- 2013.09.01
Photographer伊藤 之一
上の写真はフォトグラファー伊藤之一さんによって撮りおろされた作品だ。
中判デジタルを用い、合成ではなく一発撮りで撮影されている。
商品の生まれた背景からその効果まで、
目に見える以上の商品イメージを意識しながら撮影を行うという伊藤さん。
幻想的に空に浮かんだ「HAKU」の撮影現場から、
繊細でありながら力強いライティングが求められる
スティルライフのワークフローの一端を密着取材させてもらった。
- 左:今回の撮影で使用する機材。デジタルバックP40+にカメラボディはフェーズワン645DF。レンズはシュナイダーの80mmF2.8とシフト機能が搭載されている120mmF5.6の2本。左上に3つ並んでいるものは接写リングだ。「基本的に私の仕事はこの2本のレンズで対応できます。他のレンズが必要な場合はレンタルします。この中でシフトレンズはもっとも私が愛用する機材のひとつ。垂直水平は撮影後にも修正できますが、やはり撮影時にしっかり対応したほうが写真のクオリティーは上がります」
右:スティルライフを撮影する際のグッズ。ピンセットや化粧品をかき混ぜるスティックなどが入っている。もちろん撮影にはスタイリストがつくことがほとんどだが、ある程度自分で対応できるようにアイテムを揃えている。
- 左:三脚はマンフロット。アングルサポート付きだ。「物撮りでは、ライティングを行う上で、三脚の脚などが邪魔になることがあります。アングルサポートを使用すれば、これを気にせず被写体への寄り引きが行えます。とくに寄り切りたい場面で便利。スティルライフは小さな被写体も多く、5mm10mmの違いが大きな描写の差を生みます」
右:撮影前にはしっかりセンサーを掃除し、ゴミや塵の写り込みを防ぐ。とくに脱着式のデジタルバックでは、撮影前に行う必須の作業だ。
ここから具体的な撮影に入っていく。今回はすでに撮りおろされた別の風景写真を背景にして化粧品を写すというユニークなスタイル。被写体と背景がうまくマッチングするようにしっかり配置を吟味したのち、細かくライティングを見ていく流れだ。
- 左:撮影は専用のFIREWIREを使ってカメラとMacBook Proを接続して行う。なお、クライアントが多い場合はiMacを使用する。ブラウジング、現像はキャプチャーワン。ここではレンズはシュナイダーの120mmに接写リングを付けて利用する。
右:インクジェットで出力された、背景に使用する風景写真をパネルに貼る。失敗してもいいように、数枚ずつ写真が用意されている。
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左:三脚の上に固定した棒状のアクリル台に商品を乗せ、さらにこれをしっかり固定する。
右:風景写真を貼ったパネルを背景に配置。カメラで構図を決めながら作業を行う。
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左:構図を探りながら、ライティングを行う。メインは左斜めから照射するモノブロックストロボ1灯。前面に3mm厚の乳白のアクリル板を置きハイライトを入れる。なお、ライトにはバンドアー(ライトカッター)を装着。ここでも光をコントロールしている。ライトはコメットのTWINKLE04FⅡを使用。「乳白のアクリル板を使うと、細長い面的な光をクリアにつくることができます。トレペは光が回りにくく、そもそも1灯だと下のほうが暗く落ちます。光を回しながらもしっかり腰のあるライトが打てるという意味で乳白のアクリル板は効果的です。今回は3mm厚を使用しましたが、曲げて使う場合には2mm厚が便利です。バンドアーも基本的に標準搭載で使用しています。ライトの余計な部分を切ることができるアクセサリーですが、これがないと、黒ボードやフラグを使わなくてはいけなくて、時間と手間がかかります。物撮りでは非常に有効なアイテムです」
右:背景の写真パネルに向けてソフトボックス1灯を入れる。こうすることで、背景を明るく起こす。
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左:ここで商品を浮いているように見せるため、下のアクリル台を外す作業を行う。まず、パネルの背後から針金を通し、グルーガンを使って商品と針金を接着する。グルーガンはスティック状の樹脂を溶かして物を接着する道具。これもスティルライフで便利なアイテムのひとつだ。
右:商品と針金を接着。この際、針金を通す穴をパネルのどこにするかは慎重に行わなければいけない作業だ。カメラで何度も確認しながら決めていく。
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左:商品と針金が接着できたら、下のアクリル台を外す。ここまでのライティングはこのような状態。ファインダーから被写体の配置を確認する伊藤さん。
右:ここからさらに、ライティングの精度を高めていく。まずはスポット光を商品の右斜め奥から照射。右側面にハイライトを入れることで輪郭を浮き立たす。
- 左:背景に向けて照射するソフトボックスには、手前に光が漏れないように黒ボードを配置。これで純粋に背景にのみ光を照射できるようになる。 右:商品の右上にハイライトを入れる目的で、さらにモノブロックを商品の右上部から照射。黒ケント紙を巻き、照り返しに強弱をつけている。「そのまま発光すると、シャドー部分が甘くなります。右上の角にだけ光が当たるように黒ケント紙で調整しています」
- 左右:最終的に浮いている質感を出すために、商品の下に銀レフを配置し、商品底部の光量を補った。これでライティングは完成。計4灯のモノブロックを使用した。
1灯ずつの役割を見ていくとこのようなライティングになる。ロゴに被らないように正面左側にハイライトのラインを入れつつ、一方、右側面のシャドーは商品の輪郭をつぶさない程度に残されているのがポイントだ。単にシャドーをつくるのではなく、②と③のライトを加えることで、シャドーの面積や濃さを調整し、よりニュアンスのある陰影が表現されている。この辺りの微妙な階調表現も中判デジタルならば、つぶさにしっかりと描写できる。
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最終的に伊藤さんのほうで色味や明るさ、コントラストを調整したものが上の写真だ。ここからさらに、レタッチャーにレタッチを依頼し、はじめて写真は完成する(冒頭の一枚)。なお、撮影データはISO50、シャッタースピード1/100秒、撮り目はF22だ。
この写真は気持ちのいいボケの影響でその浮遊感がより印象的に仕上がっているのも特徴的だ。もちろん、背景素材との間に距離をつくり、被写界深度をコントロールしていることも要因のひとつだが、それだけでなく、この描写にはセンサーサイズの大きな中判デジタルが大きく影響していることも重要な要素だ。中判ならではのダイナミックなボケ感が演出されている。なお、ライトバランスは絞りF22前後で光が回るようにライティングされているが、基本的にはテスト撮影をくり返し、PCで画像を確認しながら、光量の微妙なバランスは調整していると伊藤さんは言う。また、中判デジタルを使ったスタジオ撮影では、設定するISO感度は低感度が基本だとも。「中判デジタルは低感度ほど階調豊かに描写でき、本来の能力が発揮できます。スタジオでは光をコントロールできますし、スティルライフでは三脚も使いますから、低感度は利用しやすいです。私が物撮りをする場合は、基本的にISO200以上は使いません」
1966年名古屋生まれ。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、博報堂フォトクリエイティブ(現、博報堂プロダクツ)にフォトグラファーとして入社。2000年伊藤写真事務所設立。広告写真制作を主軸に自主制作の作品も発表を続けている。主な写真集に「入り口」「テツオ」「電車カメラ」「雨が、アスファルト」「ハレ」「凸」(共にWALL)高岡一弥氏、高橋睦朗氏との共著「百人一首」(PIE BOOKS)などがある。写真展も数多く行っている。伊藤 之一 Photographer
http://www.itoyukikazu.com
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