東京工芸大学の写真学科を卒業されていますが、もともと写真が好きだったのですか。

Hisanori Saburi
▲学生時代に使用していたペンタックス 67。
Hisanori Saburi
▲当時は銀塩プリントのクオリティにこだわった。

当時、岩井俊二さんの映画が好きで、映画の照明技師になりたかったんです。それで日芸の映画学科と工芸大の映像学科を受けたのですが、両方とも落ちました(笑)。写真学科には受かっていたので、とりあえず入って転部しようと思っていたのですが、写真の方が面白くなってしまって...。
でも大学1〜2年生の頃は全然やる気がなくて(笑)、1人でよく映画を観に行っていました。その頃、友人からリコーGR1というコンパクトカメラを借りる機会があって、T-MAX 3200を使って、たまたま撮って、たまたまプリントしたのが荒れてカッコ良く見えたんです。そこから面白くなって、自分でもGR1を買ってスナップを撮り始めました。
友人の中には早くから中判カメラを使っている人がいて、そのプリントを見せられた時にちょっとショックで、次にペンタックスの67 IIを買いました。
当時はモノクロプリントのクオリティに命を賭けてました(笑)。GR1の時は高感度フィルムを使った素粒子表現にハマっていたのですが、67 IIの時は逆に微粒子にこだわって、ILFORD XP-2というモノクロだけどカラ−現像(C-41処理)できるフィルムを使っていました。
それで空が必ず入る風景写真を撮って、空のグラデーションの焼きにこだわっていました。廃墟も撮りましたし、プリントがキレイに見える風景を探して撮っていました。

印画紙は何を使っていたのですか。

色々試したのですが、ILFORDのウォームトーンというペーパーと、テクトールという黄色い現像液(笑)。当時、猪瀬光さんが好きで、猪瀬さんはコダック派だったと思うのですが、この組み合わせだとちょっと緑がかった深みのある僕好みのモノクロプリントができました。あとはベルゲールとかも使いましたが、小ロットで高いので、ILFORDに落ち着きました。アルバイト代はすべて消耗品に消えていましたね(笑)。

デジタルカメラが主流になる少し前の世代ですね。

学生時代、僕自身は99%モノクロフィルムしか使いませんでしたが、時代的にはフィルムからデジタルカメラへ移行する少し前くらいですね。当時は学校に「ハイブリッド制作研究室」というのがあって、フィルムで撮影したものをスキャンして、Photoshopで画像処理するという研究室でした。一つ上の先輩の大和田(良)さんとかは、確かそこに所属されていたと思います。
当時は細江英公先生の授業を受ける事ができました。先生のオリジナルプリントも見せて頂いて「やっぱりモノクロでしょう!」と思っていました。

卒業したあと、すぐにアマナに入られたのですね。

Hisanori Saburi▲現在はジナー+フェーズワンの組合せで撮影。

実はアマナのことを全然知らないまま友人と説明会へ行きました(笑)。午前中、まず一番広いAスタジオに通されて、そこでスクリーンに映像をバーン!と流されるんです。それがカッコイイ(笑)。アシスタントもテキパキ動かれているし「ここにしょう!」と決めたのですが、午後の面接で落とされました。春採用はダメだったのですが、それで作品も作り直し、秋採用で入社できました。
入社後は大久保さん、中川さん、曽根原さん、八木さんについて、ローテーションしていました。諸事情あって、入社後すぐ1人(通常は2人)でアシスタントにつかなくてはならなかったんです。フォトグラファーさんがとにかく厳しいので、どうやって怒られないようにするか、先輩方にも相談しながら仕事をしていました。
化粧品の切り抜きカットが多かったので、マニキュアはこういう仕込みがあって、裏文字を消すのはこうして...と、あまり要領がいい方ではないので、何時までかかろうが前日のうちには完璧に準備していました。とにかく必死でした。半年後にはライティングをある程度組んで、フォトグラファーが来たらすぐにポラが切れる状態まで持っていってました。逆にそれが出来ないとダメ出しされますから。
社員としては1年程で辞めたのですが、関口さんや簑田さんに声をかけて頂いて、フリーアシスタントという形で1年程仕事をしていました。週3回くらいかな。撮影のバリエーションが豊富だったので、色々経験を積ませて頂きました。
その後、ミノワスタジオという料理写真のスタジオへ移りました。そこは100%シズル撮影で、今までにないことを勉強させて頂きました。ただ料理写真に興味が持てなかったこともあり、1年程で辞めました。

それからフォートンに移られるんですね。

Hisanori Saburi▲レタッチ作業中の佐分利さん。

写真の世界もデジタルカメラとレタッチが一般的になりつつあり「フォトグラフィカ」という雑誌を読んでいたら、レタッチャー特集の中で、フォートンの村山さんが特集されていました。プロフィール欄の下に「アシスタント募集」の文字を見つけたので、すかさず応募しました(笑)。
フォートン自体は基本レタッチカンパニーですが、たまにブツの撮影もあります。「フォートンフォトグラフィ」を立ち上げようとしていたタイミングだったので、作品をたくさん作っていました。レタッチも基礎の基礎から教えて頂きました。そこで作品制作も続けながら2年半ほどお世話になりました。

高井さんのところへ入るきっかけは何だったのですか。

撮影とレタッチの技術も覚え、一定程度絵が構築できるスキルが身についたなと思えた頃に、色々な方にBOOkを見て頂いていました。フォートン在籍時代は自信だけは過剰だったのですが、撮影の仕事があまりこない(笑)。
フォトグラファーとして今のスキルも使って広告写真が撮れる場所を探していた時、高井さんがフォートンに撮影に来られることがあって、その時に何度かアシスタントに付いたことがありました。それで高井さんの事務所へBOOKを持って伺ったんです。高井さんの事務所は、フィルムとデジタルのちょうど切り替えの時期で、デジタル関係のセットアップをわかる人がいなかったこともあり、また僕自身が、撮影から離れてしまっていたので、高井さんのアシスタントということで入りました。
高井さんはコスメのイメージカットをバンバン撮られていて、撮り方も勉強になりましたし、ライティングの基礎以外の部分は全部教えて頂きました。

そこでまた撮影現場に戻ってこられてんですね。

すごく嬉しかったですね。フォートン時代から高井さんが撮影に来られる時は楽しみでしたし。高井さんは現場では感覚的に作られていくタイプだと思うのですが、実は過去の仕事もライティングをきっちり記録されているのが意外でした。僕の場合は一つ一つ秩序立ててライティングを構築していくタイプなので、わからない所を「高井ノート」で勉強させて頂きました。

仕事ではどのようにライティングを進めるのですか。

Hisanori SaburiSaburi's works

僕は足し算のライティングですね。角版のイメージカットを撮らせて頂くことがほとんどなので、元々カンプの完成度が高いものが多いです。ただあくまでカンプなので、例えば商品に光が差し込んでいる場合、実際に商品に光が当たっていないとつじつまが合わないので、その辺も意識しつつ、ライトを加えていきます。
メインライトは大事ですが、背景も含めた全体の世界観をレタッチで作るのではなく、写真として撮影の段階でできるだけ違和感のないように詰めるようにしています。
後は現物を見て、カンプを見て、「この商品はこういう光を当てれば、こういう見え方をする」というのがわかれば、その光源にエフェクトを足せば、キレイに見せられるし、世界観と合致させやすいです。

今は、デジタル撮影とレタッチを合わせた効率的な商品撮影が一般化しています。
佐分利さんは自身でレタッチまでされるわけですが、その使い分け、線引きはどのように考えていますか。

Hisanori Saburi▲出力したプルーフをチェック。

ADや編集者からは「基本的に画像処理までする人」と認知されていると思います。なので、逆にレタッチに頼るのはダメなんです。撮影で極限まで詰めて、出来るだけ一発撮りで美しい絵が撮れるように努力します。別撮りもするのですが、それはクライアントやADが帰られてからやります(笑)。
光や水などの素材は、どのように撮ればPhotoshopで加工して使えるようになる、というのは頭に入っているので、完全に割り切って別撮りします。ものすごくたくさん撮ります。誤解されやすいのですが、Photoshop上で描くのが嫌いなんです。そのため、基本的に全部撮影したものから使います。
広告的なレギュレーション、やらなければならない部分も、なるべく写真素材で対応できるようにします。その分、使わない素材カットは膨大にありますね。光や光跡も、レタッチャーの方は描かれることが多いと思いますが、僕は光を写真で撮ったものしか使いません。
フォトグラファーとしては、「写真的質感」や「ちょっとしたゆらぎ」の部分をがんばって見せないと、絵になってしまいますから。そこは大事にしています。

佐分利さんが考える商品撮影の魅力って何ですか。

ブツ撮りは、クオリティを極限まで高められる分野です。コマフォトの2011年2月号で土井浩一郎さんもおっしゃっていましたが、突き詰めれば突き詰めるだけ、完成度も上げられるので「とにかく限界までやる」。今はインターネットがあるので、海外のワールドワイドの広告写真も見られます。商品に関しては自分も撮れる環境にあって勝負できるので、とにかく世界レベルで通用するところまでいきたい。今は、海外に行って勝負したいという思いも強くなっています。そのためのオリジナリティを確立させていきたいです。

合成前提でも写真としての強さを引き出してくれる。

▲奥田淳 with 佐分利尚規 works▲奥田淳 with 佐分利尚規 works

株式会社モメンタム ジャパン
制作局 エクゼクティブクリエイティブ ディレクター 奥田 淳

佐分利さんとは2年程前に、外部のAD経由で知り合いました。彼の作品(BOOK)を最初に見た時、「モノに寄った強さ」と言うか、プロダクトそのものの魅力を引き出している感じに惹かれました。
作品からは"相当キャリアがある方だろう"と思って、会ってみたらまだ若い(笑)。そのギャップも新鮮でした。
彼にはCoca-Colaと洋酒のコラボ等の洋酒の撮影をしてもらっています。バーや店頭、イベント会場に貼るためのポスターなんですが、基本的に夜に呑むものなので、アンダー目のトーンで商品に照明が当たっているようなビジュアルにしています。
彼の場合は、本番撮影までに商品の見せ方やライティングを検証してくれています。そのため撮影当日には方向性がある程度見えていて、後は細かい部分を詰めるだけなので、現場はスムーズに流れます。
ここで紹介しているビジュアルは基本的には合成ですが、それぞれ一点でも成立するような写真としてのクオリティがあり、それをバランスよくレタッチしています。洋酒の場合、ボトルそのもののデザインが優れているので、プロダクトの良さを上手く活かしてくれています。