- 2016.02.19
Photographer青木倫紀
「Hasselblad」は、1841年創業の老舗カメラメーカー。数々の名機を世に送り出したハッセルブラッドが、現在最も力を入れているのが、中判デジタルカメラH5Dシリーズだ。
無料で提供されるテザリング・画像処理ソフト「Phocus」や、豊富なレンズ群も魅力。
今回、そんなハッセルブラッドの中判デジタルバックCFV-39(3900万画素)ユーザーの青木倫紀さんに、最新型H5D-50cで撮り下ろしを依頼。
スチルライフから海外の風景写真まで、幅広く活動する青木さんにハッセルブラッドの魅力を訊いた。
Interview・Photo Direction:Daisaku Sakata Retouch:Keiko Takeda
青木さんが「写真を仕事にする」きっかけから教えてください。
大学は普通の4年制でした。そのため大学に入る頃は、写真のことはまったく頭になかったんです。むしろスポーツに力を入れていたくらいで。
「スポーツ」ですか。
はい。サッカーをずっとやっていました。たまたま同じ大学の友人が一眼レフカメラを持っていて、その友人が、今思い返して印象に残る写真を撮っていたんですよね。
それを見て僕も「写真もいいなあ」と思って、自宅にあったカメラを持ち出して撮り始めたのがきっかけです。
その当時は、バックパッカーで夏休み、冬休みになると、海外によく出かけていました。それが途中からカメラを持って、行く先々で写真も撮るようになったんです。
大学の進路を考える時期に、「仕事で海外に行きたいなあ」と考えていて、それなら「写真を撮ることを仕事にすればいけるかも!」と思ったんです。
ただ写真部に入っていたわけでもなく我流でやっていたので、勉強をする必要があり、その時に師匠である青木健二さんの事務所に弟子入りしました。
いきなり個人事務所の門を叩いたのですね。
はい。作品を持って面接に伺いました。
青木倫紀さん。
一般的には、レンタルスタジオ等で基礎を身につけてから個人事務所、という流れが多いですよね。
そうですね。ただ「経験不問」とおっしゃって頂いたので。師匠の元で働かせて頂いて一から学び始めると同時に、でも「海外に行きたい」という思いも持っていました。それで、独立後にバイトをしながら資金を貯めて、1年間ロンドンへ留学。その後帰ってきてから、本格的にフリーランスとして活動を始めました。
師匠のアシスタントを卒業したのが22〜23歳の頃だったので、自分は早く入って早く卒業した方かもしれません。
運が良いことに、活動を始めた年から海外へ仕事で行かせてもらって、翌年からは、ほぼ毎月海外での撮影仕事をしていました。
どういう仕事で海外に行かれていたのですか。
トラベル関係です。雑誌が多かったですね。「SEVEN SEAS」とか「Esquire」とか。当時はまだギリギリ景気も良くて、「インド特集」20ページとか、たくさん写真も使ってもらえました。4年くらい、色々な媒体で海外に行かせて頂きました。
ということは、当初そんなにブツ撮りの仕事はしていなかっなのですね。
いえ、実はブツ撮りもしていまして、当時は某百貨店の仕事もレギュラー的にこなしていました。
旅行関係と商品撮影という二足の草鞋で仕事をされるのは珍しいタイプかもしれません。
外国の地で、朝起きたらどこにいるかわからないみたいな(笑)。帰国して次の日にまた海外に出かけていくときもありました。当時はフィルムだったので、撮影済みのフィルムを帰国後すぐプロラボへ預けて、また出かける感じでした。
フローフシ「まつげ美容液」
A&P=canaria+amana CD+AD 徳田祐司 D=加藤真由子 藤井幸治 (canaria) Pr=北川武司(canaria) 尾見真哉・阿部まりこ・山本真由(amana) C=田口まこ Ret=吉川たけし(RIZING) A=名嘉眞秀
そこから徐々に、スチルライフ寄りになっていくのですね。
そうですね。外で撮る写真は切り取る作業なわけです。「ある場所、ある時間帯に、光があって、伝えたいものを撮る」という。
スタジオフォトは、そこを初期段階から自分でマネージメントするじゃないですか。その世界をもっと勉強したいとか、追求したいというか...。様々な経験を経る中で、スチルライフに重きを置くようになりました。
Personal Work
スタジオの場合は、光を100%コントロールしますよね。
「どう見せたい」というのがベースにあるわけですが、そこには技術力が必要で、そこが難しさでもあり、やりがいも感じています。
自然環境とスタジオは、ある意味対局なところですね。
今でも海外ロケの仕事もしていますし、たまに、海外(屋外)でブツ撮りもあるんです。昨年はパリで商品撮影する仕事もありました。
現在もハイブリッドな撮影をされているんですね。青木さんがデジタル撮影に移行されるきっかけは何だったのですか。
僕が独立した頃はデジタルカメラ派が徐々に増えてきている時期でした。ただ資金もなかったので、まず35のデジタル一眼レフを導入し、そこから徐々にフィルムからデジタルへ切り替えていきました。
ただ35デジタルはハイライトが飛びやすくて、商品撮影に使うには少ししんどかったですけどね(笑)。ラチチュード内に収めるために、フィルム時代よりもやわらかめに撮っていました。
天童木工「ラケットチェア」
AXIS 愛のコンティニュアスデザイン
Product Designer=清水久和 AD=井上広一
ハッセルブラッドを導入するきっかけを教えてください。
ブツ撮りの仕事を続ける中で、解像力を求められる仕事が増えていったんです。「そろそろ中判デジタルが欲しいなあ」と思っていた時期に、知り合いのADの方に「中判デジタルを持っていたら撮影をお願いするのになあ」と言われたのがきっかけでした。
それで何機種かテスト撮影をしたり、友人や師匠にも相談しました。
フィルムカメラはフジのGX680を使っていたのですが、それを活かしてデジタルバックをつけるのが現実的だったので、ハッセルブラッドCFV-39を導入しました。今も、そのシステムで使用しています。
Personal Work
中判デジタルも様々な機種がありますが、なぜハッセルブラッドだったのですか。
中判カメラを各種テスト撮影した時に、ハッセルブラッドの画は「自然だな」と感じました。あまりデジタルデジタルしていなくて素直な描写が気に入りました。単純にフィルム時代からハッセルブラッドに憧れていたことも理由です(笑)。
故障とかはありましたか。
一度もないです。かなり信頼しています。
ボデイのGX680の方はどうですか。
2台持っていて、定期的にメンテナンスには出していますが、そちらも10年ほど使っていて一度も壊れないですね。
唯一心配なのは、このカメラの生産が終了しているので、アフターパーツ含めフジがいつまでフォローしてくれるのか、ですね(笑)。
純正ソフト「Phocus」の使用感はいかがですか。
基本的にMacと繋いでのテザー撮影なので、Phocusはずっと使っています。ワークフローとしては、Phocus → Photoshopで確立しているので、もうこれで必要十分です。
ファッションフォトグラファーのように、何百カットも撮影して一気にブラウジングするとか、そういう負荷のかかる撮影ではないですし、Photoshopに持っていくまでにPhocusでトーンも作れるので助かっています。
クリックすると部分拡大がみられます。
今回、最新型のH5D-50cで撮って頂きました。
まずカメラのデザインがかっこいいですよね。レンズは主に「HC Macro 4/120mm II」を使いました。レンズは少し大きく感じましたが、その分、ボディとの親和性が高く、一緒に撮影に臨んでくれる相棒的な感じがして、上がりました(笑)。
この機種はCMOSセンサーなので、自分のCFV-39よりも高感度が使えますね。スタジオではそれほど必要ないのですが、ロケの際は安心感があります。
重量に関しては三脚使用なのでまったく問題ないですし、5000万画素ですがPCへの転送スピードも、シャッターのレリーズも自分の機種よりも速くなってます。
「ブツ撮りだとスピードはそんなに関係ないでしょ」という方もいると思いますが、ピン繋ぎもテンポよくシャッターを切る方なので、すぐに表示される方が、ストレスがなく快適です。やっぱり動作は速い方が、リズムが途切れなくていいです。
あと広告写真の場合、5000万画素あるといいですね。ハンドリングしやすいです。
俯瞰で撮影中の青木さん。
ファインダーを覗きながらピントを送りつつ連続撮影されていました。ピントの山は掴みやすいですか。
ファインダーで見ている感じと、モニターに表示されるピントの感覚にはほぼずれがないですね。今回はマクロレンズで通常よりもさらに寄りの撮影でしたが、ピント合わせはスムーズにできました。そういう意味では、一体型の中判デジタルカメラのメリットでもありますね。
実はライブビューでピントを合わせられるのを後で知りまして、今回試せなかったんです。
ブツ撮りの人には、ライブビューができるのは嬉しいですよ。今回のように高い位置から俯瞰撮影だと、ずっとその姿勢を保つのは負担です。それをモニター上で映像や波形を見ながら調整できるのは、かなり助かります。今度、ぜひ使ってみたい機能です。
H5D-50cのセンサー(CCD/32.9 x 43.8mm)は、現在使われているCFV-39(CMOS/36.7x49.0mm)よりも少しだけセンサーサイズが小さいですが、使われてみてその辺はどうでしょうか。
焦点距離が少しだけ長くなって(約1.1倍程度)、いつも使っている感じと若干違ったので、最初ファインダーを覗いた時は「あれっ」と思いましたが、すぐに慣れました。
色味は、自分のCCDよりもナチュナルになって、より柔らかいというか、癖がない気がします。CCDのトーンも好きなので、そこは好みもありますね。
ただ今後はCMOSセンサーが主流になっていくでしょうから、PhocusやPhotoshop含め、それに合わせた経験値を高めていきたいです。
ライティングを変えてエッジを立てた別カット。
「カラフル」というテーマでお願いして、色々被写体候補も上がりましたが、最終的に色鉛筆にしました。
そうですね。坂田さんに言われてから自分も色々探したんですけど、この三菱の硬質色鉛筆にしてよかったです。
この六角形のタイプは品薄で、廃番になりそうです。
通常は丸いタイプが多いんですね。でもそれだと積み上げられないし、表情が出せないので、このタイプを手に入れられてよかったです。
色鉛筆の底を撮影。
色鉛筆を水平にセッティングしていくのに相当時間がかかりましたね。
様々な仕事でレタッチや合成もするわけですが、「一発撮りへの思い」というか、できる限り現場で詰めることに対しては、こだわっています。
もちろんライティングは大事ですが、今回のように「色鉛筆を緻密に配置する」という作業も、重要な要素なんです。「どう並べて、どう撮るか」。それを受け手からどう見られるか、反響が楽しみです。
僕もがんばって先行投資をしてスタジオをつくりましたけど、自分でスタジオを持つのって、すごくお金がかかります。仕事を始めた頃はギャラの半分位はスタジオ設備に投資していましたからね(笑)。
商品撮影って、モノは身近にもあるのですが、発想とかライティングとかで大きく変わる。やればやるほど奥深さがあって面白いですよ。「本来はこういうもの(機能)だけど、違うものに見える」というのも、スチルライフの面白さですし、発想とかライティングで表現が大きく変えられます。
撮影は技術的な側面も大きいので、自分ももっともっと学んでいかないといけないなあと思いますし、若い人もブツ撮りにトライしてほしいですね。
メイキング
- 用意した三菱グラグ用鉛筆。顔料系で芯が緻密で硬いのが特長。
- 芯の形や長さをチェックし、鉛筆削りでバラつきを統一する。
-
一列ごとに並べ、撮影しながら水平を調整して配置していく。
H5D-50c+HC Macro 4/120mm IIを使用。 -
色鉛筆を重ねた感じがわからないような、フラットに見える位置から1灯照射。
ただし、木の立体感は出るような微妙な位置を探って当てている。 -
ハッセルブラッドが無料で提供している純正ソフト「Phocus」。
青木さんの場合は、テザー撮影時のチェックのほか、
ある程度Phocusで色を作ってから、Photoshopというワークフローが多い。
Hasselblad H5Dシリーズ
製品情報
http://www.hasselblad.com/jp/medium-format
キャンペーン情報
http://www.hasselblad.com/jp/product/hasselblad-h5d-50c-promotion/
青木倫紀 Photographer
1978年横須賀生まれ。
青木健二氏に師事後、渡英。
帰国後、STILL LIFE, LANDSCAPEを中心に活動。
2007年 株式会社ライト設立。
広告、雑誌を中心に活動中。
http://www.michinoriaoki.com
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