奈良原一高写真展「華麗なる闇 漆黒の時」が、キヤノンギャラリーSで開催される。

奈良原さんの写真集「ヴェネツィアの夜」、「光の回廊―サンマルコ」、「ジャパネスク」から抜粋した作品約60点を展示。ヨーロッパと日本という二つの異なる題材を共通のモノクロームの世界で象徴的に表現し、東西それぞれの異質な「黒」に対する奈良原さんの美意識を具現化した写真展となる。

本展は、キヤノンの大判プリンター「imagePROGRAF」で出力したものが展示される。

作家メッセージ
写真は未来から突然にやって来る。僕の場合は、いつもそうだった。僕は空中にひょいと手を伸ばしてつかみとる......すると写真がひとりでに僕の手の中で姿を現わす。

『華麗なる闇』――初めてヴェネツィアを訪れたのは1965年の夜。
はじめに闇があった。そしてその闇の時間の彼方から、街は不意に立ち現れた。ヴェネツィアをはじめて訪れた夜のことである。
船のへさきにしつらえたヘッドライトに照らされて、黒い水の上に屹立する街並みの壁が次から次へと姿を現したときの衝撃は忘れることが出来ない。
「これがヴェネツィアなのか、水上の街というより、水の中から生まれた街ではないか、まるで東洋の魔術師が一夜にして闇の手の内から取り出して見せた都ではないか」。僕はこのときからヴェネツィアに恋をしてしまった。
その後ニューヨークに滞在中、そして東京に帰ってからもヴェネツィアは心から去らず、度々おとずれることになる。
ヴェネツィアは美しい。しかし美しいだけならばこれほど僕をひきつけはしなかったであろう。その美しさは虚構のはかなさをたたえている。その優雅な美しさはいつかは終わりのあることを知っている人生のよろこびのせつなさに似ている。次第に陽光あふれる、光のヴェネツィアから夜のヴェネツィアへと僕の好みは傾いていった。
昼でもなく夜でもない生き生きとした奇妙な明るさがその冥府のような闇の中にはあった。
そして、その輝く闇の中でヴェネツィアは秘かに生まれ変わっていった。
昼間の人影を追放したヴェネツィアは400年の時間を遡り、かつてアドリア海の花嫁と名付けられた栄光の姿をその闇の中に横たえていたのだった。

『漆黒の時とき間』――日本という者は僕にとって、容易に接近出来ないものであった。それはまるで鏡の中に映った自分の姿に決して触れることが出来ない理に似ている。
僕は「刀」というものが武家世界の不条理をいっさいのみ込んでしまうひとつの「存在」であることに気がついた。武器として生まれたものが、精神的「存在」と化していった。いずれにしても日本刀の美しさは決して陽気なものではなく、時としては陰湿でストイックなエロチシズムさえもたたえているのである。

「能は空間の引力のようなものですよ」と語る観世寿夫氏に、僕は「存在ですね」と答えた。確かに能の動きにはバレエや踊りなどにある運動のピークの瞬間などではなく、「ずれていく時間のすき間」のようなものがあるようだった。
僕は松浦老師に「禅という思想は、科学的手続きをふむ写真には写らないと思います。そこに残るのは形だけでしょう」とその間合いをはっきりと語った。
これら日本の伝統文化の内に秘そむ、自然への意識、間の感覚。その精神性こそ、昔から長い時代を経た伝統の根源的なすがたであり、その洗練されたかたちを漆黒の時間<とき>としてとらえた。
「華麗なる闇」と「漆黒の時とき間」。この異なる二つのサブジェクトを、共通のモノクロームの世界で象徴的に方言した稀有な試みを、勝井三雄氏の企画およびADにより構成し、展示致します。
奈良原恵子
奈良原一高アーカイブズ代表

写真展企画:
奈良原一高アーカイブズ代表:奈良原恵子・新美虎夫
グラフィックデザイナー:勝井三雄
 

展示会風景

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展示会情報

キヤノンギャラリー S
http://cweb.canon.jp/gallery/shinagawa/canon-gallery-s.html

ギャラリー名
キヤノンギャラリー S
住所
東京都港区港南2-16-6 キヤノン S タワー 1F
開館時間
10:00~17:30(日・祝休)
アクセス
JR品川駅 徒歩8分