- 2013.12.03
photographer栗林成城
スチルライフやフード写真などを中心に活躍するフォトグラファー栗林成城氏。
自身でテストを繰り返しながら得た知識で、8,000万画素のAptus-II 12のほかに3台の中判デジタルを使いこなす。
そんな氏に中判デジタルへのこだわりと魅力を訊いてみた。
中判デジタルカメラを複数所有されていると伺いました。いつ頃から導入されたのでしょうか?
- 栗林 成城氏
長らく4×5判などでスチルライフやフードの撮影をしていたのですが、知り合いの制作プロダクションがフェーズワンの600万画素のデジタルバックLightPhaseを導入したと聞いて、画質を見せてもらったのが中判デジタルとの出会いでした。画質を見て「これはすごい!」と感動して、「僕もデジタルを勉強しよう」と2002年に中判デジタルを購入。その頃はフルサイズのデジタル一眼レフはなかったので、本格的にデジタルを学ぶにはハイエンド機しか選択肢はありませんでした。
仕事で使うようになったのは2004年の半ば頃から。まわりも少しずつ仕事にデジタルカメラを導入し始めた頃でしたし、カメラ屋主催の発表会でリーフのvaleo 11という、フェーズワンのH10と同じセンサーを使っている1,100万画素の中判デジタルに出会い、フィルムっぽい画質が気に入って購入してから、少しずつ仕事でも使うようになりました。
はっきり言って衝動買いできるような価格ではありませんが、まわりの意見で判断するのではなく、実際に自分で触ってみてから判断したいと思うタイプの人間なので、いろいろと購入しては勉強しましたよ。失敗も多かったですが...。
フード写真において、デジタルの画質や色表現に求めるものは何ですか?
野菜などのような自然の素材は、やはりナチュラルな色表現が好ましいです。そうすると、カメラメーカーの考えを反映させた色作りを基本設定としているデジタル一眼レフだと、後工程(画像処理)での扱いが難しくなってしまう。色の中のグラデーションが少ないため、メリハリがつきすぎることがあるんですよ。
所有のリーフ「Aptus-II 12」の画質はどちらかというとぱっとしない色味なのですが、階調がやわらかく豊富です。階調が豊富な分、表現できる範囲が広いという点が気に入っています。
Aptus-II 12というと8,000万画素ですよね。やはり画素数が高いほうがよいのでしょうか?
僕の場合、A4サイズの雑誌の仕事が多く、8,000万画素で撮っても縮小して使われることがほとんどなので、あまり意味がない使い方をしてしまっています。高い画素数がほしかったというのではなく、イメージセンサー(撮像素子)が大きいカメラがほしかったんですよ。Aptus-II 12は645判のサイズにほぼ近く、撮像素子が大きい分、非常にきれいなボケを得ることができます。
フィルム時代の写真家がこぞって8×10判で撮影していたのは、そういった理由からではないでしょうか。たとえば、人物撮影で全身を8×10判の開放で撮ったときの背景のボケの美しさは、撮像素子が小さい35mmの一眼レフでは表現できません。たとえ細かい画像処理を施しても難しいと思います。だから本音をいうと4×5判クラスの撮像素子がほしい。でもそんなデジタルバックは存在しないから、今後に期待することにします。
撮像素子の大きさが栗林さんの中判デジタルを選ぶ際の「こだわり」ということですね。
そうですね。美しいボケを表現するために、画素数よりも撮像素子の大きさにこだわって選ぶようにしています。ただ、撮像素子が大きい中判デジタルは大きなプロダクトの撮影やボケを活かした撮影では高い威力を発揮してくれますが、撮像素子の面積が広い分、被写界深度が浅いので、宝石などのような小さなプロダクトを撮るときにピントがなかなか合わないことがあります。商品写真のように緻密さが求められる撮影の場合、写真を5〜6枚合成しないとすべてにピントが合った表現ができないんです。
でもAptus-II 12では画面の中心部をクロップする機能を使うことで、面積が広い撮像素子の一部分だけを使って撮影することができます。被写界深度をかせぐためにクロップして小さく撮っても60メガピクセル。仕事でも充分使えるレベルです。だから切り抜き写真は、Aptus-II 12でクロップして撮影することが多いですね。本来ならば撮影内容に応じて適した道具(カメラ)を選ぶべきで、すべての撮影に対応できる万能カメラというものは存在しませんが、「大は小を兼ねる」といった面ではAptus-II 12は万能カメラ。大きいものから小さいものまですべて撮れる、という点も気に入っています。
あと、8,000万画素クラスにもなるとモアレが生じにくい。着物のようなモアレが出やすい撮影でも安心して使えるという利点もあるんですよ。
その他に気に入っている中判デジタルはありますか?
マミヤのDM28も所有しています。これまで散々いろんなことを語ってきましたが、実はこのカメラが僕にとって一番使いやすいんですよね(笑)。33.0×44.0mmというセンサーサイズはハンドリングがしやすく使い勝手がいいので、撮影内容に応じてAptus-II 12とDM28を使い分けています。あと、古いものですがリーフのValeo 17も2台所有していて、DM28のサブカメラとして撮影に持って行っていますね。DM28が動かなくなったときに1度だけ使ったことがある程度の使用頻度ですが...。
中判デジタルに興味を持っている人たちに伝えたいことはありますか?
写真を生業にしているプロとして「高い画質が必要」と感じているのであれば、価格が高くても中判デジタルを使うべきだと思います。「中判デジタルは価格が高くて買えないからデジタル一眼レフを使う」というのは妥協していることと同じことですから。「中判デジタルは広告写真を撮っているフォトグラファーだけが使うもの」ではないと思うんです。実際、僕はA4サイズで使われる撮影のほうが多いですが、8,000万画素の中判デジタルを使っています。それは中判デジタルとデジタル一眼レフの画質の違いを見過ごせないからです。フィルム時代はプリントするときに皆、自分の個性(色)を出そうといろいろとテストしていましたが、デジタルでも個性を出したいのであれば、素のデータがよいに越したことはないと思うんです。
たとえば、デジタル一眼レフで透過撮影をするとミラーボックスで反射するのでフレアが生じやすいです。フレア対策のために黒の階調を詰めなくてはならないけれど、ミラーボックスがない4×5判のカメラにデジタルバックを装着して撮影すると、フレアが生じないので黒の階調を詰める必要がなく、黒の締まりがよいクリアな画像が得られます。このように物理的に考えても中判デジタルの画質のほうがよいのは当然で、素のデータを見比べたらその違いは一目瞭然です。
ボケの表現や画像処理のことを考えると、実は中判デジタルで撮影したほうが生産効率が高い。デジタル一眼レフのようにパシャパシャと撮れるわけではありませんが、その分、被写体にじっくりと向き合って撮影することができます。プロセスがアナログっぽいところもいい。そういった点で中判デジタルはプロのための道具だと思うのです。若いフォトグラファーの人たちも一度中判デジタルで撮影してみてください。きっとそのよさがわかるはずです。
【愛機】
Aptus-II 12と645DF+のセットを導入してからは、マミヤのAF 80m f/2.8 DとMF 120mm f/4.0 Macroをよく使っている。マミヤのレンズはフレアが少なくて性能がいいのでオススメだ。よく古いレンズの味がよいという意見を聞くが、古いレンズでは開放で撮るとボケた部分のエッジに色収差が出てしまうことが多い。また、2,000〜3,000万画素までなら古いレンズでも解像できるが、8,000万画素では解像できないデメリットも...。デジタル専用に開発されたレンズのほうが中判デジタルの圧倒的な解像力を活かせるので、仕事でも安心して使うことができる。
【作品】
Personal work
左:「Winart」(雑誌・美術出版社)/右:「花時間」(季刊誌) 花=假屋崎省吾
左:Personal Work / 右:「花時間」(季刊誌) 花=細沼光則
栗林成城 photographer
1965年、大阪生まれ。1986年に広告写真撮影プロダクションに入り、その後、フリーランスとして活動。主にスチルライフとフードをメインに撮影。2000年、コダックフォトサロンにて個展「Road _to Home」を開催、好評を得る。
http://www.shigekikuribayashi.com
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