- 2013.06.20
Photographer渡邉 肇
ビューティー写真などを中心に、広告写真の第一線で活躍し続けているフォトグラファーの渡邉肇氏。
早い時期から中判デジタルに関心を持ち、積極的に取り入れてきた氏が考える、機材選びの重要性を訊いた。
最近はムービーも撮れるデジタル一眼レフが人気ですが、なぜ中判デジタルを使い続けられているのでしょうか?
- 渡邉 肇氏
僕の場合、数年前から広告の仕事が中心になっていて、B0サイズやB1サイズのポスターや、店頭POPなど、大きなサイズで使われることが多く、大きく伸ばしても画質の美しさが要求されます。このような仕事では、クオリティ面で信頼できるカメラが重要です。最近では35mmのデジタル一眼レフでも画素数が大きくなってきていますが、イメージセンサーの大きさが中判デジタルのほうが断然大きい。イメージセンサーが大きい分、画像を無理なく大きく伸ばすことができるんです。この点は僕にとって非常に魅力的ですね。
それと、以前から中判カメラを使っていたことも理由のひとつです。ハッセルブラッドのVシリーズを愛用していたのですが、そのフィルムバックをデジタルバックにするだけで、いままでの機動性やサイズ感にさほど変化がなく、自然にデジタルへ移行できた点もよかった。
いまは商業写真をフィルムで撮ることはほぼなくなりましたが、個人作品を撮るときには使うこともあるので、商業写真と個人作品の両方で同じカメラを使うことができる点も魅力です。
最初に購入した中判デジタルと、現在使用している中判デジタルを教えてください。
はじめて使った中判デジタルは、正方形のCCDが搭載されたフェーズワン「H20」です。それからずっとフェーズワンユーザーできています。H20を使っていた頃は、フィルムとデジタルを併用することが多かったですね。特にB0ポスターのような写真を大きく伸ばして使われる仕事では、中判フィルムや大判フィルムで撮っていました。仕事内容に応じてベストな機材を選ぶ、というスタンスで使い分けていましたね。 現在は6,050万画素フルフレームCCD搭載のフェーズワン「P65+」を使っています。8,000万画素もあるIQシリーズが登場しましたが、僕の仕事範囲では6,050万画素のP65+で充分足りています。 中判デジタルは選択肢のひとつであり、フィルム、デジタル関係なく、プロとして自分が考えるハイクオリティなものを提供するにはどうすればいいのか、何を選べばいいのかを念頭に入れていつも選ぶようにしています。
仕事の撮影でデジタル一眼レフを選ぶことはありますか?
商業写真で使うことはないですね。すでに述べているとおり画素数の問題がありますし、中判デジタルのレンズのほうがトーンの領域が広いので圧倒的にきれいなんですよ。最近では、ハッセルブラッドのCレンズを多用しているのですが、ビューティー写真に向いているレンズで、シャープな写りなんだけど、ハイライト〜中間調〜シャドウのトーン表現が非常に滑らかなので、人の肌を表現するのにすごく適しています。昔のレンズは、研磨の仕方やレンズ構成など、光学系が計算し尽くされていて、とてもよくできていると思います。 表現の面において、昔のすばらしいレンズを使うことができる点は、中判デジタルの魅力のひとつ。いまのレンズもシャープではありますが、硬質感があって人物撮影にはあまり向いていないのかなと感じています。感覚的なものなので、絶対にそうだとはいえませんが...。
デジタル一眼レフのレンズでは、中判デジタルのレンズと同じような表現を得ることは難しいのでしょうか?
残念ながら、僕が持っているデジタル一眼レフのレンズでは難しいですね。ただ、デジタル一眼レフにはデジタル一眼レフにしか撮れないものというのがあります。たとえば、超望遠レンズや超広角レンズなどの表現はデジタル一眼レフのほうが威力を発揮しますよね。 機材選びは「何を撮るのか」、「どんな表現にしたいのか」、「写真をどう使うのか」によって選ぶべきで、どちらのカメラ(あるいはレンズ)がよいとか悪いとかの話ではないと思います。僕の仕事内容では中判デジタルが適しているのでデジタル一眼レフを使う必要がない、というだけのことです。 自分も依頼主も納得するハイクオリティなものを提供するためには、撮影の内容に応じて機材をちゃんと選ぶべき。何でも撮れるオールマイティなカメラに頼りすぎると、クオリティ的にベストなものに仕上がらなくなる危険性が潜んでいることを忘れてはなりません。
高価な中判デジタルは簡単に手に入るものでも、使いこなせるものでもありません。興味はあるけど使ったことがないという人は、ある程度、デジタル一眼レフなどで経験を積んでから使用したほうがいいものなのでしょうか?
僕は「次にこういう仕事を請けたら、この機材に投資しよう」とイメージするようにしていました。「この写真はこの機材で撮りたい」と目標ができたら、無理してでもレンタルして使ってみる。それがよければ、次に大きな仕事を請けたときには購入してやろうと、そういう考え方でやってきました。レンタルで使っていた機材を所有することで、じっくりと試行錯誤することができ、本当の意味で「自分の道具」になると思うんです。 若い方だと機材にかけられる余裕はあまりないかもしれません。ただ覚えておいてほしいのは、「本当はこの機材を使いたいけど使えないから手持ちの機材で撮る」というのは、残念ながら妥協してしまっているのと同じことです。そういう気持ちや姿勢は写真にも出てしまうのではないでしょうか。よりハイクオリティな写真を撮ろうとする姿勢で臨むことは、仕事に対する姿勢や表現の幅の向上に必ずつながると思います。 まずは関心を持ってみること。人から聞いた情報だけで判断せずに、実際に自分で試す努力をすることです。
興味を持つこと、試すことが重要なのですね。
中判デジタルとデジタル一眼レフを同じ露出にして、同じ場所で撮影しても、組み合わせたレンズの口径やフォーマットに対するF値の違いによって、まったく異なった描写になります。この違いを実際に触って体験することで、自分の引き出しがどんどん増えていきます。 ハイクオリティな写真を提供するためには、こういう知識もしっかりと身につけておいたほうが絶対に有利です。多くの引き出しを用意しておけば、求められている(求めている)表現に合わせてベストな機材を選ぶことができますから。 フォトグラファーは経験や道具に頼るところが大きいので、いろんなことに興味を持って経験してみることは「自分のスタイル」を確立していくうえで大切なことだと思います。
最後に、いま興味を持たれている機材はありますか?
フェーズワンのモノクロセンサーのデジタルバックに興味があります。モノクロ専用の中判デジタルだとどんな描写が得られるのか試してみたいですね。カラー素子がないとどんな描写になるのかなんて想像しただけではわかりません。興味があることはやっぱり試してみないと!
【愛機】
最近は、ハッセルブラッドのVシリーズにデジタルバックのフェーズワンP65+を装着して使うことが多い。レンズはハッセルブラッドのCレンズを愛用中。このレンズは滑らかな人肌を表現するビューティー写真に向いている。ただし逆光に弱く、スタジオなどのような光をコントロールできる環境が必要になる。また、Capture Oneでトーンカーブを少し調整することで、非常に美しい画像に仕上げることができる。扱い方に多少気をつかうが、少しのコントロールですばらしいパフォーマンスを得られるので、最近のお気に入りのひとつだ。
【作品】
Personal work 1 / 化粧写真 RH Project(HM:Ryuji)
Personal work 2 / Hair expert guild(Hair:Yuuki Tanaka)
Personal work 3 / 化粧写真 RH Project(HM:Ryuji)
Personal work 4 / (HM:Emi Ohara)
渡邉 肇 Photographer
1964年神戸生まれ。広告を中心に活動。個人作品の発表も毎年精力的に行っている。今年は人形浄瑠璃文楽を主題にした作品展「人間・人形 映写展」を開催。
http://www.diapositive.jp/
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