- 2014.01.30
Photographer太田好治
CDジャケット、映画、広告の世界で活躍し、最近ではドキュメンタリーフィルムの監督も務める、フォトグラファー太田好治氏。
「"求めている/求められている写真表現は何か"という考えの延長線上に機材選びはある」と話す太田氏に、そのこだわりを訊いた。
CDジャケットや映画、広告写真の分野で活躍されていますが、このほとんどを中判デジタルで撮られているのですか?
僕の場合、中判デジタルもデジタル一眼レフも使用していますが、最近は中判デジタルで大半を撮っています。ライブ写真も中判デジタルで撮影する場合があります。「ゆず」の東京ドームでの写真集を撮影させていただいたとき、中判デジタルでも撮影しました。バックステージや楽屋ではクリップオンで撮ったのですが、なんら問題ありませんでした。ライブ撮影の場合、たとえブレてしまっていても作品として魅力的なものに仕上がっていればOKで、写真集にも使ってもらっています。ライブハウスでは難しい撮り方ですが、ステージが大きくなればなるほど世界観も大きくなるので、ISO感度が400程度の中判デジタルでも問題なく撮れます。特に8,000万画素のフェーズワンのIQ180ではノイズが生じても気になりません。
IQ180を使用されているのですか? 初めて中判デジタルを購入されたのはいつ頃でしょうか? また購入のきっかけと使用上のメリットを教えてください。
26〜27歳くらいのときに、フェーズワンのP25を最初の中判デジタルとして購入しました。実はその頃は全然仕事がなかったので、まわりからも驚かれました。写真の仕事が好きで続けていきたいと思っていたので、「この仕事をしていくぞ」という気持ちで買いました。"覚悟"という意味合いが強かったと思います。
現在はメイン機としてIQ180、サブ機としてフェーズワンのP45を使っています。IQ180は一昨年くらい前に、個人事務所を起ち上げると同時に購入しました。映画の仕事でビルボードやポスターなど写真を大きく使われることが多くなってきたので、仕事上、解像度の高いカメラが必要になったというのが大きな理由のひとつです。それまでは大きく写真が使われる撮影ではフェーズワンのP45やP65+をレンタルして使っていたのですが、使用頻度が上がってきたので、クライアント側の経費負担が抑えられ、かつ仕事を依頼してもらいやすくなればいいなと思ったことが購入を考えたきっかけでした。
IQ180を使い始めてから、使用サイズが大きい仕事でも安心してデータを渡すことができるようになりましたね。映画の仕事の場合、ビルボードやポスター、パンフレット、雑誌、中吊り、コンビニ、チケット、協賛テレビ局......と露出される媒体の数が非常に多く、1枚の作品を露出媒体に合わせて加工して使われます。たとえば、ポスター用にウエストアップで撮った人物写真を別の媒体用に顔部分のみをトリミングして使われたりすることも。自分では把握しきれない形で使われることがあるので、P25やP45では写真の使われ方によっては解像度が足りていないことがありました。IQ180ではどんな使われ方をされても解像度が足りないという問題は生じなくなりましたね。
8,000万画素もあると、ある程度被写体から離れて撮影し、レンズの良い部分をトリミングして納品するという使い方もできます。画角の調整が可能なので、カメラと被写体の距離をより自由に設定できるようになりました。それまでは、使用レンズと画質を考えながら最適な被写体との距離を測っていたので、IQ180を使うことで表現の幅が広がったと思います。
IQ180とP45はどのように使い分けられているのですか?
求められている解像度の高さによって機材を選ぶことが多いですが、全身撮影でトリミングして使われる可能性がある場合はIQ180を使い、顔アップの撮影はカメラのレスポンスの速さと安定性のほうが大事になってくるのでP45を使う、といった感じで使い分けています。IQ180はどうしてもレスポンスが遅いので。また、カット数が多い上に被写体の表情に疲労が見られたり、ロケで夕暮れの時間帯に撮らなくてはならないという場合などでは、キヤノンEOS 5D Mark IIIやEOS 5D Mark IIで撮ることもあります。構図もカット数もある程度決まっている場合は、ロケでもIQ180を使うことが多いですね。中判のほうが「1発でかっこいい写真を撮ってやろう」という気持ちになれるんですよ。
僕の場合は人物撮影が多いので、被写体の気持ちや疲労度も考えながら撮影をしなくてはなりません。その状況に合った機材をチョイスしたいと思っているので、撮影には必ずIQ180、P45、EOS 5D Mark III/II、NikonD800を用意するようにしています。撮影現場でどんなトラブルが起こっても対処できるようにしておきたいですし、突発的な依頼にもすぐに対応できるようにしておきたいんですよ。
レンズは何を使用されていますか?
1958年〜72年くらいに製造されたハッセルブラッドのCレンズを使うことが多いです。古いレンズなのでニュアンスがあまく、逆光にも弱いのですが、得られる階調は非常に滑らかです。私見ではありますが、デジタル用に作られたレンズよりも階調が滑らかに感じられます。ただ、現代的な写真表現が求められる撮影では、比較的新しいHCレンズを使うこともあります。
機材選びのこだわりはありますか?
求めている表現が35mmのデジタル一眼レフで表現できるのであれば、デジタル一眼レフを使えばいいですし、使い捨てカメラが適しているというのであれば使い捨てカメラだって機材選びの選択肢の中に入ってもいいと思います。僕はポラでの表現がいいと思った場合は、ポラで仕事の納品をしたこともあります。相手が喜ぶ表現ができるカメラとレンズを選ぶことが大事なんだと思います。「何を使って撮るのか」ではなく、「どういうものを撮りたいのか」という考えの延長線上に機材選びはあるのです。その分、気になったカメラやレンズを買っては「ちょっと失敗したかな」ということがすごく多いです(笑)。でも使い出して半年ぐらい立たないと善し悪しはわからないものなので、みなさんも求めている写真表現に中判デジタルが必要と感じているのであれば、実際に購入して使ってみてほしいですね。
- <愛機>
カメラバックにはIQ180とP45のデジタルバック、ジナーのボディとIQ180用のハッセルブラッドのHボディ、EOS 5D Mark IIIとEOS 5D Mark II(2台)、D800がいつも入っている。突発的な依頼やトラブルにも対応できるようにするためだ。
ボディ部分は光を通すところではないので、使い勝手とデザインのよさを優先している。現在使用しているハッセルブラッドのボディはペンタックスの PENTAX 67 IIに似たグリップ感で、そこが気に入っている。
【作品】
ゆず アーティスト写真
©2014 高橋ヒロシ/「クローズEXPLODE」製作委員会
清須会議 ©2013 フジテレビ 東宝
太田好治 Photographer
1980年、宮城県生まれ。日本映画学校卒業後、代官山スタジオを経て2005年に独立。2011年、太田好治写真事務所設立。2013年、クラムボンのドキュメンタリーフィルム『えん。〜Live document of clammbon〜』の監督を務める。
http://www.yoshiharuota.com
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