- 2011.08.26
デジタルカメラマガジン編集長川上義哉
「デジタルカメラマガジン(以下DCM)」編集長になられるまでの経緯を教えてください。
元々、日本実業出版社という実用書を中心とした書籍版元に入社して、編集者としてスタートを切りました。ただ実際のところ、ほとんど書籍は作らなくて、MOOKを制作したり、情報誌の立ち上げに携わりました。
当時は、ユナイテッドアローズやビームスなど、セレクトショップが少し陰り始めた頃かな。ファッションや携帯電話、車や時計など、男の子が興味のあるものは一通り作りましたね。その雑誌が半年くらいで休刊しちゃったので、以前の部署に戻り、そのネットワークを活かして車やパソコンのMOOKなどを作っていました。
3〜4年後、中小企業の経営者が読むような直販誌の記者職に異動になりました。カリスマ社長がいるような企業経営者を取材したり、ビジネス誌が必要とするヒト・モノ・カネ系の記事や、挫折を乗り越える体験記とか(笑)、そういったものを書いていたのだけど、文章中心よりもビジュアル中心の仕事をしたいと思って、転職しました。それがエイ出版社でした。
エイ出版社はどうだったのですか。
サーフィンの雑誌を作りたくて行ったのだけど、配属されたのが釣りの編集部(笑)。そこで2年近く続ける中、「このまま、釣りの世界でやっていくのかオレ」みたいなことを考えていましたね。ただそこの編集長は魅力的な人でした。マガジンハウス系プロダクションのかなりの敏腕デスクだった方で、天才肌だったんです。テーマやキャッチコピーも上手いし、絵も自分で書いちゃったり...。でも本文にこだわりはあまりないわけです(笑)。いかにページネーションを作るか、ラフ書きを相当やらされました。
それまではロジックでレジュメを作って、それを通せば作っていくだけだったから、「コピーや写真でどうやって読者を掴むか」という点は随分鍛えられました。そのため、僕の場合はロジック系、ビジュアル系両方の編集経験を得られたんです。随分働きましたけど(笑)、今思えばいい経験をさせてもらいましたね。
その後フリーになって、モノマガジン系やパソコンの解説書他、色々手伝いました。でもフリー編集者では食えないので、縁があってインプレスに入社。そこではじめて書籍の部署に入りました。「できるシリーズ」を、編集長時代含め7年くらいやったかな。その後、辞令があって「デジタルカメラマガジン」編集部へ異動しました。
- デジタルカメラマガジン
書籍から雑誌への異動は大変ですね。
そうでもないです。ご存知の通り、DCMは、ビジュアルインパクトで勝負しているページは当然、写真作品が全面に出るわけで、写真家に任せる部分が大きいわけです。逆に解説の部分はどこの雑誌よりもわかりやすい自信があるのは、僕が編集長だからだと自負しています。「内容に筋が通っているか」、を大事に作っていますから(笑)。
カメラ誌がたくさんある中、DCMのセールスポイントは何でしょうか。
DCMは今年で創刊13年になります。僕が編集長になる前、DCMとしてのひとつのヤマはNikon D1とかが出てきて、銀塩カメラの性能にどんどん追いついて行く時期。また値段的にも性能的にも追い越していく時代があるわけです。そこにフォーカスして、カメラがどれだけ進化してきたかをたくさんレポートできたんですよね。そこで新しい読者を開拓できたと思います。
当時の高性能一眼レフカメラはD1で65万、キヤノンの30Dで35万なんて価格でしたが、フィルム、現像、プリント代を考えれば、アマチュア愛好家でも投資できたんですよ。あとキヤノン1Dが出てきた頃から、「RAW現像」という考え方を積極的に記事にしました。写真に対する新しいアプローチの仕方が、他誌には載っていなかった。パソコンを使ったレタッチとか。それが読者に支持して頂けた理由かなと思っています。
既存のカメラ誌、写真誌とは違う読者を開拓してきたように思います。
創刊当初は、どちらかと言うとガジェット好きな方が多かったように思います。それが2004年頃からでしょうか、フィルム時代から一眼レフカメラで風景を撮っている人達や、APA(日本広告写真家協会)の人達は、昔から写真を加工することに抵抗が少なかったので、一気にうちの雑誌を支持して頂きました。あと電塾の方にも随分記事的な面でも協力して頂きましたね。第一世代の「デジタルカメラって面白いよね」から始まり、「デジタルカメラって、クリエイティブに使えるよね」の時代になるわけです。ハードだったり、ワークフローだったり...。だから写真よりも解説がすごく多かった。読者層を広げたというよりは、従来からいる"写真、カメラ好き"な方が、RAW現像やプリントテクニックに注目して、グワっと流れ込んで来たんです。耕したと言うよりも惹き付けたという感じ。
ここ数年、デジタルカメラでの撮影、レタッチ、プリントを自分でコントロール出来るようになり、一般化してきました。なにより普通に撮影して「失敗しない機械」になったわけです。これはデジタル機器が進化する過程においての宿命みたいなものです。値段も安くなり、ミラーレス一眼などの小型カメラも出てきた。そこでもう1回、どのようなユーザーを掴むのかが問われました。今は数年前とは違って、ハードよりも「どう使うか」というところに焦点を当てています。ただアサヒカメラ、日本カメラといった先輩雑誌と違うのは、「できるだけデジタルカメラならではの機能を積極的に使っていくこと」です。
あと「カラー写真の新しい世界を作っていきたい」という意識はあります。モノクロはジャンルや作法の王道が決まっていますが、カラーに関しては、フィルムに依存しているうちは、自分でコントロールするのが難しかったわけです。それがデジカメで撮影し、パソコンでレタッチできるようになり、もっと言うとカメラ内で色をコントロールできるようになってきた。それを使う人も出てきていて、カラー写真の新しい時代がきていると思っています。茂手木秀行さんの写真がいいなと思うのは、低彩度のハイコントラストというカラーとしての新しいカテゴリーを作ろうとしているから。大和田良君も赤ワインをデザイン的に撮るなど、色をすごく意識して撮っています。デジタルだから色を研究できる、そこに次のポイントがあるような気がしています。
カラー写真で、アサヒカメラや日本カメラが培ってきたようなことを継承していきたいなと思っています。プロアマ問わず、一生写真を撮ることを好きでいてほしいというか、そのための材料をできるだけ出して、提案していきたいと思っています。
- デジタルカメラマガジン
デジタルカメラはかなり成熟してきました。高機能化、高画素化の先に何がありますか? また何が必要ですか?
皆が1本のレールをひた走り、画素数とかダイナミックレンジとか、かなり行き尽いた部分はあると思っています。これから新たな線路を探す時代が来たんだろうなと。今は高速道路でいうジャンクションというか、踊り場に入っています。ただ間違いなく思うことは、パソコンの世界において一時期、何テラバイトのHDとか、クワッドコアは要らないとか、言われていましたが、やっぱり要るわけです(笑)。最新製品は皆使うようになる。
今までのソリューションで考えていくと「要らないよね」ってなったとしても、踊り場に来たら、次の進化は絶対にあります。例えば「1億画素」だって人は欲しがると思う。現状ではソリューションがないので要らないと思っていたものだって、突然ソリューションは出てきますから。絶対に。だからDCMとしては、その行方をずっと追い続けるだろうなと思います。
あとはライフスタイルに合わせた「カメラの多様化」です。それは服と似ています。海に行く時にスーツは着ないし、友人と遊びに行く時はオシャレをする。いずれにしても服は着るわけです。今後はカメラも服と同じように、状況に合わせて複数台を使い分けるようになります。ハレの日は最高級カメラでも、毎日ハレじゃないでしょ(笑)。
目的別、ドレスコード別に、一人一人が数台のカメラを持つようになる?
そうです。それが他のデジタル機器、たとえばテレビなどと違うのは、持って歩けることです。使われるシーンが多ければ台数が売れて安くなっていくでしょうし、ハレのカメラは大きく高価格なっていくかもしれません。最近は同一機種でカラーバリエーションが増えたり、ものすごく小型化したり。これらも自然なプロダクトの流れだと思います。デジタルカメラの場合、ガワはいくらでも変えられますからね。
携帯電話やスマートフォンのカメラ機能も進化しています。それらはカメラと言えるのでしょうか。
それを言うと、もっと根本的な問題がすでにあるわけです。例えば、どこでもピントが合わせられて、ボケコントロールが後で出来るとか。シャッターチャンスの5秒前から記録されているとか。
そうなってくると、「カメラとは何なのか」という問いに行き着くわけです。現在の著作権の定義において、写真の著作権が発生するのは「シャッターを切った瞬間」となるわけですが、この定義が崩壊しちゃうんです。「写真とはシャッターを切る行為」というテーゼが壊れちゃう。「カメラはシャッターを切る道具」という意味もなくなる。
スマホはカメラか? と聞かれたら、今の定義では違うと思いますが、そういう今の考えにおける定義はあっと言う間に変わります。
DCMとしては、やるともやらないとも言えません。13年やっていると自分達の考え自体が固定化しているかもしれない。そしたら違う媒体でやるかもしれないですね。言葉は新しく定義されていくので、メーカーだけでなく、日本のカメラ業界、写真業界全体で考えていくべき問題だと思いますね。
川上義哉 デジタルカメラマガジン編集長
ビジネス誌やアウトドア雑誌の編集者などを経て、2001年にインプレスヘ入社。
パソコン書籍のベストセラー「できるシリーズ」の編集長を経て、2008年よりデジタルカメラマガジンの編集長に就任。
デジタルカメラマガジン
http://digitalcamera.impress.co.jp/
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