- Photographer
藤森星児
- 2016.12.15
ニューヨークに拠点を移して10年が経ちました。
あっという間だったな~と少し思ってみたのですが、この間に結婚し、長男も産まれ、少し太り、シワが増え、白髪も増えてきた事を考えるとあっという間ではなかった10年でした。
NYには世界中から毎年毎年たくさんの人たちがやって来ては帰るの繰り返しで、短期滞在の計画で来る人もいれば、一生骨を埋める覚悟で来る人もいます。僕はこのどちらかを意識して移住したわけではなくて"お金が続く限りいたい"という少し後者よりなやんわりした感じで移住しました。
僕が移住した当時に知り合った人たちの90%ほどは、それぞれの国へ帰って行きました。友人を作っては別れがやってくる、NYにはそういうちょっと寂しい一面もあったりします。
「NYで生活してみたい」とお考えの方に、今回はNYにできるだけ長く住む為に必要な事を書いていこうと思います。
「NYにできるだけ長く住む為に必要な事」それは、、、「お金を切らさない事」ではないでしょうか。当たり前ですが。。。
お金を切らさない為には色々な方法があると思いますが、僕はフリーランスのファッションフォトグラファーなので、自分の写真でお金を稼ぐ事について書いていこうと思います。
NYの仕事と言っても雑誌のお仕事では生活ができません。多くのインディペンデント誌はノーギャラ、経費なしというケースがほとんどで、お金を儲けるどころか仕事をするたびにお金を使う始末です。
なので例えばフォトグラファーのウェブサイトを見て色んな雑誌や、アート作品を載せている人がすべて金銭面でも潤っているとは限らないのです。何かしらの金銭面でのバックアップがないかぎり、雑誌だけでNYで長く生活する事はまず無理と言っていいでしょう。NYはめちゃくちゃ物価が高いです。一蘭ラーメンだって1杯2,000円弱します。。。
この10年を振り返ってみて、ある時期(滞在4年目くらい)から収入が徐々に安定してきました。仕事の安定を支えるのは同じクライアントからのリピート率と新規の仕事の増加などなどありますが、なんでまたこの時期から安定しだしたんだろう? と考えました。そこで一つこの時期からやり出した事があり、まさか!? これが!!?? というようなものですがそれが影響しているように思います。この時期からやり出した事、それは、
アメリカの「スタンダップコメディーを見るようになったこと」です。
NYに来たばかりの頃は英語力がない事がほとんどの理由でしたが、いわゆるアメリカンジョークが理解できませんでした。理解したいとも思わなかったですし、なんてレベルの低い事で笑っているんだ、、、などとむしろ蔑んでいました。そんな僕が友人の勧めで見始めたスタンダップコメディーですが、始めの頃は周りの人が笑っているタイミングと少しずれて面白さが伝わってきましたが、今はすっかり観客に混じって笑えるようになりました。
僕がよく行っているのはウエストビレッジにあるComedy Cellarというところです。日本で言うところの大阪の2丁目劇場のようなところです。僕の大好きなLouis CKというコメディアンも、ごくたまに飛び入りでショーをやったりするコアなcomedy clubです。スタンダップコメディーは日本の漫才のようなもので、マイク一つ、喋りのみで笑いをとるごくシンプルなものです。
コメディアンによって色々なジョークがあります。社会風刺であったり、人種ネタであったり、完全な下ネタであったり。日本の漫才やコントのように大袈裟な動きや一発芸というよりは、観客の様子をみてさらっと面白い事を言う感じです。緻密に計算された構成が多くて日本でいう"天丼"というテクニックは当たり前のように繰り出されます。めちゃくちゃ面白いです。
なんでスタンダップコメディーが笑えるようになってきたかというと、それはアメリカ人、ニューヨーカーの文化を理解出来てきたからだと思います。みんなが普段外で言えなけれどでも心の中だけで思っている事を、コメディアンが代わりに話してくれるcomedy clubではタブーなどは当たり前のように連発され、テレビなどでやろうものならピーピー鳴りっぱなしでうるさくて、手を使わないで耳の筋肉だけでペタッと穴を塞げたらいいな、と思う事でしょう。
タブーを聞いてゲラゲラ笑っている観客を見ていると、『あ、こんな真面目そうなスーツを着たような人もこんな事で笑うんだ。この清楚そうな女の人もめちゃくちゃ下ネタで笑ってる! 逆に、この白人は人種差別ネタでよく笑うなー。』など、普段見られないアメリカ人の"本音"の部分が見えてきます。
タブーが解れば、どこまでが失礼でどこまでが失礼でないなど、アメリカ人との境界線が解ってきます。アメリカ人はずかずか物を言い、無神経で雑な人たちと勘違いして、今考えると僕がNYに来たばかりの頃は、アメリカ人のように振る舞いたいと思うがあまり数多くのアメリカ人に無礼な事をしてきました。。。残念な事にこの距離感は1年や2年住んで身につく物ではなくて、長く住んでいく中での経験で少しづつ身についていく物だと思います。
ファッション写真の世界の話をしますが、NYではたくさんのヘアメイクの日本人の方々が活躍されています。ですが、フォトグラファーとスタイリストとなるとその数は激減します。それは単純にヘアメイクの方々の方がたくさんNYに住んでいる、というわけではないと思います。フォトグラファーやスタイリスト志望の方たちもたくさんいると思います。では何が違うというと、それは「コミュニケーション能力」ではないでしょうか。
ファッションの現場ではヘアメイクはディレクションを受ける場合が多いです。ですがフォトグラファーは人にディレクションを出して現場を引っ張っていかなくてはいけません。つまりリーダーですね。ただ良い写真を撮っているだけではダメなのです。NYでマネージョブをこなし続ける(お金を稼ぐ)という事は、写真の上手い下手以外にもできなければいけない事がたくさんあります(日本でも同じことだと思いますが)。
例えば大きな広告やキャンペーンなどの撮影になると、打ち合わせなどで多くの人を前に机を囲って、写真を撮る以前に、『こいつは良い写真をとりそうだ。』『こいつに任せていけば大丈夫だ。』と思わせるように話をしなければなりません。雑誌などの撮影と、広告やその他のマネージョブの大きな違いがここではないでしょうか(雑誌の場合はプレゼンや打ち合わせなどは、もう少し簡単に、もしくはemailのみで行われる場合が多いです)。
ただ真面目にプレゼンをしてもアメリカ人は満足しません。緊張と緩和をうまく使ってやるんです。オバマ大統領も演説などでよくジョークを挟みますね。アメリカではビジネスの上でジョークは必然なのです。
シリアスな現場でのジョークなど、空気を読めないとできません。それにはアメリカ人の文化を理解した上での"境界線"がをわかっていないとツルッと滑って転け、そのままできれば起き上がりたくないような空気になるでしょう。。。恐ろしい。。。リーダーシップを発揮するには英語の能力ももちろん必要だとは思いますが、相手の気持ちをちゃんと理解できる事が一番必要な事ではないでしょうか。
外国人がNYで生き抜いていくには写真(もちろん他の職業も)は上手なのは当たり前で、それ以外に「自分が何で突出しているか」を自己分析してみると、自分なりの道が見えてくるかもしれませんね。
例えば英語が下手ならそれを笑いに変える事もできるし、自分が思うマイナスポイントが必ずしも外国人にとってマイナスポイントだけではないと考える事が、Newyorkerではないかと思います。ですがどこまでが相手に面白いと思ってもらえるか、どこからはうっとおしいと思われるかの境界線が見えていない限り、マイナスはマイナスで終わるかもしれないですね。
藤森星児 - Photographer
SEIJI FUJIMORI
2006年渡米。ニューヨーク在住。V magazine, V man, GLAMOUR(Germany), MarieClaire(Spain), Rolling Stone(Russia), Tank(UK), GRAZIA(Mexico), Black Book(US), BLACK(New Zealand), ARISE(UK), VISION(China), Ponytail(UK), A4(Poland), FASHION(Canada) などのマガジンのほか Diane von Furstenberg, PRABAL GURUNG, Rebecca Minkoff, Outdoor Voices, Jones New York, Magaschoni, C Wonder, Amazon Fashion, などの広告をクライアントに持つ。2011年New YorkベースのプリントマガジンThe GROUND (www.thegroundmag.com)を立ち上げる。
www.seijifujimori.com
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