たないとダメだ」と思ったんです。特に名古屋では、フォトグラファーはカメラも機材も車もスタジオもあって当たり前なんです。レンタルできるところも少ないですし、その中でストロボを何にしようか検討していました。
モノブロックの良さは手軽さなのですが、ヘッドが重いし、上からのライティングがやりづらい。1台1~3灯、2台2~6灯でバリエーションを考えた時に、1台のジェネでどれだけ使い勝手がいいか、まず頭に浮かんだのがサンスターストロボ(以下サンスター)だった。それは本当の話です。
撮影は多様化していますし、雑誌のロケ撮影ばかりやっているわけではないから(笑)、広告の場合、大光量が必要だったり、自然光とのミックスでどこまで出力を絞れるのかとか、その辺りを考慮して3年前に初めて買ったのが、「サンスターストロボD122」でした。
それが良かったのですか。
そうです。それとサンスターの場合、名古屋が本社で、製品は自社で開発されているので、「こんなオカマないかな〜」って言うと、作ってくれたり(笑)。リフレクターもミニからD(デカ)レフまでありますしね。オパライトの大きいタイプを作るなど、開発熱心なんですよ。
余談ですが、時計もスイス製からシチズンに変えたし、今は外車ですが次はトヨタのハイブリッドか何かを買うと思うんです。「Made in Japan、いいじゃん!」と。
日本のプロダクトは優れているものが多いし、自分に合ったものを選びたいなと思っています。
当初購入された「Dシリーズ」は、故障とかはどうなのですか。
故障は全然ないです。フォトグラファーの中で都市伝説的に言われているのは「サンスターは壊れない(笑)」。自分の20年先輩も、古い機種をずっと使われていますよ。
- Model:佐藤嘉洋 HM:中根 悟 カメラ:フェーズワンP45+ レンズ:120mm f4 1/125秒 ISO50
プロフォトグラファーの場合「故障しない」というのは重要ですね。今回、発売前の段階でしたが、新型「Complete One」を使ってみて、いかがでしたか。
やはり比較するのは、海外メーカーだと思うんですね。「どのくらいブロンやプロに迫れるのか」みたいな事が、買う側からすると、気になる部分だと思います。
でも先ほどお話したように、ジェネを1台持って海外ロケに行く、地方ロケに行く、そうやって一度ロケに出て幾つかの違うシチュエーションで撮る場合、また高感度が使える最近のデジタル一眼レフカメラとのマッチングを考えた場合、「Complete One」はかなりいい選択だと思いました。
ただ今回の佐藤選手は、フェーズワンで撮りました。「一眼レフにはいいよ」とは言いましたが、もちろん「中判デジタルバックでも撮れるよ」、という証明もしたかったから。
「デジタル一眼レフカメラ+使い勝手の良いジェネ」で、様々な撮影に対応するというのが「今時」なんですね。
そうです。例えば「Eシリーズ」は、400Ws×3回路で1200Wsなんですね。でも1灯でMAX1200Wsが欲しい撮影もあるわけです。「Complete One」なら、1灯で1200Ws出せるし、必要なら3回路独立で調光できる。これは便利です。
「Complete One」2台あれば、たいていの撮影はカバーできますね。
それが理想ですし、予備機も含めて考えれば2台持ちがベストです。
でも最も重要なのは、「クリップオンしか使った事がない」、「そもそもストロボは何も持っていない」という人に対して、「個人でストロボ(を所有すること)って必要ですか?」という根源的な部分への問いなんです。
「なぜ必要なのか」と考えていくと、小出力でも「アクセントとして光らせたい」とか、「動き(止め・ブレ)をコントロールしたい」とか、「イメージ通りのポートレートを撮りたい」とか...。「光を作りだす」事によって、それを「自分の表現として取り込める」というのが、最大のメリットだと思うんです。
「光を作る」ことを意識すると、写真が変わるということですね。
仕事でも作品撮りでも、撮りたいものを思い描くじゃないですか。その描いた事を、仕事だったら共有するし、作品だった自己の中で膨らませる。そこから先、イメージに近づけるためには、技術的な知識や機材も必要です。デジタルカメラや照明機材の進化により、20年前には撮れなかったものが撮れるようになっているし、そういった最新テクノロジーは利用した方がいい。
プロは狙ったところに定着させないといけないので、「偶然撮れた」とか、「今回はうまくいったね」、と言う事を繰り返して、撮れた気になっているのは危険です。確実に塁に出て、たまにホームランを打つ、というのがプロなんです。そのために天候やあらゆる状況を想定し、光を作る技術も持ち合わせていないとダメなんです。
ストロボって高価なものだし、アシスタントの頃は、先輩に借りたりするじゃないですか。「モデリングランプ切れた!」とか(笑)、気にしながら使っていたけれど、ストロボを自分で所有するという行為は、ある意味、カメラを買う以上に「特別な事」なんですね。
どんどんいい写真を撮るために、新しい機材に投資して、撮影環境をアップデートしていく事が重要だと思います。
佐藤嘉洋選手を起用した今回の写真のテーマを教えて下さい。
さっきの「特別な事」という話に近いのかもしれませんが、機材に投資することで、今まで見えなかったものが見えるようになったり、「SHOOTING」に出る事も、特別な事なんです。
それに対して、自分の一番得意な事で返すのが礼儀だと思いました。僕の場合、オシャレなファッションとかじゃなくて(笑)。なので、こういう迫力あるビジュアルを作りました。テーマは「煌めき」です。
同じ名古屋出身の現役K−1選手の佐藤さんに、「名古屋から世界を取って欲しい」という思いもあったからです。サンスターも日本製ストロボとして、海外でも売れて欲しいので、そこを勝手に結びつけています(笑)。
"しぶき"がバッチリ止まっています。
最少まで絞れば、最速閃光速度が1/11000秒ということなので、動きを止めて、迫力あるシーンを目指しました。
ポージングやアングル、ライティングを詰める中で、このカットは閃光速度1/8000秒で撮っています。
事前に描いていたイメージに近い感じですか。
そうですね。得意なジャンルですし、「思い描いていたシーンが撮れたら終わろう」、くらいに思っていました。佐藤さんの動きも、試合や普段からジムでの練習風景も見ているので、よく知っています。
最初は「蹴り」でいこうと考えていましたが、「体の動き」も止めて「水しぶき」も止めたいと思っていたので、こちらのカットにしました。
今回はクオリティを重視してフェーズワンで撮影していますが、デジタル一眼レフなら感度を上げられるので、撮影はさらに読みやすくなります。閃光速度を少し遅くすれば、光量が増えて絞りも稼げるので、ピント合わせも楽になりますよ。
ジェネ1台3灯でここまで出来るんですね。
そうですね。バック飛ばしの撮影でも「Complete One」が2台あれば、ほぼ事足りますね。
メンテナンスについてはどうですか。
古い機材でもちゃんと直してくれるし、国産メーカーとしての安心感はあります。作っている人の顔が見えると、良い点悪い点を伝えられます。その中で、「Complete One」はかなり高いレベルで自分達の要望を入れ込んでくれています。
撮影によって「閃光速度」と「色温度重視」設定を使い分けられるし、3灯を「同じ比率のまま出力調整できる」とか、まさに「全部載せ」的な1台に仕上がっています。
秦さんから見て、どういう人にこのストロボを勧めたいですか。
ズバリ「今までストロボを買った事がない人」全てですね。
スタジオでも使えるし、ロケにも持っていける。今のデジタル一眼レフカメラなら光量もそんなに要らないから、一眼レフを持っていて、ストロボはクリップオンしか使った事がない人や、必要な時だけ借りているという人の、最初の1台としては最適です。使い出すと、「自分の世界」が広がりますよ。
- Number 832号「やっぱりホームランが見たい」2013年7月11日発売
- 全て「Complete One」で撮影。
- <撮影メイキング>
秦さんと佐藤選手で撮影前の打ち合わせでイメージを共有する。
最初に服を着たままのシンプルなポートレートから撮影スタート。 -
ユニフォームに着替え、少し汗ばむ程度に体を動かしてもらいながら撮影。
佐藤選手には試合さながらのスピードでパンチや蹴りを繰り出してもらい、テンポよくシャッターを切っていく。 -
佐藤選手がパンチをもらうシーンも撮影。
ヘアメイクの中根悟さん、結構本気で殴ってます(笑)。 -
途中で映りをチェック。メインライトは手前からのSC(ソフトライト)レフ680。
コンパクトな「Complete One」1台で3灯使えるのが便利。メインカットは閃光速度1/8000秒に設定して撮影。
- Complete One
- ●主な仕様
- 使用灯数:3灯式
- 調光:1~3回路調光
- Full~1/64調光(1/10step):Color Mode(色温度優先)時
- Full~1/128調光(1/10step):Speed Mode(閃光速度優先)時
- 色温度変化:200k以内(Color Mode時)
- 調光方式:シリーズカット調光+電圧調光
- 最速閃光速度:1/11000秒 Speed Mode(閃光速度優先)時
- チャージタイム(60Hz):Quick:0.01~1.8秒 Slow:0.04~6.4秒
- 2or3回路調光時各チャンネル光量決定後、比を固定したままUP,DOWNが可能。
- 大きさ:153(縦)×209(横)×210(高)mm
- 重さ:4.7Kg
- 価格:448,000円(税別)
- 発売:2013年10月21日
- 株式会社サンスターストロボ
http://sunstarstrobo.jp/
秦 義之 photographer
1970年愛知県生まれ。名古屋ビジュアルアーツ卒業。赤坂スタジオ、アシスタントを経て1997年独立。
東京と名古屋に拠点を置き活動中。
最近の仕事としてコカコーラ ホットジンジャーエール、グリコ アイスの実、春日井製菓 黒あめ、ミスタードーナツなどの広告。雑誌Numberでは15年に渡り写真を提供、現在まで数々の表紙を飾る。
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