「インフィニティ展」は、2013年までに3回開催されていますが、まずこのメンバーで展覧会を始められたきっかけを教えて下さい。

小林:以前、北島さんと舞山さんの九州ロケが重なり、お二人が飲んでいた所に、たまたま自分も九州にいて合流したんです。それがちょうど自分の誕生日でもあったので、これはきっと神様のプレゼントだと思い、その半年後には「このメンバーで集まって何かやりたい」と思っていました。

舞山さんは、デジタルの時代になって、写真がアイコン化している事にすごく危惧していて、オリジナルプリントとかの価値が浸透していないように思われていた。僕はアートギャラリーで作家活動を10年間やっていたけれど、あまり成果がなかった。 それと僕自身が写真のコレクターなのですが、最近「買いたい写真がない」という事に気がついた。なぜかと言うと、著名な作家とかの写真でも、ネガティブアプローチが多くて部屋に飾りたいと思えるようなものがあまりなかった。

またネットワークの時代になって、SNSには画像が氾濫しているけれど、「写真のモノとしての価値」を広げたいという思いがあって、舞山さんと北島さんにお声をかけました。
このままだと「写真ってどうなってしまうんだろう?」という悶々とした思いがある中、震災が起こりました。震災で企画していた展示が延びてしまいましたが、そうこうしているうちに、震災のチャリティで写真を売る動きが出てきた。 これは震災によって、家族の記録がなくなって、写真(プリント)の大切さが改めて見直されたのだと思います。

その頃、ハービー山口さんが「誰でもお金を出せば手に入るブランドものではなくて、(写真家だけではないですが)一人の人が作り上げたものも、その大切さを理解してもらえる時代になってきているのではないか」とおっしゃっていて、そういう事が、インフィニティ展を始めるきっかけになっています。

それで、広尾のIPC(インスタイル・フォトグラフィー・センター)で、普段交流のあるフォトグラファーが集まり、第一回目を開催するに至りました。そんな流れです。その中で、今回4度目の開催になります。

毎回テーマが設定されているのですか。

舞山:いえ、3回目に初めて「Shine」というテーマを設定しました。抽象的ですけど。

今回、モデルの松岡モナさんを全員が撮り下ろされているわけですが、きっかけはあったのですか。

小林:たまにメンバーが夜な夜な集まって打ち合わせをするわけですが、真夜中にほんとのバトルをしそうになるわけです(笑)。だったら写真でバトルしようよと(笑)。

舞山:例えば、モデルとか女優さんを、各自がバラバラに撮ると「誰が写っているか」という、被写体が主役になりかねないわけです。やはりフォトグラファーの個性がちゃんと出るためには、同じ人を撮った方がいいと思っていて、僕は「一人でいこう」って、ずっとしつこく言い続けていました。

皆は「2人くらいでもいいんじゃない?」、撮影スケジュールが合う合わないもあるし...、色々な人が出ていた方がいい、という意見も出ていました。でも結果的には、同じ一人のモデルを撮っても、これだけ差があるわけです。それが如実に出た。 一人のモデルを撮ることが、実は自分自身を写すセルフポートレートになるんだろう、作家自身の姿を写し出す所に行くだろうなと思ったら、やっぱりハマって、そうなりましたね。

小林:9人がそれぞれ撮れるスケジュールと、それ以上に、松岡モナさんはまだ若干15歳ですが、ミラノコレクションでデビューして、これから世界に羽ばたこうとしているタイミングがほんとに運良く一致したのが、奇跡を感じます。

設楽:全員別日で9日間必要ですからね。僕の時はお天気が悪かったので、日を改めて半日追加して、事務所で撮り足しました(笑)。

小林:僕も1.5日(笑)。

設楽:延べ10日間以上だから、彼女も大変だったね。 先日初めてみんなの作品を一同に見たのだけど、素晴らしい! びっくりした(笑)。どれも似たものがない。

鶴田:僕と北島さんの撮影場所が、偶然かぶったんですよね。

設楽:僕も小林さんと海かぶり。しかも九十九里まで一緒だった(笑)。

小林:半沢健君も「海」なんだよ。だから最初、僕が撮る時にモナちゃんに「みんな考える事一緒ね」って、言われたんだけど、海は海でも蓋を開けて見れば、まったく違う写真だった(笑)。
さっき舞山さんが言われたように、結局セルフポートレートだから、自分を映した場所になるんじゃないかな。自分の人生とか。

舞山:モナを使ったセルフポートレートというのは、間違いないね。

設楽:フォトグラファーの性格とセンスの違いが全て出てますね。

それぞれ撮影のコンセプトを簡単に教えてください。


©HIDEKAZU MAIYAMA

舞山:僕は「東京」を撮りたかった。東京の街。
夜明けとか夕暮ればかり一ヵ月近く撮って回っていて、モナちゃんがどうそこに存在するのか、というのを考えていました。ロケハンのような本番に近いような。途中から、「東京での自分の存在感」みたいなものかなあと考え出しました。

光はうまく使いたくて、夜明け前から一番光が面白い時間帯に撮っています。
とにかく彼女の"勘の良さ"には脱帽です。言わなくても、こちらが考えていたような表情をするしね。 最初に、僕が撮っておいた東京の風景写真を全部見せて、「この中に君を入れ込みたい」という説明をしただけですから。


©NAOKI TSURUTA

鶴田:僕の今回のテーマは「疑似恋愛」です。それも、絶対叶わぬ恋(笑)。
それを一言で表現すると「どういうテーマがいいんだろう?」と考えていた際に、達郎の「プラスティック・ラブ」を聞いて、「これだ!!」と(笑)。

顔が見えないという事に対して、ウィッグのツヤ感とか、全体から感じる佇まいとか、そういうところのエロスを狙いました。 結果的に、ほんとに顔が写っていない。やばいぞと(笑)。
自分にとって「そそる写真」という事ですね。触れられるようで触れられない...。


©MOTOYUKI KOBAYASHI

小林:松岡さんは、「スクールガールシリーズ」で随分前から撮っていたので、おそらくこのメンバーの中では、一番長く彼女を見ていたと思います。
メンバーの中では、「小林君はスクールガール」で行くよね? みたいな。そんな空気があったんですけど(笑)。 彼女の場合、シンプルに撮るよりはまわりの状況があった方がいいなと思っていました。それで彼女のフレンドリーな部分と、海外に旅立っていく夢を「白日夢」というテーマでまとめました。
実際に彼女は、ヨーロッパでモデルデビューしているわけだけど、この「馬のシーン」は、海外で羽ばたいて欲しいという祈りを込めています。
「永遠の旅人」みたいな。スクールガールからワールドクラスのモデルへと駆け上がって行って欲しいという願いを表しています。


©Rrosemary

Rrosemary:僕の撮影では、ヘアとメイクは何もしていません。一度も髪の毛を触りませんでした。普段は、ヘアメイクやスタイリストがいて、作っていくじゃないですか。でも今回は、なるべく手を加えたくなかった。
なるべく動いてもらって、撮りました。でもブラシも入れてないです。顔に髪がかかっていたら、顔を振ってもらうみたいな。

そしたら、彼女自身が自分で自分を演出し始めた。15歳ですが、子供という感じは全然なくてプロですよね。 寄ると、写る範囲が限られるからその画角の中での表情や動きに変えていく。指示しなくても自然と動けるのはすごいと思いました。

設楽:いいモデルだよね。

Rrosemary:昔、ルー・リードのライブを見た時に、真上からのスポットライトで、カンフーの舞をダンサーが踊っているのを見た事があって、昨年10月に亡くなったという事もあり、そういうトップライトを意識しました。何百回ジャンプしてもらったかわからない(笑)。

小林:「ローズマリーさんの撮影、面白かった!」ってモナに言われて、ちょっと妬いてたんだよね(笑)。


©SHIGEO SHIDARA

設楽:僕の場合、基本は「プリミティブ」という事と、裏テーマは「式年遷宮」です。20年経ったら、新しくするという。
なので、彼女を素のままから撮り始めて、メイクをして、汚れて朽ちて行くまでを撮りたかった。そしてメイクを落とすと、また元に戻る。その輪廻。
キレイにメイクするだけだと面白くないので、ヘアメイクに混じって、僕も塗ったりしました。その汚れて行く様も撮っています。 海の近くでメイクをしているので、鏡もないわけです。塗られていても、自分がどういう状況なのかわからないので、不安だったと思うよ(笑)。

小林:設楽さんが、この企画で一番最初の撮影でしたよね。

設楽:そう。外でメイクしているので風があって寒いし、その中で、全身キャンバスみたいに塗っちゃっていますから(笑)。プレスリリース用に出ている写真どころじゃないです。ムービーも撮っているので、ぜひ会場で観て頂きたいです。


©AKIRA KITAJIMA

北島:今回は、タイトルにも書いているのですが「プロタゴニスト(主役)」というテーマを設定しました。 彼女に様々な人間を演じてほしくて、全部で3パターンの役柄をやってもらっています。 ヤンキーっぽい髪型にしてもらったり、アーティストを演じてもらったり、胸にボールを入れて、グラマーな女の人になりきってもらったり...。意外とエロいんですよ(笑)。彼女はけっこう何でもできちゃう。本当はあと4〜5パターン撮りたかったのですが(笑)。とにかく1日でできる事をしました。
「色々な人間を演じてほしい」とお願いしたら、彼女はなりきってくれましたね。

飲み込みが早いんですね。

そうです。僕の方ではシンディ・シャーマンの話をしました。「映画のワンシーンを演じている人がいる」と。森村(泰昌)さんもそうですが、一番早かったのはシンデイ・シャーマンだったと思います。そういう説明をしたら、すぐに理解してくれましたね。
作品では、完璧に役柄になりきってもらっています。だから違う映画を3本撮った位の気分で撮影しました。

「写真プリントを買う」という意味

写真(プリント)を買うという視点でも観て頂きたいですね。

小林:写真を買う人は、評論家ではないわけだから、尖っているものやわかりづらいものは要らないはずなんです。美術館に収蔵される写真についても、誰がどのような判断で買っているのか、疑問に思う部分もあります。
あと、広告やファッションフォトで活躍されている方は実力があるので、自分の写真(作品)が撮れないわけはない、とも思う。

舞山:でも意外と、自分の作品を撮っていない人も多いよ。
僕が4年間、CONTACT GALLERYを運営していて、誰一人、作品展をしなかったからね。もちろん今のような横の繋がりがなかった事もあるだろうけど、色々なフォトグラファーには軽く声をかけたのだけど...。「1日1万円、3日間なら3万円でいいよ」と。

鶴田:安いですよね。

舞山:家賃が30万円だったからね。学生には割引もしたし。
フリーになってすぐの人は、100人に会うために、100件アポをとって足を運ばなければいけないわけだけど、「写真展に100人来てもらえばいいじゃん」って、思っていた。写真展はオープニングしか来ないから、「2日間ですが、展覧会をしますので来て下さい!」と。その方が沢山の人に会える。
でも当時は、誰もやらなかったですね。今になって、やっと作品展をどんどんやり出した。あの頃、時代が良くて仕事で忙しかったと言う事もあったかもしれないけど。

仕事が忙しい若手のフォトグラファー達は、展覧会をしても写真を売る気はあまりないんですよ。自分も30代の頃はそうだった。
でも発表して自分のバックサイドを見せないと、依頼仕事では、オファーする人達のいいなりになると思ったわけ。どこかで「俺は俺ですから!」って言わないと、流れに飲み込まれると思っていたからね。

でも発表するだけより、売れた方がいいわけです。作品を自分が買う機会があって、たまたま幹幸君にも出会って、そこで売るとか、他人の写真を持つ意味とかを語ってくれて「あっ、そうか」と。
「写真集を買わない人が、写真集を作れるはずはない」って、幹幸君が言ったわけよ。確かにそうだなと。モノを所有してもらうには、自分がモノを買わないとわからない。
話が戻りますが、その辺りがインフィニティ展をスタートさせるきっかけですね。

メーカー系のギャラリーは、「顧客サービス」という意味合いが大きくて、基本的に売る、買うという主旨とは違っていました。

小林:そこなんですよ。日本の写真ギャラリーの成り立ちが、特にフィルム、カメラメーカーのサービスでやっていた。ギャラリーの運営が買ってくれる人で成り立っている海外のギャラリーとは違っていたよね。 そこの意識の違いで、「カメラ」は浸透するけれど、「写真」を浸透させる事がうまく行かなかった。

写真集を買う人は増えてきましたが、プリントを買う人はまだ少ないですよね。

ギャラリーに顔を出していると、○○さんが、アービングペンを買っていったとか。実名を聞くと、そういうフォトグラファーは売れてるんだよね。やっぱり人の写真を買う事を目的にしている人は、仕事でも成功している。

写真を買う事は、ある意味、自分の部屋のスペースを提供する事だったり、すごく重いものを背負う事でもあるからね。
日本は写真を撮る人は多いですが、写真を見る目を持っている人はまだ少ない。買う歴史がなかったので仕方ないのですが、これからだと思います。
今回は、プリントの販売価格も今までにない設定にしていますし、モナという表現者が、見る人が何に共感できるのか、ぜひ探してほしいです。

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©TAKESHI HANZAWA

■半沢健
モナは、1年前に撮影した事がありました。当時から写真に対して、しっかりした考え方を持っていましたね。 この企画では、プロのモデルというよりも15歳の「自然体のモナ」を撮りたいと思いました。そのため、モナと自分とアシスタントと犬を連れて、少人数で車移動しながら撮影しています。「茨城方面が晴れているから、あっちに行ってみようか」みたいなノリ(笑)。彼女は移動中、車の中で寝ていたし、寝起きにパチパチと撮って、また別の場所へ。ロードームービー的な撮り方でした。 やわらかいトーンが欲しかったので、フィルムのライカを使っています。久しぶりに上がりを見るまでドキドキしました。

 


©KAZUTAKA NAKAMURA


©YOSHIHITO SASAGUCHI

■笹口悦民
今作品のテーマは「BLOOMING」。咲き誇る花と、大きく咲き始めたモナの両方を一枚の写真に収めようと思いました。 ポートレートではなく、あえてファッションモデルとして彼女には演じてもらうようお願いしましたが、彼女の表現力は期待以上でした。 また、写真を一般に方へ販売するという考えは私にとって始めての経験なので、写真を観た方が、どのように感じられるのか、少し不安でもあり、楽しみでもあります。