- 2011.09.07
CreatorWeiden+Kennedy Tokyo & DYSK
8月にローンチしたナイキの新しい企業広告。
この広告を制作したスタッフに集まって頂き、
メッセージに込めた思いから、撮影の苦労話までを語ってもらった。
まず今回のナイキの広告展開について概要を教えて下さい。
- ▲左からAndrew Miller氏、Naoki Ga氏、DYSK氏。
NAOKI(以下N):3月11日に大震災が起こりました。今回、新しいメッセージを発信するにあたり、僕たちもここに至るまでにすごくディスカッションを重ねました。
何を言っていくべきなのか、答えを打ち出すまでに色々な方向性を考えました。ナイキはスポーツブランドなので、スポーツの視点からできる切り口で伝えられるのではないか、スポーツが持っている普遍的な真理「全てのゲームには始まりがある」、それは打席に入る時、ピッチに立つ時、様々なジャンルで新しいゲーム、新しくチャレンジする場面は日々訪れるはず。そこから「毎日が最高のチャンスだ。」というキーワードが生まれました。
Andrew(以下A):3.11の後に、ナイキが打ち出すキャンペーンとしては始めてのものだったので、メッセージ自体もすごくセンシィティブに考える必要がありました。
ナイキは「Open Invitation」という言葉をよく使います。「誰もがそこに参加することができるのがスポーツ」という意味です。スポーツは体を鍛えるという役割もありますが、体を動かすことで、頭の中を一度クリアにすることもできます。今、日本は大変な状況で混乱するのは当たり前ですが、頭の中を整理する手段の一つとしてのスポーツを提案するということ。メッセージの中にそういう意味も含めています。
登場しているのはトップアスリートが多いですが、スポーツは誰にでもできるものですよね。
- ▲長友佑都選手/フットボール
N:そうです。そのためナイキが契約しているアスリートをフィーチャーしながら、様々なジャンルのスポーツ選手をオーディションしました。
今回僕たちが作ろうとしたのは、アスリートに向けたメッセージというよりは、日本全体に向けたメッセージなんです。ナイキには「If you have a body, you are an athlete」(体さえあればみんなアスリートだ)という有名なクオートがあります。特に3.11直後に始動した広告として、スポーツはみな平等で、スポーツの視点からどのように日本を勇気づけられるだろうか。ナイキのスタンスで言えることを考えました。
被災者や広い意味で日本にエールを送るということですね。
N:「日本がんばろう!」は、他の企業でも言えることです。「毎日が最高のチャンスだ。」というのは、スポーツブランドのナイキらしい表現です。ブランドに忠実なメッセージというか...。それが最終的に「JUST DO IT.」という言葉に結びついていくのも、ある意味、自然な流れだったと思います。
ナイキのWebサイトでは多くのアスリートがメッセージを出されていますが、どのように選ばれたのですか。
Photo:Yoshitsugu Enomoto
N:「New Beginnings」というコンセプトに適したキャストを僕達からも提案し、ナイキから提案された人達と擦り合せていきました。
A:チームスポーツだけではなく、ストリートカルチャー的なスポーツも混ぜていきたいなと考えていました。それはあらゆる年齢の人に、ナイキのメッセージを伝えていきたいという思いからです。
ダブルダッチもフットボールと同じくらい重要だし、スケートボードも野球と同じくらい重要なんです。スポーツを選んでいく中でそういったことも頭に入れて、バランスを考えてチョイスしています。
いつ頃オファーを受けて、どのように撮影を進められたのですか。
DYSK(以下D):依頼を受けたのは5月の下旬頃です。
N:CMとスチルを連動させる形で、同じコンセプトのもと、同時進行で撮影の準備を始めました。なるべく多くの人をカバーしたかったので、アスリートのスケジュールを優先しながら調整し、6月以降、順次撮影をスタートしました。
DYSKさんに撮影を依頼した理由は?
- ▼DYSK's website
http://www.up4d.com
N:彼とは昔からナイキの仕事でお付き合いがあり、何度も一緒に仕事をして、彼の写真もよく見ていましたから。
D:暇だったから。
N:いやいや(笑)。すごく流動的に動くプロジェクトだったし、天候に左右される状況も考えられます。何が起こるか予測がつきにくい撮影だったので、いつも仕事をしていて慣れているDYSK君なら、一緒に乗り越えてくれるだろうという気持ちはありました。
画角とか、切り取り方はDYSKさんに委ねているんですか?
N:フィルムの方で先にロケハンをして、そこから撮影に入ります。フィルムもスチルも同様のアクションを切り取っていきます。フィルムとスチルが完全に連動しているというよりは、被写体が同じというだけで、アングルはまったく違うと言ってもいいくらいです。DYSKさんには、1枚絵としての強さを切り取ってもらい、フィルムは一連の流れの中で、連続した動きを押さえてもらいました。
撮影期間はどのくらいだったのですか?
A 7〜8日間くらいかな。
N 予定していた日が雨だったり、色々変更もありました。
A 1日3〜4ヵ所、1ヵ所にだいたい2~3時間いて、またバンに乗って次に移動する、という感じだったね。ロードトリップみたい(笑)。
ラグビーの亜耶・バネッサ選手のビジュアルは、すごいタックルのシーンで試合のような迫力です。
- ▲亜耶バネッサ選手/ラグビー
N:そういうシーンを切り取るという想定で、いつも練習をしているメンバー達にも協力してもらい、本番さながらの動きをしてもらっています。
特に試合をしているところを撮っているわけではないのですが、目指すところが「リアリティを切り取る」というところなので、そこに定着させることが最終的な目標でした。
D:手を抜いたらできないことばかりしてもらっていますよね。
N:そうですね。ほぼ本気のアクションです。バネッサ選手の場合は、おもいっきりタックルしてもらい、彼女の腕は傷だらけになっていました。
全力でやっているのかそうでないかは、写真や映像に出てしまいますよね。
N:ナイキだけに、スポーツのオーセンティックな部分は絶対に表現しないといけないですから。例えば、フリークライマーの岡野寛さんの場合、彼が登る岩場に僕らが行って撮影しています。そこで実際に登ってもらい、それを撮っています。
撮影チームも大変ですね。
N:セットじゃないですからね(笑)。僕らもトレックして、アプローチのあるところを探します。ロッククライミングの現場でカメラを回す。だからこそリアリティのある映像になるんです。
基本的に全ての撮影に立ち会っています。さっきAndrewが言った通り、ロードトリップじゃないけれど、タイトなクルーで一緒に1台のバンで埼玉だったり千葉だったり、ぐるぐる移動しながら撮影していました。けっこうタフなスケジュールでした(笑)。
一番大変だったことは何ですか?
▲土田和歌子選手/車椅子アスリート
A:スポーツの「瞬間」をカメラで捉えていくことが一番大変でした。「一つの動き」を追っていくのですが、撮った映像を見て、アングルが違っていたりとか、パフォーマンス自体がMAXに出来ていなかったりすると、同じ動きをもう一度撮影します。そしてコーチやパフォーマンスの指示を出す人と相談をして、アスリートの最高のレベルのパフォーマンス引き出してもらえるように促してもらいます。一番「本物の瞬間」を撮れるか。そこにすごく時間を費やしています。ラグビーも寒くて雨が降っているにも関わらず、何度もタックルをし続けてもらいました。
N:例えば車椅子アスリートの土田さんの場合、実際にものすごく速いわけです。そのためサイドにバギーを用意して、トラックの横を並走していくんです。ゴルフカートのようなもので、車輪と同じ高さにカメラを合わせて、少し見上げるくらいのアングルにしています。DYSKさんにも地面ギリギリにかまえて撮ってもらっています。
撮影のためにゆっくり走ってもらうのではなく、本気に近い速度で走っているんですね。
- ▲ユニークなアングルで撮影することも。
N:そういうことです。カメラに合わせて遅く走るのではなく、実際のスピードに合わせてカメラがついていく。だからリアリティがあるんです。
A:それと同時にユニークなアングルで、動きを切り取っていこうとも考えています。例えばバスケットボールでは、1時間くらいかけてムービーキャメラをゴールネットのすぐ上に設置しました。それで実際に選手が上を見上げるようなところを狙っています。そういったユニークなアングルも楽しんでほしいですね。
N:僕らが目指しているところで言えるのは、ニュースに出てくるような「スポーツのハイライト」を見せるのではなく、みんなが見た事もないような切り口だったり、視点みたいなものはいつも意識しています。Webサイトには75秒のロングバージョンが存在するので、それも是非見て頂きたいです。
A:もう一つフォーカスしたかった点は、アクションだけでなく、ポートレイトのショットであっても「決意」が感じられるようなものを表現したかった、ということ。彼らの映像は、CMを通して大量に流れていくのですが、実際に言葉を彼らが語っているわけではないので、映像や写真を通して「決意」が感じられるようなものにすることが重要でした。そうして「本物のアクション」と、「本気の表情」でコントラストを出して、ストーリーを作っています。
▲原宿「とんちゃん通り」に掲出された、Nike Just Do It "New Beginnings" のOOH。
意思の強さを映像からも感じました。
▲モデルではなく、普段からその競技の練習を積んでいる人の中から選出している。
N:この中に役者は一人もいないんです。オーディションでも、本当にそのスポーツを誠実にやっている人の中から選んでいます。
A:No Model、No Actor。
この柔道の女の子も、みんなが驚いた一人です。キャスティングした時には、すごくキュートでスィートな感じだったけれど、カメラがONになった後の映像を見てみると、彼女の眼にすごい強さがあった。それが「日本にとってインスピレーションになるよね」と、僕ら自身もすごくワクワクしていました。
ナイキからのメッセージ「常に決意を持ってやっていこう」というのは年齢、職業に関係なく、全ての人に伝わっていくものだと思います。こういう強さのあるポートレイトは「JUST DO IT.」のストーリーの中の大きな部分を占めています。
▲NIKE「毎日が最高のチャンスだ。」バリエーションはこちらから。
N スポーツの中には多々「JUST DO IT.」な瞬間がありますが、その精神性はスポーツだけでなく、個人の生活の中にも共通して置き換えられます。「毎日が最高のチャンスだ。」も同じく、すべての人に共通したメッセージなのです。
D 撮る側としては、今彼が言っていたアプローチだったように思います。その競技を撮っているというよりは、「決意」だったり、スポーツのオーセンティックな部分...。話を聞いて思い出したのですが(笑)、競技は撮っていなかった。彼らの「生きざま」みたいなものが、ちょっとでも撮れればいいかなと...。
A 「毎日が最高のチャンスだ。」というメッセージは、ナイキが試合前の日本全体に、まるでコーチのように向けて話しかけているものなんです。「次の試合は未来なんだよ」と。
Weiden+Kennedy Tokyo & DYSK Creator
NIKE「毎日が最高のチャンスだ。」制作チーム。
左からAndrew Miller(Wieden+Kennedy Tokyo コピーライター)、DYSK(フォトグラファー)、Naoki Ga(Wieden+Kennedy Tokyo アートディレクター)。
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