- 2016.04.15
Photographer舞山秀一
レンズ描写性能など、そのクオリティの高さから世界中にコレクターや愛好家を持つライカ。
そのライカから、35mmフルサイズCMOSセンサーを搭載するミラーレスカメラ「ライカSL」が発売された。
高級レンジファインダーカメラ「ライカM9」のユーザーである舞山秀一さんに、ライカSLの撮り下ろしを依頼。
ポートレートを中心に、広告や雑誌、CDジャケット、タレント写真集などで活躍中の舞山さんに、ライカカメラの魅力やライカSLが持つ可能性を訊いた。
Photo:舞山秀一(マイヤマ事務所) ST:大園連珠(W) HM:橋本孝裕(SHIMA) Model:ELENA SUDAKOVA(Stage Tokyo Model Agency) Cas:市川輪美(ニーズプラス) 企画・編集:坂田大作(TSUNAGARI) 撮影協力:スタジオエビス 機材協力:Profoto
Interview・text:編集部・Noriko Fukuda
舞山さんはライカM9を愛用されていますが、使い始めたきっかけを教えてください。
知り合いのフォトグラファーがいつもライカM9を首にぶら下げて歩いていたので、ずっと気になっていたんです。「何がいいのか」と尋ねると、「本当に画がきれいなんだ」と言うんですよ。"万能なカメラ"に飽きていた時期だったこともあって、その言葉がすごく気になってしまったんです。
フィルム時代はカメラを駆使しないと写真を撮れませんでしたが、デジタル時代になってカメラが優秀になり、よく考えずにシャッターを押しても撮れるようになった。カメラがきれいな写真を撮ってくれるようになったんですよ。きれいなことを望んだわけではなくてもきれいに撮れてしまったり、かっこいいことを望んだわけではなくてもかっこいいシーンでシャッターが切れてしまったり...。でも「本当の写真」が撮れているわけではないと思うんです。もっと明確に「意志を伝えられるカメラはないかな」と思っていた時に、ライカM9に出合いました。
ライカM9を使い始めた時の印象を教えてください。
万能なカメラから難しいカメラに持ち替えたことで、まず写真がへたになりましたね(笑)。だけど、フォーカスが合って、開放で撮った時の写真のきれいさが想像以上でした。
写真のきれいさに「これだ!」と感じられたのですね。
「きたー!」と思いましたね(笑)。あと、サイズ感もいい。もう一度「スナップを撮りたい」と思えるようになりました。20代の頃はニコンのF3を持ってスナップを撮っていました。30代ではペンタックスの645や67を持ってよく海外を旅したりしていたのですが、デジタル時代になって、35mm一眼レフを持ってスナップを撮りたいと思えなくなってしまって...。万能カメラでスナップを撮ってもシャッターを切っただけで撮れてしまうから、ハラハラ感がなくて面白く感じなくなってしまったんだと思います。
でもライカM9に出会い、スナップを撮りながらぶらぶらと歩くことが楽しくなりました。手でピントを合わせないといけないし、露出を見なくてはいけないのに、その苦労が逆に写真意欲を高めてくれたんですよね。おかげでレンジファインダーの魅力をもう一度感じ直すことができました。
ライカの魅力を知り尽くしている舞山さんに、今回、ライカとしては初のフルサイズミラーレスカメラ「ライカSL」で撮り下ろしていただきました。
まず、ライカSLの良さを活かした撮影をしたいと考えました。スナップ撮影のほうが向いているのか、それともスタジオ撮影のほうが向いているのか。今回は、ボディと同時発売された「ライカ バリオ・エルマリート SL f2.8-4/24-90mm ASPH.」を使ったので、サイズ感から考えるとスタジオ撮影のほうがいろいろと試せるかなと思ったんです。
イメージとしては、ライブステージのような「光の帯」を考えていました。光の帯が垂れていて、人がそこを行き交う...。光の帯の中にふわっと入ったり、光の帯から出ると真っ暗になったり。僕の頭の中に欲しい画が明確にあったんですよね。ダンスするステージのイメージもあったので、グリッドをつけた細長いボックスを2台並べて上から当てることでスポットライトっぽくしました。
ライカSLは35mmフルサイズの2,400万画素CMOSセンサーを搭載していますが、画質についてはどのように感じられましたか?
今回の撮影はコントラストがはっきりとした、ライティングとしてはかなり厳しい条件でしたが、ハイライト側のデータがちゃんと残っていて驚きました。現像時にもハイコントラストにしているのですが、ハイライト部分のデータがしっかりと残っているんですよね。レンジが広いのかな。
CCDセンサーのカメラではアンダー目に撮る必要がありますが、ライカSLはCMOSセンサーなだけあってハイライトに対するコシがあり、かなり粘りがあると感じました。
色味についての印象を聞かせください。
コシのあるデータだったので、色味については思い通りに仕上がりました。これは僕の持論なのですが、色味の個性はセンサーよりもレンズに起因するところが大きいと思うんです。色域をすべて網羅できるかどうかは、レンズの材質やコーティングの違いだと考えています。
レンズの発色についてはどうでしょうか。
ライカレンズの発色は好きですね。今でもオールドレンズ含めファンが多いのは、堅牢性と描写力が素晴らしいからだし、ブランドとして画のイメージをしっかりと持っているからだと思います。
ISO感度の印象はいかがですか?
ISO100で撮った写真は想像を絶する美しさでした。「女性自身」(2016年3月15日号)の表紙撮影でも、ライカSLを使って武井咲さんをストロボ撮影したのですが、その質感もすごくよかった! ズームレンズでもここまできれいに写せるのかと驚きました。
撮影が難しい状況下でも最高50000までISO感度が設定できて便利ですが、人物写真や特大サイズにプリントする場合は、ライカSLならではの画のきれいさを活かすためにもISO400くらいまでがオススメですね。
440万ドットの「EyeResファインダー」が優秀だと言われています。
「光学ファインダー?」って思うくらいよかったですね。 EVFの中ではダントツのクオリティだと思います。ただEVFの弱点である逆光に対しては、少し弱い印象を受けました。そういう意味でもライカSLのよさを活かすにはスタジオ撮影や、やわらかい自然光が向いているのかもしれません。
ハード的な印象をお聞かせください。
デザインが抜群にいい! この角張った感じがすごく好きですね。ライカらしい洗練された美しさだと思います。ライカSLで撮影すると、100%に近い確率で話題に上るので、それがきっかけになって被写体との距離が近づき、自分も相手もテンションが上がります。
それと、ミラーレスカメラとしては少し大きく感じられる方もいるかもしれませんが、カメラとレンズのバランスを考えるとちょうどいいんですよ。カメラが小さすぎるとレンズで操作している感じになってしまうことがあるので、プロユースとして考えられているなと思いました。
操作感はいかがでしたか。
操作部がシンプルなので、直感的に操作できるカメラだと思います。フォーカスロックのボタンの位置が親指で押さえられる場所にあって使いやすかったですね。ランダムに動く設定よりもクロスフォーカスで合わせたいところに合わせた後、フォーカスロックのボタンを押し続けてキープするといったやり方がスムーズで、僕には合っていました。
また操作部がシンプルな分、メニューでさまざまな設定が行えるようになっていて、メニュー設定に慣れるまでは探すこともありましたが、慣れてしまえばスピーディーに行えました。
プロフォトグラファーの場合、動くものや止まったものなど、撮影ごとにセッティングを変える必要があるので、オールラウンドに使える設定を探すのではなく、自分流の設定を見出し、確立していくことがライカSLの魅力を楽しむコツなのかなと思います。
どんなカメラでも仕事で使うためには道具として使い慣れる必要があります。カメラの癖を受け入れて使いこなすことで、自分にとってすごくよい道具になる。さまざまな現場でどんどん試すことが大切ですね。
「ライカ バリオ・エルマリート SL f2.8-4/24-90mm ASPH.」はいかがでしたか。
今回の撮影ではストロボで光量を上げて、絞りをF8まで絞って撮っているのですが、スタジオ用と考えると自由度があって使い勝手がよく、描写力に優れたレンズだと思います。まだまだ試し切れていないのですが、自然光での撮影では、開放で撮ろうとするとズームでF値が変わってしまうので、マニュアルのF4設定で撮影しています。
レンズの互換性のよさもライカSLの魅力のひとつと言われています。
「これまでに製造されたほぼすべてのライカレンズが使用できる」とアピールしているだけあって、ライカTカメラシステムのレンズのほかに、専用のマウントアダプターを使えばライカSシステムやライカMシステム、ライカRシステムのレンズも使えるので、フォトグラファーとしては選択肢が増えて嬉しいですね。
僕が愛用している「ライカズミルックスM f1.4/50mm ASPH.」を装着して撮ることもでき、撮影の幅が広がって楽しかったです。
今後どのようなレンズを希望しますか。
やはり、年末に発売予定の「ライカ ズミルックス SL f1.4/50mm ASPH.」には期待しています! あと35mmや85mmも欲しいかな。3本の単焦点レンズが揃うと、システムとしての魅力がさらに高まると思います。
最後に、ライカSLの気に入ったところを教えてください。
ライカは出来上がった画に対するコンセプトがしっかりとあるメーカーだと思います。万能カメラに比べると癖がありますが、自分が思い描いた「こんな画を撮りたい」というイメージがつかみやすい。「思いが入った画を作らせてもらえるカメラ」がライカなんですよ。一度はまったら写真を撮ることがさらに好きになると思います。
さっと撮れるクラシカルタイプのライカM9に対して、ライカSLは最新型のスポーツカーという感じ。 見やすいファインダーや速いAF、連写性能は、今までのライカのイメージを覆す戦略的な製品に感じます。僕だったら、普段使いにはライカM9、攻めた画を作りたい時にはライカSLというような使い分けをするかな。ライカSLの登場で写真を撮ることがますます楽しくなりそうです。
メイキング
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新型「ライカSL」。レンズは、ライカ バリオ・エルマリートSL f2.8-4 / 24-90mm ASPH.
光の帯を作るためにProfotoのストリップ型RFi 30x180cm(グリッド付)を左右に設置。 - テスト撮影後、よりイメージに近づけるため、バトンに付けて、天から地への光に切り替える。
- ストロボの出力を抑え秒間約3コマで連写。モデルも動き、舞山さんも動く。
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モデルのELENAはダンサー経験もあり、体の動きがシャープ。
ある程度撮影した段階で写真をチェック。ポージングや光の当たり方をスタッフと確認する。同時にPCへのバックアップも行う。
ライカSL
●主な仕様
画像フォーマット:36×24mm
記録画素数:2400万画素(ローパスフィルターなし)
画像データ形式:DNG・JPEG
色深度:16ビット(DNG)、8ビット(JPEG)
ISO:50〜50000
連続撮影:最高11コマ/秒
電子ビューファインダー
総ドット数:440万ドット
画面サイズ:0.66型
アイポイント:20mm
視野角:37°
倍率:0.8倍(50mmレンズで∞、-1 dpt.のとき)
視野率:100%
大きさ:147×104×39mm(幅×高さ×奥行)
重さ:約771g(バッテリー除く)
http://www.leica-camera.co.jp
舞山秀一 Photographer
1962年 福岡⽣まれ。
1984年 九州産業⼤学芸術学部写真学科卒業。
1984年 スタジオエビス入社
1984年 半沢克夫師事
1986年 独立
1988年 APA AWARD にて奨励賞受賞。
2014年 九州産業⼤学芸術学部客員教授就任。
現在、ポートレートを中⼼に広告や雑誌、
CDジャケット、写真集などで活躍。
同時に、作品集の出版や写真展等を定期的に開催している。
作品集に[ALIVE][PEOPLE][Garden-1][die Stadt von engels]。
HP:http://www.maiyama.net
作品⽤HP:http://www.maiyama.jp
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