INFINITY KOSE 海外用コルトン
Ret:藤井陽介(Fst)

最初に中判のデジタルバックを使い始めた時期ときっかけを教えてください。

僕が初めて中判を触ったのは、H20(PHASE ONE H20/2001年にリリース)が出始めた頃だから、かなり早かったんじゃないかな。まだ学生だったんですけど。当時の35デジタルとは画素数も全然違ったし。

その「H20が、ニューヨークで使われている」という記事を、昔のアイ・マガジン(アマナ/旧 株式会社イマ発行)で読んだんですよ(笑)。

かなり懐かしい話ですね(笑)。

歳がバレますね。学生だったし、ブツ撮りの現場を見る機会がないから、アイ・マガジンとか、コマフォトを読んでいました。

H20が1600万画素で、早い段階でH25(2200万画素)にアップデートした。それで、画素数とスピードが改善されたんです。

当時、フォトグラファーのアシスタントをしながら、デジタルバックを使っていてわかったのは、とにかく頑丈なんですよ。結局バックだけだから、フレームもしっかりしているし、もの凄い耐久性だなあと。あれを使ったら他に移れないですよ。


写真/シバサキフミトさん。
B 全サイズにプリントした後ろの作品もフェーズワンで撮影。

35mmタイプのデジタル一眼レフは何か使っていたのですか。

当時は、フジの「FinePix S3 Pro」を使っていました。スーパーCCDハニカム搭載で、それは結構好きだったんですけど。価格の割には優秀でした。

でも僕にとっては、Hシリーズがビューカメラのジナーに付くのが、当時としては大きかったですね。チルトができるのが全然違うんですよ。横に置いた商品を、正面で撮れるカメラはなかったので。

建築とか商品撮影は、デジタルバックじゃないとできないことがある。今でも、35で構図を考えても「35じゃ無理」というケースがあるんです。画面に対して商品が端にあると、どうしてもパースがかかっちゃう。35でそれをしようとすると、ものすごく広く撮って周囲を全部捨てるとか、無駄なことをしないといけなくなる。

最近、ニコンの一眼レフを1台買ったんですよ。クオリティはすごくいいんだけど、グラフィックな考え方は得意じゃない。ブツ撮りって、グラフィックだから。


CASIO SHEEN 2015 Spring&Summer
ST:丸山佑香

学校を卒業してからH20を買われたのですか。

いえ、資金がないので、レンタルしていました。ただアシスタントの終わり頃から、仕事をもらえるようになっていたので、1日10万円の仕事で、カメラ周りのレンタルに8万円を突っ込んでましたね(笑)。

お金の方はバイトもしつつ、でも仕事の写真のクオリティだけは、絶対に妥協したくなかった。当時はH25本体がニューヨークのレンタルショップで、1Day 500ドルくらいでした。

自身で購入したデジタルバックは、何だったんですか。

フェーズワンP30+です。今も使ってますよ。

なぜP30+だったのですか。

当時発売されていたデジタルバックの中で、撮影、転送スピードがダントツで速かったんです。画素数も約3000万画素で、価格と性能のバランスがすごく良かった。それよりも画素数が少ないと不安だし、その後のP45+だと、値段も高くなるし。

ただP30+の不満は、CCDが少し小さかったことです。それが最近のIQ180シリーズになって、ガラッと変わりましたね。CCDが大きくて、レンズの特性がそのまま活かせる。特にブツって、すごく狭い範囲で撮るわけで、センサーサイズとレンズの長さがかなりシビアに連動してきますから。寄るとパースが変わっちゃうし。


etRouge No.6 (日経BP社)

P30+後の変遷はどうなんでしょう。

P30+でずっと撮っていて、その後IQ180を購入したんです。
でもどうなんだろう。今でもH25とかを使っている方がいると思うんですよ。結局、フェーズワンってかなり長い間使えるから。

たぶん10年位使っていても現場は困らない。ノイズが超劇的に改善されるというだけの変化もないですし。頑丈だし、1度買ってしまえば、コストパフォーマンスは、実はかなりいいんじゃないですか。僕は今でもP30+をサブ機として使っていますよ。

デジタルバックは35デジタルよりも高価ですが、中・長期的にみればそうでもないと。

スタジオで撮る方には、絶対的におすすめします。
35デジタルも、いいカメラはたくさんあります。でもこれは僕の完全な予測なんですが、今流行っているミドルレンジの35デジタルって、ハイアマチュアとプロの両方をターゲットにしているじゃないですか。その分、コストも考えて作られているわけで、堅牢性、耐久性に不安があるんですよ。台数的には売れると思うんですが、35デジタルのフラッグシップ機と比べても、ボディが弱いと思うんです。

そう考えると、P30+もH25も、何度落としたかわからないですよ。もう外はボロボロ(笑)。でも全然大丈夫。Hはモニターも付いてないから、余計丈夫。そう考えると20年使えますよ。

 


IQ250で撮り下ろした作品(クリックすると拡大できます)。
SHOES/DOLL Ret:藤井陽介(Fst)

今回、CMOSセンサーのIQ250(5000万画素)も、使っていただきました。

普段使っているのは、IQ180(8000万画素)なので、画素数が少しサイズダウンしているのですが、スピードはかなり速かったですね。その分、戻った時に辛かったんですよ。いや〜、辛かった(笑)。

今回の水性塗料を使った作品3点は、全てIQ250で撮り下ろしました。IQ180はCCDで、IQ250はCMOSなんですよね。搭載しているセンサーが違うわけですが、その違いは感じられなかったですね。

まだ中判を使ったことがない方には、ずばりどこが"買い"なんでしょうか。

画素数に表れない部分は大きいですね。ラチチュードだったり、グラデーションやノイズだったり。割とフィルムに近い感覚で撮れる。

3000万画素クラスの35デジタルでも、十分キレイなんですが、大きくプリントしたり、細部まで寄っていった時の色の再現性が違う。一度、大きく伸ばしてみたらすぐわかります。ディテールとか、全然違います。


Paul & Joe 

コスメの場合、印刷物やコルトンなど、商品の色の忠実な再現性が求められますね。

仕事の撮影って、100%レタッチが入るじゃないですか。でも、撮影現場のパフォーマンスって、かなり大事なんですよ。

昔はポラでしたけど。今は、撮影現場のモニターに、「パッ」と出た時に、まずクライアントや編集者の人が、そこで「キレイ!」って、心を動かせるかどうかが大事になっています。

今は、化粧品のプロダクトデザインも複雑になってきていて、一見紺色に見えているけれど、よく見たらマゼンタが入っていて、角度によって色が違って見えたりとか。

同じネイビー系の商品でも、微妙なマゼンタの部分が忠実に出ているとか。その安心感を現場で表現するのは、画素数じゃないんです。色のトーンの再現力が一番優れたカメラを僕は使いたいんです。「後でレタッチすれば良くなりますから」とか、それはではダメです。

もちろんレタッチの要望もきますけど、「現場でどれくらいキレイに作れるか」は重要です。写真として、ライティングもできるだけ一発で撮れるものは、一発を目指します。やっぱり詰めていった写真はすごくキレイなので。

人間の目は、グラデーションにものすごく弱いというか、どこまでグラデーションを美しく作れるのかも、現場のパフォーマンスとして大事ですね。


Fumito Shibasaki for Departures Magazine Japan
ST:猿渡正樹

Phase One + Capture Oneのフローは、ノウハウの蓄積を含め、安心できますか。

そうですね。ワークフロー全部をわかっているかどうかで全然違う。電源供給から、転送スピード、クライアントへのプレゼンテーションの仕方まで。

Capture Oneは35デジタルのRAWデータにも対応しているので、練習だと思って常に使うようにしていました。基本的にカメラが変わると、そのワークフローとか色の作り方とか全部変わるので、今はフェーズワンで確立できているフローが、ベストだと思っています。

ただデジタルバックを持っていない人でも常にCapture Oneを使って、色々な対応ができるようになっておく事は重要だと思う。ソフトを使いこなすことで、余計な心配をせずに撮影に集中できる方がいいですね。


本番撮影中のシバサキさん。

マミヤRZにフェーズワンを装着されていますが、その理由を教えてください。

まずはRZの耐久性と表現力を信頼しています。
僕は、RZの「自称アニバーサリーモデル」を持っているんですが、それは何かというと、大学生の時に買ったものなんです(笑)。20年前ですよ。いまはそれを含め、RZを3台使っています。仕事は2台で回して、部品が摩耗したり、故障すると、アニバーサリーモデルが登場する(笑)。

Hとの組み合わせでは、見た目より奥ピンだったのが、IQになってマウントがしっかりしたのか、ピントもかなりきますね。67のフォーマットも、自分としてはしっくりきます。マミヤとフェーズワンの組み合わせは、すごくシンプルです。35デジタルだと、メニューが多すぎて(笑)。色々なレベルの人に対応するためだと思いますけど。

仕事とは別の話ですが、もちろんファインアートにもIQシリーズは、いいと思います。僕も自分で作る作品だと、大きくプリントするのが前提ということもありIQを好んで使います。
広告や雑誌だと、印刷サイズ以上はオーバースペックかもしれないですが、ファインアートにはオーバースペックという考え方はない。ブツ撮りカメラマンとしてのコメントじゃないんですけど(笑)。

作品撮りも含め、中判クオリティに慣れてしまっているということですか。

そうですね。あと、ブツ撮りカメラマンとしては、ピントを送るシステムが重要。35だと、レンズのピント送りがシビアにできない。マミヤやジナー(p3)のピンの送り方のシステムじゃないと難しいことが多いです。「ピントの山を5mmずつスライドして正確に20カット」とか。

ブツ撮りはピントがすごくシビアですよね。

例えば、文庫本があって、角にピントが欲しかった場合、では「その本の厚みをどうするのか」というところで表現が決まるわけです。
角以外はボカすのか、途中3mm以降ボカすのか、全部にピンをこさせちゃおうとか。それは、フェーズワンの中判のシステムじゃないと正確には対応できないんです。
「絞り開ければいいじゃん」と言う人がいるかもしれませんが、そういうわけにはいかないんですよ。それは「絵そのものを変える」ということだから。

絵を変えずに、写真のアイデアを損なわずに、それができるかどうか。フェーズワンはデジタルバックなので、カメラの表現能力と一体化するじゃないですか。その組み合わせの幅が35デジタルと違う。一番やりたいことが表現できるのが、今はマミヤRZやジナーとフェーズワンの組み合わせなんです。

プロゴルファーのショットが1mm浅かった、みたいな。

ブツと言っても、車と違って化粧品とかは、ものが小さいじゃないですか。それが原寸の何倍も大きくなったりもする。この小さなプロダクトに、ものすごく多くの人間の労力と時間が注ぎ込まれているわけです。最近の時計なども、様々な素材を組み合わせて作られていますしね。

今は、レンズを通して一発でできる表現が面白いです。
最近ではもう誰でもレタッチのことをよく知っているので、「できますよね」って言われてしまう。むしろ見る人の目が肥えてきている中で、「一発で撮る労力や技術」が写真に出るので、それをした上で、レタッチも含めて、さらに想像を超えるようなものをプロは出していかないといけない。厳しくて、楽しい世界です(笑)。


COSME DECORTE
ST:中野史子 Ret:藤井陽介

ストレートな質問ですが、ブツ撮りするなら最初にフェーズワンのシステムを導入したほうがいいですか。

結局、「自分が何を作りたいか」なんです。35で撮れる絵がイメージできているなら、35でいいんです。ただ自分が想像している絵が、35じゃないものもイメージできるようになれば、35じゃだめなんです。

だから35デジタルだけを使っていると、35デジタルで撮れるものから外に出られないんです。とにかく一度、中判を借りて撮ってみればいいんです。その表現の幅を見てしまえば、次からそこを巻き込んだ形で、イメージが広がるはずだから。

「中判を買いなよ」というよりは、「一度使ってみて下さい」って、思います。そしたら次に、「中判のどのデジタルバック(カメラ)で、何を表現したいのか」、その次の段階での選択肢が見えてくるはずです。



パリと日本での写真に対する考え方とフローの違い

シバサキさんは、20代にニューヨーク、現在はパリと日本ベースですが、むこうでは日本と仕事の考え方は違いますか。

ニューヨークもパリも、コンセプトは似ていて、日本はそれらとは違うと感じます。
パリで言うと、「僕がどう撮りたいか」ということをすごく尊重してくれます。ただし、「そのアイデアがダメだったら、君には頼まない」ということなんです。あなたが「どう撮りたいか」が大事だし、それを気に入れば「オファーします」というスタンスです。

日本は、クライアントや広告会社が、絵のベースを決めるじゃないですか。「ラベルが見えて、こんな風に撮ってほしい」とか。僕らの所に降りてくる段階で、かっちりとしたラフが決まっていることが多い。そのラフのアイデアは壊さず、なおかつ僕らはそこに自分のアイデアと技術を注ぎ込むわけです。そういうワークフローが一般的です。

でもボタンの掛け始めは違うのだけど、そこから先は似ているんですよ。パリで自分のアイデアが通ったとしても、クライアントから「もう少しこうしたい」と言われれば、ポストプロで、ガリガリにレタッチを入れる場合もあります。

僕がパリに行こうと思ったのは、そういう「ワークフローの違うところでもやってみたかった」というのが理由ですね。撮影に入るまでの段階で、「テーマは何か」「どう撮るのか」「哲学はどうなんだ」とか、ものすごく求められて、ラフで撮る段階では、「もう本番撮れてます」くらいな勢いでやっていますね。

日本のAD的な仕事をフォトグラファーがやっていて、むこうのADは、フォトグラファー選びが仕事ですね。むしろ、クライアントではなくて、そのADが最終決定権を持っているようなもんです。日本の場合は、撮影のオファーが僕たちにくる前に、シビアな交渉がたくさんあるじゃないですか。

今、海外では、日本人の感性や繊細さの評価が高まっています。パリやニューヨークでも活躍されている日本人フォトグラファーの先輩たちに刺激を受けつつ、背中を押してもらっている感じです。

よく「海外に行きなさい」という話はでますけど、逆に外国の方からすれば、日本の商業写真マーケットは魅力的に映っていますから(笑)。自分の機材や環境に投資して、日本国内でまずスキルを磨いていってほしいですね。


JILL STUART
ST:中野史子 Ret:藤井陽介

シバサキさんのように、パリと日本に同じカメラシステムを導入するのは大変ですね。

日本もパリのスタジオもそうですが、仕事が回れば価値が出るし、投資に関しては最初から怖がっていなかったですね。むしろ安いカメラを買って、「このカメラ大丈夫かな?」とか、そんな所に余計な不安を感じている時間があれば、できるだけいいカメラシステムを導入して、「どう表現するか」だけに集中したい。環境づくりは、非常に大事です。






メイキング

  • 水性塗料を用意する。イメージに近い色になるよう調合して色をつくる。
  • 被写体を置く前に、まず下に水性塗料を引く。
    ライトは右サイドからトレペ越しとトップからの直トレ。
    シバサキさんは、ブロンカラーのスコロを使用
  • 今回の撮影のために、穴を開けた薄い鉄板を製作。
    そこへアシスタントが、勢いよく塗料を流し込む。
  • 塗料の落ち具合を見ながら連写するシバサキさん。
    キャプチャーワンでテザリングしながら、
    アングルや流す塗料の量、シャッタータイミングをチェックする。




PHASE ONE「XFカメラシステム」


新しいオートフォーカスプラットフォームを採用したPHASE ONE「XFカメラシステム」
問い合わせ先:株式会社DNPフォトイメージングジャパン
http://www.dnpphoto.jp/products/phaseone/