小川さんは、フォトグラファーになる前に、トリマーの仕事をされていたのですね。

幼い頃から動物が大好きで、フォトグラファーになるということは一切考えたことはなかったんです。テレホンカードや切手など、動物の写真が使われているものをコレクションするのが好きな子供でした。

中学生の頃がピークで、動物の写真が載っているテレホンカードも500枚くらい集めていました。でも中学生のお小遣いでテレホンカードを集めるのはけっこう大変なんです(笑)。「身近な動物だったら、もしかして自分でも撮れるかもしれない」と思ったのが写真に興味を持ったきっかけです。


小川晃代さん。

動物を撮ってみようかなと思ったのが19歳の頃で、その時に初めて中古の一眼レフカメラを買いました。

そのカメラを持って動物園へ撮影に出かけましたが、何もわからないし、撮影後のプリントを見てもあまり納得できなくて「写真やカメラの勉強をしてみたい」と思ったのが20歳の頃です。

それで野生動物写真家の故:前野やすし先生の所へ伺って、動物園での動物から、半野生の地獄谷の温泉猿まで、いろいろな動物撮影の撮り方を教わるうちに、動物撮影が徐々に楽しくなってきました。

先生から出来上がった写真を褒められたこともあり、「写真を撮ること」にどんどんハマっていきました。


犬と同じ目線で撮影する小川さん。品種:ジャックラッセルテリア

20歳の時に前野さんに師事してアシスタントをされたのですか。

いえ、アシスタントではなく、高校卒業後、約4年半ペットショップで働いていました。そこではトリマーの研修生として勤めていました。トリミングやブリーディング、飼育などを学びながら、カメラ(写真)はまだ趣味でやっている感じでしたが、勉強してみたいという気持ちが強く、前野先生に撮影を指導して頂きました。

その後、20代前半の頃に出会ったのが、キャラクターというか作風を好きになった「はなデカ写真」だったんです。カレンダーや雑誌で「すごくかわいい!」と思って、この写真は誰が撮ったのだろう?と調べていたら、森田(米雄)先生が魚眼レンズで撮られたものとわかりました。

それを知ってしまうと、どうしても弟子入りをしたくなってしまい(笑)、今度は森田先生の事務所の門をたたきました。

決めてから行動するまでが早いですね。

この頃はまだペットショップに勤めていましたが、店長には辞める旨を伝えました。ただ森田先生も人を募集されているわけではなく、私が勝手に憧れて押しかけたんです(笑)。

当時森田先生は、梅ヶ丘に写真スタジオを持たれていて、個人で飼っている「一般の方のワンちゃんを撮影する」という写真サービスもされていました。

私は一般の飼い主のふりをして(笑)、スタジオへ伺いました。ただその時は森田先生にはお会いできず...。そこで勤務していたのが今の主人なのですが、彼に履歴書や自分の作品を託して、森田先生の元で働きたい旨を伝えました。

3ヵ月後くらいでしょうか。やっと森田先生から「来てもいいよ」というお返事を頂き、23歳の頃から働かせて頂くことができました。

「はなデカ写真」はブームになっていましたね。

当時は相当お忙しくされていました。はなデカ写真をはじめ、森田先生がスタジオでペットを撮影する際に、私はそこでライティングを学ばせて頂きました。

あと小物をセッティングしていくスタイリング術ですとか、ペットとの距離感やあやし方だったり...。「偶然いい写真が撮れた」ではなくプロとして狙って撮影していくための技術を学びました。

森田先生は、スタジオだけでなく外でも四季折々のお花とペットを撮ることも多かったので、そこではロケーション選びから、お花とペットとの高さ合わせとか、細かな気遣いやテクニックも勉強させて頂きました。


当日のカメラはキヤノンEOS-1D Xと5D Mark 4。
メモリカードはEXCERIA PROの64GB CFカードを使用。

ペットを直接扱う仕事から「ペット写真を撮る」という撮影の仕事を意識されたのですね。

そうですね。ペットのトリミングを自分でしていましたし、人間と同じように、カットした直後の最も見栄えのよい状態で写真を撮ってあげれば、その写真は永遠に残ります。

人間よりもはるかに寿命の短い動物たちの「最高の瞬間を残してあげたい」。それができれば、飼い主さんだけでなく、ペットが好きな人にも喜んでもらえるのではないかと思いました。


ハウススタジオの外階段横で撮影。品種:ダルメシアン


シャボン玉を飛ばして写真に入れ込むなど、演出も試行錯誤していく。



品種:パピヨン

完全にセットアップは難しいかもしれませんが、ある程度シチュエーションや撮り方をシミュレーションして撮影されているのですね。

そうですね。森田先生のところで学んだのが1年弱で、その後、番組等を作っている制作会社に転職しました。

そこではメイク番組やペットの番組を作っていまして、今までの経験を活かしてディレクターとして2年ほど番組を作っていました。自分で取材をしたりとか、絵コンテを描いたり、それも自分にとってよい経験になりました。

動物やペットに携わるという軸はブレずに、様々な仕事をされていますね。

はい(笑)。そこを学んだ後に独立しようと思い、26歳になってアニマルラグーンという会社を立ち上げました。今までやってきた動物の番組制作や、ペット撮影のノウハウが活かせたらと思い「ペットや動物を専門に扱う制作会社」という位置づけでした。

制作会社を立ち上げた後、どのような活動をされていますか。

一番多いのはレンタルフォト業務と写真撮影です。ペットグッズのカタログとか、カレンダーやポストカード等々。あと子供用の写真絵本や写真集の制作ですね。出版物でペットやキッズの撮り方のページを担当することもあります。

その次に、講師として色々と撮り方をレクチャーさせて頂くことが多いです。あとはペットのイベントだとか、ペットモデルのコーディネート、番組の企画・制作もたまにあります。




事前に準備しておいたダミーのフルーツを飾りつける小川さん。
スタジオのセットや小道具にアイデアを加えることでオリジナルの世界観を作っていく。

今回の撮影に関して、全体のテーマやコンセプトを教えてください。

小型犬、大型犬、猫ちゃんもいましたが、全体のテーマとしては「1枚の写真で物語を感じられること」を意識しました。カメラ目線というよりは、自然な動きの中でのチャーミングさだとか、かっこよさ、また言葉が聞こえてきそうなシーンを狙いました。

小川さんの中でペットを撮影する上でのこだわりを教えてください。

ペット撮影で気をつけているのは、ペットの体調ですね。無理をさせたくないので、撮影時間ができるだけ短く済むように、またペットの集中力もそれほど続くわけではないので、本番は5〜10分位の間に終わらせてあげられるような意識と準備をしています。

そのためのシチュエーション作りや、ライティングに時間がかかったりはするのですが、スタンドインじゃないですが、マヌカンで試し撮りもします。最終的に準備が済んだ時点でペットに出てきてもらって、そこからは短時間で撮影するように心がけています。


撮影には様々なグッズやおやつを準備している。
小型犬の場合マヌカン(ぬいぐるみ)でシミュレーションをしてから、ペットを迎える。



撮影中におやつをもらえるとか、ワンちゃん達にとっては楽しい時間です。それを苦痛な時間にさせてしまうのはよくないので「楽しんでいる間に撮影する」ことが一番です。

あとは、その子に合わせたシチュエーションで撮ることを心がけています。最初に撮影したジャックラッセルのアイビーちゃんは、ピタっと静止して待たせるよりは遊んでいるのが好きなので、ボール遊びで動きを狙いました。逆におっとりしているワンちゃんならば、伏せをしている感じの大人しい瞬間を撮るとか、ペットの性格に合わせた撮り方をしています。

小川さんがたくさん小道具を持ってこられたのに驚きました。

小道具はけっこう多めに持ってきています。なんとなく頭の中では、いくつかのシーンをイメージというか、撮影シーンの見本も含めて準備をしています。今回はペットモデルで、私も各ペットの性格を知っているので、このハウススタジオなら「この子はこの部屋で撮れるな」とか、おおよそのシミュレーションをしています。

ただ普段は、カレンダー等のために子犬、子猫を撮る機会が多いのですが、子犬、子猫の場合は、一切しつけが入っていないんですね。その子がどんな性格なのかは、その場で会ってみないとわかりません。

現場で遊んでみて、例えば、隠れたがる照れ屋さんだったら、あえて麻袋に隠して、「ちょこんと覗いているところ」を撮ってあげた方がかわいい写真が撮れます。そのペットの性格に合わせた小物やシチュエーションを瞬時に判断して撮るようにしています。


品種:ミックス


ペットの性格に合った撮影をするとよいシーンが撮れる。
飼い主とコミュニケーションをとりながら、よいタイミングで連写していく。

今日、撮影現場を取材させて頂く中で「事前準備」「飼い主さんとのコミュニケーション」が重要だと感じました。

そうですね。ワンちゃんだけでなく、飼い主さんとのコミュニケーションや情報共有は大事ですね。現場では気を引くアイテムも必須です。猫じゃらしや食欲をそそる匂いのおやつ、オリジナルで作っているグッズもあります。

最初にカメラ目線で撮りたい時は、自分が高い鳴き声を出したりします。ワンちゃんが聞いた事のないような声をだすと、一瞬ピタッと止まってくれます。おもちゃで音を出してもよいのですが、音源がレンズよりも横だとカメラ目線が少しずれてしまうんですね。

構えながら自分で声を出すとバッチリカメラ目線になってくれます。ただ同じことをしていると効果が薄れるので、その時に様々なアイテムやおやつを使っています。


品種:右・中:ノルウェージャン フォレストキャット 左:ベンガルキャット

子供の気を引くのと似ていますね。

そうですね。猫じゃらしひとつとっても、猫によって羽やセロファン、フェイクファーや紐など興味を持つ素材が違うので、たくさん用意しておいて対応します。

今回は猫もモデルの子たちだったので、ソファーに座らせてもその場に居られるのですが、子猫ちゃんは基本的に動き回っているので、猫じゃらしで遊びながら撮影しています(笑)。


撮影用に用意した猫じゃらしの一部。

一瞬の表情を見逃さないというか、想像以上に連写されていました。カメラの連写性能とメモリカードの書き込み速度は重要だと感じました。

ジャンプなど瞬間的な動きの時もそうですし、思うような仕草やシチュエーションにはまった時には迷わず連写しますね。ペット達が同じ状態をキープしてくれる時間は短いので、瞬間を見逃さないで切り取るようにしています。

記録の仕方はRAW+JPEGです。RAWは特にデータ量が大きいので書き込み速度が速くないと仕事には使えません。EXCERIA PROを使っていますが、全然ストレスなく撮れるのがいいです。カードの容量も大きめのタイプを使います。今日使っているカードは64GBです。短い撮影でも、最低32GB以上のカードしか使いません。

EXCERIA PROはトラブルもないですし、撮影中にビジーでシャッターが切れないということもないです。いくらでも連写できるのでむしろ気持ちいい(笑)。

私の場合は撮影現場でPCに取り込むことは少なく、その日の撮影は全部カードに記録します。事務所に戻ってからHDDへコピーをとり、ブルーレイディスクにも焼きます。メモリカード内の画像は、次の撮影に入る前に初期化します。

ただカタログや商品パッケージの撮影では、ポージングやラフと照らし合わせながら進めることも多いので、撮影現場で写真データをPCに取り込み、スタッフとチェックしながら進めます。EXCERIA PROは書き出し速度も速いのでありがたいです。

一般の方を対象にした撮影セミナーや講師をされていますが、ペットをうまく撮るポイントがあれば教えてください。

失敗してしまいがちな例としてよく聞くのは、いい写真が撮りたくて「ペットに対してずっとカメラを構えている人」が多いことです。

「待て!」って言ったままずっと撮り続けているんです。そうすると、そのワンちゃんはカメラ嫌いになってしまい、カメラを向けると逆に「フンっ」となってしまう。それが一番まずいパターンです。

ペットにとっても楽しい時間であること、それが重要です。そうじゃないといい表情や仕草も撮れないです。遊びながら撮ってあげることがいい表情を引き出すコツかなと思います。

後は構図とかフレーミングですね。背景まで気にしない、気が回らないことも少なくありません。少し慣れてきたらワンちゃんだけでなく背景にも気を遣ってほしいです。

余計なものはなるべく入れないでペットが引き立つように、というアドバイスはよくしています。猫の場合は「待て!」で待つわけではないので(笑)、猫じゃらしで遊びながら誘導するとか、別の工夫が必要です。


好物の餌やおやつを使いながら撮りたいシーンのチャンスを待つ。

室内でもストロボを使用しているシーンがありました。イメージラフも作られていましたが、状況を作り込んでおけば撮影がスムーズに進みますね。

ハウススタジオの場合は時間も限られますし、特に撮りたいシーンは事前にイメージを決めています。ペットの体調によって撮れない場合もありますが「この子はここでこんな風に撮ろう」という想定はしています。


咥えるのが得意なちえ(犬)が、ジャック(猫)に毛布をかけてあげるシーン。

この写真(上)が一番コンセプチュアルだった気がします。

そうですね。このワンちゃんはものを咥えるのが得意だったのと、猫ちゃんとも仲良くできる子だったので「子猫にワンちゃんが毛布をかけてあげるシーン」が撮れるとかわいいかなと思って、やってみました。

ペトグラファー(ペット写真家)を目指すには何が必要でしょうか。

特に女性の場合は、カメラの操作が難しいと考えられている人が多くて、そこで一歩が踏み出せない方もいます。実は私もカメラをすごく使いこなせる方ではありません。でも好きなことをしているからで、やっぱり「好き」という意識が大きいです。好きだから、こういう表現をするためには、こういう技術やセッティングにすればいいとか、カメラを学ぶのではなく、撮りたいものをイメージすることで知識はあとから学んでいけると思います。

まずどんどん撮ってみる。わからなくなったら学ぶ。それを繰り返せば上達は早いと思いますよ。

小川さんは連写速度の速いハイエンド機種で撮影されていました。それと合わせて書き込み速度の早いEXCERIA PROを使われているわけですが、機材やメモリカードの選び方のポイントは何ですか。

プロとして仕事をしている以上は、一番いい機材を使いたいと思います。ペット撮影において重要視しているのは、フォーカスの精度と連写速度です。記録メディアも、それに対応して書き込み速度が速くないといけないのでEXCERIA PROを選んでいます。




自然光に加えてストロボをバウンス。窓から差し込む光を演出し、毛の質感やキラキラした輪郭を表現している。

2018年の活動予定を教えてください。

ペットを撮る楽しさは、仕事を通じて伝えていきたいなと思っています。個人的な活動としては「猫島」を引き続き巡りたいなと考えています(笑)。

猫島ですか?

ペットも大好きなのですが野生動物も好きで、特に野良猫には惹かれるんです。今までも田代島、男木島、佐柳島、瀬長島、竹富島など猫がいる島に出かけているのですが、まだまだ猫がたくさん住む島はあるので、そこを巡って作品を撮っていきたいと思っています。

ペットはある程度誘導ができたり、シチュエーションを作るのが楽しいし、半野生の猫は、自分の足で探して観察し良き瞬間が訪れるまで待つとか、そういう撮影も楽しいです。これからも、その両方をバランスよくやっていけたらなと思います。

最後にEXCERIAのイメージを言葉で表すとしたら何でしょうか。

一言でいうと「コストパフォーマンスの高さ」です。こんなに高性能なカードなのに意外と安い! これは周りで使っている友人達も同意見です。

メモリカードはフィルムと違って繰り返し使えるので、それを考えるとお得です。私自身は先ほど話しましたが、容量と書き込み速度がポイントで、ストレスなく使えて、安心感があります。撮影を陰で支えてくれている頼もしい存在です。





東芝「EXCERIA PRO」シリーズ
高速連写・4K動画撮影対応のプロ仕様メモリカード



SDメモリカード:製品情報
http://www.toshiba-personalstorage.net/product/sd/sdxuc/index_j.htm
CompactFlash®メモリカード:製品情報
http://www.toshiba-personalstorage.net/product/cf/cfax/index_j.htm