- Producer
うやまりょうこ
- 2016.06.15
サッカーに詳しくない私も5月1日のレスター・シティの試合はさすがにパブに見に行ってきました。もちろん日本の岡崎選手が出ていることも理由の一つですが、今回のレスター優勝は誰も予想をしなかった世紀の番狂わせで目が離せませんでした。
レスターが優勝するのは少年野球チームがセ・リーグで優勝するくらい、ママさんバレーがオリンピック出場するくらいありえないことです。
今日は写真の話から一息ついて、レスター・シティ優勝から見るイギリスの諸事情についてお聞きいただきたいと思います。
このチームがあるレスターという街はロンドンから車で約2時間のところに位置します。どちらかというと貧しい、悪い言い方をすれば廃れた郊外の街です。
70年代からアフリカやアジアからの移民が増え始め、2011年には人口の半数以上が移民という現象がイギリスで初めて起こった街になりました。
この現象によって、街の北側の人口は70%を南アジア人が占め、西南側は70%を白人が占めるという人種による街の分裂が問題になっています。
この移民とイギリス人の少しややこしい関係がこのチームにも縮図のように現れています。
レスター・シティのオーナーはアジア人(タイ)、監督はヨーロッパ人(イタリア)、プレイヤーは世界中から集まった選手で、白人系のイギリス人は数えるほどです。
去年、このチームの活躍が注目されたのはイギリス人のナイジェル・ピアソンという監督の力でした。しかしながらこの監督の息子、同チームの選手でもあったジェームス・ピアソンが、オーナーの出身国タイで人種差別的な行為を行い、親子共々チームをクビになってしまいました。これは当然の結果と言えますが、チームが強くなっている時にフィールドの外でこのようなことが起こるのは大変残念なことです。
また今季大活躍したイギリス人選手Jamie Vardyジェイミー・バーディーは、日本人に対する差別的な言葉を使っている様子を記録したビデオが流出しました。これは岡崎選手が入団した後の出来事で『岡崎が変わらずに接してくれて感謝している』というコメントを出しています。
こうしたサッカー界における人種差別は今に始まったことではありません。2006年W杯決勝イタリア対フランス戦ではフランスのスター選手ジダンが相手選手に頭突きをして退場になった事件がありました。この時サッカー界における人種差別問題が大きく取り上げられました。真相は現在も定かではありませんが、ジダンはアルジェリア系フランス人であり、このことに関して相手選手が侮辱的な発言をしたとも言われています。
またイギリスでは、移民が仕事を取ってしまう、イギリスの福祉を乱用しているという考え方が強くあります。イギリスの経済を移民が荒らすというような考え方で、これは全くのでっち上げです。移民はよく働く、賃金が安い(安くても文句を言わないでちゃんと働く)という評判があるのでこの考え方は強まる一方です。
これとは別に格差社会も問題になることがあります。
イギリスでは人生一発逆転して成功するには(お金持ちになるには)、サッカー選手かロック・スターになるしかないと言う冗談があります。貧しい家の子供は良い学校に行けないので良い仕事について、良い生活をすることは難しいという根強い格差社会があるのも事実です。ですからサッカーでスター選手になることは日本でサッカー選手になるのとは少し意味が違うかもしれません。デビット・ベッカムもルーニーも人生の逆転劇で成功し、イギリス人はその人生の大どんでん返しに熱くなります。これはレスター・シティのJamie Vardyジェイミー・バーディーも然り。工場で働きながらサッカーを続けてきた彼の努力が実って花開いたことにイギリス中が熱狂しました。
パブでの観戦の模様
レスター・シティはスター街道を全く通ってきていない移民とイギリス人を寄せ集めた弱小チームです。キャプテンはジャマイカ系イギリス人Wesley Morganウェズ・モーガン、去年年間最優秀選手に選ばれたストライカーRiyad Mahrezリヤド・マフレズはイスラム教であるフランス系モロッコ人、11試合連続ゴールを決めたイギリス人Jamie Vardyジェイミー・バーディー、そして日本人の岡崎慎司選手がいます。また監督であるClaudio Ranieriクラウディオ・ラニエリはイギリスの最強チーム、チェルシーを解任された過去がありながらこの弱小チームを優勝に導きました。
こういった様々なイギリスの社会問題が浮き彫りになり、大逆転を成し遂げた今回のレスター・シティの優勝劇は、その他のサッカーチームや選手をはじめイギリス全体にも活気を与えるような出来事でした。
個人的なことではありますが、ちょうどレスター・シティがリーグを勝ち進んでいる時期、私はトライアスロンにチャレンジするためトレーニングをしていました。マラソンは高校の体育の授業以来やったこともなく、水泳は平泳ぎしかできないという運動音痴の自分をレスター・シティの選手が頑張る姿に重ねて練習をしていました。挑戦したのはスプリント・ディスタンス(水泳750メートル、自転車20キロ、マラソン5キロ)という短いものでしたが私とっては不可能なものに感じられました。
優勝セレモニーが行われた5月15日はちょうどトライアスロン大会の日でした。終わったらセレモニーを見ながらお酒を飲もう! と思って頑張りました。結果、643人中ビリから20番の623番。優勝とはいきませんでしたが完走できたことが何よりも嬉しく、美味しいお酒をたくさん飲むことができました。
4年に1度のユーロ・サッカーも始まりました。私もめげずに2回目のトライアスロンに向けてトレーニング中です。
トライアスロン会場 Crystal Palace
うやまりょうこ - Producer
神奈川県平塚市出身。10BAN スタジオ勤務を経て2004年より、ロンドンに移住しフリーランスでカメラマンアシスタントになる。Nadav Kander, Tim Flach などのアシスタントを経験後、カメラマンとしても活動。オブザーバー新聞、タイムアウトマガジン、ELLE、マリー•クレアなどに写真を提供。イイノメディアプロロンドン支部を経てフリーランスで撮影のプロダクションの仕事に携わる。 イギリスの伝統的ダンス、モリスダンス歴7年。映画好き。日本の小説を読み、イギリス地ビールを飲むのが一番の幸せ。
Twitter : https://twitter.com/RyokoUyama
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