- 2017.09.22
Photographer「The Professional Voice」vol.4 桃井一至
東芝の高性能なメモリカード「EXCERIA PRO」。
その魅力を様々なジャンルのフォトグラファーが伝える「EXCERIA Ambassador」へのインタビューシリーズです。
フィルムカメラ時代からカメラやレンズ、周辺機器まで日本の撮影機材の進化をレビューし続けた桃井一至さん。
機材レポート、メーカー開発者インタビューなど、桃井さんの記事を見ない月はない。
そんな桃井さんが、出身校ともゆかりのある早稲田奉仕園「スコットホール」を撮影。
桃井さん自身をインタビューすると共に、カメラや記録メディアの進化についてどのように捉えているのかを訊いた。
Interview:坂田大作(SHOOTING編集長)協力:早稲田奉仕園
カメラ誌で桃井さんの記事を見かけない月はないほど活躍され、撮影機材に造詣が深い桃井さんですが、写真に興味を持ち始めたのはいつ頃からですか。
カメラを持ち始めたのは中学生の頃です。父が写真好きで、家にニコンの一眼レフのカメラがありました。
高いカメラだったのですが、中学生になった頃から触らせてもらえるようになりました。
フルマニュアルのカメラですし、中々思うように写らなくて、それを「何とか使いこなしたいなあ」と思ってがんばっているうちに、のめり込んでいきました。
それが「ニコマートFT」(1965年発売)という父のカメラでした。高校生になってアルバイトをして自分のお金で買った初めてのカメラはニコンFA(1983年発売)です。マルチパターン測光という高度な多分割測光が世界で初めて搭載された機種です。
桃井一至さん。
中学生の頃から、写真を始められていたのですね。
そうです。高校卒業後、紆余曲折ありましたが、知人に長友(健二)の知り合いがいまして、紹介してもらったのがきっかけでアシスタントにつきました。
活躍されていた写真家が複数いる中で、なぜ長友さんだったのでしょうか。
知人を介して紹介してもらえたことと、長友事務所が人を募集しているタイミングだったので、それもよかったのかもしれません。とにかく厳しい事務所の一つであったことは確かです(笑)。一人の人間に師事すると、合う人合わない人が出てきますが、僕は約3年間在籍しました。
独立されてからはどのように仕事を増やしていかれたのですか。
90年代は雑誌もまだたくさん売れている時代でしたから、情報誌の店舗取材とか、インタビューの撮影とか、主に雑誌系の仕事をしていました。今よりも紙媒体の仕事は多かったと思います。
使用するカメラやレンズを選択する桃井さん。
今回はSONYα9とOLYMPUS OM-D E-M1にEXCERIA PROを使用。
カメラメーカー、カメラ誌での撮影や執筆も多いかと思いますが、具体的にはどのような仕事になりますか。
基本は「来るもの拒まず」でやります(笑)。カメラ関連の仕事は多いですね。カタログの撮影とか、あと新旧のカメラやレンズを比較する企画とか。珍しいところだと「伊勢志摩サミット」で、公式配信の撮影をしたこともあります。
世界の首脳陣を撮影されるのですね。
そうです。外務省のサイトや、世界中のプレスに向けての配信用の撮影です。日本まで取材に来られない媒体もある中で、開催国は自国でプレス写真を用意しないといけないんですね。そのためにチームを組んで動きます。
首脳陣のお土産用と言いますか、来日記念の写真アルバムの制作であったり、あまり表に出ない写真もありますね。
早稲田奉仕園「スコットホール」外観。
今回「早稲田奉仕園 スコットホール」の撮影に同行させて頂きました。この場所を選ばれた理由を教えてください。
僕は京都出身の滋賀育ちなのですが、滋賀で通っていた学校が「ヴォーリズ学園(旧 近江兄弟社学園)」と言いまして、アメリカ人のヴォーリズ夫妻が創立された私学校です。僕はそこを幼稚園から高校まですべて通った卒業生なんです(笑)。
註:学校法人ヴォーリズ学園は、滋賀県近江八幡市にある近江兄弟社グループの学校法人。幼稚園・保育園・小中高等学校がある。2015年に学校法人近江兄弟社学園から改名。創立者はウィリアム・メレル・ヴォーリズとその夫人、一柳満喜子。
http://vories.ac.jp/
そのヴォーリズ氏が建てたのが、このスコットホールです。都心だと他にも山の上ホテルであったりとか、明治学院大学のチャペルだったり、色々あります。おこがましいですが、自分にとってもゆかりのある建物なので、以前から撮影したいなと思っていた場所です。
早稲田奉仕園「スコットホール」外観。
建築物を撮影される中で、桃井さん的な視点や考え方があれば教えてください。
人でも建築物でも根幹は同じなのですが「かっこよく見えるところ」を探すとか、「最も魅力的な部分を見つけること」じゃないでしょうか。
建築物に関係する方々に、失礼がないように心がけていますし、モデルや人物の場合は相手を敬うとか、そういう気持ちで接しています。
桃井さんの場合、ワークショップやセミナー等で一般の方と接する機会も多いと思いますが、「どうしたら写真がうまくなるのか」「ポートレートを撮る時のポイントは」等の質問には、どのように答えられるのでしょうか。
シンプルに言うと「失敗してもいいからたくさん撮ろう!」ということですかね。むやみに撮ってもしょうがないですが、デジタルカメラなら撮ってすぐに結果がわかりますよね。だったら次は、さらにどう撮ればうまく表現できるか、トライ&エラーを繰り返して続けることだとお話しています。
デジタルカメラは一度にたくさん撮れますが、その場合セレクトする時点で迷われたりしませんか。
今は枚数に制限なく撮れますからね。僕のワークショップ等でご一緒する方には「普段から良い写真や、いい絵をたくさん見て、目を養うのは大事ですよ」という話はよくしますね。
オリジナリティが大切なのはわかりますが、最初のうちは好きな写真家の作品、過去に見た写真を思い出しながら真似ではないですが、構図を参考にしたらよくなったとか、まずは引き出しを増やす作業が大事かなと。"個性"とか"らしさ"というものはその先に自然と出てくるものだと思っています。
あともう一つは「失敗だと思っても、その場で消去しない」という話もしています。カメラのモニターだと画面も小さいですし、外で見ていても落ち着いて見られないので、一旦戻ってからパソコンやテレビに映し出してみれば、そこから何か感じるものもあるかもしれない。よくないと感じたら、その時点で消去すればいい。今のメモリカードは、それこそ無尽蔵に撮れるくらい容量がありますしね。
早稲田奉仕園「スコットホール」内観。
外光は入るが室内はこの写真よりも暗い。アングルを決めたら三脚とレリーズを使用して撮影する。
撮影をデジタル化したのはいつ頃からですか。
テストも含めると相当前から触ってはいます。キヤノンがコダックと組んで作っていたり、ニコンが富士フイルムと組んで作っていた頃からです。メーカー側もまだ暗中模索な時代でしたから、情報交換をしながら使わせてもらっていました。
マイデジタルカメラと呼べるのはいつ頃の機種からですか。
レンズ交換式でいうと、キヤノンのEOS D30(2000年)かな。
「EOS D30から触り始めた」と言う方は多いですね。
ニコンD1が1999年当時65万円くらいしていましたからね。EOS D30は、30万円前後と手頃でした。その前にEOS D2000(1998年)が200万円くらいで登場して買おうかなと持ったのですが、思いとどまりました(笑)。それまでコンパクトタイプのデジカメは触っていましたが、実際に仕事で使うのは厳しかったですね。
メモリカードは何を使われていましたか。
黎明期は8~16MBくらいのCFカードがカメラ本体に同梱されていたような気がします。もっと大容量が欲しくて、マイクロドライブを買っていた時代です。
現在はEXCERIA PROを使われていますが、過去にメモリカードで苦い経験はありますか。
僕の場合は、データが飛んでしまってとんでもないことになった、という経験はないですね。端子部分などを壊してしまいそうになったということはありましたが、幸い大事に至ったことはないです。
現場ではEXCERIA PROを堅牢性の高いハードケースに入れて管理している。
今は主にどのようなワークフローで仕事をされていますか。
メモリカードは7~8枚使っています。僕の場合、仕事がら複数のデジタルカメラを併用して使っているので、それぞれ専用にして差しっぱなしが多いかな(笑)。業務としての撮影では、64GBのEXCERIA PROを3〜4枚持ち歩いています。
RAWやJPEGの記録スタイルはどのようにされていますか。
RAW+JPEGです。その際のJPEGも最大画質で記録しています。
RAWで記録しながらJPEGも最大画質にする理由はなんでしょうか。
カメラ関係の仕事をしていると「JPEGに書き出した際の画質を検証する」という企画が多いんですね。RAWから調整すればよいものができるのはわかっていますが、一般の方はJPEGの画質がひとつの物差しになっているので、そのように設定しています。カメラの中で記録、圧縮したJPEGは、そのメーカーの色や画質に対する考え方も出やすいですから。
RAWは最大画質での記録でしょうか。
僕の使っているカメラの大半はRAWのサイズは選択できないので、最大画質で記録しています。
撮影後のワークフローを教えてください。
撮影後の画像データは、ロケ先でPCにバックアップを取ることもありますが、多くの場合は自宅に戻ってからメモリカードからPCにコピーします。それからRAIDを組んでいるHDDにコピーしています。
メモリカードにいつまでも同じ画像を入れておくわけにはいかないので、作品性の高いものに関しては、さらにクラウドサービスにアップするなど、分散してバックアップをとっています。
スコットホール内の階段。
歴史ある建造物の中で、シャッター音だけが響く。
桃井さんがメモリカードに求めるものはなんですか。
シンプルに言うと「何事もないこと」ですね(笑)。何事もないことが一番です!
特にメモリカードで言うと、「ガソリンみたいなもの」ってよく言っていますが、何かあってエンジンが調子悪くなると困るわけで、いつも通り安定して動いてくれる、機能してくれる、というのが一番です。
2016年秋からEXCERIA Ambassadorとして活動されていますが、様々なカメラでEXCERIA PROを使われている中で印象はいかがですか。
EXCERIA PROに関しては、スチルカメラとして静止画を記録している分には、書き込み速度は十分と言える所まできているじゃないでしょうか。EXCERIAの一番高いグレード、金色のやつ(笑)を使っている分には、何の不満もないですね。
自分が所有しているカメラで、スロットがCFカードオンリーというのは、現行機種ではなくなりました。次世代のカード規格も出てきていますが、SD系のUHS--IIを使っている限り、現状で困っていることは何もないです。
さらに転送速度の早いXQDやCFastがありますが、専用のカードリーダーを持ち歩かないといけなくなるじゃないですか。出張やロケが多いと荷物が一つ増える手間はあります。そこはカメラやメモリカードメーカーなどで規格を統一してくれた方が、ユーザーは楽ですね。
ただ物の進化は、そういう過程を経ていくのも確かですし否定はしませんが、「小さくて高性能」になっていくのが進化と感じるので、僕はSDメモリカードサイズが好きかな。
最近はダブルスロットのカメラが増えていますよね。カードを家から持ち忘れることもあるので、いつも名刺入れに予備で入れていたりします(笑)。
桃井さんの作品より。
小さいといえば、microSDもあります。
microSDのスピードが速くなってきたので、差しっぱなしで使えるような機種が出てくると、小さいカードの出し入れのリスクが減りますね。差したままカメラからケーブルや無線転送でデータは取り出して、スマートフォンから自動でクラウドへバックアップ、カードが一杯になったら自動的に上書き保存してくれるようなものがあれば便利かも。
現状そのようなカメラはまだないですけどね。microSDは現行製品で128GBまで発売されています。スチルカメラなら容量的には差しっぱなしでも十分です。
SDとmicroSDのダブルスロットならカメラもさらにコンパクトにできますしね。
ミラーレスでも上位機種はダブルスロットが増えてきました。と、こんな話をしていてなんですが、僕はダブルスロットに1枚差しの場合もけっこうあります。それはまだ「痛い目」にあったことがないからなんですよね(笑)。
ということはRAWとJPEGも1枚のカードに記録されるのですね。
そうです。1枚差しの場合は両方を記録していきます。EXCERIA PROを使っていてノートラブルなので、それができるんですね。
デジタルカメラは成熟期に入っていると感じます。桃井さんはハード面で何を期待しますか。
一眼レフタイプのデジタルカメラは、伸びしろが減っている気がします。全体として見ればミラーレス機に徐々に軸足が移っていくと思います。
かたや360度カメラやアクションカメラがあり、スマホも進化する混沌としていて面白い時代です。でも突拍子もないものがメインストリームになるとは思わないので、ミラーレスが正常進化してその時代がしばらく続く気がしています。キーワードは「小型」「軽量化」「高性能」ですね。
EXCERIA PROもどんどん進化して、同じサイズでも中身はすごく進化していくのでしょうね。
桃井さんの作品より。
ワークショップやモデル撮影会で指導する機会も多いと思いますが、一般の方で「カメラは最新機種なのに、メモリカードは古いものを使われているケースがある」と伺いました。
カメラは画素数やスペックがあがるとわかりやすいですが、メモリカードは、古いタイプでも最新機種に使えますから、そのまま使っていらっしゃる方が、見ていると割と多いです。
話を聞くと「そのまま使えるからね〜」と言われます。それもわかりますが、「カメラのスペックが上がっているので、そのポテンシャルをフルに使おうとするなら、カードもEXCERIAのような性能の高いものにアップデートした方がいいですよ」と、お伝えしています。最近はハイスペックのメモリカードでもお手頃感が出ているので、費用対効果はよくなっています。
カメラを購入した際に、メモリカードも性能の高いものにするのがよいですね。
スチル撮影なら32GBないし64GBを買ってしまえば、スポーツ系を除けばよほどのことがない限り、1日で足りなくなることはないので、むしろ長く使えます(笑)。
まず1枚だけでもEXCERIA PROを買って使ってみれば、快適さの加減が違うから、きっとそればっかり使うようになると思います。それで足りなくなったら買い足しましょう(笑)。
桃井さんの作品より。
EXCERIAブランドのイメージを一言でお願いします。
「安心」かなあ。水や電気の存在と同じで、何も考えずカメラに入れて使っています。でも水も電気も途絶えたら大変なことになります。何事もなく撮影できて、何事もなくPCで画像を見て作業できる。これがベストです。
デジタルカメラ業界の一番大きな黒子じゃないでしょうか。写真文化を裏で支えていますから!
今後の活動予定を教えてください。
今年(2017年)の11月に、このスコットホールの中にあるギャラリーで展覧会をする予定です。内容はスコットホール他、ヴォーリズ建築を撮り溜めてきたものを展示します。「The建築写真」という撮り方ではないので、ヴォーリズの世界観と展示空間を楽しんで頂けるようにしたいと考えています。
フォトグラファーを目指す方にアドバイスがあればお願いします。
今のカメラは、スマホでさえクオリティの高いものが撮れるようになっています。いい写真を撮るために研鑽を積むことは大事ですが、自分が街中や旅行先で写真を撮るにしても、気になっているのは「倫理観」を求められるシーンが増えてきている、ということです。
子供を撮るにしても許可を得るとか、撮影のために入ってよい場所なのかどうかを慎重に判断するとか、プロとして仕事をするなら、そういうことを意識して被写体と向き合うことが大事なのではないでしょうか。
では最後に。桃井さんはいつからピンクの服を着ていらっしゃるのですか。
もう30年くらい経つんじゃないですか(笑)。自然に自分に合うサイズのものがあったら買っていますね。ピンクしか持っていないわけじゃないです。
でも言われてみれば名刺もピンクにしているとか、フリーランスでやっている人間は「覚えてもらってなんぼ」なので、そういう所も大事かも。海外でよく見かけるようなピンクシャツが似合う爺さんを目指します(笑)。
東芝「EXCERIA PRO」シリーズ
高速連写・4K動画撮影対応のプロ仕様メモリカード
SDメモリカード:製品情報
http://www.toshiba-personalstorage.net/product/sd/sdxuc/index_j.htm
CompactFlash®メモリカード:製品情報
http://www.toshiba-personalstorage.net/product/cf/cfax/index_j.htm
「The Professional Voice」vol.4 桃井一至 Photographer
1968年生まれ。
京都府生まれ、滋賀県育ち。
1987年〜1990年 写真家・長友健二氏に師事。
1990年6月、3年間のアシスタント生活のあと独立。
現在、写真撮影をはじめカメラ関係書籍の執筆も行っている。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員
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