▲左からフォトグラファーの吉田多麻希さん、メイクアップアーティストのMINAさん、SHOOTING編集長・坂田。

吉田(以下Y):改めて見てみると、1日で4カットを撮影したんですよね。よくやりましたよね(笑)。

坂田(以下S):お二人とも、普段からビューティは仕事として撮っているじゃないですか。それと今回の作品撮りとの違いで意識したことはありますか?

Y:普段はここまで質感の違う写真を撮ることがないので、新鮮でした。MINAさんとも「肌が好き」というところで、話が合ったのですけど。

MINA(以下M):そうですね。元々「作品を撮りましょう」って、多麻希さんが言ってくれたことがきっかけなんです。そこでビューティを撮るなら、仕事上でなかなか出来ない事をしたいなあと、ずっと思っていました。
その中でも、私はビューティでテクスチャーを出すのが好きなので、それだったら色々な異なるテクスチャーを、顔だけではなく「体をもメイクできる肌の一部」と考えて、トータルでスキンビューティを「顔と体でドラマチックに表現できたらいいなぁ」って思ったのが、オリジナルのコンセプトです。

普通の撮影現場では、ここまでしずくが垂れたウエットの質感って中々出せないじゃないですか。モデルをビシャビシャに濡らしたり(笑)。そのためウエットならウエットで、エクストリームじゃないけど、わかりやすいウエット。ドライだったら粉が出るくらいのドライな感じ。日焼けのカットは乾いた調子のブロンズ感だったり、光沢感は磨き上げられてツルツルピカピカしたパール感だったり、人が見て「ハッ」とするようなビューティを目指しました。

▲「Pearly」は陶器のように美しく、輝く透明感のある質感が狙い。顔や肌に光沢感のある素材を塗っていく。
▲「Shiny/Wet」ドラマチックにしっとりと濡れた質感。霧吹きでは水が流れてしまうため、粘度のあるワセリンタイプで大きな水滴を付けていく。

S:広告の撮影なら、ここまでする事は少ないですよね。

M:そうですね。やっぱり抑えなきゃいけない現場もあります。

Y:普段やりたくても、「なかなか行ききれない質感」というのが出せましたよね。広告なら、ウエットも、もう少ししずくの感じが抑えられるだろうし。

S:コスメも様々な商品特性があると思うけれど、普段の撮影ではその特長が抑えられて、他社製品との差別化が難しくなっているのでは?

M:どうしても王道に行ってしまうし、可もなく不可もなく終わってしまうケースは多いですね。

S:そのため広告として露出しているビジュアル見ても、商品特性がわかりづらいです。

M:ビューティって、洋服なしでヘアとメイクだけで見せる絵なので、そこをどうヘアメイクだけでドラマチック見せるのか、質感とか温度、その人の内面とか...。エモーショナルな部分を感じてもらえるのが、本来のビューティだと思うんです。そういうのをはっきり出しづらい世の中なんですが(笑)、それを作品という形で表現できればいいなあと思いました。

S:だとすると、スタンダードな事と、エモーショナルな事の両方をやればいいのにね。皆が無難な方向に流されがちなところで、強いイメージを打ち出せば目立つし、チャンスだと思うんです。

M:そうですよね。ファッションの方が遊べる要素があると思うのですが、もっとビューティが力強くてもいいと思うんです。ビューティはまだ表現の枠が小さくて、そこをもっと広げていくとカッコ良くなると思うし、面白くなると思う。

S:実はフォーマットありきで、まだまだ未開拓なジャンルかもしれないですね。

Y:化粧品としては、キレイにすることが目的だから、ここまで強いテクスチャーからどこまで想像してもらえるのか、と言った時に、一般の方が受け取るには、わかりづらいのかも知れません。温度や匂いまで汲み取ってくれればいいのでしょうが、なかなか難しい。そうなると普通にキレイなビジュアルになってしまいます。

M:どうしてもHow toみたいなところがあるよね。

Y:イメージビジュアルじゃないんですよね。

M:そう。もう少しイメージよりのビューティが出てきてもいいんじゃないかなあ。

S:使い方のHow toだけではなく、ブランドや会社の佇まいを見せていく方向性があってもいい。そこが今は、タレントに頼っている部分です。特に資本力が大手ほどない中小のブランドなら、商品が良くて、強いイメージを打ち出せば、伸ばせるチャンスはあるんじゃないですか。

Y:今の広告のあり方も、少しみんな飽きてきているんじゃないかな。「あそこのブランド面白いよね」って話題になるビジュアルが増えれば、もっと活性化していくと思うんです。関西の企業とか(笑)。

S:そう。顔がヒョウ柄メイクとかね。

M:日本に限らず、韓国や香港にも色々コスメの企業はあるので、アジアからいいものが発信できればいいですよね。

S:資生堂、KOSE、カネボウなどの大手は、思い切った舵の切り方はしないでしょうから。

M:大きな企業程難しいかもしれませんね。でも、私がよくお仕事させて頂いているPOLA BAの最新ビジュアルはモノクロなんですよ! こういった斬新なビューティイメージがもっと広がって行くと面白いですよね。

Y:私が作品撮りをするもう一つの理由としては「自分のBOOKに入れた写真を見て欲しい」というのがあります。そのビジュアルがそのまま仕事にならなくても「あっ、面白いね」というフックに繋がればいいと思っています。共感してくれるADやデザイナーが増えてくれれば、意識も変わってくるかなあと。

ADの方々に、仕事からすると行き過ぎているこんな写真を見て「いいねっ」と言って頂いているので、もう一歩のところまで来ている気がする。こういう作品を撮って発信し続けることが大事なんですよね。今回のビジュアル以外にも、もっともっとやり方があるだろうし。

M:そうね。これはその中のほんの一つだから。

▲「Powdery」しっかりと乾燥した粉のマットな質感。時にはザルでこして振りかけることも。

S:モデル、ヘア、メイク、コスメの素材というシンプルな要素しかないから、良いも悪いも出やすいですよね。

M:そう。シンプルって一番難しいんですよ。シンプルをどうドラマチックに見せるのかっていう所をいつも考えています。

S:シンプルって、ともすればチープになってしまう可能性もありますからね。服があれば、言葉は悪いですが、華やかさでごまかすこともできる。肌はモデルのコンディションから、スタッフの力量やセンスがストレートに見えやすいですよね。今回は外国人モデル2名で撮りましたが、日本人でビューティってどうなんでしょう?

M:日本人でもやりたいなあって、思いますよ。

Y:日本人ならではの肌があって、顔の作りも違うので、きっと面白いですよ。ブロンズのパターンはどうかなって思いますけど(笑)。

M:イヌイットみたいに見えるかもしれない。エスニックシリーズとか(笑)。

Y:でもブロンズとかパウダリーみたいな、ここまで行かなくても、もう少しシンプルなパーリーとかウェットの延長線上なら日本人にもハマる気がする。

▲「Bronze」小麦色に日焼けした肌。ちょっとドライな質感でブロンズ感を演出。

M:実はモノクロのビューティもやりたいんです。

S:カッコ良いのと同時に、色がない分、さらにハードルが高いよね。

M:高いですね。

Y:でもうまくハマった時は、むちゃくちゃカッコイイですよ。

S:肌感に加えてコスメの感じが出たら、モノクロはいけますね。

M:逆にイマジネーションが沸くじゃないですか。そういうテーマでまた撮りたいね。テクスチャーも、モノクロとカラーの世界では違いますからね。「陰影で遊ぶビューティ」とかも面白そう。

S:タレント撮影って、「やわらかい光で撮影+レタッチ」と言うものが多いので、あまり感じるものがないんです。パッと見て、写真としてクオリティの高さを感じられた方が、結局は商品のブランディングに繋がると思うんですけどね。

M:特にビューティの広告のレタッチは、最近ちょっと行き過ぎのような...。

S:はっきり言って、やりすぎ感がありますね。

M:テレビゲームのキャラクターばりにツルツルになっていたり。

S:白眼と歯が「真っ白」です。

M:完璧に作っちゃいますからね。でもそれを「ビューティ」と読んでいいのかどうか、考えさせられます。

S:今はレタッチが過度になっていますね。

M:そうすると、現場で何を作ろうと、関係なくなっちゃう。

Y:フォトグラファーの立場からすると、回した光で撮ってツルツルレタッチだと、誰が撮っても同じになってしまう。後は、どれだけ優秀なレタッチャーを抱えていて、その人に的確に指示を出せるかが、フォトグラファーの力量になってしまう。それって違うじゃないですか。

S:そうすると、写真を撮るという仕事が重視されなくなってしまう。

Y:あとは「どんなタレントさんを使うかとか、タレントさんの人気度」で左右されると、どれだけフォトグラファーがいい写真を撮っていたとしても、もったいない結果になってしまいます。

S:ジュリア・ロバーツのLANCOM画像処理騒動もあったよね。

M:かなり修正して、リアリティからかけ離れたと言う事なんでしょうね。

Y:今の時代、レタッチがあまり入っていない写真だと「汚い」って言う話になってしまう。キレイ過ぎるのが不自然なのに、やってないのが「ダメな写真」に思われる傾向にあります。

S:その企業の商品を使っていても使わなくても、最終的にレタッチや画像処理でキレイにするなら、商品広告の意味が薄れるんじゃないですか。

M:そこが難しいところですよね。ビューティって、美しくないといけなから、ある程度のレタッチは必要だと思います。レタッチのセンスだと思うんですよ。リアリティを尊重しつつ、自然にキレイにできるレタッチャーが少ないかなあ。指示を出している側にも問題はあるのかもしれませんが...。

Y:クライアントの方から、質感がないツルツルの肌の見本を持って来られて「こんな感じに」と言われた事があります。「でもこれはかなりレタッチ入ってますよ」って。説明しないと、意外とわかっていなかったりするんです。

S:撮影現場の生写真を見ていないと、レタッチ後の写真を「素」だと思われると怖いね。

Y:わかってない所から「こうして欲しい、ああして欲しい」という指示が来るわけだから、それは難しいところです。

S:ツルツルの指示だと、それ以外の選択肢はなくなりますね。

Y:ほお骨の凹凸を残して見せたら「消して下さい」。「唇の縦じわも消して下さい」となる。

M:あれも気持ち悪いよね〜。私は「絶対縦じわを残して下さい」って言いますよ(笑)。

Y:縦じわがあってこその質感なんですけど。

M:なんか明太子みたいになっちゃうのよ。ツルツルの(笑)。

Y:でもそういう方は、見慣れているので、縦じわがないのが当たり前。そういう基準が出来ちゃっている事が怖いな〜って思いますね。これから先、レタッチという分野がどう進んでいくんだろう。

 S:究極は3DCGじゃないですか。そうするとHD時代に、テレビの生中継には出にくくなっちゃう(笑)。

M:あれも気持ち悪くないですか〜(笑)。テレビ用のメイクだと、ちょっと厚めに塗るじゃないですか。普段のスチール撮影の様なメイクだとハイビジョンだと光が突き抜けて細かいものが見えてきちゃう。そうすると、どうらんみたいなアツ塗りになっちゃう。

Y:濃くしないとダメなんですか?

M:薄いとどうしてもムラが残ったりとか、シワが隠しきれなかったりとか。

S:高齢の方ほど、辛いですね。

Y:厚塗りですね。

M:みんなパーンって、ツルツルになって、鼻の穴だけが気になっちゃう。なんか宇宙人?みたいな(笑)。能の世界みたいになっちゃってる(笑)。

Y:「シワ、しみ、毛穴は悪いもの」と言う認識になっているから、とにかく、ない状態、見せない状態ですよね。人間として、絶対にあるハズのものがないって...。

S:あきらかに不自然な状況ですね。

M:モデルの意識も違ってきています。少し肌が荒れていても「修正してもらえるからいいや」と思ってしまう。どんなに夜更かししてクマを作っていても許されちゃうみたいな。

Y:静止画ではすごく整えられて、足も細く長く伸ばしてもらって、バランスよくなったバーチャルな写真と、実際にライブや映像で見た時のギャップをどう思うんでしょうねえ。

M:でも一方で、私たちの職業って、「夢を売る」のも仕事じゃないですか。ある程度、ファンタジーワールドを作って、みんなにインスピレーションを与える側っていう意味では「美しいものを作らないと」という側面もあります。
さっきから出ているレタッチの話でも、ちょっとした「さじ加減」の問題なんだと思います。それが今の風潮としてガツガチにやってしまっているじゃないですか。それを「完璧なビューティ」と称しているのはおかしいなと思います。

S:ちょっと軌道修正した方がいいですね。動画のレタッチもどんどん出て来ていて、このままいくと、人肌すべてに自動でレタッチが入るようになるんじゃないのかな(笑)。

M:今、普通のコンパクトデジタルカメラでも修正できる機能が付いているじゃないですか。

Y:そんなの付いているんですか?

M:今のデジカメって、スゴいよ(笑)。最近、キヤノンのS95を買ったんですよ。セルフタイマーのボタンを押した人が、戻ってウインクをしたらシャッターが切れるとか(笑)。みんが笑ったら切れるとか。

Y:撮る人が要らないじゃないですか。

M:びっくりします。逆光でもキレイに撮れるとか。

Y:でもそんな優秀なコンデジでロケハンに行くと、暗くても明るすぎても、キレイに撮れちゃうので、みんな「これならいけるだろう」って思っちゃうんです。でも以外とプロ用のカメラではそこまで無理だったりして、本番で苦労したり...。

M:ちょっと空なんか撮っても、すごくキレイに撮れるから、自分が上手くなった気になっちゃう。

S:撮っているようで、カメラに撮らされているのかも知れないですね。

M:それで、どんどん高いカメラを買って、ハマっていくという...。

S:でもみんながある程度うまく撮れるようになると、フォトグラファーの仕事が減ったり、ギャラが落ちたり。

Y:それは辛い(笑)。

S:プリクラって、自動で眼を大きくする機能があるじゃないですか。あそこまでデフォルメしなくても、それを利用すれば、顔写真が即座にレタッチされたものも作れるようになるでしょ。

M:怖〜い!勝手に機械にいじられて「自分の顔って何なの?」「本当の私って」(笑)。

Y:今の時代、写真は真実を写さなくなってますね。

S:昔はポジで撮って、やれることがせいぜい現場でのフィルターワークだったものが、今はどんよりした風景でも、後でいくらでもドラマチックな写真に加工できてしまう。本質を見る眼を養わないと、相手の意図に誘導されやすい時代ですね。