- 2015.12.16
Photographer大浦タケシ
「Hasselblad」は、1841年創業の老舗カメラメーカー。数々の名機を世に送り出したハッセルブラッドが、現在最も力を入れているのが、中判デジタルカメラH5Dシリーズだ。無料で提供されるテザリング・画像処理ソフト「Phocus」や、豊富なレンズ群も魅力。
今回、そんなハッセルブラッドの中判デジタルカメラH5D-50cを使って、大浦タケシさんに「動物」の撮り下ろしを依頼。大浦さんは、「Expression 〜生き物たちの肖像〜」という身近な動物の作品展で話題を集めたフォトグラファーだ。
数々のカメラのインプレッション、評価記事も手がける大浦さんに、最新型ハッセルブラッドはどう映ったのだろうか。
大浦さんは、数々のカメラ誌で評論記事も書かれていますが、デジタルカメラの使用遍歴から教えてください。
もう15年くらい使っています(笑)。最初はキヤノンのD30から始まりました。その後、D60、10D、30D、40Dときました。
フリーになる前は、某印刷会社の企画部門にいたので、黎明期のデジタルカメラに触れる機会が多々ありました。その前は3ショットタイプもありましたが、「仕事の撮影は、今後デジタルに移行していくだろうな」とは思っていました。コンパクトのデジカメも出始めていましたね。
僕が高校生時代に、銀の相場価格がグッと上がった時期があったんです。フィルムも印画紙も銀を使っていますから、毎月買っているフィルム価格が少しずつ上昇していくわけです(笑)。
高校生のお小遣いでは経費と撮影費用も考えると、値上げはすごく痛いことです。1980年頃に、「フィルムがなくなると困るよね」と写真仲間の友人と話しをしていた時、「大浦さん、大丈夫だよ。写真はそのうち、電気的な絵に置き換えられるから」って言われたのがすごく印象に残っています。
80年代に、ですか。
はい。1981年になって、ソニーがマビカ(マグネチックビデオカメラ)という電気的に画像を作る製品を出しました。
そからデジタルカメラが普及するまで20年かかりましたが、友人の先見の明には驚かされましたね。その後、ニコンのD1(1999年発売)が出てきて頃には、「いよいよかな」とは思いましたけど。
ただ当時はプリンターが良いものがなかったですね。昇華型かレーザープリンターしかなくて、インクジェットが進化してくれてよかったです。
大浦タケシさん。
当時は業務用とコンシューマーと分かれていた気がします。
そうですね。個人用パソコンの処理速度も追いついていませんでしたし、プリンターもいいものなくて、プロが仕事にデジタルカメラを取り入れるには、そこから数年かかりました。
コンパクトカメラもたくさん出てきましたが、その画像がかなり人工的な色で驚いた記憶があります。2005年位までは、そういう感じはありましたね。
その2005年に、コニカミノルタプラザで写真展を行ないました。その時は、ハッセルブラッドで撮ったカラーネガのフォルムを、ハッセルブラッドのFlextightでスキャン。それをエプソンのPX-5500で出力したプリントを展示しました。
フィルムをスキャニングしてデジタルデータにするフローもありましたね。
そのやり方はいいなと思っていたのですが、Flextight自体が300万円くらいしたので、個人で所有するのは厳しいなと(笑)。
35フィルムのスキャナもありましたが、Flextightの階調の豊かさを経験して、初めて「使えるデジタルデータ」に出合えた感じでした。
キリン。
ハッセルブラッドのデジタルカメラとの出合いはいつ頃ですか。
ハッセルブラッドH1D(2004年発売)が出たときからです。その時にレビューの記事を書きました。
その前に、フジGX645AFと共通のボディを持ったH1自体も触っていたので、感覚的には違和感はなかったです。ただH1Dの頃は、HDDが別体で、それにソニー製の大きなバッテリーがついていて、それを肩から下げながらの撮影で、今思うと取り回しが大変でした(笑)。その後、H3Dもレビューした記憶があります。
新型のH5Dで動物を撮り下ろして頂きましたが、印象いかがですか。
Hシリーズは基本的な操作が変わっていないので、違和感はなかったです。それはいいことですね。
今回、動物園を回ってスタンドアローンで撮影しました。35デジタルと比較するとボディは少し重いですが、ちゃんと使えば「きちんとした絵が撮れる」という印象です。
上野動物園で撮影中の大浦さん。
撮影では一脚を使用されていました。
動く被写体を望遠レンズで撮ることを考えると、一脚はあった方がいいですね。その方が鮮鋭度というかシャープネスというか、このカメラの描写性能を活かすには必要だと思いました。もちろん手持ちで「ブラして動きを出す」という方法もありますが、動物園では、子供達や他のお客さんもいるので、三脚よりも一脚を使うほうがよいかと思います。
ハシビロコウ。
ISO200~400ですと、まったくノイズは気にならないですね。よく動く動物だと、35デジタルの方がいいのでしょうが、ハシビロコウやベニイロフラミングなどは、このカメラでも十分追えました。
フォーカスポイントは3点でシンプルですが、AFからそのままマニュアルフォーカスにシームレスで操作できるので、そこは慣れれば問題ないかなと思います。
とにかくファインダーが大きくて視野が広いので、ピントの山が掴みやすいので、操作は慣れの問題ですね。動いている被写体で連写をしても、もちろん35デジタルほどは速くないですが、さほどコマ速が遅く感じたことはなかったです。
最近のデジタルカメラは簡単、楽チンなものが増えていますが、「写真を撮っているぞ」っていう感じがします(笑)。
中判デジタルに望遠レンズは、がっしりした感じがありますね。
そうですね。ただ望遠レンズを使った時の「使い勝手」はいいです。というのも、レンズの光軸とファインダーが近いので、いわゆる単眼の望遠鏡を覗いているような感じで、違和感がなく撮りやすい。大きいフィールドスコープみたいな(笑)。
撮影後にコントラストを上げた時の絵の印象はいかがですか。
背景をシンプルにしたいので、その分、レタッチでコントラストを上げたり、後ろを落としたりするのですが、ノイズ感もなく、トーンの繋がりも特に違和感はないですね。「気にならなかった」という印象です。
このシリーズは、「光と影」、「動物とそれを浮き立たせるシンプルな背景」がポイントです。光もすごく必要だし、そのため曇天時の柔らかい光の時よりも、スポットライトを浴びたかのような晴天の方が、撮っていて楽しいですね。
シマウマ。
中判デジタルカメラのH5Dシリーズは、35デジタルよりもボディは大きいですよね。フィルムのハッセルブラッドも、35の一眼レフとシステムが違うわけですが、このカメラをPCに繋いでバシャバシャ撮ろうと思う人は少ないのではと思います。
それよりも、スタンドアローンでじっくり腰を据えて撮れば、大きなセンサーサイズに見合ったクオリティの高い写真が撮れる。そういう趣味的な高揚感を満足させてくれるカメラです。
到達地点として高品質な描写が得られるので、それを第一目的とするならば、少し大きいとか重いとかは、あまり気にならないのではないでしょうか。カメラとしての味わいを楽しむ、という意味もあります。
小さな画面(モニタ)で見ていると、35デジタルと変わらないように思えますが、大きくプリントした場合は、グラデーションとかノイズ感に違いが出てきますね。
ホッキョクグマ。
センサーサイズに関係なく、「高画素=高画質」というイメージが一般的にはあります。
そうですね。フォーマットのサイズを考えずに、画素数だけを追いかけていくと、1画素の面積がどんどん小さくなっていきます。そうなると階調再現性やノイズ、高感度特性などが劣っていきます。その分、判型の大きな中判の方が、階調や画質描写に余裕があると思います。
画素数や、高感度がどこまで設定できるのかとか、実際にはフルに使いこなさなくても、スペックを出すことで、各社の差別化や宣伝のアピールポイントになっていることも事実です。
一口に「色がいい」と言っても、人によって「色の良さ」の価値観が違う以上、それを言葉で説明するのは、すごく難しいことですね。
左が撮ったままデフォルトで現像したヒガシクロサイの写真。
右はコントラストを上げてレタッチした写真。(クリックすると拡大できます)
例えば、このサイの写真で言うと、実際には、黒のレベルをグンと落としているんですね。そしてコントラストも上げています。
意図として暗くしたいので、同じ操作をすると35 デジタルだと完全に黒くつぶれるところが、画面で見るとまだ情報が残っているんです(笑)。これはいい意味で粘りがあるというか、すごいなと思いました。
「自分の思い通りのビジュアルに追い込みやすい画像データ」ということですね。これは、ポートレートでも風景でも言えることだと思います。
ベニイロフラミンゴ。
大浦さんがもともと動物シリーズを撮り始めたきっかけは何だったのですか。
雑誌の評価レビューで、作例を撮る際に、あまりいい被写体が思いつかなくて「動物園に行こう!」と思ったのがきっかけでした。
それを作例に終わらせないで、光を意識した作品として撮り溜めたものを「Expression 〜生き物たちの肖像〜」ということで、2013年にepSITEで展覧会を行ないました。
動物の写真をアマチュアの方が撮ると、「図鑑の写真」になりがちなんです。それでは面白くないですからね。でもこの作品展を開催した時に「動物写真家に転向したの?」って、聞かれたりもしました(笑)。
アジアゾウ。
仕事柄、アマチュアの方と接する時間も多いのですが、被写体探しや被写体選びに悩まれている方も少なくありません。また、お金のある写真愛好家の方はヨーロッパやアジアなど海外に行かれる方もいらっしゃいますが、その場所に「撮らされている写真」も散見します。
そういう作例的な写真が多い中、自分はむしろ動物園とか、「身近なところでもいい写真は撮れる」ということを伝えたかった部分もあります。
2015年10月から12月までキヤノンギャラリーを巡回した写真展「蒼き刻 - Ink Blue Serenity in Tokyo -」も、「身近な被写体」というテーマのもと、東京で誰でも行けるところ、もしかしたら普段通っているような場所でしか撮影していません。
「蒼き刻 - Ink Blue Serenity in Tokyo-」作品より。
今回は動物シリーズですが、今度はハッセルブラッドH5Dで三脚を使い、じっくりと腰を据えて夜景撮影を楽しんでみたいですね。
Hasselblad H5Dシリーズ
製品情報
http://www.hasselblad.com/jp/medium-format
キャンペーン情報
http://www.hasselblad.com/jp/product/hasselblad-h5d-50c-lens-bundle-promotion/
大浦タケシ Photographer
宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマン、デザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌および一般誌、Web媒体を中心に、多方面で活動を行う。
公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。
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