まずこのイベントを始めようと思われたきっかけから教えてください。

中田 2017年末に、中判デジタルカメラ「フェーズワン」のイベントをスタジオD21で開催しました。そのとき池谷さんが講師をされていて、セミナー終了後に池谷さんから「アートイベントについて話したいことがあります」と、相談されたのがきっかけでした。
僕もここ数年、KanZan Galleryの運営に携わる中で、日本のアートへの関心の薄さに、心の中で忸怩たる思いを感じていたこともあって「何かやりたいなあ」と、悶々としていた時期でもありました。
写真のイベントは過去に数多く開催されていますが、アーティストの方々は制作費や経費が必要で、発表するには場所代、印刷物は紙代、製本・印刷代と、とにかくお金がかかります。



その状況の中、土日に企業が休むため、撮影スタジオも空きが出ることもあり、だったら2ヶ月に1度くらいなら、スタジオD21の業務をクローズドして、全スタジオを開放したら「発表の場を提供できるのでは」と考えました。それで2018年1月初旬のミーティングに、池谷さんと五味さんに参加して頂く中で話し合い、「アーティストの発表の場をつくろう」と。

池谷さんは、話をしているその場で、最初に参加してほしいアーティストをどんどんメモに書き出していましたね(笑)。

準備もままならない中で1月27日に第1回目を開催したところ、約80名の方に来場頂きました。その反省点も話しつつ、第2回を3月17日に開催する予定です。

「Potluck(ポトラック)」というのは、僕が出したキーワードです。「ポトラック=持ち込み、持ち寄り」という意味で、「みんなでアートを持ち寄って発表しよう、語り合いましょう」という趣旨です。


特殊メイク:Amazing JIRO 坂上和隆トークショー

3人の仕事がら「写真」のイメージが強いですが、写真だけではなく、あらゆるアートの人たちが来て、皆が集いながら、刺激を受けたり、コラボなどの化学変化が起こって、新しいものが生まれればよりよいかなと考えています。

日本の場合は、作品を発表する側も購入、サポートする側も欧州に比べてまだまだ意識が低いので、すでに著名な方の作品だけが売れていく傾向にあります。

私が運営しているKanZan Galleryは馬喰町にありますが、外国人の来廊も多く、自分の世界観を持っている人は、その作家の有名無名に限らず気に入れば買っていかれる方が多いと感じています。


テーブルにも写真作品を展示。

作品購入に関しては、まず有名か(市場で評価されているか)で判断するのですね。

中田 そうですね。アートを買う、支援する側の意識も変えていければという気持ちで始めています。

ただ「ものを作る人」だけがアートではないという思いもあります。「心が動くことがアート」と考えれば、例えば実業家でも、アートに関する意識が高い方がいます。そういう人に話をしてもらってもよいと思うんです。「制作する人だけがアートじゃない」という括りで活動をしていきたと考えています。

池谷さん、いかがですか。

池谷 僕は2017年末に「ICON(アイコン)」チャンネルという、YouTubeを使ったアーティストを紹介するサイトを始めました。(http://icon-channel.com/

あれって、元々はSHOW Studioというニックナイトが運営しているYouTubeチャンネルがあって、それを意識してスタートしたものです。その流れで「舞山秀一×田守実夏:ZOO」という対談を企画しました。舞山さんは写真で、実夏さんは絵が専門ですが、共通のテーマ「動物園」で対談して頂きました。こういった異色対談をYouTubeではなくて、生のトークショーとして出来たら面白いかなと思いました。



あとは中田さんも話されていた、アートを見たり買ったりする側の意識も変えていきたいし、多ジャンルの人が交流することで新しい発見もあるし、それを聞いている人も、何かを感じるかもしれない。それらを混ぜることで面白い状況や効果が生まれてくれればと思っています。

YouTubeだと一方的に見るだけですが、リアルだと質問ができたり、交流できますからね。実際に僕は収録しているのでわかるのだけど、生で聴くのと、映像でみるのとは違うんです。

五味さんにも出て頂いた「主観写真展:五味彬×大和田良×新山洋一」は、展示会場で収録したんですね。収録しはじめの時は、会場にいる人達がそれぞれに会話をしているのでうるさかったのだけど、だんだんとカメラの後ろ側に回り出して、みんなが自然と静かになって話を聞き始めたんです。

作品を見に来た人が、いつの間にか観客になって大人しく聞いている様子がすごく面白くて(笑)。やっぱりリアルで行うイベントは楽しいです。

五味さんはいかがですか。

五味 このイベントが決まった段階で池谷さんから連絡があり、最初は「出演してくれないか」という話だったんですよ(笑)。

中田 プレーヤーね。

五味 そうそう。出展したり出演者をプレーヤーと呼ぶことにしたんです。そこで「モダンアートについて語ってほしい」と言われだけど、よくわからないしさ(笑)。

ライブでトークするのはあまり得意じゃないから、裏方に回って告知したり、WebサイトやSNSでのプロモーション、デジタルコンテンツの扱い方などを担当しようかと。




そのためのWebサイトや、メールフォームを作る予定ですが、自分も忙しいのでフォトグラファーの黒田(明臣)さんに依頼し、私はアドバイザー的な立場で入っています。

写真だけなら、壁に飾るか、テーブルに作品やポートフォリオを置けば、成立しますが、アートの場合、作品の大小はある、立体物はある、時間芸術はあるしと、それをどこまで許容するのか、中田さんと池谷さんで決めてほしいと、伝えました。



初回がFacebookのみで呼びかけで80名来場されましたが、実際は「自分がプレゼンテーションできる」と思って来場された人も入っています。「ポトラック」という意味からね。

「参加したい」「プレゼンしたい」と思った人も多かったのですね。

五味 僕がFacebookで作ったのは「アートを持ち込めるイベント」というフレーズでしたから。そこで「みなさん展示してみませんか」と言ったにも関わらず、主催者側で発表するアーティストを決めちゃったの。

それで今回は、きちっと「申込フォーム」を作った方がいいんじゃないか、そうしないと参加者も募集できないし、それを広げることもできないので、(この取材時点では)僕と黒田さんでそこのシステムを作るということになっています。

中田 僕と池谷さんはグズグズタイプなので(笑)、具体的に商品を売るとか、そこまでしなくてもまず「何を発表したいのか」だけでいいんじゃないかと、話をしていました。

第1回目は入場料金制でしたが、「Art Potluck」の趣旨として「観に来てね」なのか、「作品やパフォーマンスを発表しよう」なのかどちらでしょうか。

中田 一番の目的は、クリエイターが作品を発表し、制作者同士の交流ができればよいなと。

五味 であるならば、何名参加できるのか、事前審査はあるのか、どういうカテゴリーなら大丈夫なのか、場所(スペース)はどのくらい使えるのか、タイムスケジュールとか、そのことをきちんと決めるべきだと、僕は言っているんです。事務的な問題だけど、絶対にそれは必要なんです。

中田 趣旨としては「交流会」なので、そこがブレずに詰めていければと思います。

池谷 制作者同士も交流できるし、生で他の人の作品やパフォーマンスを見ることができたり、質問や会話ができる「場」を作りたいです。

中田 先生が生徒にレクチャーするのではなく、フラットな輪の中で交流していく感じ。その中で第1回は、パフォーマーの方、映画監督、脚本家、役者、特殊メイク、フォトグラファー等ジャンルは広かったのですが、反省点としては、一方通行になってしまったことです。

次回からは4組くらいにして、スケジュールは余裕を持たせ、フリーで展示やパフォーマンスができる時間を作ったり、軽く飲食しながら交流できればいいですね。

それもどんなジャンルの方にするのか、展示スペースの配分をどうするか、まだ確定していないこともありますが、前回、どなたかが行なっていたように、階段の壁に展示するとか、ある程度自由にやってもらうのが僕のイメージです。


パフォーマンス:"オリエンタリズム"坂倉 己

「日本はアートを購入するという習慣があまりないので、そこの意識を高めていきたい」というお話もありました。会場での作品販売はどのように考えられていますか。

中田 自身の作品を会場で売買してもらうのは自由です。ただ運営費も必要なので、主催者側がマージンをとるかどうかは検討中です。

例えば自分のお店で売っているものを、イベント入場者への宣伝のために来るというのはNGです(笑)。あくまでも自分の作品をアピールして、それを気に入った人に買ってもらうというのは自由です。

一般的には何かを展示、発表するのに、ギャラリーやスペースに費用がかかりました。土日にスタジオを開放してそこで発表できると、制作者の経費面では助かりますね。

池谷 ありがたいです。先ほどの「作品を買わない」という話ですが、制作者のコンセプトや思いとかを伝えられる場所があまりないんですよね。

ものづくりは得意でも文章力がない人もいるわけで、でも1時間くらい話をすれば、上手くまとめられなくても伝わるものは必ずあると思うんです。それって、リアルな「場」の良さなんじゃないかな。

制作者側も質問に受け応えしているうちに、自分の考えを整理できたり、プロモーションが上手になっていくんですよ。意外な質問をされて、自分のコンセプトがより明確になっていったり、熟成していくと思うんです。



中田 「写真が全てを語る」というやり方よりも「何を考えてどう撮ったのか」を話す中で、理解が深まるじゃないでしょうか。

池谷 プレゼンテーションした人は、自分の考えを伝えられたと思いますが、それ以外の方には消化不良になっていたのが反省点ですね。

五味 マーケティングと仕組みをちゃんとした方がいいと思うのね。出展料は無料だけど、売れたらマージンをとるとか、出展料はとるけど売れたものは100%自分がもらえるとか、そういう仕掛けを作っていかなと、願望だけでは成り立っていかない気がする。そのためには、どうやってこの活動を告知して広げていくのか。そこを考えないと、手弁当では継続するのが難しくなっていきます。

写真に関して言えば、僕は最近のフォトコンテストのやり方に疑問を持っています。以前は写真家や飯沢耕太郎さんが「写真」で選んでいたんです。それが今は、外国人のキュレーターや美術館の学芸員になってしまい、その結果どうなったか。

「作品を売るためにはステートメントがマスト」になってしまった。それがむしろ日本で作品が売れない理由の一つではないかと。能書きをたれないと売れない、でも能書きが一人歩きして作品と合っていないという矛盾を生んでしまっている。それを写真に限らず、もう一度原点に戻す作業も必要だと思う。

そのきっかけとして、プレゼンテーションがマストである必要はなくて、説明を聞きたくない人は聞かなくていいし、作品がよければその場で買ってほしい。

もし中国人がきたら中国語でプレゼンできる人はどのくらいいるか、英語でどこまでニュアンスを伝えられるの?って。大切なのはコンセプトよりも「作品」そのものじゃないかと。

「作品重視に戻した方がよいのでは」というのが僕の意見です。ただ先生と生徒ではなく、みんなが同じレベルで交流できる点では一致しています。例えば、トーマス・ルフのコンセプトを読めば納得させられるけれど、作品とステートメントが合っていない人の話は聞きたくないからね(笑)。



池谷 多様性だと思うんですよ。どちらかに方向付けしなければいけないことではないわけで。

五味 そう。これはあくまでも僕の意見だから。ただ告知するときに、「何がどこまでできるか」を決めておかないと、問い合わせがあった際に事務局が混乱しちゃうからね。これは引き続き、詰めていきたいと思います。

例えば招待作家と一般参加とは分けるとか、時間とスペースも決めないといけないしね。池谷さんの意見はわかるけど、あくまで事務的処理の面では簡素にした方がよいという意見です。

中期的には「Art Potluck」はどのように発展させていきますか。

中田 五味さんが言われるように運営はしっかりした方がわかりやすいと思うのと、その反面、自由にクリエイター同士がそこで考えて自分たちで「場」を作っていってもらえるようなArt Potluckになるのが理想です。ルールを細かくしすぎるとその範囲内で考えてしまいがちかなと思うので、参加者のアイデアで広げていって頂きたいですね。





第1回出演者

andu amet代表 鮫島弘子
https://www.anduamet.com/

オリエンタリズム
http://www.orientarhythm.com/

Amazing JIRO 坂上和隆
http://shanic-maiyel.tokyo
https://www.facebook.com/AmazingJiro/

古波津 陽
http://no-work.com/kohatsu/kohatsu.html

関口 大
http://10holes-harpist.com
https://www.instagram.com/daisekiguchi/

渋谷 悠
https://www.shibu-shibu.com

長谷川葉生
http://40hasegawa.wixsite.com/haseyou



Art Potluck:1Day Exhibition vol.2

開催日:2018年3月17日
場所:スタジオD21(東京都新宿区四谷本塩町8-10)
時間:12:00〜18:00
12:00オープン 13:00スタート
参加費:プレイヤー ¥3,000-(要事前申込み)オーディエンス ¥1,000
詳細情報:
http://icon-channel.com/artpotluck/next/